• 更新日 : 2025年8月5日

一人親方が受けられる休業補償は?労災保険の仕組みも解説

一人親方にとって労災保険の休業補償は、万が一の事態に生活を守る重要な制度です。本記事では、労災保険の基本的な仕組みから、休業補償の具体的な内容、金額、申請手続き、そして症状固定後の対応まで、一人親方が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。

一人親方が受けられる休業補償の内容

一人親方が業務上の怪我や病気で働けなくなった場合に支給される「休業(補償)給付」について、その内容、金額、期間、そして重要な「給付基礎日額」の選び方を掘り下げて解説します。

休業補償とは?受け取れる条件

休業(補償)給付は、業務上または通勤による傷病の療養のため働くことができず、収入を得られない場合に支給されます。主な条件は以下の通りです。

  1. 業務上または通勤による傷病で療養していること。
  2. その療養のために働くことができないこと(労務不能)。
  3. 収入を得ていないこと。

休業(補償)給付は、休業開始から3日間の「待期期間」を経た後、休業4日目から支給されます。

休業補償はいくらもらえる?給付基礎日額と計算方法

休業補償の支給額は、加入時に選択した「給付基礎日額」に基づき、1日につき以下の合計額が支給されます。

休業(補償)給付:給付基礎日額の60%

休業特別支給金:給付基礎日額の20%

一定の条件を満たす場合に休業特別支給金としてさらに20%が支給され、合計で最大80%の補償となる場合があります。例えば給付基礎日額10,000円なら1日8,000円です。給付基礎日額は法令で定められた複数の段階から選択され、上限・下限額も業種や条件により異なります。

選択した給付基礎日額合計支給額(80%)
3,500円2,800円
5,000円4,000円
10,000円8,000円
20,000円16,000円

休業補償が受けられる期間

休業(補償)給付は、療養のために働くことができないと認められる期間について支給されます。療養開始後1年6ヶ月を超えても治癒せず、一定の障害状態と認められた場合には、『傷病(補償)年金』に切り替えられ、給付が継続されます。

給付基礎日額の選び方のポイント

給付基礎日額の選択は、補償額と保険料のバランスを考える上で重要です。労災保険の給付基礎日額は、補償額と保険料のバランスを考慮して選ぶことが重要です。自身の平均的な収入を目安に、「給付基礎日額 × 365日 × 保険料率」で計算される年間保険料(保険料率は業種や年度により異なり、建設業の一人親方においても変動があります。)を把握しましょう。

また、現場によっては元請会社から一定額以上の給付基礎日額での加入を求められることがあるため、事前の確認が必要です。この日額は、通常年度ごと(毎年4月1日)に事前の手続きで変更できます。

休業補償が終わったら?症状固定とその後

この章では、休業(補償)給付の終了時期の目安となる「症状固定」とは何か、そして症状固定後にどのような選択肢や補償制度があるのかを詳しく見ていきます。

「症状固定」とは?

症状固定とは、医師の医学的判断に加え、法的・補償的観点からも症状の固定を認める状態を指します。症状固定と診断されると、原則として療養(補償)給付と休業(補償)給付は終了となります。これは労災保険の給付内容が切り替わる重要な転換点です。

症状固定後の選択肢

症状固定後は、可能であれば職場復帰を目指します。後遺障害が残った場合は、その程度に応じて「障害(補償)給付」を請求できます。請求には時効(症状固定診断日の翌日から5年)があるため注意が必要です。

障害補償給付の種類と内容

障害(補償)給付は、後遺障害の程度に応じた障害等級(第1級~第14級)により支給されます。第1級~第7級は「障害(補償)年金」、第8級~第14級は「障害(補償)一時金」として支給されます。給付額は給付基礎日額と障害等級に基づき計算され、さらに障害特別支給金が上乗せされる場合があります。

給付基礎日額10,000円の場合の障害(補償)給付目安

障害等級障害(補償)年金/一時金(給付基礎日額ベース)障害特別支給金(一時金)
第1級年金:313万円342万円
第7級年金:131万円159万円
第8級一時金:503万円65万円
第14級一時金:56万円8万円

症状が再発した場合

症状固定後に労災傷病が再発し療養が必要と判断された場合、再度休業(補償)給付を受けられることがあります。待期期間の適用は状況により異なります。

一人親方がする休業補償の申請手続き

この章では、実際に労災事故が発生してから休業補償を受け取るまでの具体的な申請手続きの流れ、必要書類、注意点などを分かりやすく解説します。

労災が発生したらまずすること

労災事故発生時は、以下の対応を落ち着いて行いましょう。

  1. 医療機関を受診し、労災であることを伝える
  2. 加入している特別加入団体に報告する

休業(補償)給付支給請求書(様式第8号)の準備

休業(補償)給付支給請求書は、最新の労働基準監督署様式に従い提出します。通勤災害の場合は別様式となります。書類は加入団体から入手できます。

主な記入事項
  • 労働保険番号
  • 被災労働者の情報(氏名、住所、生年月日、職種、負傷日など)
  • 災害の原因・発生状況(5W1Hを意識)
  • 傷病名、療養期間、労務不能期間(医師の証明が必要)
  • 振込先金融機関口座
  • 事業主(特別加入団体)の情報
  • 現認者(事故目撃者など)

