- 更新日 : 2025年9月26日
一人親方の社会保険料、年収別の金額はいくら?安く抑えるコツも解説
一人親方の社会保険料は、国民健康保険・国民年金・労災保険特別加入が基本で、40~64歳は介護保険料も加わります。国保は自治体や世帯構成で額が大きく変わり、国民年金は2025年度17,510円/月が全国一律、労災は選んだ給付基礎日額×料率で決まります。
この記事では、一人親方が加入すべき社会保険の種類から、年収別の具体的な保険料シミュレーション、そして費用を賢く抑える方法まで、わかりやすく解説します。
目次
一人親方が加入する社会保険の種類と金額
一人親方が支払う社会保険料は、主に「国民健康保険」「国民年金」「労災保険(特別加入)」が中心で、40~64歳は介護保険料も加わります。ここでは、それぞれの保険の役割と、保険料の内訳について解説します。
①病気やケガに備える「国民健康保険」
国民健康保険は、業務外の病気やケガをした際の医療費負担を軽減するための公的な医療保険制度です。一人親方や個人事業主など、会社の健康保険に加入していない方が対象となります。
保険料は前年の所得に応じて決まる「所得割」と、加入者全員が均等に負担する「均等割」の合計で算出されます。このため、所得が高いほど保険料も高くなる仕組みです。保険料率は、お住まいの市区町村によって異なります。
②老後の生活に備える「国民年金」
国民年金は、老後の生活を支える老齢年金や、病気やケガで障害が残った場合の障害年金、加入者が亡くなった際の遺族年金の財源となる制度です。日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入を義務づけられており、一人親方も第1号被保険者として加入します。保険料は所得にかかわらず一律で、2025年度(令和7年度)は月額17,510円、年間で210,120円です。
③仕事中の事故に備える「労災保険(特別加入)」
労災保険は、仕事中や通勤中のケガ、病気、障害、死亡などに対して保険給付を行う制度です。本来、労働者を保護するための制度ですが、一人親方は労働者と同じように業務の実態があることから、任意で加入できる「特別加入」という仕組みが設けられています。
労災保険料は、ご自身で設定します。万が一の補償額と毎年の保険料負担のバランスをふまえ、ご自身の1日あたりの所得に近い額を選ぶのが基本です。
年間の労災保険料の計算には、この所得の目安となる「給付基礎日額」に加入日数を乗じ、さらに業種ごとの「保険料率」を乗じて算出されます。
給付基礎日額は、3,500円から25,000円までの16段階から選択します。保険料率は事業のリスクに応じて異なり、たとえば2025年度の料率は、建設業の一人親方で1000分の17、林業の一人親方で1000分の52などと定められています。
参考:給付基礎日額・保険料|厚生労働省
参考:特別加入保険料率表|厚生労働省
一人親方の社会保険料、年収別の金額はいくら?
一人親方の社会保険料は、年収や加入する保険の種類によって大きく変動します。たとえば、所得(売上から経費を引いた額)が300万円の場合、年間の社会保険料の合計はおおよそ55万円が目安となるでしょう。ここでは、具体的な年収別に、社会保険料の合計額と、そこから算出される手取り額の目安をシミュレーションで詳しく見ていきます。
年収300万円(所得180万円)の場合の社会保険料
年収300万円(所得180万円)の場合、年間の社会保険料の合計額は、約47万円が目安です。この金額は、国民健康保険、国民年金、介護保険(40歳以上)、労災保険を合計したものです。
保険の種類 | 年間保険料の目安(40歳・東京都区部在住) |
---|---|
国民健康保険料 | 約20万円 |
国民年金保険料 | 約20万円 |
介護保険料 | 約4万円 |
労災保険料 | 約3万円(給付基礎日額5,000円・建設業の場合) |
合計 | 約47万円 |
手取り額は、年収300万円から経費を差し引いた180万円から、この社会保険料と所得税・住民税を差し引いた金額となり、おおよそ110万円前後と見込まれます。ただし、国民健康保険料はお住まいの自治体によって、労災保険料は選択する給付基礎日額によって変動します。
年収500万円(所得380万円)の場合の社会保険料
年収500万円(所得380万円)の場合、年間の社会保険料の合計額は、約72万円が目安となります。年収の増加にともない、とくに所得に連動する国民健康保険料の負担が大きくなる傾向にあります。
保険の種類 | 年間保険料の目安(40歳・東京都区部在住) |
---|---|
国民健康保険料 | 約41万円 |
国民年金保険料 | 約20万円 |
