- 更新日 : 2025年6月30日
連結キャッシュ・フロー計算書とは?作り方・読み解き方や重要なポイントを解説
会計を学び始めると、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)と並んで、キャッシュ・フロー計算書(C/F)という言葉を耳にする機会が多いでしょう。特に、複数の会社から成る企業グループ全体の実態を把握するためには、連結キャッシュ・フロー計算書の理解が不可欠です。この記事では、連結キャッシュ・フロー計算書の基本から、作成方法、読み解き方までを分かりやすく解説します。
目次
連結キャッシュ・フロー計算書とは
連結キャッシュ・フロー計算書は、企業グループ全体が、ある一定期間(通常は1会計期間)において、どれだけの現金(及び現金同等物)を、どのような活動から得て、何に使ったのかを示す財務諸表です。
損益計算書が「利益」という会計上の成果を示すのに対し、キャッシュ・フロー計算書は「現金(キャッシュ)」の実際の動きに焦点を当てます。利益が出ていても、売掛金の回収が滞っていたり、大規模な設備投資を行っていたりすれば、手元の現金が不足することもあり得ます。企業が事業を継続し、成長していくためには、利益だけでなく、キャッシュ・フローの健全性が非常に重要です。連結キャッシュ・フロー計算書は、その健全性をグループ全体で評価するためのツールなのです。
個別キャッシュ・フロー計算書との違い
個別キャッシュ・フロー計算書は、単一の会社の現金の増減を示すものです。一方、連結キャッシュ・フロー計算書は、親会社およびその子会社(連結範囲に含まれる会社)を一つの経済的実体とみなして、そのグループ全体の現金の増減を示します。
作成にあたっては、個々の会社のキャッシュ・フロー計算書を単純に合算するのではなく、以下のような連結特有の調整が必要になります。
- 親子間・子会社間の取引消去
グループ内部での商品の売買、資金の貸し借り、配当金の授受などは、グループ全体で見ればキャッシュの移動がないため、相殺消去します。 - 子会社株式の取得・売却
子会社を新たに連結に加えたり、連結から除外したりする際のキャッシュの動きを反映します。 - 非支配株主への配当金
子会社に親会社以外の株主(非支配株主)がいる場合、その株主への配当金の支払いもキャッシュの流出として表示します。
これらの調整を経て、グループ外部との純粋なキャッシュの増減が計算されます。
連結キャッシュ・フロー計算書の表示区分
連結キャッシュ・フロー計算書は、企業の活動を以下の3つの区分に分けて表示します。これにより、どのような活動でキャッシュが増減したのかが一目で分かります。
営業活動によるキャッシュ・フロー
本業の事業活動(商品・サービスの販売、仕入れ、経費の支払いなど)から生じたキャッシュの増減を示します。通常、この区分がプラスであることが、企業が本業で安定的にキャッシュを生み出せている証拠となり、最も重要視されます。
主な項目例(間接法の場合)
- 税金等調整前当期純利益(または損失)
- 減価償却費(非資金費用)
- 売上債権(売掛金・受取手形)の増減額
- 棚卸資産(在庫)の増減額
- 仕入債務(買掛金・支払手形)の増減額
- 利息及び配当金の受取額
- 利息の支払額
- 法人税等の支払額
投資活動によるキャッシュ・フロー
将来の利益獲得や事業拡大のために行われる投資活動(固定資産の取得・売却、有価証券の取得・売却、子会社株式の取得・売却など)に伴うキャッシュの増減を示します。
成長企業では、事業拡大のための設備投資などでマイナス(キャッシュの流出)が大きくなる傾向があります。一方、成熟企業や事業再編中の企業では、資産売却によりプラス(キャッシュの流入)になることもあります。
主な項目例
- 有形固定資産の取得による支出、売却による収入
- 無形固定資産の取得による支出、売却による収入
- 投資有価証券の取得による支出、売却による収入
- 子会社の支配獲得(新規連結)に伴う支出、子会社株式の売却による収入
- 貸付金の実行による支出、回収による収入
財務活動によるキャッシュ・フロー
事業活動や投資活動を支えるための資金調達や返済(借入れ、社債発行、増資、自己株式取得、配当金支払いなど)に伴うキャッシュの増減を示します。
