• 作成日 : 2025年4月25日

一人親方の労災保険は義務?加入しないデメリットや費用、申請方法を解説

建設業や自営業で働く一人親方にとって、「労災保険に加入すべきか?」という疑問はよくある悩みです。仕事中にケガをしたり、万が一の事故に巻き込まれたとき、自己負担で医療費を払うのは大きな負担になります。実際に、労災保険に加入していなかったために治療費が高額になり、仕事を続けるのが難しくなったというケースもあります。

では、一人親方に労災保険の加入義務はあるのでしょうか?また、加入した場合のメリットや、加入しないことによるデメリットは何か、気になる年間の費用や申請方法まで詳しく解説していきます。

一人親方の労災保険は義務?

一人親方には、労災保険(労働者災害補償保険)の加入義務はありません。労災保険は本来、労働者を雇う企業が負担するものですが、一人親方は雇用されているわけではなく、個人事業主に該当するため、加入が義務付けられていないのです。

しかし、建設現場では元請け企業が工事現場の管理を担っていることもあり、安全管理の観点から労災保険の加入が求められます。未加入だと現場に入れない場合もあり、仕事の継続に支障をきたすことがあります。

また、仕事中にケガをした場合、働けない間の収入が途絶えることもあり、生活への影響が大きくなります。そのため、多くの一人親方は「特別加入制度」を利用して労災保険に加入しています。

一人親方の労災保険の特別加入とは

労災保険の特別加入とは、労働者を使用しないで事業を行う一人親方その他の自営業者が労災保険に加入できる制度です。建設業、大工、左官、とび職のほか、自動車運送業や林業、漁業、医薬品販売業、再生資源業なども対象となります。

労災保険の特別加入制度を使うことで、仕事中のケガや病気に対して補償を受けることができます。

労災保険に特別加入するためには、特別加入団体(労災保険事務組合)を通じて申し込む必要があります。特別加入団体は様々ありますが、都道府県の労働局長から認可を受けた団体を通じて手続きを行うことが必要です。認可を受けていない団体を通じて手続きを行った場合、労災保険の適用を受けられない可能性があります。

また、労災の加入時には給付基礎日額を16段階の中から自分で選ぶことができます。それによって支払う保険料や、万が一の際の補償額が変わります。

例えば日額10,000円を選んだ場合、1日あたり8,000円が補償されます。給付基礎日額を高く設定すると、受け取れる補償額も増えますが、その分保険料も高くなるためバランスを考えることが大切です。

参考:特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)|厚生労働省
関連:労働保険の特別加入制度とは?対象者や申請方法を解説

一人親方が労災保険に加入しないデメリット

労災保険に加入しない場合、さまざまなリスクが伴います。ここでは、労災保険に未加入でいることで発生する可能性がある3つのデメリットについて説明します。

仕事中のケガや病気の医療費が全額自己負担になる

労災保険に加入していない場合、仕事中のケガや病気の治療費はすべて国民健康保険と同じく3割の自己負担となります。例えば、工事現場で工具を誤って落とし、足を骨折した場合、入院や手術が必要になり、数十万円の医療費がかかることもあります。さらに、健康保険を使うことが認められないケースもあるため、負担がより大きくなります。

休業中の収入がゼロになる

ケガや病気で仕事ができなくなった場合、労災保険に加入していれば休業補償を受けられますが、未加入の場合は収入が途絶えてしまいます。一人親方は会社員と違い、傷病手当金のような制度がないため、無収入の期間が長引くと生活が苦しくなる可能性があります。貯金が十分にあればしのげるかもしれませんが、長期間の休業が必要になった場合、家計が圧迫されることは避けられません。

公共工事や大手企業の現場に入れなくなることがある

労災保険未加入の一人親方は、元請け企業や公共工事の現場に入れないことが多くなります。特に、大手建設会社や公共工事を請け負う企業では、安全管理の観点から労災保険の加入が必須とされています。未加入だと「安全意識が低い」と判断され、継続的に仕事を受注することが難しくなる場合もあります。結果として、仕事の機会を逃してしまうことにつながり、収入が不安定になる可能性が高まります。

一人親方が受けられる労災保険の補償内容

療養補償給付(治療費の全額補償)

療養補償給付によって病院での診察費や入院費、手術費用、処方薬代、リハビリ費用まで全額補償されます。自己負担はありません。

例えば、

  • 建設現場での転倒による骨折
  • 重機操作中の事故による負傷
  • 資材の運搬中に起きた捻挫
  • 現場間の移動中に発生した交通事故による負傷

などが該当します。

また、通院が必要な場合も医療機関での診察費や治療費が継続的に補償されます。

休業補償給付(休業4日目以降、給付基礎日額の80%)

仕事中のケガや病気で働く事ができなくなった場合、休業補償給付が適用されます。休業4日目以降から、給付基礎日額の60%が休業補償給付として、20%が休業特別支給金として支給されるため計80%の補償を受けることができ、生活費の確保が可能です。例えば、給付基礎日額を10,000円に設定した場合、1日あたり8,000円が補償されます。

具体的な補償額の例として、以下のようなケースがあります。

  • 給付基礎日額が7,000円の場合:1日あたり5,600円が補償
  • 給付基礎日額が10,000円の場合:1日あたり8,000円が補償
  • 給付基礎日額が15,000円の場合:1日あたり12,000円が補償

休業期間が長引いた場合でも、この補償があることで、家賃や光熱費などの日常的な支出をまかなうことができます。

障害補償給付(後遺症が残った場合)

