• 更新日 : 2024年8月8日

減価償却とは?計算方法、対象となる資産、仕訳、節税の仕組みまで簡単にわかりやすく解説

減価償却は、事業や経理に携わると必ず耳にする重要な会計用語です。高額な資産(パソコン、車、建物など)を購入した際、なぜ一括で経費にできないのか、その費用をどのように処理すればよいのか、疑問に思う方も多いでしょう。

この記事では、減価償却の基本的な概念から、その目的、対象となる資産(固定資産)の条件、主な償却方法である定額法・定率法の違い、具体的な仕訳処理、そして節税効果について、初心者にもわかりやすく解説します。減価償却費の計上を正しく理解し、適切な会計処理と経営判断に役立てましょう。

減価償却とは?

減価償却とは、高額な固定資産の取得費用を、その資産が使用可能な期間(耐用年数)にわたって分割し、少しずつ経費として計上していく会計処理のことです。

例えば、1000万円の機械を導入した場合、購入した年に1000万円全額を経費にするのではなく、その機械が使える年数に分けて、費用として計上していくというイメージです。

この会計処理によって計上される費用のことを「減価償却費」と呼びます。購入時に一度に費用化するのではなく、資産の使用実態に合わせて費用を配分するのが減価償却の最大の特徴です。

減価償却の目的は?

減価償却の最大の目的は、「費用収益対応の原則」に基づき、適正な期間損益計算を実現するためです。

「費用収益対応の原則」とは、収益とその収益を得るためにかかった費用を同じ会計期間に対応させて計上すべきという会計の大原則です。

例えば、製品を作るための機械(1000万円、耐用年数10年)を導入した場合、その機械は10年間にわたって製品を生み出し、会社に収益をもたらします。

減価償却をしないとどうなる?

もし減価償却をしなければ、会計上は利益計算が不正確になり、税務上は正しい納税額が計算できないという事象が生じます。

会計上の問題点

減価償却を実施せず、資産を購入した初年度に取得価額全額を費用として計上した場合、購入初年度に費用が集中して巨額の赤字となり、2年目以降は逆に費用が0円となって利益が過大に計上されてしまいます。これは、資産が収益を生み出す実態と費用が対応していない不正確な状態です。

税務上の問題点

税金の計算においては、減価償却費を計上しないと不利益が生じます。

  • 個人事業主の場合:10万円以上の資産は、原則として減価償却(または特例の適用)により費用計上することが定められています。
  • 法人の場合:会計上は減価償却をしない(任意償却)選択も可能ですが、税務上は「会計で費用計上した金額」までしか損金として認められません。

つまり、減価償却費を計上しないと、その分だけ利益(課税所得)が増え、結果として法人税などの納税額が多くなってしまいます。このため、税負担を適切にし、正しい経営状況を把握するために、実務上は必ず減価償却を行います。

減価償却資産の要件は?

減価償却の対象となる資産(減価償却資産)は、事業用であり、時の経過で価値が減り、1年以上使用し、取得価額が原則10万円以上である固定資産です。

  1. 事業のために使用されること (販売目的の棚卸資産や、プライベート用の資産は除く)
  2. 時間の経過や使用により価値が減少すること (減価すること)
  3. 使用可能期間が1年以上であること
  4. 取得価額が一定額(原則として10万円)以上であること

これらの要件を満たす資産は、購入時に全額を経費(損金)にするのではなく、耐用年数にわたって減価償却費として費用化する必要があります。

減価償却の対象となる資産の具体例

減価償却の対象となる資産には、目に見える有形固定資産と、目に見えない無形固定資産があります。

有形固定資産の例
  • 建物、建物附属設備(電気設備、冷暖房など)
  • 構築物(塀、看板、駐車場のアスファルトなど)
  • 機械装置
  • 車両運搬具(自動車、トラックなど)
  • 工具器具備品(パソコン、コピー機、応接セットなど ※10万円以上のもの)
無形固定資産の例
  • ソフトウェア(購入または自社開発したもの)
  • 特許権、商標権、意匠権
  • 営業権(のれん)

減価償却の対象とならない資産の具体例

一方で、時間の経過によって価値が減少しない(減価しない)と考えられる資産は、減価償却の対象となりません。

  • 土地、借地権
    土地は使用しても物理的にすり減るものではなく、価値が減少しないため、減価償却の対象外です。
  • 美術品、骨董品など
    原則として、時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなもの(例:1点100万円以上の美術品等)は減価償却の対象外です。
  • 棚卸資産
    商品や製品、原材料などは、販売された時点で売上原価として費用化されるため、減価償却とは異なる処理となります。
  • 取得価額が10万円未満の資産
    少額の資産は、購入した年度に全額消耗品費などとして費用計上するのが一般的です(後述する特例を除く)。

減価償却の計算に必要な用語は?