介護保険料 | 約8万円 |
労災保険料 | 約3万円(給付基礎日額5,000円・建設業の場合) |
合計 | 約72万円 |
この場合の手取り額は、おおよそ240万円前後が見込まれます。所得が増えると、社会保険料だけでなく税金の負担も増えるため、資金計画を立てる際には両方をふまえて考えることが大切です。
年収700万円(所得580万円)の場合の社会保険料
年収700万円(所得580万円)の場合、年間の社会保険料の合計額は、約99万円が目安です。所得の増加にともない、国民健康保険料は上限額に近づいていきます。
保険の種類 | 年間保険料の目安(40歳・東京都区部在住) |
---|---|
国民健康保険料 | 約62万円 |
国民年金保険料 | 約20万円 |
介護保険料 | 約14万円 |
労災保険料 | 約3万円(給付基礎日額5,000円・建設業の場合) |
合計 | 約99万円 |
手取り額は、おおよそ350万円前後となるでしょう。国民健康保険料には自治体ごとに上限額が定められており、たとえば東京都区部(令和7年度)では、医療分と支援金分の合計で92万円が上限となっています。
一人親方の健康保険の種類による金額の違いは?
建設業を営む一人親方が加入する健康保険には、主に市区町村が運営する「市町村国保」と、建設業界の組合などが運営する「建設国保」があります。また、法人化すれば会社の「協会けんぽ」に加入することも可能です。それぞれ保険料の計算方法や受けられる給付が異なるため、ご自身の所得や家族構成に合ったものを選ぶことが重要です。
所得に応じて保険料が決まる「市町村国保」
市町村国保の保険料は、前年の所得に応じて決まる「所得割」と、加入者数に応じて決まる「均等割」の合計で算出されます。そのため、所得が高い方や世帯人数が多い場合は保険料が高額になる傾向があります。
一方で、所得が低い場合には、保険料の軽減措置を受けられるという側面もあります。お住まいの自治体によって保険料率が異なるため、正確な金額は市区町村の窓口やウェブサイトで確認が必要です。
保険料が一律の「建設国保」
建設国保は、全国建設工事業国民健康保険組合などが運営する健康保険です。大きな特徴は、保険料が所得に関係なく、年齢や家族構成によって一律に定められている点でしょう。
したがって、所得が高い方にとっては、市町村国保よりも保険料を大幅に抑えられる可能性があります。ただし、加入には組合への所属が必要で、加入条件や組合費が別途発生する場合もあります。
法人化した場合の選択肢「協会けんぽ」
一人親方が法人成り(法人化)した場合、会社の健康保険である「協会けんぽ(全国健康保険協会)」に加入することになります。協会けんぽの保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)を基に算出され、会社と個人で半分ずつ負担します。
市町村国保と異なり、扶養家族が何人いても保険料は変わりません。また、業務外の病気やケガで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」があるなど、手厚い保障が魅力です。
種類 | 保険料の決まり方 | 特徴 |
---|---|---|
市町村国保 | 所得と加入者数 | ・メリット: 所得が低い場合、保険料の減免が受けられる可能性がある ・デメリット:所得が高いと保険料が高額になる。傷病手当金がない。 |
建設国保 | 年齢・家族構成(定額) | ・メリット: 所得が高くても保険料が変わらない ・デメリット:組合への加入が必要。所得が低いと割高になる場合がある。 |
協会けんぽ | 給与額(標準報酬月額) | ・メリット:保険料を会社と折半。扶養家族の保険料負担がない。傷病手当金がある。 ・デメリット:法人化が必要。社会保険料の計算や手続きが複雑になる。 |
一人親方の社会保険料、金額を安くする方法
社会保険料は、一人親方にとって大きな固定費です。しかし、適切な手続きを行うことで、負担を軽減できる場合があります。ここでは、社会保険料の金額を安くする方法をいくつか紹介します。ご自身の状況に合わせて、活用できるものがないか確認してみましょう。
青色申告で特別控除を受ける
国民健康保険料や所得税、住民税は所得に応じて算出されるため、課税対象となる所得金額を抑えることが、保険料の節約に直結します。確定申告を「青色申告」で行うことで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。たとえば、課税所得が65万円減ると、自治体にもよりますが国民健康保険料を年間で数万円単位で引き下げられる可能性があります。
