- 作成日 : 2025年3月21日
一人親方も建退共に加入できる?条件や掛金、メリットを解説
建設業退職金共済制度(建退共)は、事業主が労働者のために退職金を積み立てる制度です。そのため、一人親方として直接加入することはできませんが、任意組合を設立するか、建退共対応の組合に加入することで制度を利用できます。
建退共に加入することで、将来の退職金が確実に確保できます。さらに、建設業界内での転職時にも掛金を継続して積み立てることができる利点があります。この記事では、建退共の仕組みや特徴、具体的な加入手続きについて解説していきます。
目次
一人親方も建退共(建設業退職金共済制度)に加入できる?
一人親方は原則として建退共(建設業退職金共済制度)に直接加入できませんが、「任意組合」を設立し、その組合を事業主とみなすことで加入ができるようになります。
建退共は、事業主が労働者のために加入する制度であるため、労働者を雇用しない一人親方は「事業主」と見なされるからです。
建退共は建設業に従事する労働者の退職金制度として設けられたもので、加入には一定の条件を満たす必要があります。
そもそも建退共とは?主な内容
建退共(けんたいきょう)とは、中小企業退職金共済法に基づき、建設業の労働者が退職金を受け取れる制度です。正式名は建設業退職金共済制度で、事業主が共済契約を結び、掛金を納めることで、労働者が退職時に「共済手帳」の記録に基づいた退職金を受け取る仕組みになっています。
建設業は他の業界と異なり、現場ごとに雇用契約が変わるケースが多いため、一般的な企業のような退職金制度が整備されにくいという課題がありました。そのため、国が支援する形で建退共が導入され、全国の建設労働者に共通した退職金制度が用意されています。
建退共の仕組み
建設業退職金共済制度(建退共)は、建設業に従事する労働者が退職金を積み立てるための共済制度です。事業主が掛金を全額負担するのが原則ですが、一人親方は事業主と雇用関係がないため、掛金をすべて自己負担する必要があります。
掛金は1日あたり320円で、労働日ごとに証紙を購入し、共済手帳に貼付して積み立てます。たとえば、月に21日働いた場合の掛金は6,720円(320円×21日)となります。
また、労働時間によって掛金の計算方法が異なります。
- 8時間未満の労働でも、賃金が発生すれば1日分の掛金を納付
- 2~3時間の短時間勤務でも、1日分の掛金が必要
- 8時間を超える労働では、8時間ごとに1日分の掛金を追加納付
- 深夜労働で翌日4時間以上の勤務が発生した場合、1日分として計算
加入手続きが完了すると、「共済契約者証」と「退職金共済手帳」が発行され、手帳に証紙を貼ることで掛金の納付実績が記録されていきます。
一人親方が建退共に加入するメリット
一人親方が建退共に加入することで、経済的な安定や事業継続においてもメリットがあります。
退職金がもらえる
建退共に加入すると、一定の掛金を支払い続けることで、将来的に退職金を受け取ることができます。一人親方(個人事業主)の場合、退職金の積み立てをするのは難しいため、この制度を利用することで、老後の生活資金を確保しやすくなります。
また、退職金の支給額は掛金の納付期間によって増加するため、長く続けるほど受け取れる金額が大きくなります。
転職しても継続できる
建退共は、一人親方を辞めた場合でも、同じ建設業界内であれば、共済手帳をそのまま継続できます。例えば、一人親方として10年間加入していた後に建設会社へ就職した場合、共済手帳の証紙を引き続き積み上げることができるため、退職金を途切れさせることなく積み立てることが可能です。
初回は掛金に補助がある
国は、新たに建退共に加入する労働者の負担を軽減するために、初回交付の共済手帳にのみ50日分の掛金を補助する制度を設けています。例えば、日額320円の掛金を負担するとしても、最初の50日分(16,000円相当)は国が負担してくれるため、初期費用負担を軽くすることができます。
運用利回りが比較的高い
