- 作成日 : 2025年4月25日
一人親方の給料と外注費の違いとは?常用工はどちら?税金への影響も解説
一人親方は「給料」として報酬を受け取る場合と、「外注費」として支払われる場合があります。一般的には外注費として支払われることが多いですが、雇用契約の内容によっては給料扱いになることもあります。この違いは、税金や社会保険の取り扱いに大きく影響するため、しっかり理解しておくことが大切です。
この記事では、一人親方の給料と外注費の違いを詳しく解説し、それぞれの特徴や税金面での影響について説明します。
目次
一人親方の外注費と給料の違いとは?
一人親方に対する「外注費」と「給料」は、契約の仕方や税金の扱いが異なります。
「外注費」は、請負契約や業務委託契約に基づいて支払われる報酬です。この場合、一人親方は独立した事業者として建築業務を請け負い、工事の完成や施工サービスに対して報酬を受け取ります。
「給料」は元請け会社と雇用契約を結んでいる場合に支払われる報酬です。この場合、一人親方は従業員として扱われ、給与所得者としての税金や社会保険が適用されます。
一人親方に外注費として支払うケース
一人親方への支払いが外注費として扱われる場合、契約の形態は「請負契約」または「業務委託契約」になります。これらの契約では、一人親方は独立した事業者として業務を請け負い、その成果に応じて報酬を受け取る形になります。
請負契約の場合
請負契約は、工事の完成や施工を目的として契約が結ばれます。例えば、建築業界では以下のようなケースが該当します。
- 元請け会社から屋根工事の依頼を受け、契約通りに施工する
- 配管工事の一部を請け負い、期日までに完成させる
この契約では、仕事の成果物に対して報酬が支払われるため、労働時間や作業方法の指定はなく、一人親方が自由に仕事を進めることができます。
業務委託契約の場合
業務委託契約は、特定の業務を依頼し、その遂行に対して報酬を支払う契約です。例えば、
- ある建築現場で一定期間の現場管理業務を担当する
- 設備点検やメンテナンス業務を受託し、定期的に作業する
この契約では、一定の期間にわたって業務を提供する場合が多いですが、雇用契約とは異なり、労働時間の管理は基本的に行われません。
一人親方に給料として支払うケース
一人親方に給料を支払う場合、前提として雇用契約が結ばれていることになります。この場合、一人親方は労働者として位置づけられ、元請け業者が給与を支払い、所得税の源泉徴収や社会保険料の負担・手続きを行います。
労働時間や業務内容も元請け業者が管理し、労働基準法などの労働関連法令が適用されます。
給料として支払われるケースの特徴
- 労働時間の管理がある(始業・終業時間が雇用主から決められる)
- 社会保険に加入する必要がある(常時5人以上を雇用する個人事業所の場合)
- 給与所得として扱われ、源泉徴収票が発行される(月額88000円以上の場合)
- 雇用主からの指示を受ける
- 業務で使用する作業道具などを事業者が準備している
- 成果物の引き渡しをしていなくても稼働した分の報酬を請求することができる
例えば、建築現場で毎日決まった時間に出勤し、元請け会社の指示のもとで働く場合、雇用契約を結んでいるとみなされることがあります。これは「偽装請負」といわれ、実質的に従業員と同じ立場になり、社会保険や税金の取り扱いも異なるため、しっかりと確認することが大切です。
常用工の一人親方は給料扱いになる?
常用工とは、特定の元請け会社から継続的に仕事を受け、実質的に専属で働いている一人親方のことを指します。契約上は請負や業務委託契約であっても、働き方の実態によっては「労働者」とみなされることがあります。
給料扱いになるケース
次のような条件に当てはまる場合、税務署や労働基準監督署から「雇用関係にある」と判断される可能性があります。
- 毎日決まった時間に現場へ出勤し、労働時間や休憩時間が決まっている
- 元請けから直接の業務指示を受けている
- 元請けの仕事以外の業務を請け負えない
- 元請けから材料や作業道具を用意してもらえる
- 仕事の完成に関わらず働いた分の報酬を受け取れる
これらの条件に該当すると、実態としては雇用契約に近いと判断され、給料扱いとなる可能性があります。その結果、元請けには社会保険の適用や源泉徴収の義務が発生し、一人親方側も給与所得として税金を計算することになります。
給料にならないケース
逆に、以下のような働き方をしている場合は、引き続き外注費として扱われることが多いです。
- 複数の元請けから仕事を請け負っている
- 自分の裁量で業務の進め方を決められる
- 作業日程を自由に決められる
- 機材や作業道具を自分で準備している
- 自分の代わりに他人がその仕事を遂行できる
働き方の実態によって給与扱いになるかどうかが決まります。
一人親方への外注費と給料の税金面での違い
一人親方に対する外注費と給料では、税金の取り扱いが異なります。
外注費として支払う場合、一人親方自身が確定申告を行い、所得税や消費税を納付します。元請け業者は支払調書の作成・提出が必要となります。
また、国民健康保険や国民年金に一人親方自身が加入し、全額負担する必要があります。
給料として支払う場合は、元請け会社が源泉徴収を行い、年末調整で税額を確定させます。
会社が健康保険や厚生年金の手続きを行い、社会保険料の一部を負担します。
税金の違い
項目 | 外注費(事業所得) | 給料(給与所得) |
---|---|---|
源泉徴収 | なし | あり |
確定申告 | 必要 | 原則不要(年末調整あり) |
