- 更新日 : 2024年10月31日
資産除去債務とは?会計基準と仕訳の具体例を解説
建物など有形固定資産の取得にともない、将来建物を解体する義務などが生じた見積もり可能なものを資産除去債務といいます。
財務諸表に有形固定資産の除去に関する将来の負担を反映することは、投資情報として役立つことから、上場企業などを中心に資産除去債務の開示が求められるようになりました。
資産除去債務にはどのような意味があるのか、概要や会計基準、実務上で知っておきたい仕訳や計算について解説します。
目次
資産除去債務とは
資産除去債務とは、取得した有形固定資産を法令上の義務により将来除去する必要があるとき、将来発生する合理的に見積もり可能な費用を表します。貸借対照表上、負債に表示される勘定科目です。
平成20年3月31日、企業会計基準委員会が公表した企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」により、資産除去債務が財務諸表に反映されるようになりました(平成22年4月1日以後の事業年度から適用開始)。
会計基準が公表される以前も、将来の費用を引当金として負債に計上する解体引当金などの処理は存在していましたが、電力業界など一部に限られる状況でした。
しかし、国際的な会計基準では資産除去債務が使われており、また、将来発生がほぼ確実とみられる費用を発生時に費用処理するのでは、費用を合理的に期間配分できません。
そのため、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る、つまり日本の会計基準を国際的会計基準に近づけることを目的として、資産除去債務を国内でも採用することになりました。有形固定資産の除去に関する将来の負担の財務諸表への反映は、投資情報にも役立つとされています。
なお、資産除去債務の反映が必要なのは、上場企業と上場企業の連結決算に関連する子会社などです。連結子会社などを除く中小企業では、資産除去債務を計上しなくても良いこととなっています。
資産除去債務の会計基準
「資産除去債務に関する会計基準」では、資産除去債務は以下のように定義されています。
- 有形固定資産の取得や建設、開発、通常の使用で生じるもの
- 除去に関連し法律や契約で要求される法律上の義務や準ずるもの
- 売却や廃棄、リサイクルなどの資産の除去に該当すること
いずれの条件にも該当するのが、資産除去債務となります。将来的に発生する可能性があっても、法律上の義務に準ずるものでなければ資産除去債務にはなりません。また、除去により生じるものとされますので、転用や用途変更、単に有形固定資産を利用しなくなっただけという遊休状態のものは除去には含まれません。
資産除去債務に該当する除去費用には、例えば以下のようなものがあげられます。
- 原子力発電所の解体費用
- 定期借地権契約で建設した建物の除去費用
- 賃貸物件の原状回復費用
なお、資産除去債務に該当する場合であっても「合理的な見積もりができる時点で計上すること」とされるため、見積もりが可能になるまで計上は不要です。この場合は、合理的な見積もりができず、資産除去債務を計上できない旨を財務諸表に注記する必要があります。重要性が低い場合を除き、資産除去債務を計上する場合も内容や見積もりについて財務諸表への注記が必要です。
資産除去債務の仕訳・計算方法
資産除去債務の計上が必要となった場合、どのようにして会計処理を行えば良いのか、仕訳例と計算方法について解説します。
資産除去債務を算定する
資産除去債務がある場合、以下の価格などを勘案して資産除去債務費用を算定します。
- 除去に必要な作業にかかる平均的な価格や労務費
- 過去に発生した類似資産の除去費用の実績
- 除去サービス業者などの除去費用に関する情報
合理的に見積もりができた場合は、見積もりの額を資産除去債務としますが、そのまま計上するわけではありません。無リスクの場合を除き、インフレ率などを考慮して、見積額を現在価値に直して資産除去債務に計上します。
(例)賃貸契約を結んでいる建物で改装工事を行った。当該契約には原状回復義務があり、除去費用は300万円を見込んでいる。10年後に契約が終了する。割引率は3%とする。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 建物 | 2,232,309 | 資産除去債務 | 2,232,309 |
計算:3,000,000÷1.0310= 2,232,309
両建処理といって、資産除去債務を計上するときは、資産除去債務(負債)に計上する額と同額を固定資産に計上します。
資産除去債務に関わる期末の処理
(例)4月1日に計上した上記の資産除去債務について、期末になり処理が必要となった。事業年度は4月1日から3月31日とする。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 利息費用 | 66,969 | 資産除去債務 | 66,969 |
計算:2,232,309円(資産除去債務の残高)×3%(割引率)=66,969円
資産除去債務は現在価値で計算するため、期末に現在価値が資産除去債務に反映されるようにしなくてはなりません。損益計算書の費用の科目である利息費用を使って、資産除去債務を増加させます。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 223,231 | 建物減価償却累計額 | 223,231 |
※間接法を採用。直接法の場合、建物減価償却費累計額は建物になります。
計算:2,232,309円(資産計上額)÷10年=223,231
10年後に契約が終了する建物について、引き渡し時に原状回復のため除去されるため、残存価格はゼロとなります。建物の減価償却は定額法になるため、10年で割った額を減価償却費として費用配分します(実際は定額法の償却率を使用します)。
資産除去債務に関する資産を除去した
(例)上記の契約にともなう改装工事について、10年後の契約満了時に原状回復義務を履行し、契約を終了した。なお、除去費用は実際には301万円かかった。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 建物減価償却累計額 | 2,232,309 | 建物 | 2,232,309 |
| 資産除去債務 | 3,000,000 | 現金預金 | 3,010,000 |
| 履行差額 | 10,000 | ||
資産除去債務はあくまでも見積額です。資産除去を行う際、見積額と差額が生じることがあります。見積額である資産除去債務を上回り費用が発生した場合は、履行差額として超過分を処理します。
敷金の簡便処理
資産除去債務の原則的な処理は、資産と負債の両建処理ですが、賃貸物件の敷金については以下のような簡便法が認められています。
(例)4月1日から契約が開始する賃貸物件について50万円の敷金を支払った。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 敷金 | 500,000 | 現金預金 | 500,000 |
(例)敷金50万円のうち20万円は原状回復費に充てられるため返還が見込めないことが見積りで明らかになった。よって、入居期間10年に渡って20万円を償却することとする。入居を開始した事業年度の終わり、3月31日になったため返還の見込めない敷金1年分を償却した。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 敷金の償却 | 20,000 | 敷金 | 20,000 |
将来発生する除去義務に関する資産除去債務
法令や法令に準じる将来の資産の除去について、合理的に費用が見積もれる場合は、資産除去債務として計上することとされています。中小企業では負担が重くなるため、適用は除外されますが、上場企業などでは資産除去債務の会計処理が必要です。
資産除去債務算定時、除去までの期末の処理、除去時で、それぞれ決まった会計処理がありますので、ステップごとに仕訳と処理のしかたを押さえておきましょう。
よくある質問
資産除去債務とは?
取得した有形固定資産を法令上の義務により除去する必要があるとき、将来発生する合理的に見積もり可能な費用のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
資産除去債務の会計基準は?
将来的に発生する可能性があっても、法律上の義務に準ずるものでなければ資産除去債務にはなりません。詳しくはこちらをご覧ください。
資産除去債務の仕訳・計算方法は?
資産除去債務を算定する場合、期末の処理を行う場合、関連する資産を除去した場合などで異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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