- 作成日 : 2025年11月12日
リース取引の会計処理方法は?仕訳や勘定科目のポイントをわかりやすく解説
企業の経理担当者が直面する重要な業務の一つに、リース取引の仕訳があります。リース取引の会計処理は、リースの種類によって用いる勘定科目が大きく異なり、正確な知識が求められます。
この記事では、リースの仕訳の基本から具体的な記帳方法、そして中小企業向けの会計処理の特例までわかりやすく解説します。
目次
リース取引の会計処理で重要な2つの分類
リース取引の仕訳を正確に行うためには、まずその取引が「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」のどちらに該当するかを正しく判断することが重要です。
ファイナンス・リース取引
ファイナンス・リース取引とは、実質的に資産を分割払いで購入したとみなされる取引のことです。会計上は、資産を購入したものとして扱う「売買処理」に準じた方法で記帳します。
この取引は、以下の2つの要件を満たすものと定義されています。
- 解約不能(ノンキャンセラブル)
契約期間の途中で解約できません。 - フルペイアウト
リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受でき、物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担します。
フルペイアウトの要件を満たすかどうかは、具体的に以下のいずれかの基準で判定します。
- 現在価値基準
解約不能のリース期間中のリース料総額を、現在価値に割り引いた金額が、そのリース資産の見積購入価額のおおむね90%以上であること。 - 経済的耐用年数基準
解約不能のリース期間が、そのリース資産の経済的耐用年数のおおむね75%以上であること。
オペレーティング・リース取引
オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のすべてのリース取引を指します。これは一般的な賃貸借契約に近く、会計上は支払ったリース料を費用として計上する「賃貸借処理」を行います。
コピー機の短期レンタルや、数ヶ月単位での自動車リースなどが典型例です。この場合、借り手はリース資産を自社の資産として計上する必要はなく、支払ったリース料を「賃借料」などの勘定科目で費用として処理するだけで済みます。会計処理がシンプルなため、経理担当者の負担が少ないのが特徴です。
ファイナンス・リース取引の仕訳
ファイナンス・リース取引では、資産を分割払いで購入したものとみなし、リース開始時に資産と負債を計上し、決算時には減価償却を行う「売買処理」が原則です。 これは、リース資産の使用による経済的便益が借り手に帰属するという取引の実態を、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)といった財務諸表に正しく反映させるためです。
会計処理は、主に以下の3つのステップで進めます。
- リース開始時:リース資産とリース債務を計上します。
- リース料支払時:支払額を元本返済部分と支払利息部分に分けます。
- 決算時:計上したリース資産の減価償却を行います。
リース開始時の仕訳
リース契約を開始した際には、借方に「リース資産」、貸方に「リース債務」を同額で計上します。これにより、企業のバランスシートに、リースによる資産の増加と、将来リース料を支払う義務(負債)の発生という両方の事実を記録します。
なお、当初のリース資産およびリース債務の額は、見積現金購入価額とリース料総額の現在価値のいずれか低い方で計上します。
- リース資産の見積現金購入価額:3,000,000円
- リース料総額の現在価値:3,100,000円
- リース期間:5年
- 所有権移転条項のあるファイナンス・リースである
- 同種の自己所有の資産に対しては定率法で減価償却を行っている
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| リース資産 | 3,000,000円 | リース債務 | 3,000,000円 |
リース料支払い時の仕訳
リース料を支払う際には、元本(リース債務)の返済と金利(支払利息)に分けて処理します。リース料には資産本体の代金だけでなく、分割払いに伴う金利相当額が含まれているため、これを正確に費用(支払利息)と負債の減少(リース債務)に分ける必要があります。計算方法には「利息法」と「定額法」がありますが、原則は「利息法」です。
- 年間リース料支払額:680,000円
- うち、支払利息相当額:80,000円
- うち、リース債務元本返済額:600,000円
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| リース債務 | 600,000円 | 現金預金 | 680,000円 |
| 支払利息 | 80,000円 | ||
決算時の仕訳