青色申告を行うには、事前の届出と複式簿記での帳簿付けが必要ですが、節税効果も高いため、ぜひ検討したい方法です。
参考:青色申告制度|国税庁
iDeCoや小規模企業共済で所得控除を活用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済は、掛金が全額「所得控除」の対象となる制度です。これらを活用して将来への備えをしながら、当面の所得税・住民税、そして国民健康保険料の負担を軽減できます。たとえば、iDeCoに毎月2万円(年間24万円)を拠出した場合、その24万円分が課税所得から控除されます。ご自身の事業の安定性や資金繰りをふまえ、計画的に活用するとよいでしょう。
参考:iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
経費を漏れなく計上して所得を抑える
国民健康保険料は所得(売上から経費を引いた額)を基に計算されます。したがって、事業で使った費用を「経費」として漏れなく計上し、所得を適切に圧縮することが、保険料を抑えるための最も基本的な方法です。たとえば、以下のような費用は経費として認められる可能性があります。
日頃から領収書やレシートを保管し、計上できる経費を見逃さないようにすることが大切です。
家族の扶養に入ることを検討する
配偶者が会社員などで会社の健康保険(協会けんぽ、組合健保など)に加入している場合、ご自身の年間収入が一定の基準内(一般的に130万円未満)であれば、その扶養に入れる可能性があります。
扶養に入ることができれば、ご自身の国民健康保険料と国民年金保険料の負担はなくなります。事業を開始したばかりで収入が少ない時期など、条件に合う場合は最も効果の大きい方法です。
国民年金保険料を前納・口座振替で割引を受ける
国民年金保険料は、まとめて前払いする「前納」制度を利用すると、割引が適用されます。前納・口座振替による割引は毎年度公表額が変動するため、最新の日本年金機構の案内で確認してください。少しでも負担を減らすために活用したい制度です。
国民年金の免除・納付猶予制度を検討する
失業や事業の不振などにより、国民年金保険料の納付が経済的に困難な場合には、「保険料免除制度」や「納付猶予制度」を利用できる場合があります。承認されると、その期間の保険料の全額または一部が免除されたり、納付を先送りにしたりできます。
ただし、免除された期間は、将来受け取る老齢年金の額が減額される点には注意が必要です。あくまで一時的な対処法として、お住まいの市区町村や年金事務所に相談してみましょう。
一人親方の社会保険、加入手続きの方法
一人親方として独立したら、社会保険の加入手続きはご自身で行う必要があります。手続きには期限が定められているものもあるため、事業開始後は速やかに行動することが大切です。ここでは、国民健康保険・国民年金と、労災保険の特別加入について、主な手続きの窓口と流れを解説します。
国民健康保険と国民年金の手続き窓口は、お住まいの市区町村役場です。会社を退職して一人親方になった場合、退職日の翌日から14日以内に手続きを行う必要があります。
手続きに必要なもの(主な例)
- 健康保険資格喪失証明書(前の会社から発行)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
労災保険の特別加入手続きは、一人親方の団体(労働保険事務組合)を通じて行います。ご自身の業種や地域に合った団体を探し、加入を申し込みます。団体によって会費やサービス内容が異なるため、複数の団体を比較検討するとよいでしょう。
手続きの流れ
- ご自身の地域や業種に対応する一人親方団体を探す
- 団体に連絡し、加入申込書や必要書類を取り寄せる
- 申込書に記入し、必要書類とともに団体へ提出する
- 入会金や組合費、保険料を支払う
- 団体から組合員証などが発行され、手続き完了
一人親方の社会保険料、金額は年収と保険の選択で決まる
一人親方が支払う社会保険料の金額は、年収、働き方、そしてどの保険制度を選択するかによって決まります。この記事で解説したように、まずはご自身の年収から年間の合計保険料がいくらになるかシミュレーションし、資金計画に織り込むことが重要です。
そのうえで、とくに健康保険については、市町村国保だけでなく建設国保なども含めて比較検討し、ご自身の所得水準や家族構成に最も合った制度を選ぶことで、負担を適正化できるでしょう。各種控除や制度を有効に活用し、事業の安定的な継続につなげてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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