• 更新日 : 2025年8月5日

工事原価計算表とは?計算方法や制作のポイントを解説

建設プロジェクトの収益性を正確に把握し、経営の安定化を図るためには、発生する費用を的確に管理することが不可欠です。その中核となるのが「工事原価計算表」です。

この記事では、建設業に従事される方々を対象に、工事原価計算表の基本的な役割から、具体的な作成・活用方法、さらには混同しやすい関連書類との違いに至るまで、わかりやすく解説します。

工事原価計算表とは?

建設プロジェクトの成否を左右するとも言える「工事原価計算表」。その基本的な定義から、建設業特有の環境下でなぜこれほどまでに重要視されるのか、そして具体的な活用メリットに至るまでを深掘りします。

工事原価計算表の定義と目的

工事原価計算表とは、建設工事にかかる全ての費用(原価)を正確に算出し、管理・把握するために用いられる重要な帳票です。主な目的は、工事完了までにかかる費用を明確にし、その情報を基にコスト改善策を講じること、そして各工事の採算性をリアルタイムで評価し、経営上の意思決定に役立てることにあります。

なぜ建設業で工事原価の正確な把握が不可欠なのか

建設業では、工事ごとに材料費労務費、外注費など多種多様な費用が発生し、これらの適切な管理が利益確保と経営安定に直結します。また、建設業の許可維持のため「完成工事原価報告書」の提出が求められることも、原価管理が必須である理由の一つです。工期が長く、外部環境の影響を受けやすい建設工事において、計画と実績の差異を早期に発見し対策を講じるためには、日々の原価を正確に記録する工事原価計算表が不可欠です。

工事原価計算表を活用する具体的なメリット

工事原価計算表の適切な活用は、予算と実績の精緻な管理、将来費用の的確な予測、追加工事発生時の迅速な費用調整などを可能にし、利益改善や損益分岐点の明確化に繋がります。また、蓄積された原価データは、将来の新規案件における見積もり作成の精度向上にも貢献します。具体的には、利益管理の精度向上、適正な見積価格の算出、経営判断の迅速化、資金繰りの安定化などが期待できます。

建設業の原価の計算方法

工事原価を正確に把握するためには、その構成要素を理解し、適切な計算手順を踏むことが不可欠です。この章では、工事原価を構成する4つの主要費目から、建設業特有の原価計算プロセスまで、具体的な方法論を解説します。

材料費・労務費・外注費・経費

建設業の会計では、工事原価を主に材料費、労務費、外注費、経費の4つの要素に分類して集計します。

  • 材料費
    工事に直接使用される資材(木材、鉄筋等)や補助的な材料(釘、塗料等)の費用。
  • 労務費
    現場作業員の賃金、給与、手当、法定福利費など、工事に直接関わる人件費。
  • 外注費
    工事の一部を他の専門業者へ委託した場合の費用。建設業では比率が高くなる傾向があります。
  • 経費
    上記以外で工事遂行に必要な費用(現場事務所家賃、機械リース料、水道光熱費等)。

直接費と間接費の違いと見分け方

工事原価は、その性質により「直接費」と「間接費」に大別されます。

  • 直接費
    特定の工事に直接関連付けて把握できる費用(例:A工事専用の資材費、A工事作業員の労務費)。
  • 間接費
    複数の工事に共通して発生し、一定の基準で各工事に配分される費用(例:複数現場で使用する重機の減価償却費、共通の現場事務所家賃)。

これらの費目を正確に分類することが、精度の高い原価計算の前提となります。

費目別・部門別・工事別計算の流れ

建設業の原価計算は、一般的に費目別計算、部門別計算(実施される場合)、工事別計算という段階的な流れで行われます。製品ごとやプロジェクトごとに原価を個別に集計する「個別原価計算」が用いられ、通常、工事指図書や工事台帳単位で管理・集計されます。

  1. 費目別計算
    発生した全原価を材料費、労務費、外注費、経費に分類し集計。
  2. 部門別計算
    主に間接費を、発生した部門ごとに集計(企業により省略される場合あり)。
  3. 工事別計算
    費目別(および部門別)に集計された原価要素を、個々の工事プロジェクトに集計。直接費は直接賦課、間接費は適切な配賦基準で割り振り。

個別原価計算を正確に行うためのポイント

個別原価計算の精度を高めるには、正確な発生源の特定、間接費配賦基準の合理性、リアルタイムな情報収集が重要です。現場担当者による記録の正確性と経理部門による迅速なデータ処理という部門間連携も不可欠です。

工事原価計算表と混同しやすい関連書類との違い

建設業務には多くの書類が関わりますが、特に「工事原価計算表」と目的や内容が近いとされる書類がいくつか存在します。この章では、「工事台帳」「実行予算書」「見積書」「完成工事原価報告書」との違いを明確にし、それぞれの役割と連携について解説します。

「工事台帳」との違い

工事台帳は原価管理用の内部記録書類です。工事原価計算表との関係では、工事台帳に日々記録される原価情報が、工事原価計算表作成の基礎データとなります。

  • 工事台帳
    施工体制全体の管理や法的要請対応など、より広範な情報を網羅する総合記録文書。
  • 工事原価計算表
    工事台帳の原価データ等を基に、特定工事の原価を詳細に計算・分析し、採算性を把握する内部管理資料。

