• 更新日 : 2021年5月31日

売買目的有価証券とは?時価評価の仕訳方法や有価証券評価損益の法人税の取扱

売買目的有価証券とは?時価評価の仕訳方法や有価証券評価損益の法人税の取扱

売買目的で所有している有価証券を「売買目的有価証券」といいます。
売買目的有価証券は時価評価が必要で、期末には「有価証券評価損益」科目を使って、仕訳をする必要があります。また、会計上と法人税法上で売買目的有価証券の取り扱いが異なることもあるので注意が必要です。
そこで、ここでは売買目的有価証券について詳しく解説します。

売買目的有価証券とは

売買目的有価証券とは、一般的に、次のように定義されています。

  1. 売買目的で保有し、かつ決算日の翌日から1年以内で満期が到来する社債やその他の短期債券を取り扱う簿記勘定科目
  2. 法人税法上「専担者売買有価証券・短期売買有価証券・金銭の信託に属する有価証券」の範ちゅうにあるもの。
  3. 「金融商品に関する会計基準」に規定され、貸借対照表価額に取り決めのある有価証券の分類のひとつとして用いられる用語。

ここではこれらに対して個々に解説していきます。

簿記勘定科目としての売買目的有価証券とは

上述の通り、簿記勘定科目としての売買目的有価証券とは売買目的で保有し、かつ決算日の翌日から起算して1年以内で満期が到来する社債やその他の短期債券などのことです。

仕訳の際は購入手数料を取得価格に含め、また決算日においては取得価格と決算日との時価を比較し、その差額を評価(評価替)する必要があります。この差額は有価証券評価益または有価証券評価損として計上します。

法人税法上における売買目的有価証券とは

法人税法施行令によれば、売買目的有価証券の範囲は

  • 短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で行う取引に専ら従事する者が短期売買目的でその取得の取引を行ったもの(専担者売買有価証券)
  • その取得の日において短期売買目的で取得したものである旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載したもの(専担者売買有価証券を除く)
  • 金銭の信託のうち、その契約を締結したことに伴いその信託財産となる金銭を支出した日において、その信託財産として短期売買目的の有価証券を取得する旨を財務省令で定めるところにより帳簿書類に記載したもののその信託財産に属する有価証券
  • などとなっています。
    簿記勘定科目よりも、法人税法上における売買目的有価証券のほうが厳格に範囲が決められています

    金融商品に関する会計基準における売買目的有価証券とは

    会計基準において、有価証券は保有目的の違いによって

  • 売買目的有価証券
  • 満期保有目的債権
  • 子会社株式および関連会社株式
  • その他有価証券

  • の4つに分類されます。

    このうち売買目的有価証券は、「金融商品に関する会計基準」において

    時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(売買目的有価証券)については、投資者にとっての有用な情報は有価証券の期末時点での時価に求められると考えられる。したがって、時価をもって貸借対照表価額とすることとした。また、売買目的有価証券は、売却することについて事業遂行上等の制約がなく、時価の変動にあたる評価差額が企業にとっての財務活動の成果と考えられることから、その評価差額は当期の損益として処理することとした。」

    と記述されています。

    売買目的有価証券は期末の時価で評価する

    売買目的有価証券の変動分は決算時に有価証券評価損益として計上

    売買目的有価証券を所有している場合は、期末の時価で評価替えを行う必要があります。
    期末の時価は一般的に、証券取引所(金融商品取引所)において公表された事業年度終了の日の最終の売買価格を用います。

    ※事業年度終了の日の最終の売買価格がない場合には、事業年度終了の日の最終の気配相場の価格、または合理的な方法により計算した金額となります。取得価格と時価の差額については、有価証券評価損益で計上します。

    有価証券評価損益は損金・益金算入対象

    期末に計上した有価証券評価損益は、法人税法上、評価損なら損金に、評価益なら益金に算入することができます。
    ※上述したように、会計上と法人税法上では、法人税法上のほうが売買目的有価証券の範囲が厳格です。損金・益金に算入できる有価証券評価損益は、法人税法上の売買目的有価証券から生じたものに限られるので、注意が必要です。

    売買目的有価証券の仕訳例

    ここからは、売買目的有価証券のよくある仕訳例について見ていきましょう。

    売買目的有価証券を取得したとき

    売買目的有価証券は「売買目的有価証券」の勘定科目を用いて仕訳します。
    売買目的有価証券を取得する際、証券会社などに支払った手数料も「売買目的有価証券」勘定に含める必要があります。

    (例)売買目的有価証券を10万円で取得した。なお、購入手数料1万円を合わせて11万円を普通預金から支払った。

    借方貸方
    売買目的有価証券  110,000円普通預金      110,000円

    配当金を受け取ったとき

    売買目的有価証券を保有していると、配当を受け取るケースがでてきます。
    配当はあらかじめ所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%、合計20.315%(上場株式等の配当の場合)の税金が源泉徴収されています。そのため、原則源泉徴収された税金も含めて、受取配当金の仕訳を行います。源泉徴収された税金は「法人税、住民税及び事業税」の勘定科目で処理します。