資金調達(借入や増資)を行えばプラスに、借入金の返済や配当金の支払いを行えばマイナスになります。企業の資金調達方針や株主還元策が反映されます。
主な項目例
- 短期借入金の増減額
- 長期借入金の借入による収入、返済による支出
- 社債の発行による収入、償還による支出
- 株式の発行による収入
- 自己株式の取得による支出、処分による収入
- 配当金の支払額
- 非支配株主への配当金の支払額(連結特有)
3つの表示区分の関連性
これら3つの表示区分は互いに関連し合っています。例えば、営業活動で稼いだキャッシュ(営業CFがプラス)を元手に、将来のための設備投資を行い(投資CFがマイナス)、余剰資金で借入金を返済したり、株主に配当したりする(財務CFがマイナス)のが、一般的に健全な企業のキャッシュ・フローの姿とされます。各区分のバランスを見ることで、企業グループの経営戦略や財務状況を深く理解できます。
連結キャッシュ・フロー計算書の作り方
連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法には「直接法」と「間接法」がありますが、実務上は、損益計算書の利益からスタートして調整していく「間接法」が多く採用されています。ここでは間接法による作成手順の概要を説明します。
連結キャッシュ・フロー計算書を作成するには、以下の資料が必要となります。
- 連結貸借対照表(前期末・当期末)
各資産・負債・純資産項目の増減額を把握するために使用します。 - 連結損益計算書(当期)
スタート地点となる税金等調整前の当期純利益や、調整項目(減価償却費など)を把握するために使用します。 - 連結精算表(ワークシート)
連結修正仕訳(投資と資本の相殺消去、内部取引消去など)の情報が必要となります。特に、キャッシュ・フロー計算書に関連する修正仕訳(例:非支配株主への配当金支払いの仕訳など)を確認します。 - 関連資料
固定資産台帳、借入金明細、株主資本等変動計算書など、各項目の変動要因を具体的に把握するための補足資料が必要です。
Step1.営業活動によるキャッシュ・フローの計算
税金等調整前当期純利益からスタート
連結損益計算書の税金等調整前当期純利益(または損失)を起点とします。
非資金損益項目の調整
現金の支出を伴わない損益項目を加減算します。
- 加算項目:減価償却費、のれん償却額、持分法による投資損失、固定資産除売却損など
- 減算項目:持分法による投資利益、固定資産除売却益など
営業活動に係る資産・負債の増減額の調整: 連結貸借対照表の前期末残高と当期末残高を比較し、運転資本(売上債権、棚卸資産、仕入債務など)の増減を調整します。
- 資産の増加はキャッシュの減少(マイナス)、資産の減少はキャッシュの増加(プラス)
- 負債の増加はキャッシュの増加(プラス)、負債の減少はキャッシュの減少(マイナス)
- (例:売掛金が増加したら、その分キャッシュは入ってきていないのでマイナス調整)
小計の算出
上記までの合計額を「小計」として表示します。
利息・配当金・法人税等の調整
実際に受け取った利息・配当金、支払った利息、支払った法人税等を加減算して、営業活動によるキャッシュ・フローを確定します。これらの項目は、損益計算書の金額と実際のキャッシュの動きが異なる場合があるため、別途把握が必要です。
Step2.投資活動によるキャッシュ・フローの計算
連結貸借対照表の固定資産や投資有価証券などの増減額と、関連する損益項目(固定資産売却損益など)、連結精算表の情報を基に、実際のキャッシュの動きを把握します。
- 固定資産の取得・売却
取得による支出(マイナス)、売却による収入(プラス)を計上します。減価償却費は考慮しません(非資金項目のため)。 - 投資有価証券の取得・売却
同様に、取得による支出(マイナス)、売却による収入(プラス)を計上します。 - 子会社株式の取得・売却
子会社を新たに連結する際の取得対価(支出、マイナス)、子会社株式を売却した際の収入(プラス)を計上します。この際、子会社が保有していた現預金も考慮する必要があります(純額で表示する場合と総額で表示する場合あり)。