減価償却費の計算方法を理解する前に、計算の前提となる重要な用語を解説します。

取得価額

取得価額とは、その資産を取得するために要したすべての費用の合計額です。単なる購入代金本体だけでなく、以下の費用も含まれます。

  • 購入費用:該当する固定資産の購入代金
  • 付随費用:運送費、荷役費、運送保険料、取得手数料、関税など
  • 事業供用費用:その資産を事業で使える状態にするために直接かかった費用

事業供用日

事業供用日とは、その資産を本来の目的で事業のために使い始めた日を指します。

  • 機械装置の場合:機械を据え付けて試運転を行った後、製品の製造のために本格的に稼働させた日が事業供用日となります。
  • 賃貸マンションの場合:建物が完成し、入居者の募集を開始した日が事業供用日となります。

特に決算月近くに資産を取得した場合、取得日と事業供用日が月をまたぐと、その年の減価償却費が変わってくるため注意が必要です。

参考:No.5400-2 事業の用に供した日|国税庁

法定耐用年数

耐用年数とは、その資産が本来の用途や用法に従って、通常予定される効果を持続する期間を指します。国際的な会計基準IFRS)などでは、耐用年数を実態に合わせて企業が個々に見積もるべきとされていますが、すべての企業が資産ごとに正確な使用可能期間を見積もることは実務上困難です。

そこで日本の税法上は、課税の公平性を保つために、資産の種類や構造、用途に応じて公平な基準として「法定耐用年数」が細かく定められています。

参考:減価償却資産の耐用年数等に関する省令|e-Gov 法令検索

実務上、多くの企業はこの税法上の「法定耐用年数」をそのまま会計処理にも使用しています。減価償却費の計算は、原則としてこの法定耐用年数に基づいて行う必要があります。

主な資産の法定耐用年数の例

資産の種類法定耐用年数
パソコン(サーバー用以外)4年
パソコン(サーバー用)5年
コピー機、複合機5年
普通自動車(新車)6年
軽自動車(新車)4年
応接セット8年
鉄筋コンクリート造の事務所用建物50年
木造の店舗用・住宅用建物22年

詳細な法定耐用年数は、国税庁のウェブサイトで公開されている「主な減価償却資産の耐用年数表」で確認できます。

参考:主な減価償却資産の耐用年数表|国税庁

減価償却費の計算方法は?

減価償却費の計算には、主に「定額法」と「定率法」の2種類があります。どちらの計算方法でも、耐用年数に応じた「償却率」という数値を用いて計算します。

参考:減価償却資産の償却率等表|国税庁

計算方法1. 定額法

定額法は、毎年一定額の減価償却費を計上する方法です。

資産の価値は毎年均等に減少していくという考え方に基づいています。計算がシンプルで分かりやすく、損益計画が立てやすいのが特徴です。

毎年の減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率

※平成19年4月1日以降取得の場合
※年度の途中で取得した場合は、上記で計算した金額を月割りします。

計算例
  • 取得価額:100万円
  • 耐用年数:5年
    ※この場合の定額法償却率:0.200
  • 1年目~5年目の減価償却費:100万円 × 0.200 = 20万円(毎年同額)
    ※最終年のみ、備忘価額1円を残すために調整します。

計算方法2. 定率法

定率法は、未償却残高(まだ償却されていない金額)に対して一定率の減価償却費を計上する方法です。

資産の価値は、使い始めの初期に大きく減少し、年々その減少幅が小さくなるという実態に即した考え方に基づいています。初年度の償却額が最も大きく、その後は徐々に減少していきます。

毎年の減価償却費 = 未償却残高(期首簿価) × 定率法の償却率

※平成24年4月1日以降取得の場合
※この計算額が償却保証額(取得価額×保証率)を下回る年からは、計算方法が変わります。

計算例
  • 取得価額:100万円
  • 耐用年数:5年
    ※この場合の定率法償却率:0.400
  • 1年目:100万円 × 0.400 = 40万円
  • 2年目:(100万円 – 40万円)× 0.400 = 24万円
  • 3年目:(100万円 – 40万円 – 24万円)× 0.400 = 14.4万円

定額法と定率法はどちらを選ぶべき?