建退共の資産は国によって運用されており、一般の金融機関の定期預金や個人年金と比べても利回りが高めに設定されています。例えば、個人で資産運用をする場合、リスクが伴うことが多いですが、建退共は安定的な運用が期待できるため、長期的な資産形成に適した制度です。
一人親方が建退共に加入するデメリット
一人親方が建退共に加入することで退職金を積み立てられるメリットがありますが、いくつかの注意点もあります。ここでは、主なデメリットについて解説します。
掛金は本人が負担
建退共の掛金は、雇用されている労働者の場合、事業主(雇用主)が全額負担します。そのため、労働者には直接的な負担は発生しません。しかし、一人親方の場合は事業主ではなく個人事業主の立場で加入するため、掛金はすべて自己負担となります。
また、加入する組合によっては、別途会費が発生するケースもあるため、事前に確認しておくことが重要です。
掛金は経費にできない
建退共の掛金は、法人であれば損金算入できますが、一人親方などの個人事業主の場合は必要経費として認められず、所得税の控除対象にはなりません。これは税務上、建退共の掛金が「個人的な積立」とみなされるためです。つまり、税務上のメリットが少ないという点がデメリットになります。
退職金として受け取る際には税制上の優遇措置があるものの、掛金の段階では経費にならない点は注意が必要です。
受け取れる金額が少なめ
建退共は、掛金を支払い続けることで退職金を受け取る仕組みですが、掛金日額が固定されているため、大きな退職金の受け取りが期待しにくい状況です。よって、企業に雇われている労働者と比べると受け取れる退職金の額が比較的少なめになることがあります。
また、退職金額は掛金の納付日数によって決まるため、短期間の加入では十分な金額を受け取ることができない点もデメリットとして考えられます。
参考:建設業退職金共済事業本部 退職金試算
一人親方の建退共の掛金・退職金はいくら?
建退共に加入することで、一人親方でも退職金を積み立てることができます。ここでは具体的な退職金の受取額や条件について解説します。
一人親方が受け取れる退職金の金額
退職金の受取額は、掛金の支払期間によって異なり、以下の目安が示されています。
例えば、以下の期間加入した場合の受取額の目安は次のとおりです。
- 5年加入:約41万円
- 10年加入:約89万円
- 20年加入:約193万円
- 30年加入:約304万円
- 40年加入:約427万円
建退共の退職金は、納付した掛金に加え、運用による利回り(利息)が上乗せされるため、長く加入することでより多くの退職金を受け取ることができます。
例えば、20年間加入した場合、掛金総額は約161万2,800円となりますが、運用益が約32万円加算され、最終的な受取額は約193万円 となります。
ただし、加入期間が1年以上2年未満の場合、掛金の納付額に対して3~5割程度の退職金しか受け取れない点には注意が必要です。
上記の金額はあくまで目安であり、実際の受取額は、証紙の納付状況や運用利回りの変動、加入者ごとの勤務実績によって異なる場合があります。最新の情報や詳細な試算については、建設業退職金共済事業本部の公式サイトをご確認ください。
参考:退職金額|建設業退職金共済事業本部
一人親方の退職金を受け取れる条件
一人親方が建退共の退職金を受け取るためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 建設業を辞めたとき(他業種に転職、または完全に引退した場合)
- 55歳以上になったとき(働き続けていても受取可能)
- 病気やケガで働けなくなったとき(労働が困難になった場合は、退職金を前倒しで受け取ることが可能)
- 無職になったとき(長期間、建設業に従事しなくなった場合)
- 本人が死亡したとき(遺族が退職金を受け取ることができる)
建退共の退職金は、自動的に支給されるものではなく、条件を満たしたうえで申請が必要です。早めに条件を確認し、適切なタイミングで手続きを行うようにしましょう。
一人親方が建退共に加入するには?
