• 作成日 : 2025年8月5日

下請負業者編成表とは?書き方や注意点を解説

請負業者編成表とは、建設プロジェクトにおける下請負業者に関する情報をまとめた重要な書類です。この書類は、多岐にわたる下請負業者の情報を一元的に管理し、プロジェクト全体の透明性を高める役割を果たします。

しかし、その重要性にもかかわらず、「どのように書けばいいのか」「どんな点に注意すればいいのか」と悩む方も少なくありません。

この記事では、下請負業者編成表の基本的な書き方から、作成時の注意点、さらにはよくある疑問まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。

下請負業者編成表とは?

建設工事を円滑かつ安全に進めるためには、多くの専門業者が関わります。その複雑な協力関係を明確にし、工事全体の責任体制を明らかにするための重要な書類が「下請負業者編成表」です。

元請負人が特定建設業者であり、下請契約の総額が4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上となる工事において作成が義務付けられている「施工体制台帳」の添付書類の一つです。

この書類には、当該工事に関わる全ての一次下請負人、二次下請負人、さらにそれ以下の次数の下請負人の名称、担当する工事内容、技術者名などが一覧で記載されます。つまり、一枚の表を見るだけで、その工事にどのような業者が、どのような役割で関わっているのか、指揮命令系統がどうなっているのかが一目でわかるようになっています。

これは、工事現場における「組織図」のようなものと考えると理解しやすいでしょう。元請負人が現場全体の状況を正確に把握し、適切な指導監督を行うために不可欠な書類です。

作成する目的

下請負業者編成表の作成は、単なる事務手続きではありません。その背景には、建設業法に基づく重要な目的があります。

  1. 施工体制の明確化と責任の所在
    工事に関わる業者をすべて洗い出すことで、誰がどの工事に責任を持つのかが明確になります。万が一、施工不良や事故が発生した場合に、原因究明や責任の所在を迅速に特定することにつながります。
  2. 法令遵守の確認(一括下請負の禁止など)
    建設業法では、品質低下や責任の所在の不明確化を防ぐため、請け負った工事をそのまま他社に丸投げする「一括下請負(丸投げ)」を原則として禁止しています。下請負業者編成表を作成する過程で、各業者の役割が明確になり、こうした違法行為の抑止力となります。
  3. 安全管理体制の構築
    元請負人は、下請負人の労働者の安全にも配慮する義務があります。工事に関わるすべての業者と作業員を把握することで、現場全体の安全衛生管理計画を適切に立案し、周知徹底を図ることができます。

これらの目的は、建設業法第24条の8(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)において定められており、適正な施工を確保するための根幹をなすものと言えます。

「再下請負通知書」との違いは?

下請負業者編成表と混同されやすい書類に「再下請負通知書」があります。この二つの書類は密接に関連していますが、その役割と作成者が異なります。

再下請負通知書
作成者:下請負人(一次、二次など)
目的: 自身がさらに下請契約(再下請契約)を結んだ場合に、その内容(再下請負人の情報など)を直近上位の注文者(元請負人や上位の下請負人)に通知するための書類。
位置づけ: 元請負人が「下請負業者編成表」を作成するための”情報源”となる書類。

下請負業者編成表
作成者: 元請負人
目的: 各下請負人から提出された「再下請負通知書」の情報を取りまとめ、工事全体の下請負関係を一覧にしたもの。
位置づけ: 「施工体制台帳」の添付書類として、工事全体の体制を俯瞰するための完成図。

簡単に言えば、下請負人が個別に提出するのが「再下請負通知書」で、元請負人がそれらを集約して工事全体の組織図としてまとめたものが「下請負業者編成表」です。

作成・提出は誰の義務?

下請負業者編成表の作成義務は、元請負人にあります。具体的には、先述の通り、下請契約の総額が一定額以上となる工事を請け負った「特定建設業者」である元請負人が、施工体制台帳の一部として作成し、現場に備え置かなければなりません。

また、工事を発注した発注者から請求があった場合には、この施工体制台帳(下請負業者編成表を含む)の写しを閲覧させる必要があります。公共工事においては、多くの場合、発注者への提出が契約で義務付けられています。

下請負業者編成表の正しい書き方と作成手順

下請負業者編成表を正確に作成することは、法令遵守だけでなく、現場管理を円滑に進める上でも極めて重要です。この章では、作成前に準備すべきものから、各項目の具体的な記入方法までを、手順を追って詳しく解説します。

