- 作成日 : 2025年3月28日
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」とは?5ステップをわかりやすく解説
IFRS第15号とは、顧客との契約から生じる収益をどのように認識・表示・開示すべきかを定めた国際会計基準です。複雑な取引や製品保証の取り扱いも含むため、企業の経理担当者は適用範囲や5ステップの理解が欠かせません。本記事では、日本の収益認識基準との違いを交え、IFRS第15号の要点をわかりやすくご紹介します。
目次
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」とは
IFRS第15号は、企業が顧客との契約から得る収益を、財務諸表にどのように計上・開示するかを定めた国際会計基準です。世界で統一した収益認識方法を導入することで、財務情報の比較可能性を高める効果が期待されています。
IFRS第15号の目的
IFRS第15号の主な目的は、企業が顧客との契約で約束した財産やサービスを移転した際に、実際の経済的実態に即して収益を認識できるようにすることです。
具体的には、「企業の契約に基づく履行義務をどのタイミングでどの程度満たしたか」を明確にし、その充足に応じて収益を計上するルールを統一的に設定しています。
これによって、取引ごとに異なる会計処理が行われるといった事態を防ぎ、投資家やステークホルダーが企業の業績を正確に比較・評価できるようになります。
IFRS第15号の適用範囲
IFRS第15号は、企業が顧客へ財産やサービスを提供して対価を得る取引全般に適用されます。ただし、保険契約や金融商品など、他のIFRS基準が優先される分野は対象外です。
また、ロイヤリティやライセンス収入、サブスクリプションモデルなど多様な収益取引がIFRS第15号の枠組みで取り扱われます。
なお「本人(プリンシパル)」と「代理人(エージェント)」の区分が重要となるため、取引形態に応じた判断が必要です。
IFRS第15号の適用時期
IFRS第15号は、諸外国において2018年1月1日以降に開始する事業年度から強制適用されました。ただし、日本国内ではIFRSは任意適用として扱われていたため、適用するかどうかは企業の判断に委ねられていました。
一方、日本では、収益認識基準が2021年4月1日以降開始した事業年度から強制適用されており、IFRS第15号との共通点が多いことから、早期に導入を検討すると国際的な比較やM&Aなどの取引時に役立つ可能性があります。
IFRS第15号と日本の収益認識基準の違い
IFRS第15号と日本の収益認識基準(企業会計基準第29号)は、基本的な考え方が共通していますが、細部で違いが生じる場合があります。
例えば、収益認識の「5ステップ」や契約変更時の処理方法は共通点がある一方で、実務上の指針や開示要件には違いが存在します。
また、日本基準では特定の取引慣行を考慮した例外規定がある場合もあるため、海外での取引が多い企業はIFRS第15号をより厳密に適用することで国際比較の面で利点を得ることができます。
IFRS第15号における収益認識の5ステップ
IFRS第15号では、収益を認識するまでのプロセスが5つのステップに分けられています。以下のステップを踏むことで、収益認識のタイミングや金額が統一された形で算定されます。
ステップ1 顧客との契約を識別する
最初に行うのは、企業が顧客との間に締結した契約を明確に認識することです。契約とは、企業と顧客の間で、財やサービスを提供することと、その対価として支払いを受けることが法的に拘束力のある形で合意されている状態を指します。口頭や慣習的な契約も含まれるため、必ずしも契約書を締結する必要はありません。
ただし、金額や契約変更の条件などを正確に把握するため、極力契約内容は文書化することが望ましいです。
ステップ2 契約における履行義務を識別する
次に、契約の中で企業が顧客に対して行う「履行義務」を洗い出します。履行義務とは、財やサービスを提供するという約束を守ることです。例えば、製品の販売だけでなく、セットアップやアフターサービスなどが含まれる場合、別々の履行義務として識別する必要があります。これにより、複数の財やサービスが含まれる契約でも、それぞれ独立した収益認識が可能になります。
ステップ3 取引価格を算定する
契約全体で企業が獲得すると見込まれる「取引価格」を算出します。取引価格は、固定額だけでなく、可変対価(販売リベートやボーナス等)を含む場合もあり、確実性や実績などを踏まえて見積もりを行います。
また、支払い条件が複数年にわたる場合には、割引計算を通じて現在価値で評価することも求められます。取引価格の見積もりは、後の履行義務配分に大きく影響します。
ステップ4 取引価格を契約の履行義務に配分する
取引価格が確定したら、ステップ2で識別した履行義務に対して取引価格を配分します。配分は、個々の財やサービスの「単独販売価格」を基準に行うのが原則です。
もし単独販売価格を直接算定できない場合は、市場価格やコストプラス法などの推定方法を使用して合理的に算定します。これによって、複数の要素が含まれる契約でも、それぞれの要素が適切に評価され、収益の計上を行うことが可能です。
ステップ5 履行義務の充足時(又は充足するにつれて)収益を認識する
最後に、各履行義務を企業が果たしたタイミング、あるいは一定期間にわたって徐々に充足していくなどケースに応じて、収益を認識します。
一般的には、顧客が財やサービスを獲得した時点が該当しますが、サービス提供のように段階的に成果が消費される場合は期間にわたって収益を認識することも可能です。
これらの判断には契約条件や実務上の管理方法が反映されるため、誤りのない記録とモニタリングが重要です。
IFRS第15号を適用するときの注意点
IFRS第15号を導入する際は、製品保証や本人・代理人の判断などに注意が必要です。以下では、代表的な注意点を紹介します。
製品保証が履行義務に該当するか判断が必要
製品保証には、法的義務による最低限の保証と、延長保証や保証内容の追加など幅広い形態があります。IFRS第15号では、保証が「追加のサービス」として履行義務に該当する場合は、取引価格を保証サービス部分に配分して収益を認識します。
一方、通常の品質保証程度なら履行義務とはみなさず、費用処理するケースが多いです。企業は契約内容を精査して、保証がどのような位置づけかを見極める必要があります。
本人・代理人の判断が必要
IFRS第15号では、企業が取引において財やサービスを「本人(プリンシパル)」として提供しているのか、それとも「代理人(エージェント)」として仲介しているのかを判断する必要があります。
本人の場合は総額で収益を認識し、代理人の場合はマージン(手数料)部分のみを収益として計上します。この判断は契約書や取引の実態を踏まえ、誰がリスクやコントロールを負担しているかによって変わります。
IFRS第15号の原文・日本語訳の入手方法
IFRS第15号の原文は、IFRS財団の公式Webサイトで公開されています。英語版の基準本文に加え、解釈指針や適用例も参照可能です。
日本語訳については、企業会計基準委員会や財務会計基準機構、あるいは大手監査法人が翻訳・解説書を提供している場合があります。新しい解釈やガイダンスが随時追加されることもあるため、定期的にサイトをチェックしましょう。
参考:
IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers|IFRS
IFRS/IFRIC原文・日本語訳|日本公認会計士協会
適切な収益認識で企業経営を強化しよう
IFRS第15号は、企業が顧客との契約を通じて得る収益を実態に沿った形で正確に認識し、透明性の高い財務報告を行うための基準です。日本の収益認識基準とも共通点が多い一方で、製品保証や本人・代理人判断など、細心の注意を払いながら実務を行う必要があります。
グローバル市場において信頼性のある財務情報を提供するには、IFRS第15号の5ステップをわかりやすく理解し、適切に適用することが欠かせません。経理担当者は最新の情報を常にチェックし、自社の状況に合った収益認識モデルを構築していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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