- 更新日 : 2025年4月25日
一人親方に源泉徴収は関係ある?支払調書との違いや受け取った場合の注意点を解説
一人親方として働く際、「一人親方なのに源泉徴収票をもらった」「一人親方に源泉徴収票は関係ある?」といった疑問を持つこともあるでしょう。特に、元請けからの支払いがある場合、所得税をどのように国へ納税すべきなのか、自身で何か処理が必要なのかを気にされる方も多いかと思います。
この記事では、一人親方と源泉徴収票の関係や、契約内容の確認方法、源泉徴収票を受け取った場合の対応、確定申告の流れについて詳しく解説します。建築業や自営業の方がスムーズに税務処理を進められるよう、具体例を交えて説明していきます。
目次
一人親方に源泉徴収は関係ある?
一人親方は個人事業主として業務を請け負うため、通常は「給与所得」ではなく「事業所得」として報酬を受け取ります。元請けから外注費としての支払いを受けているため、一般的には源泉徴収票は発行されません。しかし、次のような場合は源泉徴収票や支払調書が発行されることがあります。
- 元請けと雇用契約を結んでいる:従業員扱いになるので、給与として源泉徴収票が発行される
- 請負契約でも源泉徴収される:請負契約でも一部の取引では、1年間で支払われた金額と源泉所得税が記載された支払調書が発行される
つまり、給与として受け取るなら源泉徴収票が発行されます。また、事業所得なら源泉徴収票は発行されません。事業所得の場合には、源泉徴収票と似たようなものとして支払調書が発行されます。これらのケースに該当するかを確認し、自分の契約形態を確認しておきましょう。
そもそも源泉徴収票とは?
源泉徴収票は、給与を受け取った人が、1年間でどれくらいの給料をもらったか、そしてどれだけ所得税を差し引かれたのかを証明する書類です。通常、会社で働いている人は年末調整後にこれを受け取ります。一人親方は「給与」ではなく「外注費」として報酬を受け取ることが多いため、通常は発行されません。
ただし、元請けが「給与」としてお金を払った場合は源泉徴収票が発行されます。
元請けから「支払調書」をもらうことがある
一人親方が源泉徴収される場合、元請けから「支払調書」という書類をもらうこともあります。これが所得税の支払い状況を示す資料となります。確定申告時に必要になるため、しっかりと保管しておきましょう。
- 源泉徴収票 → 給与 をもらった場合に必ず発行
- 支払調書 → 外注費(事業所得)で源泉徴収された場合に発行される
つまり、「支払調書がない=源泉徴収されていない」わけではないので注意しましょう。
自分が源泉徴収されているかは、 請求書の控えや振込金額で確認してください。
一人親方に源泉徴収票が発行される契約とは?
源泉徴収票が発行されるのは、基本的に雇用契約を結んでいるケースです。雇用契約では、会社(元請け)が従業員(労働者)に対して給与を支払う形となり、その際に所得税を源泉徴収する義務があります。次のような契約では源泉徴収票が発行されます。
- 正社員やアルバイトでの雇用契約
会社の給与体系に基づき給与が支給され、毎月の給与明細に源泉徴収税額が記載されます。 - 短期間での雇用契約(期間限定の労働契約)
建築現場などで一時的に雇用され、給与として支払いを受ける場合など、雇用期間が短くても、給与として支払われる場合は源泉徴収票が発行されます。 - 請負契約でも、働き方が会社の従業員に近い
元請けからの指揮命令を受け、業務時間が固定されており、会社の機材や工具を使用し、業務の自由度が低い、他の従業員と同じような勤務形態で働いている、などがあてはまります。
このような場合、実態として雇用関係と判断されるため、給与所得として扱われ、年末調整後に源泉徴収票が発行されます。
源泉徴収票が発行されない契約とは?
源泉徴収票が発行されないのは、請負契約や業務委託契約のケースです。これは、報酬が給与ではなく「外注費」として扱われるためです。したがって、会社と雇用関係を結んでいない一人親方やフリーランスは、通常、源泉徴収票を受け取ることはありません。代わりに、発注元が源泉徴収を行っている場合は、「支払調書」が発行されることもありますが、発行義務がないため、必ずもらえるとは限りません。
- 請負契約
仕事の進め方や労働時間に縛られず、自分の裁量で業務を遂行できます。また、成果物の納品が報酬の基準となり、時間単位ではなく出来高で報酬を受け取ります。給与所得ではなく事業所得として扱われるため、確定申告が必要です。 - 業務委託契約
業務を依頼され、その成果物を納品することで報酬を受け取ります。会社の従業員ではなく、独立した個人事業主 としての仕事になります。給与所得ではなく事業所得として扱われるため、確定申告が必要です。
源泉徴収票をもらったら一人親方じゃなくなる?
源泉徴収票は「給与」が支払われた場合に発行されますが、一時的な雇用契約や元請けの判断で給与扱いになった場合にも発行されることがあります。そのため、 源泉徴収票をもらったからといって、すぐに一人親方でなくなるわけではありません。
一人親方かどうかのチェックポイント
☑ 仕事を断る自由があるか?
☑ 会社の指示ではなく、自分の判断で働いているか?
☑ 労働時間に拘束されていないか?
☑ 報酬が「成果」に対して支払われているか?