作成前に準備するもの

スムーズに作成作業を進めるため、事前に以下の書類や情報を手元に揃えておきましょう。

  • 各下請負人から提出された「再下請負通知書」
    これが最も重要な情報源です。すべての下請業者から漏れなく回収してください。
  • 各下請負人の建設業許可通知書の写し
    許可番号や許可年月日、業種などを正確に記載するために必要です。
  • 各下請負人の会社情報
    本社所在地、電話番号、代表者名など。
  • 工事に関する情報
    工事名称、工事場所、工期など。
  • 配置する技術者の情報
    各社が現場に配置する主任技術者や専門技術者の資格、氏名など。
  • 社会保険の加入状況がわかる書類
    健康保険証の写しなど。(下請負人から確認)

これらの情報を元に、国土交通省が定める標準様式や、各社指定のフォーマットに記入していきます。

各項目の詳細な書き方

ここでは、一般的な下請負業者編成表の様式に沿って、主要な項目の書き方を解説します。

  1. 事業所名・工事名称
    書類を作成する元請負人の事業所名(支店名など)と、契約書に記載されている正式な工事名称を記入します。
  2. 報告年月日
    この書類を作成した年月日を記入します。下請契約の変更などがあった場合は、その都度更新し、日付も変更します。
  3. 会社名(元請負人)
    元請負人の会社名、代表者の役職・氏名を記入し、社印・代表者印を押印します。
  4. 一次下請負人欄
    会社名・代表者名: 契約を交わした一次下請負人の正式名称と代表者名を記入します。
    所在地・電話番号: 本社の所在地と連絡先を記入します。
    建設業の許可: 許可(または届出)を受けた行政庁名、許可番号、許可年月日を建設業許可通知書の写しを元に正確に記入します。許可が不要な軽微な工事のみを請け負う場合は「許可不要」と記載します。
    請負工事の内容・工期: 当該工事で担当する具体的な工事内容(例:鉄筋工事、内装仕上工事)と、その工事の開始日から終了日までの工期を記入します。
    安全衛生責任者名: 職長会などで選任された、現場の安全衛生を管理する責任者の氏名を記入します。
    主任技術者名: 配置する主任技術者の氏名を記入します。専任か非専任かの区分にもチェックを入れます。
    専門技術者名: 特定の専門工事(例:土木工事における基礎、鋼構造物工事における溶接など)を担当する場合で、主任技術者とは別に専門技術者を配置する場合に氏名と担当工事内容、保有資格を記入します。
  5. 二次以下の下請負人欄
    一次下請負人がさらに下請契約(再下請契約)を結んでいる場合に、二次、三次…と順に記入していきます。記入する項目は、基本的に一次下請負人欄と同様です。どの一次下請負人から仕事を受けているのかが分かるように、関係性を線で結ぶなどして明確に図示します。

健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入状況の記載方法

社会保険への加入は、建設業界全体の課題であり、下請負業者編成表でも加入状況の記載が求められます。

  • 保険加入の有無
    各保険(健康保険、厚生年金保険雇用保険)について、加入しているか、していない(適用除外など)かを明確に記載します。
  • 事業所整理記号・番号等
    加入している場合は、年金事務所から発行される「健康保険・厚生年金保険新規適用届」の写しや、ハローワークから発行される「雇用保険適用事業所設置届事業主控」の写しなどを参考に、事業所整理記号や労働保険番号を正確に記入します。
  • 未加入の場合
    法人であるにもかかわらず未加入である場合などは、指導の対象となる可能性があります。未加入の理由(従業員がいない、適用除外であるなど)を備考欄に記載する必要がある場合もあります。元請負人は、下請負人の保険加入状況を確認し、必要に応じて加入指導を行う責務があります。

作成後の提出先と流れ

  1. 作成
    元請負人は、各下請負人から提出された再下請負通知書を基に下請負業者編成表を作成します。
  2. 施工体制台帳への編綴
    作成した下請負業者編成表を、施工体制台帳の他の書類(注文書・請書の写しなど)と共に綴じ込みます。
  3. 現場への備え置き
    完成した施工体制台帳は、工事関係者がいつでも閲覧できるよう、工事現場の事務所などに備え置きます。
  4. 発注者への提出
  5. 公共工事の場合や、民間工事でも発注者から請求があった場合は、施工体制台帳の写しを提出します。

下請契約に変更があった場合(新たな下請負人の追加など)は、速やかに再下請負通知書を提出させ、下請負業者編成表を更新する必要があります。

作成時に注意すべきポイントとよくある疑問

下請負業者編成表の作成は、慣れないと戸惑うことも多い業務です。ここでは、実務でつまずきやすいポイントや、よく寄せられる疑問について解説し、より正確で効率的な書類作成をサポートします。

