- 作成日 : 2025年4月30日
当期純損失の仕訳方法は?会計処理を具体例でわかりやすく解説
会社の会計年度が終わると、当期の損益が決算として確定されます。通常は「利益」を計上することが理想ですが、売上が減少したり費用・損失が増加したりした場合には、「当期純損失」として赤字を計上することになります。損失が出たときは、その金額をどのように会計処理し、帳簿に記録すればよいのでしょうか。この記事では、当期純損失の意味や計算の流れ、具体的な仕訳方法、使用する勘定科目までをわかりやすく解説していきます。
目次
当期純損失とは?
当期純損失とは、会社がある会計期間内(通常は1年間)に売上などの収益よりも、費用や損失の方が多くなった場合に発生する「赤字」のことです。対になる言葉は「当期純利益」であり、これは収益の方が多い場合を指します。
会社の損益は「損益計算書(PL)」で表示され、当期純損失はその最下部に記載されます。つまり、収益から費用・損失を差し引いた結果、マイナスになった金額が「当期純損失」となります。
当期純損失が発生する主な原因には次のようなものがあります。
- 売上の減少(販売不振、価格競争など)
- 販管費の増加(広告宣伝費、人件費など)
- 一時的な損失(固定資産の除却、投資損など)
当期純損失は、単に「赤字だから良くない」というだけの話ではなく、今後の事業改善や繰越欠損金の活用などにもかかわる会計的に意味のある情報となります。
なお、当期純損失が発生した場合には、損益の締め処理として「損益勘定」と「繰越利益剰余金」を使って、正しく仕訳する必要があります。
当期純損失の計算方法
当期純損失は、会社の1年間の経営成績を集計する中で、収益より費用・損失が上回ったときに発生するマイナスの金額です。
会社の営業活動を通じて得たお金(収益)から、事業を運営するために使ったお金等(費用・損失)を引いた結果が赤字になれば、その差額が「当期純損失」として記録されます。
ここでは、当期純損失の計算の流れを、損益計算書(PL)に沿って順を追って集計していきます。これを理解しておくと、会計上どの段階で損失が生まれたかも把握しやすくなります。
当期純損失の計算の流れ
損益計算書は、収益と費用・損失を上から順に集計していき、最終的な損益を明らかにする財務書類です。当期純損失は以下の流れで集計していきます。
- 売上高
まずは、商品やサービスの提供によって得られた収益(売上)を記載します。会社の主要な収入源がここに表示されます。 - 売上原価
商品を仕入れるための費用や、製造にかかった原材料費などが含まれます。 - 売上総利益
売上高から売上原価を差し引いた金額が「売上総利益(粗利)」です。粗利は、その会社が商品の販売やサービスの提供そのものからどれだけ利益を上げているかを示す重要な指標になります。 - 販売費および一般管理費(販管費)
広告宣伝費、社員の給与、交通費、事務用品費など、会社の運営に日常的にかかる費用をまとめた項目です。ここで費用が大きくなると、営業利益が圧迫される要因になります。 - 営業利益
売上総利益から販管費を引いた残りが営業利益です。会社の本業による利益であり、企業の実力が表れる場所です。 - 営業外収益・営業外費用
本業以外の取引で発生する収益や費用がここに入ります。たとえば、預金などで受け取った利息、借入金などで支払った利息、為替差額などが該当します。 - 経常利益
営業利益に営業外の収益や費用を加減して算出されます。財務活動なども含めた経常的な活動でどれだけ稼げたかを見るための利益です。 - 特別利益・特別損失
ここには一時的な要因による多額の利益や損失を記載します。たとえば、固定資産を売却した利益や、災害などによる突発的な損失などが含まれます。経常的な活動とは切り離して考える項目です。 - 税引前当期純利益
ここまでの収益と費用・損失をすべて合計した、税引き前の利益です。 - 法人税等
税引前当期純利益に対して、法人税・住民税・事業税などを差し引きます。利益が出ていれば税金が発生し、赤字の場合、通常は均等割等を除き税金は発生しません。 - 当期純利益 or 当期純損失
税金を差し引いた結果がプラスであれば「当期純利益」、マイナスであれば「当期純損失」となります。これが損益計算書の最下部に記載され、会計期間の最終的な成績として報告されます。
当期純損失の計算式
(この結果がマイナスの場合に「純損失」)
例として、ある会社が1年間で得た収益の合計が 10,000,000円、かかった費用の合計が 12,000,000円 だったとします。
この場合、次のように計算します。
当期純損失 = 総収益 − 総費用
= 10,000,000円 − 12,000,000円
= ▲2,000,000円
収益より費用が 2,000,000円多いため、「当期純損失2,000,000円」が発生したことになります。
決算時に必要な計算作業
