• 作成日 : 2025年3月21日

大工の一人親方として独立する流れ!経費や収入の管理方法を解説

大工の一人親方は、会社員とは異なり、収入やスケジュールを自分で管理できる働き方です。自由度の高い働き方を実現できる一方で、収入の安定性や事業運営の負担といった課題もあります。この記事では、一人親方として働く際のメリットやデメリット、一人親方になるための手続き、収入を確保する方法などを具体的に解説します。

大工の一人親方として働くメリットとデメリット

大工の一人親方として働くと、仕事の自由度が高く、収入も自分の裁量で決められる一方で、収入の不安定さや事務作業の負担が課題となります。安定した経営を続けるには、メリットを活かしつつ、デメリットへの対策を講じることが重要です。ここでは、一人親方のメリットとデメリットについて詳しく解説します。

大工の一人親方として働くメリット

1. 経営者としての働き方ができる

一人親方は、自分自身が「事業主」として仕事を進めます。そのため、単に作業をこなすだけではなく、どのような仕事を受けるか、どのくらいの予算で進めるかなどの意思決定を行います。例えば、元請け業者と交渉して契約条件を整えたり、長期的な視点で収益性を高める工夫をすることが求められます。このように、経営者としての視点を持つことで、働き方にやりがいを感じる人も多いです。

2. 経費を活用して節税ができる

一人親方は、仕事に必要な経費を事業費として計上できるため、節税対策をすることができます。例えば、車両費、工具購入費、材料費通信費などが経費として認められるため、所得税の負担を軽減することができます。会計ソフトを活用することで、経費管理も効率化できます。

3. 高い日当が期待できる

一人親方は、仕事の内容やスキルに応じて報酬を設定できるため、会社員より高い日当を得られる可能性があります。特に、高度な技術や専門性を求められる作業では、日当が高くなる傾向があります。また、経験や実績を積むことで、より高単価の仕事を受けるチャンスが増えます。

大工の一人親方として働くデメリット

1. 安定収入が得られにくい

一人親方は、仕事がなければ収入が途絶えてしまいます。例えば、繁忙期には収入が多くても、閑散期には仕事が減少し、収入が不安定になる可能性があります。そのため、複数の元請け業者や取引先を確保するなど、安定した仕事の確保が重要です。

2. 全てを自分で管理する必要がある

経営者として働く一人親方には、確定申告や開業届の提出、税金や社会保険の手続きなど、さまざまな事務作業をこなす責任があります。また、インボイス制度への対応や新しい税制の導入に関する知識も求められます。こうした手続きを忘れたり、対応が遅れたりすると、追加の税金や罰金が発生することもあるため注意が必要です。

3. 事故やトラブル時の負担が大きい

一人親方は、自分自身が事業の中心となるため、ケガや事故で働けなくなった場合、収入が途絶えるリスクがあります。また、クライアントとの間で起きるトラブルや、元請けからの支払いが遅れるといった問題に対応しなければならない場面も出てきます。こうした事態に備えるためには、労災保険や収入保障保険の活用を検討するなど、リスク管理が重要です。

大工の一人親方と会社員の違い

大工の一人親方として働く場合と会社員として働く場合では、仕事の進め方から収入、税金、社会保障までさまざまな違いがあります。それぞれの特徴を比較しながら解説していきます。

一人親方会社員
契約形態個別契約雇用契約
仕事の進め方自分で業務を管理会社の指示に従う
報酬・賃金日当制・出来高制月給制
社会保険国民健康保険(全額自己負担)または建設国保健康保険・厚生年金(会社が半分負担)
年金国民年金(全額自己負担)厚生年金(会社が半分負担)
税金の手続き自分で確定申告を行う会社が代行で源泉徴収
労災保険任意加入(特別加入制度あり)会社が全額負担(労働者は自動適用)

契約形態・報酬の違い

一人親方は仕事ごとに契約する

一人親方は、元請けや施主と個別に契約を結びます。報酬は日当制や出来高制が一般的で、地域やスキルによって変動します。

また、一人親方が注意すべき点として、材料費の負担が発生する場合があります。契約内容によっては、元請けが材料を提供する場合もありますが、多くの場合、自分で調達することになります。この材料費は経費として申告することが可能です。

ただし、フローリング材や塗料など高価な材料を使う場合、契約時に誰がどれだけ負担するかをはっきり決めておかないと、利益が少なくなることもあるので注意が必要です。

会社員は固定の給与を受け取る

会社員の場合、雇用契約に基づき、毎月一定額の給与が支払われます。ボーナスや残業手当などもあり、収入が安定している点が特徴です。給与は一律の場合が多く、仕事量に応じて大きく変動することはありません。