所有権移転ファイナンス・リースにおいては、決算時には自己所有の固定資産と同様に減価償却を行います。決算整理仕訳として、借方に「減価償却費」、貸方に「リース資産減価償却累計額」を計上します。なお、所有権移転外ファイナンス・リースはリース期間を耐用年数、残存価額ゼロとして定額法で償却します。
- リース資産取得価額:3,000,000円
- リース期間:5年(耐用年数5年の定率法の償却率は0.4)
- 償却方法:定率法(3,000,000円 × 0.4= 1,200,000円)
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 1,200,000円 | リース資産減価償却累計額 | 1,200,000円 |
オペレーティング・リース取引の仕訳
オペレーティング・リース取引では、支払ったリース料をそのまま費用として計上する「賃貸借処理」を行います。この取引は資産の購入とは見なされず、単なるサービスの利用と考えられるため、リース開始時の資産計上や決算時の減価償却は不要です。
リース料支払い時の仕訳
リース料を支払った際には、借方に「賃借料」や「リース料」、貸方に「現金預金」などの勘定科目で仕訳を行います。支払った金額がそのままその期の費用として認識される、シンプルな仕訳となります。
- コピー機の月額リース料:30,000円
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 賃借料 | 30,000円 | 現金預金 | 30,000円 |
契約時に保証金などを支払った場合の処理
契約時に支払った保証金や敷金は、返還されるものは「差入保証金」(資産)、返還されないものは「長期前払費用」(資産)などとして処理します。これらは将来返還される権利や、効果が将来にわたって及ぶ費用であるため、一度に費用化せず資産として計上するのが適切です。
- 返還される保証金:「差入保証金」(資産)として処理します。
- 返還されない礼金など:「長期前払費用」(資産)として計上し、契約期間にわたって償却(費用化)します。
中小企業におけるリース会計の特例
中小企業に対しては、会計処理の簡素化を目的とした特例が設けられています。「中小企業の会計に関する指針」に基づき、所有権移転外ファイナンス・リース取引について、オペレーティング・リースと同様の「賃貸借処理」を行うことが認められています。
特例を適用するメリットとデメリット
リース会計の特例には、メリットとデメリットの両方があります。
- リース開始時の資産・負債計上が不要
- リース料支払時の利息計算が不要
- 決算時の減価償却が不要
- 経理担当者の業務負担を大幅に削減できる
- 貸借対照表に資産と負債が計上されず、財務実態が正確に表されない
- 金融機関の融資審査などで、資産の実態を別途説明する必要が生じる場合がある
新リース会計基準のポイントと実務への影響
近年注目されている「新リース会計基準」では、原則としてオペレーティング・リースも含めたすべてのリース契約について、資産と負債を計上することが求められます。これは国際財務報告基準(IFRS)と整合性を図るための会計基準の改正であり、上場企業やその子会社などが対象となります。
日本の多くの中小企業には強制適用されず、従来の会計基準に基づく処理が引き続き認められますが、今後の動向を注視しておくことが重要です。
リース取引の仕訳でよくある質問(FAQ)
最後に、リース取引の仕訳でよくある質問とその回答をまとめました。
リース契約を中途解約した場合の仕訳は?
リース資産とリース債務の残高を相殺し、差額や違約金を「リース解約損」などの特別損失として計上します。
契約の終了に伴い、関連する資産と負債を帳簿から消去し、解約によって生じた損失を正確に記録する必要があります。
リース期間満了後に資産を買い取る場合の仕訳は?
リース資産と減価償却累計額の残高を消去しますが、所有権移転外ファイナンス・リースであれば、リース資産の残存簿価とリース債務残高がゼロになっているはずですので、買取対価を固定資産の取得価額として計上します。 この処理により、リース資産は自己所有の固定資産に振り替えられます。その後は、自社で定めた耐用年数と償却方法に基づき、新たに減価償却を行っていくことになります。
再リースした場合の会計処理は?
多くの場合、1年契約となるため短期リースに該当し、支払った再リース料を「賃借料」などの費用として処理します。
正確なリース会計で経営状況を把握するために
リース取引の会計処理は、契約がファイナンス・リースかオペレーティング・リースかを見極めることから始まります。ファイナンス・リースは「売買処理」、オペレーティング・リースは「賃貸借処理」と、その後の記帳方法が大きく異なります。
特に中小企業では、特例として所有権移転外ファイナンス・リースに賃貸借処理が認められますが、自社の財務状況を正確に把握するためには、原則的な処理を理解しておくことが重要です。 正しい勘定科目で仕訳を行い、適切な経営判断につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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