- 更新日 : 2025年8月5日
外壁工事とは?目的や種類、費用相場を解説
家やビルなど、建物の外観を彩り、風雨や紫外線から家を守るのが「外壁」です。しかし、この外壁も時間とともに劣化し、ひび割れや色あせ、コケの発生といったサインが見られるようになります。これらの劣化を放置すると、建物の構造にまで影響を及ぼし、大規模な修繕が必要になることもあります。
そこで重要になるのが「外壁工事」です。外壁工事は、単に家の見た目を良くするためだけではありません。住まいの寿命を延ばし、快適な室内環境を維持するためには欠かせないメンテナンスなのです。この記事では、外壁工事の具体的な内容から、その目的、種類、そして気になる費用相場まで、わかりやすく解説していきます。
外壁工事とは?
外壁工事の基本的な定義と、それが建物の維持管理においてなぜ不可欠なのかを解説します。
外壁工事の目的
外壁工事とは、建物の外壁に生じた剥がれ、色あせ、ひび割れなどの劣化を修復し、建物の耐久性を高めるための工事全般を指します。主な目的は、耐久性の向上、断熱・遮熱効果の付与、防水性や透湿性といった建物の基本性能の向上です。美観の維持や、雨風といった自然環境から建物を守ることも重要な目的の一つです。
外壁は常に紫外線、雨水、気温変化などに晒され、経年劣化は避けられません。外壁工事はこれらの劣化要因から建物の構造躯体を守る「予防保全」としての性格が強く、一般的に外壁塗装の耐用年数は10年程度とされ、計画的なメンテナンスが推奨されます。これにより建物の長寿命化と将来的な大規模修繕コストの抑制が期待できます。適切な外壁工事による断熱性・気密性の向上は、冷暖房効率を高め、エネルギー消費量削減にも貢献します。
外壁工事を怠った場合のリスク
外壁の劣化を放置すると、美観が損なわれるだけでなく、建物本体に深刻なダメージを引き起こす可能性があります。塗装の劣化やシーリング材の破断、外壁材のひび割れから雨水が浸入し、雨漏りやカビの発生に繋がります。
雨水浸入は断熱材の性能を低下させ、木造建築では構造材の腐食による耐震性低下、鉄筋コンクリート造や鉄骨造でも内部鉄筋の錆や構造体劣化を促進します。室内のカビは健康被害のリスクも伴います。初期の小さな不具合を放置すると、修繕範囲が拡大し、結果的に修繕コストが大幅に増加する傾向にあります。
外壁工事の主な種類
ここでは、代表的な外壁工事の種類を取り上げ、それぞれの工法、メリット・デメリット、選定上の留意点を解説します。
塗装工事
塗装工事は、外壁の保護と美観維持を目的とする最も一般的なメンテナンス手法です。高圧洗浄後、下地調整を行い、新しい塗料を塗り重ねることで、塗膜を再形成し、紫外線や雨水から外壁材を保護、防水性などの機能を復元します。
塗料にはアクリル、ウレタン、シリコン、ラジカル制御型、フッ素、無機塗料などがあり、それぞれ耐用年数、機能性、価格が異なります。一般的にアクリルは安価で耐用年数が短く、フッ素や無機塗料は高価で高耐久です。近年はシリコンやラジカル制御型が主流です。塗料選定は、建物の立地条件、既存外壁材、期待耐用年数、予算、そして下地との相性を総合的に考慮することが不可欠です。
サイディング張り替え工事
既存の外壁材を全て撤去し、新しいサイディング材に張り替える工法です。外壁材自体の劣化が著しい場合や、下地の点検・補修が不可欠な場合に選択されます。最大のメリットは、壁内部の防水シートや下地木材の状態を確認・修繕できる点です。これにより建物の耐久性を大幅に向上させることが期待できます。デメリットは、解体費用や廃材処理費用が発生するため高額になりやすく、工期も比較的長くなる点です。
サイディング重ね張り工事(カバー工法)
「カバー工法」とも呼ばれ、既存外壁材を撤去せず、上から新しい外壁材を重ねて張り付ける工法です。既存外壁材の状態が比較的良好な場合に有効です。メリットは、解体費用がかからずコストを抑えられ工期も短縮できる点、断熱性や遮音性の向上が期待できる点です。デメリットは、既存外壁や下地の状態を直接確認・補修できないため、内部に問題が潜んでいた場合、劣化が進行するリスクがあることです。雨漏りや下地腐食が疑われる場合は不適です。