    (例)普通預金に配当金10,000円が振り込まれた。なお、2,000円の税金が源泉徴収されている(金額は分かりやすいものにしている)。

    借方貸方
    普通預金    100,000円受取配当金        12,000円
    法人税、住民税及び事業税  2,000円

    受取配当金は、普通預金への入金額10,000円と源泉徴収された税額2,000円の合計12,000円になります。なお「法人税、住民税及び事業税」は「租税公課」勘定で処理することもあります。
    ※このほかに、入金額をもって受取配当金の金額とする方法で処理することも認められています。

    決算時の評価替え

    決算時の評価替えは、「有価証券評価損益」の勘定科目で処理します。

    (例)期末に所有している売買目的有価証券の簿価は10万円だった。
    時価が11万円の場合(有価証券評価益が1万円でている)

    借方貸方
    売買目的有価証券  10,000円有価証券評価損益    10,000円

    時価が8万円の場合(有価証券評価損が2万円でている)

    借方貸方
    有価証券評価損益  20,000円売買目的有価証券    20,000円

    売買目的有価証券を売却したとき

    売買目的有価証券を売却した場合は、売却価額と帳簿価額の差額を「有価証券売却益」もしくは「有価証券売却損の勘定科目で処理します。
    (例)5万円で取得した売買目的有価証券を7万円で売却した。代金は普通預金に入金された。

    借方貸方
    普通預金      70,000円売買目的有価証券    50,000円
    有価証券売却益   20,000円

    (例)5万円で取得した売買目的有価証券を4万円で売却した。代金は普通預金に入金された。
    借方貸方
    普通預金      40,000円売買目的有価証券    50,000円
    有価証券売却益   10,000円

    ここまで、一般的な売買目的有価証券を売却した場合の仕訳を見てきました。
    では、同じ銘柄の売買目的有価証券を複数回に分けて取得したものを、同時に売却した場合の取得価格はどうなるのでしょうか。この場合の取得価格の計算方法には「総平均法」と「移動平均法の2つがあります。
    総平均法とは簡単にいうと、期末において、期中に所有しているすべての株の取得価格を期中に所有している株数で割って、取得価格を求める方法です。
    一方の移動平均法は、売却の都度、売却までに所有している株の取得価格を売却までに所有している株数で割って、取得価格を求める方法です。
    わかりやすいように、具体例で見てみましょう。

    (例)12月決算 期首帳簿価格なし
    1月 100株を1万円で購入
    2月 100株を2万円で購入
    3月 100株を3万円で売却
    12月 200株を5万円で購入 

    3月に売却した場合の取得価格を求めます。

    【総平均法の場合】
    総平均法では、期中に所有しているすべての株の取得価格を、期中に所有している株数で割って、取得価格を求めます。
    当年度は、1月と2月、12月に株を取得しているため、期中に所有しているすべての株の取得価格は、1月1万円+2月2万円+12月5万円=8万円です。株数の合計は、1月100株+2月100株+12月200株=400株です。1株あたりの取得価格は、8万円÷400株=500円となります。
    3月には100株を売却しているので、3月に売却した場合の取得価格は500円×100株=5万円となります。
    総平均法では、取得価格5万円の株を3万円で売却しているため、2万円の売却損がでています。

    【移動平均法の場合】
    移動平均法では、売却の都度、取得価格を求めます。
    3月に売却をしているため、その前に取得している1月と2月の株のみが計算対象です。
    取得価格の合計は、1月1万円+2月2万円=3万円
    株数の合計は、1月100株+2月100株=200株
    1株あたりの取得価格は、3万円÷200株=150円となります。
    3月には100株を売却しているので、3月に売却した場合の取得価格は150円×100株=1.5万円です。
    移動平均法では、取得価格1.5万円の株を3万円で売却しているため、1.5万円の売却益がでています。

    このように、総平均法と移動平均法のどちらを選択するかにより、売却損益の金額が変わります。
    法人税では原則、「移動平均法」で処理します。総平均法で計算したい場合は、事前に税務署に「有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出」の提出が必要です。

    売買目的有価証券の会計処理についてご理解いただけたでしょうか?

    売買目的有価証券は取得時、配当受取時、期末の評価替え、売却時と仕訳を行わなければならない時期が多くあります。また、取得価格や時価の算出方法など、複雑な計算が必要な場合もあります。
    売買目的有価証券の会計処理を理解し、正確な帳簿付けを行いましょう。

    よくある質問

    簿記勘定科目としての売買目的有価証券とは?

    簿記勘定科目、法人税法上、金融商品に関する会計基準で定義がことなります。 詳しくはこちらをご覧ください。

    売買目的有価証券はどのように評価する?

    期末の時価で評価します。詳しくはこちらをご覧ください。

    売買目的有価証券はいつ仕訳を行う?

    取得時、配当受取時、期末の評価替え、売却時に行います。詳しくはこちらをご覧ください。


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