記載内容の正確性を担保する

下請負業者編成表は、公的な意味合いを持つ書類です。記載内容に誤りがあると、建設業法違反を問われる可能性や、発注者からの信頼を損なうことにもなりかねません。

  • 許可番号・日付の確認
    建設業許可番号や許可年月日は、必ず許可通知書の写しを見て転記しましょう。口頭やメール文面での確認は、間違いのもとです。
  • 技術者の資格確認
    主任技術者や専門技術者の氏名、保有資格は、資格者証の写しなどで裏付けを取ることが望ましいです。特に、専任が求められる工事では、その技術者が他の現場と重複していないかを確認する必要があります。
  • 情報の更新を徹底
    工事の途中で下請負人が追加・変更になった場合や、配置技術者が交代した場合は、その都度、速やかに書類を更新する義務があります。古い情報のまま放置しないように、管理体制を整えましょう。

一人親方や個人事業主の場合はどうする?

建設現場では、法人格を持たない一人親方や個人事業主が下請負人として工事に参加することも少なくありません。このような場合でも、下請契約を結んでいる以上、原則として下請負業者編成表への記載が必要です。

  • 会社名
    「屋号」があれば屋号を、なければ個人名を記入します。(例:「〇〇工業」や「△△ 太郎」)
  • 代表者名
    個人事業主本人の氏名を記入します。
  • 建設業許可
    500万円未満(建築一式工事の場合は1,500万円未満)の軽微な建設工事のみを請け負う場合は、建設業許可は不要です。その場合は、許可欄に「許可不要」と記載します。
  • 社会保険
    一人親方は、基本的に国民健康保険と国民年金に加入します。雇用保険は労働者ではないため非加入です。ただし、従業員を雇用している個人事業主の場合は、法人と同様に社会保険(協会けんぽ、厚生年金、雇用保険)の加入義務が発生する場合があります。状況に応じて正しく記載し、元請負人として加入状況を確認することが重要です。

軽微な工事でも必要?

下請負業者編成表の作成が法的に義務付けられているのは、前述の通り、特定建設業者が一定額以上の下請契約を結ぶ工事です。

では、それ以下の金額の工事(いわゆる軽微な建設工事)では不要なのでしょうか?

法律上の作成義務はないものの、多くの元請負人は、金額の大小にかかわらず、安全管理や責任体制の明確化のために、自主的に下請負業者編成表(またはそれに準ずる書類)を作成・管理しています。工事の規模に関わらず、現場に関わる業者を把握しておくことは、元請負人のリスク管理として非常に有効です。自社の安全管理規則などで定められている場合は、それに従う必要があります。

電子化は可能?書類管理の効率化

近年、建設業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、安全書類の電子化が推奨されています。下請負業者編成表を含む施工体制台帳も、電子データで作成・保存することが認められています。

  • メリット
    • 書類の作成、共有、修正が容易になり、業務時間が大幅に短縮されます。
    • 紙の保管場所や印刷コストが不要になります。
    • 関係者間でのリアルタイムな情報共有が可能になり、変更点の周知もスムーズです。
    • 記載漏れや必須項目の入力をシステムでチェックできるため、書類の不備を減らせます。
  • 注意点:
    • 発注者から請求があった際に、速やかに書面で提示(印刷)できる状態でなければなりません。
    • 専用の安全書類作成支援サービスや、自社のファイルサーバーなどを利用することになります。関係者(特に下請負人)がシステムに対応できるか、事前の調整が必要です。

電子化は、生産性向上とコンプライアンス遵守の両立に大きく貢献します。まだ導入していない場合は、積極的に検討する価値があるでしょう。

下請負業者編成表を正しく理解し、適正な施工体制を構築しよう

この記事では、下請負業者編成表の役割から具体的な書き方、実務上の注意点までを網羅的に解説しました。

下請負業者編成表は、単に法律で定められた義務だから作成する、という形式的な書類ではありません。これは、複雑な建設工事の現場において、「誰が、どこで、何をしているのか」を可視化し、安全で質の高い工事を実現するためのものです。

この書類を正確に作成・管理することは、元請負人としての責任を果たすと同時に、発注者からの信頼を獲得し、現場で働くすべての作業員の安全を守ることにつながります。また、下請負人にとっても、自社の役割と責任を再認識する良い機会となります。

建設業界を取り巻く環境は、働き方改革やDXの推進により日々変化しています。本記事で解説した電子化の動向なども踏まえ、自社の管理体制を見直し、より適正かつ効率的な施工体制の構築を目指しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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