Step3.財務活動によるキャッシュ・フローの計算
連結貸借対照表の負債(借入金、社債など)や純資産(資本金、自己株式など)の増減額と、関連資料を基に、資金調達・返済活動によるキャッシュの動きを把握します。
- 借入金の増減
短期借入金の純増減額、長期借入金の借入による収入(プラス)、返済による支出(マイナス)を計上します。 - 社債の発行・償還
発行による収入(プラス)、償還による支出(マイナス)を計上します。 - 株式の発行・自己株式の取得処分
新株発行による収入(プラス)、自己株式取得による支出(マイナス)、自己株式処分による収入(プラス)を計上します。 - 配当金の支払い
親会社の株主への配当金支払額(マイナス)を計上します。 - 非支配株主への配当金の支払い
子会社の非支配株主への配当金支払額(マイナス)を計上します。これは連結特有の項目です。
Step4.現金及び現金同等物の増減額の計算と期末残高の確認
- 上記Step.1〜3で計算した各活動区分のキャッシュ・フローを合計し、「現金及び現金同等物の増減額」を算出します。
- 子会社の新規連結・除外に伴う現金及び現金同等物の増減額や、在外子会社の換算差額などがあれば調整します。
- 期首時点の連結貸借対照表上の「現金及び現金同等物」残高に、上記で計算した増減額を加算します。
- 計算結果が、当期末の連結貸借対照表上の「現金及び現金同等物」残高と一致することを確認します。一致すれば、計算は整合性が取れていると考えられます。
連結キャッシュ・フロー計算書を作成・分析するポイント
連結キャッシュ・フロー計算書を正しく作成し、深く理解するためには、以下の点に注意が必要です。
連結範囲の変動(子会社の新規連結・除外)の影響
期中に子会社を買収(新規連結)したり、売却(連結除外)したりすると、キャッシュ・フロー計算書に大きな影響を与えます。
- 新規連結
子会社取得時の支出が投資活動CFに計上されます。また、取得した子会社が保有していた現預金も、連結キャッシュ・フロー計算書の期首残高との調整項目として表示されることがあります。 - 連結除外
子会社売却時の収入が投資活動CFに計上されます。売却した子会社が保有していた現預金も考慮されます。
これらの変動要因を理解しないと、キャッシュ・フローの増減理由を誤って解釈する可能性があります。
内部取引の消去
親子間や子会社間での商品売買、資金の貸借、配当金の授受などは、グループ全体で見ればキャッシュの動きがないため、連結キャッシュ・フロー計算書の作成過程で相殺消去する必要があります。特に、営業活動CFの計算において、未実現利益の消去などが関連してきます。
為替換算調整勘定の考慮
海外に子会社を持つ場合、外貨建ての財務諸表を円換算する際に為替レートの変動による差額(為替換算調整勘定)が生じます。この影響は、キャッシュ・フロー計算書の末尾で「現金及び現金同等物に係る換算差額」として調整されます。
非支配株主持分との関連
連結財務諸表には、親会社の持分だけでなく、子会社の非支配株主(少数株主)の持分も含まれます。連結キャッシュ・フロー計算書においても、非支配株主への配当金の支払いは財務活動CFのマイナス項目として表示されます。
フリーキャッシュ・フロー(FCF)の計算
連結キャッシュ・フロー計算書から計算できる重要な指標の一つに「フリーキャッシュ・フロー(FCF)」があります。
一般的に、営業活動によるキャッシュ・フローから、現状の事業を維持するために必要な設備投資額(投資活動CFの一部)を差し引いて計算されます。
FCFは、企業が本業で稼いだキャッシュのうち、借入金の返済、株主への配当、新規事業への投資など、自由に使えるキャッシュがどれだけあるかを示す指標です。FCFが潤沢であれば、財務的な柔軟性が高く、成長投資や株主還元を積極的に行える可能性が高いと評価できます。
FCF = 営業活動によるCF - 事業維持のための投資額※
※投資活動CFの中から、事業維持に必要な設備投資などを抽出して計算。簡便的に投資活動CF全体を用いる場合もある。
連結キャッシュ・フロー計算書の読み解き方
連結キャッシュ・フロー計算書を分析することで、以下のような企業グループの実態が見えてきます。
企業グループ全体の資金創出力