法定の償却方法(届出をしていない場合の原則)は、個人事業主は定額法、法人は定率法と定められています。

ただし、これはあくまで原則です。税務署に「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出することで、もう一方の方法を選択することも可能です。

なお、資産の種類によっては選択できず、建物や建物附属設備、構築物、および無形固定資産(ソフトウェアなど)は定額法でしか償却できません(法人の場合も同様です)。

比較項目定額法定率法
償却費毎年 一定額当初は多く、徐々に 減少
特徴計算がシンプル
利益計画が立てやすい
初期の節税効果が高い
法定償却方法個人事業主 / 建物 / 無形固定資産法人 (上記以外)

減価償却費の会計処理・仕訳は?

計算した減価償却費は、決算時に帳簿へ記録(仕訳)する必要があります。これには「直接法」と「間接法」の2つの方法があります。実務上は、資産の取得価額と償却累計額がわかる「間接法」が一般的に用いられています。

仕訳方法1. 直接法

直接法は、固定資産の勘定科目の残高から、減価償却費を直接差し引く方法です。

例:車両運搬具(取得価額100万円)の減価償却費20万円を計上

借方貸方
減価償却費200,000円車両運搬具200,000円

この仕訳を繰り返すと、貸借対照表(B/S)の「車両運搬具」勘定の残高が80万円になり、そもそもいくらで買った資産なのかが帳簿上わからなくなってしまうというデメリットがあります。

仕訳方法2. 間接法

間接法は、固定資産の取得原価から直接減価償却費を引くのではなく、「減価償却累計額」という勘定科目を使って、間接的に資産の価値を減らす方法です。

例:車両運搬具(取得価額100万円)の減価償却費20万円を計上

借方貸方
減価償却費200,000円減価償却累計額200,000円

この方法なら、貸借対照表に「取得価額100万円」と「減価償却累計額20万円」が両方表示され、現在の資産価値(簿価80万円)が一目で把握できます。

減価償却のメリットは?

減価償却には、税務上のメリットと、戦略的な財務メリットがあります。

キャッシュフローの改善

最大のメリットは、実際のお金の支出を伴わない費用を計上できることによる節税効果です。

例えば、利益が100万円出ていたとしても、減価償却費を20万円計上できれば、課税対象となる所得は80万円に圧縮されます。その結果、支払う法人税や所得税が減り、その分だけ会社(または個人事業主)の手元に現金を多く残すことができます。

節税タイミングの選択

減価償却は、単に節税になるだけでなく、いつ節税するかを選べるメリットがあります。

特に「定率法」を選択した場合、資産導入の初期(1〜2年目)に減価償却費を多く計上できます。これにより、投資を行った直後の税負担を大きく軽減し、投資資金の回収を早めるというメリットが期待できます。

減価償却のデメリットは?

一方で、減価償却にはデメリットもあります。

会計処理と資産管理の煩雑さ

まず、資産管理や会計処理が煩雑になることです。

高額な資産を購入した場合、一括で「消耗品費」として処理するのとは異なり、その資産を廃棄または売却するまで長期的な管理が必要になるためです。

  • 固定資産台帳を作成し、資産ごとに取得価額や耐用年数を管理する
  • 毎年、ルールに基づき正確な減価償却費を計算する
  • 決算時に、計算した償却費を帳簿に記録する(決算整理仕訳)

現在は多くの会計ソフトがこれらの作業をサポートしていますが、それでも管理コストは発生します。

会計上の利益の圧迫

減価償却費は会計上の「費用」であるため、計上した分だけ利益を減少させます。

例えば、銀行融資の審査や投資家への業績説明において、会計上の利益額が低く見えることが、短期的にはデメリットとして働く可能性があります。ただし、金融機関などはキャッシュフローも重視するため、減価償却が原因であることを適切に説明できれば問題とならないケースがほとんどです。

減価償却の特例とは?