仕事の進め方の違い

一人親方は自分で業務を管理する

一人親方は、仕事を受注するところから始まり、スケジュール管理や作業内容の決定、元請けや施主との調整など、すべて自分で行います。たとえば、リフォーム工事を受けた場合、現場の下見、材料の調達、工期の設定も含め、全体を一人で取り仕切ります。

会社員は指示に従って作業を進める

会社員の場合、上司や元請けからの指示に基づき、決められた作業を行います。現場での役割が明確に分担されているため、自分で全体を管理する必要はありません。その分、自由度は低いですが、業務が進めやすいという利点があります。

社会保険・年金

一人親方は自分で加入する

一人親方は、国民健康保険や国民年金に自分で加入する必要があります。保険料は全額自己負担となり、さらに任意で労災保険に加入することもできます。これにより、ケガや事故の際にも保障を受けられるようになります。

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会社員は会社を通じて加入する

会社員は、社会保険(健康保険、厚生年金)に自動的に加入します。これらの保険料の一部は会社と従業員が折半するため、一人親方より自己負担が軽減されます。また、雇用保険や労災保険にも加入しているため、失業時や事故時の保障が充実しています。

税金の負担や手続き

一人親方は確定申告が必須

一人親方は個人事業主であるため、毎年確定申告を行い、所得税や消費税を納めます。2023年から施行されたインボイス制度への対応が必要な場合、適格請求書を発行するための登録も必要です。経費を計上して節税できる点は利点ですが、帳簿の作成や税金の計算などの事務作業が発生します。

会社員は源泉徴収で税金が処理される

会社員は給与から所得税や住民税が源泉徴収されるため、税金に関する手続きは会社が代行します。確定申告が不要な場合が多く、税務管理の手間が省けるのが特徴です。

一人親方の大工に向いている人

独立志向が強く、自己管理が得意な人

一人親方に向いているのは、自分の裁量で仕事を進めたい人や、自由な働き方を求める人です。また、仕事や収入の管理を自己責任で行える能力が必要です。経験や技術力に自信があり、高い日当を得たいと考える人には適しています。

安定を求める人は会社員が向いている

反対に、収入の安定性や福利厚生を重視する人には、会社員として働く方が合っています。社会保険や年金の負担が軽減される点も、会社員のメリットです。

大工の一人親方は儲かる?日当や年収の相場

一人親方の収入は、仕事内容やスキル、地域によって大きく異なります。会社員と異なり、働いた分だけ収入につながるため、一定の経験と営業力があれば、高収入を得ることも可能です。

日当の相場は2万円~2.5万円程度

2023年の全建総連東京都連の調査によると、大工の一人親方の日当は平均21,223円と報告されています。また、2024年の公共工事設計労務単価では、国交省で27,721円、東京都で28,800円と設定されており、公共工事の現場に入る場合は比較的高単価になる傾向があります。

熟練の大工であれば、25,000円~30,000円の日当を得ることも可能ですが、これは高い技術や専門性が求められる仕事をこなせることが前提となります。

日当が2万円~3万円程度で、年間220~250日働いた場合、年収は400万円~700万円程度になるのが一般的です。ただし、ここから材料費や道具代、車両費、保険料などの経費を差し引く必要があり、実際の手取りはそれよりも少なくなります。

参考:
国土交通省 令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について
東京都財務局 公共工事設計労務単価(令和6年3月)
全建総連東京都連合会 2023年(R5年)賃金調査報告書

大工の一人親方として独立する流れ

大工の一人親方として独立するには、事前準備と必要な手続きを確実に進めることが大切です。この章では、独立の具体的なステップについて解説します。

独立の準備・開業届の提出

一人親方として働くためには、税務署に「開業届」を提出し、個人事業主としての登録を行います。開業届を提出することで、正式に事業を開始することができ、確定申告を通じて収入や経費を管理する義務が発生します。

  • 開業届を提出するタイミング
    事業開始日から1カ月以内に税務署へ提出することが原則とされています。ただし、提出しないことによる罰則はなく、後から提出することも可能です。開業届の提出自体には費用がかからないため、早めに手続きを進めるのが安心です。屋号は開業届に記載する項目で、必須ではありませんが、名刺や請求書、契約書などで使用する際に役立ちます。
  • 青色申告承認申請書の提出
    同時に、青色申告承認申請書を提出することで、青色申告が可能になります。青色申告では、控除額が最大65万円となり、節税につながるため、一人親方にはメリットが大きい制度です。
  • 銀行口座の開設
    事業用の銀行口座を作成することで、プライベートと事業の収支を分けることができます。これにより、確定申告時に経費や売上を整理しやすくなるほか、取引先からの信頼度も向上します。屋号付きの口座を開設すると、さらに事業感をアピールできます。