期末には、これまで記帳してきた収益と費用の勘定をいったん「損益勘定」にまとめて処理し、最終的に差額として純利益または純損失を求めます。その損益勘定の結果は、繰越利益剰余金(黒字の場合は貸方、赤字の場合は借方)に振り替えることで、貸借対照表で次期に引き継がれます。
当期純損失の仕訳の借方・貸方の考え方
会社の1年間の損益を締めるとき、最終的に利益が出れば「当期純利益」、赤字になれば「当期純損失」として処理します。
当期純損失が出たときには、損益勘定の残高を貸方に記録し、それを繰越利益剰余金などへ振り替えるという仕訳を行います。
仕訳例:全ての収益・費用を損益勘定に振り替えた結果、損益勘定の残高は2,000,000円であった(当期純損失2,000,000円)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 2,000,000円 | 損益 | 2,000,000円 |
損益勘定に残っている赤字を、繰越利益剰余金に振り替えて帳簿を締めます。この処理により、貸借対照表で赤字が次期以降に繰り越され、会社の財務状態にも反映されます。
当期純損失の仕訳で使用する勘定科目
当期純損失が発生したときは、損益勘定を締める仕訳を行う中で、いくつかの勘定科目が使われます。ここでは、損失処理でよく使われる勘定科目とその意味について、わかりやすく整理します。
損益勘定
収益と費用をまとめる一時的な科目です。
会計期間が終わると、売上や仕入、経費などの勘定科目はすべて「損益勘定」に振り替えられ、そこに残った差額(利益または損失)が次の処理に進みます。
当期純損失の場合、この損益勘定には借方残高が残っている状態になります。
繰越利益剰余金
損益勘定で出た純損失は、「繰越利益剰余金」に振り替えて処理します。繰越利益剰余金は過去からの利益や損失を累積したものです。
当期純損失が発生した際の仕訳の具体例
当期純損失が出た場合、会計処理としては損益勘定を使って赤字を締め、繰越利益剰余金に振り替えます。仕訳を表形式で示しながら解説します。
全ての収益・費用を損益勘定に振り替えた。なお、収益・費用は売上10,000,000円、売上原価12,000,000円のみであったとする(純損失2,000,000円)。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
売上高 | 10,000,000円 | 売上原価 | 12,000,000円 |
損益 | 2,000,000 |
損益勘定を繰越利益剰余金に振り替えた。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 2,000,000円 | 損益 | 2,000,000円 |
赤字額を繰越利益剰余金に振り替えます。
当期純損失時の会計処理や仕訳のポイント
当期純損失が発生したときは、損益勘定の締め処理だけでなく、帳簿や財務諸表の表示、税務への対応にも注意が必要です。仕訳自体はシンプルでも、運用面で気をつけるべき点はいくつかあります。
ここでは、当期純損失の会計処理や仕訳を行う際に押さえておきたいポイントを整理していきます。
税務と会計の扱いが異なる
当期純損失は法人税の申告上、「繰越欠損金」とされます。しかし、通常、会計データからは過年度からの繰越欠損金の残高を直接確認することはできません。そのため、当期純損失が発生した場合は前期の申告書の別表を確かめたり、顧問税理士に相談したりしながら、より慎重に税務申告を行う必要があります。
純損失が発生したときに使う「繰越欠損金」は、すでに過去から繰り越されている赤字と合算されていくことになります。
そのため、損失が何年分たまっているのか、今年はどのくらい増えたのかを把握しておくことが大切です。
過去の申告書の別表で把握できるため、当期の純損失だけでなく、前期以前の純損失のことも頭に入れておきましょう。
当期純損失は繰越利益剰余金のマイナス
赤字の場合、損益計算書の最下部で「当期純損失」が表示され、貸借対照表では繰越利益剰余金(のマイナス)として表示されます。そのため、赤字が続くと繰越利益剰余金がマイナスになり、債務超過になることがあります。財務諸表の見映えも悪くなり、債務の返済や資金調達にも影響が出る可能性があります。
当期純損失の処理の理解を財務諸表の理解に繋げよう
会計ソフトを利用している場合、通常、当期純損失の仕訳を手作業で入れることはありません。また、当期純損失の処理は普段使わない勘定科目が登場するため、忘れがちになります。しかし、当期純損失の会計的な処理を理解することは、損益計算書と貸借対照表との繋がり、さらには財務諸表の理解に繋がります。
この記事を機会に当期純損失の処理の理解を深めておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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