高額な資産は減価償却が必要ですが、少額の資産については事務処理の簡便化のため、取得価額に応じて一括で費用計上できる特例が設けられています。

取得価額が10万円未満の場合

全額を一度に費用計上可能です。

減価償却の処理は不要で、「消耗品費」などの勘定科目で購入時に処理します。

取得価額が10万円以上 20万円未満の場合(一括償却資産)

通常の減価償却(法定耐用年数)を行う代わりに、取得価額の合計額を3年間で均等に割って費用計上(3分の1ずつ償却)することが認められています。

取得価額が10万円以上 30万円未満の場合(中小企業者等の少額減価償却資産の特例)

青色申告を行っている中小企業者等(資本金1億円以下など)に限り、取得価額30万円未満の資産について、全額をその年の損金として計上できます。

ただし、この特例の適用は年間合計300万円までという上限があります。これは非常に強力な節税策であり、多くの企業が活用しています。

参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁

中古資産の減価償却は?

中古の資産を取得した場合、法定耐用年数ではなく、より短い「見積耐用年数」を使用できます。

中古資産は新品と比べて使用できる期間が短いため、新品と同じ耐用年数で償却するのは実態に合いません。そのため、その資産の残りの使用可能期間を見積もった耐用年数での償却が認められています。

見積もりが困難な場合は、簡便法として短い年数を計算できます。中古資産は耐用年数が短くなるため、1年あたりの減価償却費が大きくなり、短期間で大きな節税効果(課税の繰り延べ)が期待できる場合があります。

不動産所得の減価償却は?

減価償却は、アパート経営やマンション投資などの不動産所得の計算においても非常に重要です。

不動産所得の計算式は「総収入金額 − 必要経費」ですが、減価償却費はこの「必要経費」の大部分を占めるためです。

建物のみが償却対象

不動産投資では土地と建物をセットで購入しますが、減価償却の対象となるのは建物や建物附属設備のみです。土地は時間の経過によって価値が減少しないため、減価償却はできません。

損益通算による節税効果

減価償却費は、実際にお金が出ていかない経費です。そのため、不動産所得の帳簿上は、減価償却費の計上によって赤字になることがあります。給与所得など他の所得がある場合、この不動産所得の赤字を他の黒字所得と相殺(損益通算)できるため、結果として所得税や住民税の総額を抑えられる場合があります。

減価償却に関するよくある質問(FAQ)

最後に、減価償却の実務でよく疑問に挙がる点についてお答えします。

個人事業主でも減価償却は必要?

はい、青色申告・白色申告に関わらず、個人事業主も必要です。

所得税法上、10万円以上の資産を取得した場合は、原則として減価償却(または特例の適用)により費用計上することが定められています。個人事業主の法定償却方法は原則「定額法」です。

期の途中で資産を購入した場合の計算は?

その年の減価償却費は「月割り」で計算します。減価償却費は、資産を「事業供用日(事業で使い始めた日)」から計上を開始するためです。

例えば、12月決算の会社が7月1日に120万円(耐用年数5年、定額法=年24万円)の資産を購入・供用した場合、初年度の減価償却費は「24万円 × 6ヶ月(7月~12月) ÷ 12ヶ月 = 12万円」となります。

償却が終わった資産はどうなる?

帳簿上「備忘価額1円」の資産として、その資産を売却または廃棄するまで残し続けます。

減価償却の計算上は価値がゼロになっても、その資産がまだ現物として存在し、事業で使用されている実態を示すためです。「1円」で帳簿に残しておくことで、この会社はまだこの資産を保有・使用していることを示します。

減価償却の正しい理解が健全な経営の第一歩

本記事では、減価償却の基本的な考え方から、その目的、対象資産、計算に必要な用語(取得価額、事業供用日、耐用年数)、計算方法(定額法・定率法)、そして節税との関係性や特例について網羅的に解説しました。

減価償却は、高額な資産への投資を複数年にわたって適切に費用配分するための、会計上および税務上、非常に重要な処理です。このルールを正しく理解することは、自社の経営成績や財産状況を正確に把握することに直結します。

特に定率法の選択や、中小企業向けの少額減価償却資産の特例などを戦略的に活用することで、キャッシュフローの改善にも繋がります。自社の状況に合わせて適切な償却方法を選択し、正確な償却資産の管理を行いましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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