関連:個人事業主・フリーランスの屋号とは?決め方やよくあるQ&Aを紹介!
開業届に屋号は必要?会社名の付け方、申請・変更方法を解説

労災(労災保険)への加入

会社員の場合、労災保険は会社が手続きを行いますが、一人親方の場合は自分で加入する必要があります。労災保険に加入することで、仕事中のケガや事故の際に補償を受けることができます。

  • 労災(労災保険)への加入の方法
    労災保険への加入は、最寄りの労働基準監督署や労災保険組合を通じて手続きできます。一人親方特別加入制度を利用し、労災保険料を支払うことで、業務中の事故やケガの際に補償を受けることが可能です。
  • 費用の目安
    一人親方の労災保険料は、選択した給付基礎日額に基づき決まります。特別加入の料率(建設業の一人親方は17/1000)を適用し、例えば給付基礎日額10,000円で約62,000円、5,000円で約31,000円の年間保険料がかかります。

参考:国土交通省 第一種特別加入保険料率

車や道具の準備

大工の一人親方にとって、車両や工具の準備は欠かせません。これらは初期投資として大きな負担になりますが、必要経費として申告できるので、確定申告で税金を減らすことができます。

  • 車の選び方
    軽トラックやバンなど、工具や材料を効率よく運べる車を選ぶのが一般的です。中古車を選ぶ場合は、車両代が安価に抑えられるメリットがあります。
  • 道具の準備
    ハンマーやノコギリといった基本的な工具に加え、電動工具や専用機械が必要になる場合もあります。これらも経費として計上可能です。

大工の一人親方の収入や経費の管理方法

大工の一人親方が安定した収入を得るには、お金の出入りをきちんと管理することが大切です。ここでは、経費として使えるものや、管理を楽にする方法、さらに活用できる給付金や補助金についてわかりやすく説明します。

大工の一人親方が経費として計上できるもの

経費をしっかり計算して申告すれば、税金が少なくなり、手取りのお金を増やすことができます。例えば、材料代や工具代、車の費用、電話やネットの代金などが経費になります。

  • 材料費
    工事で使用する木材や釘、塗料などの購入費用。
  • 工具・道具代
    ハンマーやノコギリ、電動工具など、作業に必要な道具の購入費および修理費。
  • 車両関連費
    仕事で使用する車両の購入費、ガソリン代、自動車保険料、整備費(私用分を除く)。
  • 交通費
    現場までの移動にかかる電車代やタクシー代など。
  • 接待交際費
    元請けや取引先との打ち合わせで発生する飲食代(業務上必要な範囲内)。
  • 通信費
    顧客との連絡に使用する携帯電話やインターネットの費用。
  • その他の費用
    事務用品費(ノート、ペンなど)、作業服代、保険料(労災や業務用保険)、外注費(特定の作業を他の職人に委託する場合)。

会計ソフトを利用して管理する

一人親方として、日々の収入と支出を正確に記録することが大切です。会計ソフトを活用することで、効率的に管理が行えます。

「マネーフォワード クラウド」などは、会計が初めての方にも使いやすく、一人親方にも適しています。青色申告用の帳簿作成やインボイス対応も可能です。

大工の一人親方が受けられる給付金・補助金

一人親方として働く際には、さまざまな補助金や助成金を活用することで、事業の負担を軽減することができます。申請には、事業計画書などの提出が求められることが多いため、事前に必要書類を準備しておくことが大切です。

  • 小規模事業者持続化補助金
    小規模事業者が販路拡大や事業改善を行う際に利用できる補助金です。例えば、道具の購入やホームページの制作・広告・宣伝費用に充てることができます。申請には事業計画書の作成が必要ですが、補助率が高く、初期費用を抑えるのに役立ちます。
  • IT導入補助金
    会計ソフトや顧客管理ツール、受発注システムの導入費用を一部補助してもらえます。ITツールを導入して業務効率を向上させるための補助金です。
  • 人材開発支援助成金
    一人親方が従業員を雇用している場合に利用できる助成金で、従業員の研修費用や資格取得費用を一部補助してくれる制度です。
  • 自治体が実施する補助金制度
    自治体が独自に実施している補助金制度もあります。例えば、特定の地域で工事を受注した場合の補助や、エコリフォームの促進支援などです。