一人親方が建退共に加入するには、任意組合を作る方法と、建退共に加入している組合に加入する方法の2つがあります。
「任意組合」を作る方法
一人親方が建退共に加入するためには、任意組合を設立する方法があります。任意組合とは、複数の個人が共同で事業を行うために結成する団体のことです。組合として建退共に加入することで、組合が事業主とみなされ、共済手帳の管理が可能になります。
任意組合を作る手順
- 一人親方同士で任意組合を結成する
- 複数の一人親方で組合を設立し、共同で運営することが必要です。
- 「任意組合認定申請書」を作成する
- 組合の規約や業務方法書を添えて、建退共の都道府県支部に申請します。
- 認定を受ける
- 都道府県支部で審査が行われ、承認されると「認定書」が発行されます。
- 「共済契約申込書」と「共済手帳申込書」を提出する
- 認定書の写しを添えて、建退共の都道府県支部に申請します。
- 契約成立後、共済契約者証と退職金共済手帳を受け取る
- この手帳に証紙を貼り、掛金を支払っていく形になります。
任意組合を作るメリットは、一人親方が単独で建退共に加入できない問題を解決できる点です。一方、デメリットとしては、設立に2人以上の協力が必要で、申請手続きが複雑な点、さらに組合の運営や管理の負担が発生することが挙げられます。
建退共に加入している組合に加入する方法
任意組合を作らずに、すでに建退共に加入している労働組合や事業協同組合に入ることで、制度を利用することもできます。特に、各地域には一人親方向けの組合が存在しており、加入手続きがスムーズに進められる場合がありますが、組合によっては加入資格や掛金の管理方法が異なるため、詳細な条件を事前に確認することが重要です。
組合に加入する手順
- 建退共に対応している組合を探す
- 地域の建設業関連の組合や、中小企業退職金共済制度を取り扱う団体を確認する。
- 組合への加入申請を行う
- 申し込み書類を提出し、組合の規約に従って会員登録を行う。
- 組合を通じて建退共に加入する
- 組合が建退共への申し込みを代行するため、個人での手続きは不要。
組合に加入するメリットは、手続きが簡単で個人で申請するより負担が少なく、組合のサポートを受けながら運用できる点です。デメリットとしては、組合費が必要なことや、証紙の管理が自由にできず、組合のルールに従う必要がある点が挙げられます。
建退共の加入条件
建退共に加入できるのは、一定の条件を満たす事業主や労働者に限られています。一人親方は個人では直接加入できないため、前述の方法で組合を通じて手続きを進める必要があります。
加入できる事業主
- 建設業を営んでいる法人または個人事業主
- 任意組合として認定された団体
加入対象となる労働者
- 建設現場で働く作業員(常用・臨時労働者を問わず)
- 一人親方(組合を通じた加入のみ)
加入対象外となる労働者
一人親方の建退共に関するよくある質問
建設業許可なしでも建退共に加入できる?
建設業の許可がなくても、建退共に加入できます。建設業の許可は、一定の条件を満たした法人や個人事業主に対して必要とされるものですが、建退共の加入要件には建設業許可の有無は含まれていません。
一人親方や小規模事業者でも、建設業に従事していれば建退共に加入可能です。ただし、個人では直接加入できないため、任意組合を作るか、建退共対応の組合を通じて加入する必要があります。
建退共と中退共は両方に加入できる?
同じ人が建退共と中退共(中小企業退職金共済制度)の両方に加入することはできません。これらの制度は、いずれも「勤労者退職金共済機構」が運営する退職金制度であり、同一の対象者が両方の制度に同時加入することは認められていません。
建退共は一人親方でも加入できる
建退共は、建設業に従事する労働者のための退職金共済制度で、一人親方は任意組合を作るか、既存の組合に加入することで利用できます。
メリットとしては、退職金を確保できることや、国の助成金が受けられることなどがあります。一方で、掛金は全額自己負担となり、経費にできないため、加入を検討する際には注意が必要です。
建退共は長期的に積み立てることで老後資金を確保しやすい制度のため、自身の働き方に合わせて活用するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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