シーリング(コーキング)工事と部分補修
サイディングボードの目地やサッシ廻りなど、部材間の隙間を弾力性のあるシーリング材で充填する工事です。防水性、伸縮性、気密性を確保する重要な役割を担います。シーリング材は経年劣化し、耐用年数は約10年です。劣化放置は雨漏りの原因となります。
補修方法には「打ち替え」(既存材を全て撤去し新規充填)と「増し打ち」(既存材の上に重ねて充填)があります。打ち替えは性能回復に優れ、増し打ちはコストを抑えられますが、十分な厚み確保が重要です。外壁のひび割れ(クラック)も、幅に応じてシーリング材充填やエポキシ樹脂注入などの適切な補修が必要です。
主要外壁材別の留意点
- 窯業系サイディング
国内戸建てで最も普及。豊富なデザイン、耐火性が特徴。吸水性があるため表面塗装による防水が重要。目地シーリングの定期メンテナンスが不可欠。 - 金属系サイディング
軽量でカバー工法に適し、凍害の心配も少ない。断熱性・遮音性にも優れます。衝撃で凹みやすく、傷からの錆に注意が必要。 - ALCパネル
軽量で優れた断熱性、遮音性、耐火性を持つ。吸水性が高いため表面塗装による保護と、目地シーリングの定期メンテナンスが極めて重要。 - モルタル(塗り壁)
多様なテクスチャーや意匠性の高いデザインが可能で、モルタル外壁自体には目地がないため全面の目地処理は不要ですが、窓枠まわりなど開口部にはシーリングが必要で、定期的な点検・補修が求められます。乾燥収縮等でひび割れが発生しやすく、適切な補修が必要。
外壁工事の費用相場
外壁工事費用は工事種類、規模、材料、建物状態により大きく変動します。この章では費用の内訳、相場観、コスト管理ポイントを解説します。
費用を構成する主な要素
外壁工事の見積もりは主に「材料費」(塗料、サイディング材等、費用全体の約20~25%)、「足場代」(仮設足場の設置・解体費、約15~20%)、「人件費(労務費)」(職人の手間賃、約30%、通常各工程単価に含む)、「諸経費」(現場管理費、廃材処理費等、約30%)で構成されます。
【工事種類別】30坪住宅における費用目安
延床面積30坪程度の戸建て住宅を想定した費用相場(目安であり、建物の形状、劣化状況、材料グレード等で大きく変動)。
塗装工事:約60万円~120万円
サイディング重ね張り工事(カバー工法):約120万円~180万円
サイディング張り替え工事:約150万円~200万円
ALC外壁のメンテナンス工事(塗装・シーリング含む):約80万円~200万円
足場の必要性と費用計算
高さ2m以上の高所作業では労働安全衛生法に基づき足場設置が義務付けられています。安全確保、作業効率向上、塗料飛散防止に不可欠です。
一般的な戸建て住宅の足場代相場は約20万円~30万円。足場面積は「(建物の外周+4m)×(建物の高さ+0.5m)」で算出され、これに1㎡あたりの単価(足場代600~800円/㎡、飛散防止ネット代100~200円/㎡が相場)を乗じて算出します。
『足場代無料』には別項目で費用が含まれている可能性があるため、見積もり内訳を詳細に確認してください。外壁工事と同時に屋根工事など他の高所作業を行えば、足場費用を一度で済ませられトータルコスト削減に繋がります。
適正価格で工事を行うためのポイント
複数の信頼できる業者から相見積もりを取得し、総額だけでなく内容を詳細に比較検討。確認ポイントは、見積もりの透明性(各項目が明確か)、工事内容の具体性(手順、範囲、材料名まで記載か)、数量の妥当性(塗装面積の算出根拠など)、使用材料のグレード、保証内容とアフターサービス、業者の実績と評判(建設業許可や関連資格保有か)などです。
外壁工事にかかる期間
外壁工事期間は工法、建物規模、天候、季節、下地状態等で変動。この章では標準所要期間と代表的工事の基本の流れを解説します。
各工事の標準的な所要期間
一般的な戸建て住宅(延床面積30坪程度)の標準所要期間目安。
塗装工事:約1~2週間
サイディング重ね張り工事(カバー工法):約1~2週間
サイディング張り替え工事:約2~3週間
部分補修工事(シーリング打ち替え、ひび割れ補修など):約1日~1週間