一人親方の大工として独立後に注意すべきポイント

大工の一人親方として独立した後は、日々の仕事に加えて、契約や事務管理についても注意が必要です。ここでは、特に意識したいポイントを詳しく解説します。

材料費は元請けと自前とどちらが負担するか

工事の材料費の負担割合は契約時に必ず確認することが大切です。一人親方の場合、材料費を元請けが負担してくれることもありますが、多くの場合、自分で購入することになります。この場合、材料費は経費として計上できるため節税効果がありますが、事前に契約書で負担割合を明確にしておかないと、後々トラブルになったり、利益が減る可能性があります。契約書には「材料費の負担」が記載されていることを確認し、経費計上の対象となる項目を把握しておきましょう。

元請けからの支払い状況を確認する  末日翌々15日

支払いサイクルを把握し、資金管理を計画的に行いましょう。元請けからの支払いは、工事が完了してから一定期間後になることが一般的です。「末日〆翌々15日」などのように、受け取りまで時間がかかりますので、資金繰りに注意が必要です。契約時に支払い条件をしっかり確認し、複数の案件を抱えている場合はそれぞれの支払い時期を整理しておくと、資金繰りをスムーズに進められます。

書面での契約を徹底する

トラブルを防ぐために書面契約を必ず交わしましょう。一人親方の仕事では、口頭で契約内容を決めてしまうケースもありますが、必ず契約書を作成し、内容を明確にしておくことが大切です。特に、工期や報酬、材料費の負担などの詳細を記載することで、後々のトラブルを防ぐことができます。また、契約内容が元請けと合意されていることを確認することも重要です。

インボイス制度への対応をするか

2023年10月に始まったインボイス制度は、一人親方の収入に影響します。インボイス制度では、「適格請求書発行事業者」として登録していないと、取引先が仕入税額控除を受けられず、結果として取引を見直されたり、支払額を減額される可能性があります。適格請求書発行事業者として登録を済ませた上で、請求書には登録番号を記載しましょう。また、インボイス発行に対応した会計ソフトを導入することで、日々の管理が簡単になります。

建設業許可を取得するか

規模の大きな工事を受注するには建設業許可が必要です。一人親方が受注する工事の内容や金額によっては、建設業許可が必要となります。たとえば、500万円(税込)以上の工事を請け負う場合、許可が必要です。建築一式工事の場合は1,500万円(税込)以上または延べ面積150㎡以上の木造住宅の工事で許可が必要です。許可がないと受けられない案件もあるため、事業を拡大したい場合は早めに取得を検討しましょう。受注予定の工事が許可対象かどうかを確認し、自分が必要な要件を満たしているかを調べておくとスムーズに進められます。

一人親方の大工が収入を増やすための仕事の取り方

収入を安定させ、さらに増やすためには、効率よく仕事を確保することが大切です。

ハウスメーカーへの直接アプローチ

ハウスメーカーは新築やリフォーム案件を多く扱っているため、継続的に仕事を受注しやすいのが特徴です。営業時にはこれまでの実績やスキルを具体的に伝え、継続案件が期待できるかどうかを確認しておくと良いでしょう。

各建設会社のホームページ登録

建設会社のオンライン登録を利用して、仕事を確保する方法です。

多くの建設会社では、職人を登録制で募集している場合があります。ホームページでの登録を行うことで、現場ごとに案件を紹介してもらえる仕組みを利用できます。登録時には履歴書や実績一覧を準備し、案件ごとの条件や報酬をしっかり確認して進めることが大切です。

同業者からの仕事紹介

同業者とのつながりを活用して案件を広げることもできます。

一人親方同士や元請け業者とのネットワークは、繁忙期や専門性の高い案件で特に役立ちます。信頼関係を築き、情報共有を行うことで、仕事の幅を広げられる可能性が高まります。紹介された仕事については、条件や報酬をよく確認し、自分に合った案件かを見極めることが重要です。

自分の働き方を考えて大工の一人親方になろう

大工の一人親方として成功するためには、自分に合った働き方を見つけることが大切です。仕事の自由度が高い一人親方ですが、安定した収入を得るためには、スキルを磨き、信頼関係を築くことが必要です。また、契約内容をしっかり確認し、支払いサイクルや材料費の負担を明確にすることで、トラブルを防ぐことができます。さらに、ハウスメーカーへの営業や建設会社の登録、同業者とのネットワークを活用して、仕事を効率よく確保しましょう。事業運営を計画的に進めることで、安定した収益を目指しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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