最も重要なのは、営業活動によるキャッシュ・フローです。ここが継続的にプラスであれば、グループ全体として本業でキャッシュを生み出す力があることを示します。その規模や安定性を見ることで、グループの収益基盤の強さを評価できます。
投資戦略と財務戦略の実態
投資活動によるキャッシュ・フローの大きさや内容から、グループが積極的に事業拡大を目指しているのか(投資CFが大きなマイナス)、それとも資産を整理しているのか(投資CFがプラス)といった投資戦略が見えます。
また、財務活動によるキャッシュ・フローからは、借入に依存しているのか、増資で資金調達しているのか、株主還元(配当、自己株買い)を重視しているのかといった財務戦略や方針を読み取ることができます。
資金繰りの安全性・健全性
営業CFがプラスで、それによって投資CFのマイナスをカバーし、さらに財務CF(借入返済や配当)も賄えているか、といった全体のバランスを見ます。営業CFがマイナスであったり、投資CFのマイナスを借入(財務CFのプラス)で補っている状態が続くようであれば、資金繰りの安全性に注意が必要です。期末の現金及び現金同等物の残高水準も、短期的な支払い能力を見る上で重要です。
連結キャッシュ・フロー計算書は重要な財務諸表
連結キャッシュ・フロー計算書は、企業グループ全体の現金の動きを、営業・投資・財務の3つの活動に分けて明らかにする重要な財務諸表です。作成には連結特有の調整が必要で複雑な面もありますが、仕組みと各区分の意味を理解することで、企業分析の精度は格段に向上します。会計初心者の方も、まずは基本的な構成と各活動区分の意味を掴むことから始めてみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
経理業務を効率化したい中小企業必見!具体的な方法や経理に必要なスキルを紹介
中小企業の経理業務は、人手不足の場合が少なくありません。 クラウド会計や経理代行は解決手段のひとつですが、自社の業務にマッチしているかどうかを検証せずいきなり導入すると問題が起こるリスクがあります。 本記事では、中小企業の経理の流れと業務の…
詳しくみるABC分析を極める!パレートの法則、ロングテール理論との関係は?
事業で取り扱う商品にも売れ筋のものとそうで無いものがあると思います。 人気の違う商品に、それぞれどれくらい手間をかけて管理すれば良いのかという疑問には、本稿で解説するABC分析が役立つかもしれません。 また、記事の後半では、パレートの法則や…
詳しくみるものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金を活用しよう!
「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金」という制度があるのをご存じでしょうか。革新的なものづくりやサービスを創出するための補助金です。今回は、ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金制度の内容について見ていきましょう。 事業…
詳しくみる労務管理費とは?労務費や人件費との違い、内訳、計算方法、勘定科目などを解説
労務管理費は、建設業等の現場で発生する労働管理・運営のための経費の総称であり、労働の対価としての現場作業員への給与や賃金以外の現場作業員の募集・採用、消耗品の手配、会議や打ち上げなどを行う際に発生する費用を指します。この記事では、労務管理費…
詳しくみる雑損失とは?いくらまで計上できる?仕訳や消費税区分まで解説
営業外費用のうち、他の勘定科目のいずれにも該当しない費用や損失を処理するときに、雑損失の勘定科目が使われることがあります。そもそも、雑損失はどのような性質の勘定科目なのでしょうか。この記事では、雑損失の例や仕訳例、消費税区分や雑費との違い、…
詳しくみる棚卸資産回転率(回転期間)とは?高い程いいの?計算や経営分析方法を解説
小売業の利益を上げるためにカギとなるのが棚卸資産回転率の指標です。 例えばスーパーでは、商品を仕入れて棚に並べ、売り切れになるまでのことを1回転といいます。一定の期間でこの回転が何回行われているかを数値で表しているのが棚卸資産回転率です。 …
詳しくみる