消費税 | かかる場合がある(課税事業者の場合) | かからない |
経費計上 | 必要経費として計上可能 | 基本的に不可 |
社会保険の違い
項目 | 外注費(事業所得) | 給料(給与所得) |
---|---|---|
健康保険 | 自分で国民健康保険に加入 | 会社が負担(社会保険適用) |
年金 | 国民年金 | 厚生年金 |
労災保険 | 一人親方労災保険に加入 | 適用される |
一人親方への支払いで注意すべきポイント
一人親方へ支払う際には、契約の形態によって「外注費」か「給料」かが変わります。支払い方法を間違えると、税金や社会保険の負担が大きくなったり、トラブルにつながる可能性があります。ここでは、一人親方への支払いで気をつけるべきポイントを解説します。
①契約内容を明確にする
一人親方への支払いが外注費として認められるかどうかは、契約の内容が重要です。請負契約や業務委託契約を結んでいる場合は外注費として扱われますが、契約があいまいだと、税務署から給料と判断されるリスクがあります。
確認すべき契約内容のポイント
- 業務内容(成果物の納品があるか)
- 報酬の決め方(出来高制か固定給か)
- 仕事の進め方(指揮命令があるかどうか)
- 材料や道具の負担(元請けか一人親方か)
- その仕事を他人が代替可能かどうか
例えば、元請け会社が仕事の進め方を細かく指示し、時間単位で支払っている場合、実質的に労働契約とみなされる可能性があります。そのため、契約書には「一人親方が業務を自己の裁量で遂行する」ことを明記することが大切です。
②源泉徴収の対象か確認する
基本的には、一人親方に対して支払う外注費は、上述したように源泉徴収は不要となります。
しかし、一人親方へ外注費を支払う場合でも、源泉徴収の対象になることがあります。例えば、一人親方が建築士や土地家屋調査士などに仕事を依頼した場合には、源泉徴収の対象になるケースも考えられます。建築士として建築工事の指揮監督を行ったことに対する外注費や、土地家屋調査士として土地や家屋に関する調査をしたことに対する外注費を支払った場合には、源泉徴収の対象となります。そのため、支払う側は源泉所得税を差し引いて支払う必要があります。
建設業における源泉徴収の計算例
例えば、一人親方に50万円の外注費を支払う場合、源泉徴収税額は以下のように計算されます(消費税は考慮外として計算しております)。
したがって、手取り額は以下のようになります。
源泉徴収を怠ると、税務署から指摘され、追徴課税の対象となる可能性があるため、事前にしっかり確認しておきましょう。
※土地家屋調査士の場合には、同一人に対して1回に支払う金額から1万円を控除した金額に対して10.21%の税率を差し引くことになります。
③常用工の一人親方には社会保険の適用リスクがある
- 1つの元請けの仕事がほとんどで、長期間継続している
- 仕事の指示を受け、就業時間が決められている
- 月給制で一定額が支払われている
このような状況になると、税務署や労働基準監督署から「実質的に雇用関係がある」と判断される場合があり、後から保険料の請求が発生する可能性があります。
④消費税の取り扱いに注意する
外注費として支払う場合、一人親方が消費税課税事業者であれば、消費税の支払いも必要になります。しかし、2023年10月からインボイス制度が導入されたため、インボイスを発行できない免税事業者の一人親方への支払いでは、仕入税額控除が適用できなくなります。
インボイス対応のチェックポイント
- 一人親方がインボイス登録事業者かどうか確認する
- インボイス未登録の場合、消費税分を控除できない点を考慮する
- 契約時に消費税の取り扱いを明確にする
支払い側の企業としては、インボイスを発行できる事業者に発注するか、税額控除ができない分を考慮した契約をする必要があります。
⑤労災保険の適用について把握する
一人親方は原則として労災保険の適用外ですが、元請けが「特別加入制度」に加入している場合は、一人親方も労災保険に入れる場合があります。建設現場では事故のリスクがあるため、労災保険に加入しているか確認しておくことが重要です。
特別加入制度のポイント
- 元請けが一人親方の分も加入する必要がある
- 加入しないと、事故時の補償がなくリスクが高い
- 加入費用は元請け負担の場合と一人親方負担の場合がある
一人親方が自分で労災保険に入るケースもありますが、元請けが制度を整えておくことで、万が一のトラブルを防ぐことができます。
一人親方への支払いを適切に行おう
一人親方への支払いは、契約形態や支払い方法によって「外注費」か「給料」かが決まり、それに応じて税金や社会保険の扱いも変わります。間違った処理をすると、税務調査で指摘されるリスクや、後から余計なコストが発生する可能性があります。
特に注意すべきポイントは以下の5つです。
- 契約内容を明確にし、労働契約とみなされないようにする
- 源泉徴収が必要か確認し、適切に処理する
- 常用工の一人親方には社会保険の適用リスクがあることを把握する
- 消費税の取り扱いとインボイス制度への対応を確認する
- 労災保険の特別加入制度を活用し、リスクに備える
元請け企業としては、一人親方との契約を適切に管理し、法律や税務のルールに沿った支払いを行うことが大切です。正しい知識を持つことで、余計な税負担やトラブルを避けることができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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