「実行予算書」との違い

「実行予算書」は、工事契約後に作成される、社内向けの費用計画書です。これは、目標利益を確保し、実際の工事を円滑に進めるための具体的な予算を定めます。

一方、「工事原価計算表」は、実行予算に対する実績原価を記録し、その差異を分析するためのツールです。

両者は密接に関わっており、実行予算に対して、工事原価計算表で実績を記録・追跡します。その結果を比較・評価し、改善に繋げるPDCAサイクルを回すことで、原価管理の精度を高めます。

「見積書」との違い

「見積書」は、発注者(顧客)に提示する、工事全体の費用を概算で示した社外向け提案文書です。これは契約獲得を目的とし、企業の利益を含んだ「売価」が記載された、契約前の「予測値」としての性質を持ちます。

対して、「工事原価計算表」は、企業の利益を含まない「原価」そのものを扱い、実行予算原価や実績原価を詳細に計算・記録します。

これらは、見積作成時に過去の工事原価計算表データを活用することで、より正確な見積もりを出すことができます。そして、工事完了後には、工事原価計算表で確定した実績原価をもとに利益を検証し、次回の見積もり精度向上へと繋げます。

「完成工事原価報告書」との違い

「完成工事原価報告書」は、決算時に作成される財務諸表の一部で、一会計期間に完成した全工事の実際原価総額を会計基準に則り集計・報告する財務書類です。これは一般企業の売上原価に相当し、主に外部関係者への報告が目的です。

一方、「工事原価計算表」は、個別の工事ごとに原価を詳細に計算・管理するための内部管理資料であり、進行中の工事も対象となります。

両者の関係性としては、日々の工事原価計算表で算出された個々の完成工事の原価が、最終的に集計され、完成工事原価報告書の基礎データとなります。

工事原価計算表と関連書類の比較

書類名主な目的作成タイミング主な記載内容対象者(内部/外部)
工事原価計算表個別工事の原価計算・分析、採算性把握工事期間中、随時更新材料費、労務費、外注費、経費の詳細な実績、予算対比主に内部
工事台帳施工体制管理、原価情報含む工事全般の記録、法定要件対応工事期間中、随時更新業者情報、施工範囲、工期、技術者、保険、原価要素内部、一部外部
実行予算書工事の目標原価設定、コストコントロール基準契約後~着工前詳細な費目別予算、目標利益主に内部
見積書顧客への工事金額提案、契約獲得契約前工事概要、提案金額(売価)、支払い条件外部
完成工事原価報告書会計期間の完成工事原価の集計、財務報告決算時材料費、労務費、外注費、経費の期間総額内部、外部

工事原価計算の精度を上げるポイント

工事原価計算表は作成するだけでは不十分であり、その精度を高め、経営に活かすための継続的な取り組みが求められます。ここでは、データ収集から改善活動、さらにはシステム活用に至るまで、原価計算の精度を向上させるための具体的な実践ポイントを提案します。

正確な原価把握のためのデータ収集と入力の徹底

原価管理の最重要点は、発生数値を適時かつ正確に把握することです。そのためには、現場とオフィス(経理部門等)の緊密な連携、入力ルールの明確化、検証体制の整備が不可欠です。具体的には、証拠書類の整備と迅速な処理、入力ルールの標準化と教育、定期的な残高照合などが挙げられます。

PDCAサイクルを活用した継続的な原価差異分析と改善活動

原価管理の精度を継続的に高めるには、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を活用した原価管理改革サイクルを導入し、課題発見と改善を繰り返すアプローチが有効です。実行予算の執行状況が分かる工事台帳(または工事原価計算表)を用意し、定期的な会議で進捗や原価発生状況を共有する場を設けることが重要です。

  • 計画
    詳細かつ現実的な実行予算を作成。
  • 実行
    実行予算に基づき工事を遂行し、実績原価を工事原価計算表に正確に記録。
  • 評価
    定期的に実行予算と実績原価を比較し、差異を分析。
  • 改善
    差異分析に基づき具体的な改善策を立案・実行し、次回の計画に反映。

効率化と精度向上に貢献する原価管理システムの選び方と活用(概要)

手作業による原価管理には限界があり、効率化と高度化のためには専用の原価管理システムの導入が有効です。システム導入により、入力ミス削減、リアルタイムな情報共有、データ分析の容易化、他システムとの連携による業務効率化が期待できます。選定時には、自社への適合性、機能の網羅性、操作性、システム連携、サポート体制、コストなどを総合的に評価します。

工事原価計算表を正確に作成して経営に活かそう

この記事では、工事原価計算表の概要から、具体的な計算方法、そして作成における重要なポイントまでを詳しく解説しました。

工事原価計算は、建設業において正確な利益を把握し、適切な経営判断を下すために不可欠です。適切な原価管理は、無駄をなくし、コスト削減を実現するだけでなく、将来の入札戦略や経営計画の策定にも大きく貢献します。

この記事で解説した計算方法や作成のポイントを参考に、ぜひ自社の工事原価計算表を見直し、より精度の高い原価管理を目指してください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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