• 作成日 : 2025年3月21日

擦り傷程度でも労災を使うべき?メリット・デメリット、手続きを解説

擦り傷や軽いケガでも業務中や通勤中に発生した場合、労災保険は利用できます。労災保険とは、労働者が仕事に関連して負ったケガや病気を補償する制度です。たとえば、職場での作業中に擦り傷を負ったり、通勤中に転倒して捻挫をした場合も対象となります。労災を利用することで医療費の自己負担がなくなり、適切な治療を受けることができます。この記事では、擦り傷程度のケガでも労災を活用するメリットや申請方法について詳しく解説します。

擦り傷程度でも労災は使える?

擦り傷程度の軽いケガでも労災を使うことができます。労災保険は、業務上のケガや病気を補償する制度で、ケガの程度に関係なく「業務または通勤によるものかどうか」が適用の基準になります。

例えば、職場で作業中に机の角で擦り傷を負ったり、通勤途中で転倒して捻挫をしたりした場合も、労災の対象になります。ただし、業務とは無関係な行動中に負ったケガは労災適用外となるため注意が必要です。

軽いケガだからといって労災を使わない方がいいと自己判断せずに、会社の担当者や専門家に相談することをおすすめします。

擦り傷程度でも労災は使うべき?使わない方がいい?

擦り傷程度のケガで労災を使うべきかどうか、迷うこともあるでしょう。労災を使えば医療費の自己負担がなくなるので、治療費を気にせずに病院で診てもらうことができます。また、感染症のリスクや後で症状が悪化する可能性があることを考えると、早めに手当てを受けることが大切です。

一方で、労災の申請が会社に与える影響を気にして、申請をためらってしまう人もいます。会社によっては労災申請が増えることで労働基準監督署から注目され、職場の管理が不十分だと見られるのを避けたいと考えることがあるようです。

また、労災の申請には一定の手続きが必要ですので、会社側がそれを負担に感じる場合もあります。

擦り傷程度で労災を使わなかったらどうなる?

労働者が擦り傷のような軽いケガで労災を利用しないことは可能ですが、労災の利用は労働者の権利であり、義務ではありません。

医療費が全額自己負担となる

労災を利用しない場合、医療費の全額を自己負担することになります。特に、軽いと思ったケガが後から悪化したり、治療が長引いたりするケースでは、結果的に大きな費用がかかる可能性があります。例えば、擦り傷が原因で炎症を起こし、消毒や抗生物質の処方が必要になった場合でも、労災を利用すればこれらの費用は全額補償されます。

一方で、労災が適用されるべきケースで健康保険を利用するのは制度上適切ではありません。また、健康保険を使用すると自己負担分が3割発生するため、経済的な負担が増加します。小さい傷やちょっとしたケガだからといって労災を使わない方がいいと決めつけず、労災を利用する方向で検討しましょう。

十分な補償が受けられない場合も

擦り傷が原因で通院が必要になったり、傷が悪化して仕事を休む必要が出た場合、労災を利用すれば治療費の負担がなくなるだけでなく、休業中の収入も補填されます。一方、労災を申請しないと、こうした補償を受けられず、自分で全てをまかなう必要があります。

万が一後遺症が残った場合、労災を利用していれば障害補償給付を受けることができますが、未申請のままだとこれも適用されません。労災保険は、軽いケガやちょっとしたケガにも対応しているため、利用しないことで不利益を被る可能性があります。

擦り傷のような小さな傷でも、「大したことがない」と自己判断せず、必要な補償を確実に受けるために労災を活用することが大切です。

擦り傷程度で労災を申請するメリット

擦り傷のような軽いケガでも労災を申請するメリットは多くあります。

医療費の自己負担がゼロになる

労災を利用すれば、病院での診察や治療にかかる費用がすべて保険で賄われるため、経済的な負担を気にせずに治療を受けられます。

ケガの記録を残せる

労災の申請を通じて ケガの記録を残すことも重要です。たとえ小さい傷やちょっとしたケガであっても、後から症状が悪化する場合があります。このようなとき、労災申請をしておくことで、治療の継続や追加の補償を受ける手続きがスムーズになります。

職場環境の改善につながる

小さなケガが起きた背景を見直すことで、職場が安全対策を強化するきっかけになるかもしれません。労災を申請することは、自分自身の安心と安全を守るだけでなく、働く環境の向上にもつながります。

擦り傷程度で労災を申請するデメリット

擦り傷のような軽いケガで労災を申請する場合には、デメリットも考えられます。

手続きがやや煩雑

労災申請には、労働基準監督署に提出するための書類提出や会社による証明が必要です。これが面倒に感じられ、時間がかかることもあります。

労災申請には、労働基準監督署への書類提出や会社による証明が必要となり、手続きに時間がかかることがあります。また、書類には、負傷状況や治療内容を記載する必要があり、医療機関や会社と連携して準備を進める必要があります。さらに、労災申請には事業主の証明が求められる場合が多いため、会社の理解がないと申請手続きがスムーズに進まないこともあります。

会社とのやりとりに気を使う

職場によっては、「ちょっとしたケガで労災を使うのは大げさでは?」という雰囲気がある場合もあり、申請する際に心理的な負担を感じる人もいます。

また、労災申請が増えると、会社が労働基準監督署から職場の安全管理について指摘を受ける可能性があるため、申請に消極的な場合もあります。
このような状況では、労災を申請することで周囲の目を気にしてしまうことがあるかもしれません。