医師の証明には時間がかかる場合があるため、早めに依頼しましょう。

申請手続きの流れと注意点

  1. 労災事故発生・医療機関受診
  2. 特別加入団体へ報告
  3. 申請書類準備・作成(医師の証明含む)
  4. 団体へ書類提出(団体が内容確認・事業主証明)
  5. 労働基準監督署へ提出(多くは団体が代行)
  6. 労働基準監督署による調査・審査
  7. 給付決定・支給

最終的な労災認定と給付決定は労働基準監督署が行います。不服がある場合は審査請求も可能です。休業が長期にわたる場合は1ヶ月ごとに請求するのが一般的です。

請求期限

労災保険の各給付には時効があります。休業(補償)給付の請求権は、休業した日ごとに発生し、その翌日から起算して2年で時効となります。

他の主な給付の時効
  • 療養(補償)給付:費用支出日の翌日から2年。
  • 障害(補償)給付:症状固定日の翌日から5年。
  • 遺族(補償)年金:死亡日の翌日から5年。
  • 葬祭料(葬祭給付):死亡日の翌日から2年。

速やかな手続きが重要です。

一人親方も入れる労災保険の重要性と補償

この章では、一人親方が加入できる労災保険の基本的な仕組みと、なぜそれが重要なのか、そしてどのような補償が受けられるのかを分かりやすく解説します。

一人親方と労災保険:特別加入制度の仕組み

労災保険は、本来、雇用される労働者を業務中や通勤中の災害から保護する国の制度です。一人親方は自身で事業を営んでいるため、通常の労災保険の対象外となります。しかし、「特別加入制度」を通じて、一人親方も労災保険に加入することが可能です。この制度は、業務の実態や災害発生状況から労働者に準じて保護することが適当と認められる場合に適用されます。

特別加入の手続きは、都道府県労働局長承認の「特別加入団体」(労働保険事務組合など)を通じて行い、個人での直接申請はできません。加入には原則として団体への年会費や入会金などが必要です。特に建設業などでは、元請会社が安全配慮義務の観点から、労災保険加入を現場入場の条件とすることが一般的であり、未加入は仕事の機会損失に繋がる可能性があります。

なぜ一人親方に労災保険が必要なのか?

労災保険に未加入の一人親方が業務災害に遭った場合、治療費や休業中の収入に対する国の補償は一切ありません。業務上の傷病には国民健康保険なども原則使用できず、全額自己負担となる可能性があります。

元請会社が加入する労災保険も、一人親方には原則適用されません。自身の身は自身で守る必要があり、労災保険未加入は、経済的困窮だけでなく、仕事の受注機会の喪失という事業継続上のリスクも伴います。

労災保険で受けられる主な補償内容一覧

特別加入により、一人親方も業務中や通勤中の万が一の事態に、一般の労働者とほぼ同等の手厚い補償を受けられます。

補償の種類内容
療養(補償)給付業務災害または通勤災害による傷病の治療費、入院費などを原則全額補償
休業(補償)給付・休業特別支給金療養のため働けず収入がない場合、休業4日目から給付基礎日額の80%相当額を支給
障害(補償)給付・障害特別支給金傷病が治癒(症状固定)した後、身体に一定の障害が残った場合に、障害等級に応じて年金または一時金を支給
遺族(補償)給付・遺族特別支給金業務災害または通勤災害により死亡した場合に、遺族に対して年金または一時金を支給
葬祭料(葬祭給付)業務災害または通勤災害により死亡した場合に、葬儀を行う者に対して葬祭費用を支給
介護(補償)給付障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、一定の障害状態で介護を受けている場合に支給
傷病(補償)年金・傷病特別支給金療養開始後1年6ヶ月を経過しても傷病が治癒せず、一定の障害状態にある場合に支給

安心して働くために、労災保険と休業補償を正しく理解しよう

一人親方にとって労災保険の特別加入は、万が一のリスクに備え、安心して事業を継続するための重要な制度です。未加入の場合、治療費の自己負担や収入途絶、さらには仕事の機会損失といった深刻なリスクに直面する可能性があります。

休業補償は、選択した給付基礎日額の80%が支給される心強い制度であり、給付基礎日額の適切な選択が将来の補償額と保険料負担のバランスを左右します。また、症状固定後の障害(補償)給付や、万が一の再発時の対応についても理解しておくことが大切です。

労災発生時には、速やかな医療機関受診と加入団体への報告、そして正確な申請手続きが不可欠です。各給付には請求期限(時効)があるため、迅速な行動を心がけましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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