これらを総合的に判断し、実態が個人事業主であれば一人親方としての働き方は変わりません。
しかし、一人親方かどうかは、単に源泉徴収票の有無だけで判断されるわけではなく、働き方の実態が重要です。たとえば、自分で仕事を選べるか、働く時間の拘束があるか、業務の指示を受けるかなどの要素によって、一人親方か雇用関係にある労働者かが決まります。
もし、請負契約のつもりで仕事をしていたのに源泉徴収票が発行された場合は、契約内容や支払いの実態を確認し、税務処理の適正性を見直すことが大切です。給与として扱われたことで、確定申告や社会保険の扱いに影響を及ぼす可能性もあるため、状況によっては税理士など専門家に相談することをおすすめします。
一人親方が源泉徴収票をもらわないときにすること
一人親方として働いていると、源泉徴収票をもらわないケースがほとんどです。源泉徴収票をもらわない場合は、確定申告を毎年必ず行う必要があります。
確定申告を行う場合には、1年間で得た収入金額を集計した金額から、1年間で支出した経費を集計した金額の差額(いわゆる儲け)に対して、所得税率を乗じた金額が納税すべき所得税額となります。
確定申告の具体的な申告期間や納付方法などを以下解説します。
期間内に確定申告
一人親方として働く場合、給与所得者のように会社で年末調整をしてもらえないため、自分で確定申告をして所得税を計算し、申告しなければなりません。
確定申告の基本情報
- 申告期間:毎年2月16日から3月15日(※休日の場合は翌営業日)
- 申告方法:税務署に直接提出、郵送、e-Tax(電子申告)の3種類
源泉徴収票がある場合の確定申告の方法
給与所得(源泉徴収票)と事業所得(外注費)の収入を分けて記載することが重要です。誤って全額を給与所得として申告してしまうと、税金を多く支払うことになる可能性があるため注意しましょう。
給与所得については所得税申告書の第一表へ記載すれば済みます。
事業所得の場合、第一表に記載するだけでなく、青色申告を適用している事業者の場合には「青色申告決算書」の作成が必要であり、白色申告を適用している事業者の場合には「収支内訳書」の作成が必要になります。
なお、青色申告決算書や収支内訳書は、1年間の収入と経費を集計して、どのくらい儲けがあるのかを記載する内容のものになります。
青色申告決算書と収支内訳書の具体的な書き方は下記国税庁のリンクをご参照ください。
「青色申告決算書」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/037.pdf
「収支内訳書」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/034.pdf
青色申告を利用すると 最大65万円の控除を受けることができます。また、医療費控除やふるさと納税の寄付金控除などの所得控除を活用することで、税負担を軽減できます。
所得税の納税
一人親方が確定申告を終えたら、所得税を納める必要があります。給与を受け取っている従業員とは異なり、源泉徴収をされておらず、外注費として収入を得ている場合は、年末調整もないため、自分で納税額を計算し、期限内に支払うことが求められます。
関連:所得税の支払い方法は?納税の種類や確定申告期限を過ぎた場合を解説
一人親方が源泉徴収票を発行することはある?
一人親方として働く場合、源泉徴収票を受け取ることは少ないですが、自分が発行する立場になることもあります。例えば、他の職人や従業員を雇い、給与を支払うようになった場合は、源泉徴収を行い、給与を支払った相手に源泉徴収票を発行する義務が生じます。
ここでは、一人親方が源泉徴収票を発行するケースについて解説し、給与を支払う際の税額計算や納税方法について詳しく説明します。
一人親方が他の職人や従業員を雇って給与を支払う場合、給与から源泉徴収を行う必要があります。源泉徴収とは、給与を支払う側(雇用主)が、所得税をあらかじめ差し引いて源泉所得税の納付期限内に国へ納める仕組みのことです。
源泉徴収の計算手順
- 給与の金額を確定する(基本給+手当など)
- 「給与所得の源泉徴収税額表」を確認し、控除額を算出する
- 給与から該当する源泉徴収税額を差し引く
- 給与明細に源泉徴収税額を記載し、従業員などへ手取り額を支払う
例えば、月給20万円の職人を雇っている場合、源泉徴収税額表に基づいて約6,000円~8,000円の所得税を天引きしてから、給与を支払う必要があります。
源泉徴収税額の納税方法
給与から差し引いた源泉所得税額は、一人親方が国(税務署)に納める必要があります。納税方法はいくつかありますが、最も一般的なのは金融機関やe-Taxを利用する方法です。
納税方法 | 内容 |
---|---|
金融機関の窓口 | 銀行・郵便局で専用の納付書を使って納税 |
e-Tax(電子申告) | インターネット経由で納税手続きが可能 |
コンビニ納付 | 対応しているコンビニで支払いができる |
口座振替 | 事前に手続きをすれば、自動引き落としで納税 |
e-Taxを利用すると、オンラインで簡単に納税でき、税務署に行く手間が省けます。
源泉徴収税額の納税期限
源泉徴収した所得税は、原則として翌月10日までに毎月納める必要があります。
ただし、事前に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を管轄の税務署へ届け出ている場合には、年2回の納付で対応することができます。
納税期限のルール
- 毎月給与を支払う場合(原則的な方法) → 翌月10日までに納税
- 年2回納付の特例(従業員10人未満)(納期の特例) → 1月20日と7月10日の年2回に分けて納税が可能
納付が遅れると延滞税がかかるため、期限内に支払いを済ませることが大切です。
一人親方の源泉徴収を正しく理解し、確定申告をスムーズにしよう
一人親方として働くうえで、源泉徴収票の有無や支払調書の扱い、確定申告の流れをしっかり理解することが大切です。 収入の種類や契約形態によって税務処理が異なるため、それぞれのケースに応じて適切に対応しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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