擦り傷で労災適用された場合の補償内容

擦り傷のような軽いケガでも労災が適用された場合、 さまざまな補償を受けることができます。

療養(補償)給付

労災の適用により、診察費、薬代、検査費、通院時の交通費など、治療に必要な費用が全額補償されます。擦り傷の治療だけでなく、その後の通院や処置にかかる費用も全て保険で負担されるため、自己負担はありません。

例えば、擦り傷が原因で炎症が広がり、抗生剤の処方や複数回の通院が必要になった場合でも、その費用はすべて補償されます。この補償があることで、経済的な心配をせずに治療を受けることができます。

休業(補償)給付

ケガが原因で仕事を休まなければならない場合、休業中の収入を補填するのが 休業(補償)給付 です。休業初日から3日目までは事業主が平均賃金の60%を支払い、4日目以降は労災保険から給付基礎日額の60%が支給されます。さらに、特別支給金として給付基礎日額の20%が追加支給されるため、合計で平均賃金の80%が補償されます。

例えば、擦り傷が感染症を引き起こし、数日間の治療や安静が必要になった場合でも、この給付によって収入がゼロになる心配を減らすことができます。

障害(補償)給付

もしケガが深刻化して後遺症が残った場合には、 障害(補償)給付 が適用されます。この補償は、後遺症の程度に応じて一時金または年金として支給されます。擦り傷のような一見軽いケガでも、化膿や神経損傷などが原因で、後に機能障害が残る可能性があります。

例えば、深い擦り傷が原因で皮膚の感覚に障害が残った場合、この給付を申請して支援を受けることができます。

詳しくは下記をご覧ください。

関連:労働災害とは?労災保険の給付基準や申請方法までわかりやすく解説

擦り傷で労災を申請する際のポイント

擦り傷のような軽いケガでも労災を申請するには、正しい手順を踏むことが大切です。

労災を申請する場合は保険証を出さない

労災申請をする際には、健康保険証を使用しないことが基本です。労災保険は、業務中や通勤中に発生したケガや病気を対象とした制度であり、健康保険とは別の仕組みで運用されています。そのため、健康保険証を提示してしまうと、本来労災保険で処理されるべき治療費が健康保険で扱われ、不適切な処理となる可能性があります。

医療機関にかかる際には、健康保険証を提示せず、「労災保険の適用で治療を受けたい」と伝えれば、適切に対応してもらえます。もし健康保険証を提示してしまった場合でも、 後から労災申請をやり直すことは可能です。この場合、医療機関や労働基準監督署に相談して、労災保険への切り替え手続きを進めましょう。

参考:厚生労働省 2-1 健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか。

医療機関を選ぶ際は、労災病院や指定医療機関を利用すれば、治療費が直接労災保険から支払われるため自己負担はありません。

参考:厚生労働省 労災保険指定医療機関検索

労災病院や労災保険の指定医療機関を利用しない場合でも、労災保険は適用されますが、一時的に医療費を自己負担する必要があります。この場合、治療費を患者がいったん支払い、その後、労働基準監督署に必要な書類を提出して費用の払い戻しを受ける流れになります。

そのため、自己負担を避けたい場合は、これらの医療機関を利用することを検討するのが良いでしょう。

早めに職場へ報告する

ケガをしたら、速やかに職場の上司や労務担当者に報告しましょう。労災申請に必要な手続きを会社がサポートするためには、早めの報告が重要です。擦り傷やちょっとしたケガの場合でも、後から症状が悪化する可能性があるため、早めの報告が大切です。

必要な書類を準備する

労災申請には、いくつかの書類が必要です。最も基本的な書類は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」で、通院する医療機関が記入する部分と、会社が記入する部分があります。書類の内容を確認しながら、必要な情報を揃えていきましょう。

また、通院にかかる交通費の領収書や治療内容の記録も保管しておくと、申請がスムーズに進みます。

申請書類の提出先を確認する

労災の申請書類は、治療を受けた医療機関が労災保険指定医療機関である場合、医療機関が労働基準監督署に提出することが一般的です。ただし、指定医療機関でない場合や、医療機関が提出を行わない場合には、被災労働者や事業主が自ら提出する必要があるため、事前に監督署や医療機関に確認しておくと安心です。また、書類に不備があると申請が遅れる可能性があるため、提出前に職場の担当者と一緒に内容を確認するとスムーズです。

困ったときは専門家に相談する

申請手続きが不明確だったり、会社側が協力的でなかったりする場合には、労働基準監督署や労働組合に相談しましょう。また、社会保険労務士といった専門家に依頼する方法もあります。

関連:労災申請とは?手続きの流れや事業者の対応をわかりやすく解説

擦り傷程度でも労災を活用することが大切

擦り傷のような軽いケガでも、労災を利用することで治療費の自己負担をなくし、休業中の収入補填や後遺症が残った場合の補償を受けることができます。一方で、労災を使わない場合、治療費が全額自己負担となり、後々の補償が受けられなくなる可能性もあります。労災保険は、どんな小さい傷やちょっとしたケガにも対応しており、働く人の安心を支える制度です。

申請時には、早めの職場報告や必要書類の準備、医療機関への対応が大切です。会社が非協力的な場合でも、労働基準監督署や専門家に相談すれば、適切に手続きを進められます。労災を正しく活用して、経済的負担を減らし、安心して治療に専念しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

バックオフィス業務の知識をさらに深めるなら

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事