仕事中の事故やケガが治った(症状固定を含む)後一定の後遺障害が残った場合、障害補償給付が支給されます。障害補償給付は、障害の程度に応じて1級から14級まで等級が設定されています。

後遺障害の程度に応じて、一時金または障害年金が支給され、生活の支援を受けることができます。具体的には、障害等級1級から7級までが年金、8級から14級までが一時金として支給され、受給には医師の診断書などの書類が必要です。

関連:障害(補償)等給付とは?支給条件や請求手続きについて解説

遺族補償給付給付(死亡した場合の遺族への給付)

仕事中の事故で亡くなってしまった場合、遺族補償給付が支給されます。遺族補償給付は原則年金として支給され、遺族補償年金を受けることができる遺族がいない場合には一時金として支給されます。また、葬祭費用も補償の対象となり、遺族が経済的に困窮しないよう支援されます。

一人親方の労災保険の年間費用はいくら?

労災保険の年間費用は、選択する給付基礎日額によって異なります。給付基礎日額は16段階に分かれており、最低日額3,500円から最高日額25,000円まで自分で選択できます。例えば、給付基礎日額を10,000円に設定した場合、年間の保険料はおよそ54,750円となります。

建設業の特別加入者の保険料は現在1000分の17とされています。具体例を挙げると、給付基礎日額が10,000円の場合、10,000×365=3,650,000(保険料算定基礎額)×1000分の17=62,050円が年間の保険料額となります。

参考:特別加入保険料率表(令和6年4月1日施行)|厚生労働省

また、労災保険に加入する際には、労災保険料のほかに特別加入団体(労災保険組合)への手数料や組合費がかかります。

労災保険の総費用 = 労災保険料 + 特別加入団体の組合費や手数料

例えば、

  • 給付基礎日額が10,000円の場合、労災保険料は約62,050円/年
  • 加入団体の手数料が10,000円/年
  • 組合費が5,000円/年

この場合、総費用は77,050円/年となります。

一般的に、特別加入団体への労災保険料は年間払いが主流ですが、月払い・短期加入を受け付けている団体もあります。短期間の現場作業が多い場合は、短期加入が可能な団体を選ぶことで、必要な期間のみの負担に抑えることができます。

また、加入する団体によって、事務手数料や組合費が異なるため、複数の団体を比較することも重要です。

一人親方の労災保険の加入方法

一人親方が労災保険に加入するためには、「特別加入団体(労災保険組合)」を通じて申し込みます。必要書類を準備し、希望する給付基礎日額を決めて申請を行います。特別加入団体は都道府県の労働局長から認可を受けた団体を通じて手続きを行うことが必要です。

また団体によって保険料の支払い方法や手数料が異なるため、複数の団体を比較して選ぶことが大切です。

加入手続きでは、主に「加入申込書」「収入証明書」「本人確認書類」などの提出が求められます。また、一定の有害業務に従事していた場合は健康診断の受診が必要なこともあります。特別加入団体によって必要な書類が異なることもあるので、事前に確認しましょう。申し込みが完了すると、労働局による審査を経て、保険料の支払いを行うことで正式に加入が認められます。

支払い方法は、「年払い」が一般的ですが、一部の団体では「月払い」にも対応しています。年間を通じて現場作業がある場合は一括払いが便利ですが、短期間の仕事が多い場合は月払いを選ぶことで、費用を抑えることが可能です。

加入後は、保険証などの証明書が発行され、事故が発生した際にはそれをもとに申請を行います。仕事中や通勤時のケガでも補償が適用されるため、いざというときのために、加入後の手続き方法もしっかり把握しておくことが大切です。

一人親方の労災保険は経費にできる?

一人親方が支払う労災保険料は、経費として計上できません。しかし、労災保険に加入するために必要な組合費や事務手数料、入会金は経費として計上できます。また、確定申告では社会保険料控除として所得控除の対象になります。そのため、労災保険料を支払った場合は、確定申告の際に控除申請を忘れないようにしましょう。

例えば、特別加入団体の以下のような支出が経費として認められます。

  • 労災保険組合の入会金、年会費、事務手数料、支払手数料、研修費など

一人親方の労災保険に関する仕訳例もあわせて紹介します。

① 労災保険料を支払った場合(経費にはしない)

労災保険料(例:50,000円)を銀行振込で支払った場合、仕訳の必要はありません。確定申告時に社会保険料控除として計上することになります。

② 労災保険組合の入会金・事務手数料を支払った場合(経費計上)

組合の入会金10,000円、事務手数料5,000円を支払った場合の仕訳は以下の通りです。

(借方)支払手数料 15,000円 / (貸方)普通預金 15,000円

③ 労災保険組合の年会費を支払った場合(経費計上)

組合費として年間12,000円を支払った場合の仕訳は以下のようになります。

(借方)支払手数料 12,000円 / (貸方)普通預金 12,000円

関連:一人親方(個人事業主)の労災保険は経費にできる?勘定科目や節税について解説

一人親方も労災保険に加入して安心を手に入れよう

仕事中のケガや事故は予測できませんが、補償があれば経済的な負担を軽減できます。一人親方にとって労災保険は義務ではありませんが、加入していないと万が一の際に多額の医療費や生活費の負担が発生する可能性があります。

保険料は年間で数万円程度かかるものの、長期間働くことを考えると決して高い出費ではないでしょう。特に建設業などリスクの高い職種では、安心して働くためにも加入を検討する価値があります。加入方法を理解し、信頼できる団体を選ぶことで、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。

年間の費用を考慮しつつ、自分に合った給付基礎日額を選び、安心して仕事を続けられる環境を整えましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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