これらは目安で、天候に大きく左右されます。特に塗装・シーリング工事は雨天時や特定温湿度条件下では作業不可。梅雨、冬季、台風シーズンは工期が延びやすいです。工事計画時には天候要因による作業中断可能性を考慮し「バッファ」を設けることが重要です。高圧洗浄後の乾燥時間や塗料各工程間の乾燥時間確保も品質確保に極めて重要です。
代表的な外壁工事の基本的な流れ(例:塗装工事)
外壁塗装工事の一般的な作業の流れ。
- 近隣挨拶(工事開始1週間前~数日前)
- 足場組立・飛散防止ネット設置(1日~)
- 高圧洗浄(半日~1日、乾燥に1~3日)
- 下地処理・補修(1日~数日)
- 養生(1日)
- 塗装(下塗り・中塗り・上塗り、各工程間に乾燥時間)
- 付帯部塗装
- 完了検査・手直し
- 足場解体・清掃・片付け(半日~1日)
- 引き渡し
各工程間のインターバル遵守が最終的な品質を左右します。
外壁工事に必要な資格や許認可
外壁工事を適法かつ高品質に行うには、関連法規遵守と必要な資格・許可を持つ専門家の関与が求められます。
建設業許可(塗装工事業、防水工事業など)
建設業法では、一定規模以上の建設工事を請け負う場合、工事種類に応じた「建設業許可」取得が必要です。外壁工事関連の主な業種は「塗装工事業」「防水工事業」「とび・土工工事業」「板金工事業」「タイル・れんが・ブロック工事業」など。建築一式工事以外の専門工事では1件の工事請負代金500万円(消費税込)未満の場合、許可は不要です。この金額判断には消費税を含み、注文者材料提供の場合はその市場価格も加えます。
建築基準法(建築確認申請など)
建築基準法が改正され、建築確認申請が必要となる範囲が拡大しました。そのため、外装工事でも手続きが必要な場合があるため、関係各庁や工事業者に確認してください。
関連する主な技能資格(塗装技能士、防水施工技能士など)
職人の技術力を証明するのが技能資格です。代表的な国家資格(技能検定)は以下となります。
塗装技能士
塗装技能士は、その名の通り、塗装に関する専門知識と実技能力を持つことを認定する資格です。建物の内外装や各種構造物の塗装において、確かな技術を発揮するために重要です。
防水施工技能士
防水施工技能士は、建物の防水工事に関する専門技術を認定する資格です。雨漏りや水漏れを防ぎ、建物の耐久性を高めるために不可欠な技術であり、ウレタンゴム系塗膜防水工事作業やシーリング防水工事作業など、具体的な作業区分に分かれています。
これらの資格は職人が一定レベル以上の専門性を有することを示し、工事品質確保に寄与します。
建築施工管理技士の役割と重要性
建築施工管理技士は、建設工事現場で施工計画作成、工程管理、品質管理、安全管理等を総合的に行う国家資格です。1級と2級があります。外壁工事でもプロジェクト全体の円滑な進行と最終的な品質確保に極めて重要な責任を負います。予期せぬ事態への対応、関係者とのコミュニケーション能力も求められます。外壁工事品質は建物の耐久性や快適性、美観に直結するため、経験豊富な施工管理技士による適切なマネジメントが成否を分ける鍵です。
外壁工事は、建物の美観や耐久性のために必要な工事です
この記事では、建築業専門家の皆様へ、外壁工事の基本定義、目的、リスク、主要工事種類と特徴、費用相場、期間と工程、関連許可・資格まで解説しました。
外壁工事は建物の外観維持だけでなく、外的要因から建物を保護し構造躯体の耐久性を維持・向上させる重要な役割を担います。断熱性・気密性改善による快適性向上、エネルギー効率向上にも寄与し、建物の資産価値を左右します。
専門家として臨む際は、ライフサイクル全体を見据えた計画が不可欠です。材料選定では耐久性、機能性、下地相性、メンテナンス性を総合比較し、個々の状況や施主要望に最適なものを選択する判断力が求められます。選定材料の性能を最大限引き出すには、確実な施工管理と熟練職人による丁寧な作業が不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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