- 作成日 : 2026年10月28日
水増し請求とは?具体例や罰則・発覚時の対応を解説
水増し請求とは、本来支払われるべき金額を不正に増やして請求する行為です。取引先への過大請求だけでなく、従業員による経費の不正申請でも問題になります。
この記事では、水増し請求と架空請求の違い、外注費や交通費の事例、刑事・税務上のリスクなどを解説します。
水増し請求とは?架空請求や請求ミスと何が違う?
水増し請求は、実際の取引や契約上の根拠がある金額に、不正な上乗せをする請求です。 数量・作業時間などを偽る点に問題があり、単に相場より高額な取引とは区別します。
水増し請求は合意した代金に不正な上乗せをすること
水増し請求の判断では、合意した単価や数量、実際の提供内容と請求額の対応を確認します。 たとえば納品数量を実際より多く記載し、その分の代金を得ようとする行為が該当します。
原価に利益を加えた価格や、双方が合意した追加料金は、それだけで水増し請求にはなりません。定額契約で作業が早く終わった場合も、直ちに減額が必要とは限らず、実費精算か定額払いかという契約条件を踏まえて判断します。
架空請求は取引の実態がなく、請求ミスには故意がない
水増し請求は金額などを偽る行為、架空請求は存在しない取引の代金を請求する行為です。 「過大請求」は、本来より多く請求した状態を指し、単純な入力ミスも含む場合があります。
| 用語 | 主な違い | 例 |
|---|---|---|
| 水増し請求 | 実際の取引に不正な金額を上乗せする | 10個納品した商品を15個として請求する |
| 架空請求 | 請求対象の取引自体が存在しない | 実施していない点検費用を請求する |
| 請求ミスによる過大請求 | 不注意や計算間違いで金額が増える | 同じ明細を誤って二重登録する |
請求額の不一致だけで詐欺と断定せず、追加発注の有無や計算過程も調べます。
水増し請求になる例は?
水増し請求は、取引先への請求と、従業員から会社への経費申請のどちらでも起こり得ます。 共通するのは、請求書や領収書の記載と、実際の取引・支出が食い違っている点です。取引の全体が架空ではなく、一部だけを上乗せする場合もあるため、合計金額だけではなく明細の確認につなげましょう。
外注費・工事代金の数量や作業時間を増やす
実際の数量や稼働時間を基準に請求する契約で、その数値を偽れば水増し請求に当たり得ます。 工事で使用していない資材を計上するケースも同様です。
たとえば1時間5,000円で実働時間を精算する契約で、20時間の作業を30時間と偽れば、本来10万円の請求に5万円が上乗せされます。発注書だけでなく、作業日報や納品記録、追加工事の合意内容も確認しましょう。
交通費・宿泊費を実際の支出より多く申請する
実費精算の経費を、実際に支払った金額より多く申請する行為も水増し請求です。 例えば、宿泊費8,000円の領収書を改ざんして1万2,000円として申請すれば、4,000円が不正な上乗せになります出張規程に基づく定額の日当は実費精算とは異なります。支給方法を確かめずに「実費より多いから不正」と判断するのは避けましょう。
取引先と共謀し、上乗せ分を担当者に還流させる
担当者が取引先と示し合わせ、会社に余分な代金を支払わせて一部を受け取るケースもあります。 不正なキックバックを伴う水増し請求です。
たとえば正当な代金60万円に対し80万円を請求させ、その差額の一部を担当者個人に渡す場面が考えられます。ただし、正規の販売奨励金や紹介料まで一律に違法となるわけではありません。会社への開示、承認、支払根拠を分けて確認します。
水増し請求はどのような罪や法的責任につながる?
水増し請求は、相手をだまして金銭を受け取れば詐欺罪に当たる可能性があります。 ただし、「水増し請求罪」という独立した罪があるわけではありません。誰が何を偽り、どのように資金を取得したかによって適用される犯罪は変わります
詐欺罪・背任罪・業務上横領罪が問題になる
虚偽の請求で相手を誤信させ、代金を支払わせた場合は、詐欺罪が成立し得ます。 刑法246条の法定刑は10年以下の拘禁刑です。金銭を受け取る前でも、実行に着手していれば詐欺未遂が問題になります。
また、会社のために事務を処理する担当者が自己や第三者の利益を図り、任務に背いて会社に財産上の損害を与えた場合は背任罪、業務上預かる会社資金を着服した場合は業務上横領罪が問題になります。経費の不正申請が、必ず横領罪になるわけではありません。
偽りのインボイスの交付は消費税法違反になり得る
偽りの記載をした適格請求書(インボイス)などの交付には、消費税法上の罰則があります。 適格請求書発行事業者が虚偽の取引内容や金額を記載して交付する行為は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得ます。
紙の書類だけでなく、該当する電子データの提供も対象です。単なる記載ミスが見つかっただけで、直ちにこの罰則が適用されるわけではありません。
参考:適格請求書発行事業者公表サイトの検索結果とレシート表記が異なる場合|国税庁
不当に受け取った代金の返還や損害賠償が生じる
法律上の根拠なく受け取った上乗せ分は、不当利得として返還請求の対象になります。 また、故意・過失による違法な行為で損害を与えた場合は、不法行為に基づく損害賠償も問題になります。
本来50万円の代金について70万円を支払わせた場合、余分な20万円の返還などが検討されます。請求できる範囲は、取引の経緯や実際の損害によって変わります。返金したことだけで、既に成立した犯罪が消えるわけではありません。
水増し請求は税務調査で発覚する?税金への影響は?
水増し請求は、自社の請求書だけでなく、帳簿や取引先の資料との不一致から判明することがあります。 架空・水増し経費を使って税負担を減らしていれば、追加納税につながり得ます。
帳簿や取引先への確認から不整合が見つかる
税務調査では、取引先への確認で請求内容との食い違いが明らかになる場合があります。 調査対象者の申告内容を確認するため、取引先などに行う調査を「反面調査」といいます。
請求書と会計帳簿の金額が一致していても、納品数量や役務の提供状況、入出金の記録と整合しなければ、取引の説明が必要になります。社内監査や内部通報も確認のきっかけになるため、日頃から取引実態を示す資料を残しましょう
不正な経費計上には追加納税や重加算税のリスクがある
実態のない経費を計上して税額を少なく申告すると、その経費が否認され、追加納税が生じ得ます。 架空の仕入れには、消費税の仕入税額控除も認められません。
事実の隠蔽・仮装がある場合、重加算税は過少申告に伴うものが原則35%、無申告に伴うものが原則40%です。計算の基礎は水増しした請求額ではなく、不正に対応する追加の税額です。 加重措置が適用される場合や、延滞税が生じる場合もあります。
申告誤りと、帳簿の改ざんや取引先との共謀による不正は区別して判断されます。
水増し請求に気づいたら、どのように対応する?
水増し請求を疑ったときは、証拠の確保、請求根拠の確認、訂正・返金の協議という順で進めます。 最初から相手を不正と決めつけると、単なる行き違いだった場合に解決を難しくしかねません。関係資料を削除したり、口頭の説明だけで処理を終えたりするのも避けたい対応です。未払いか支払済みか、自社の不正か被害かを整理しましょう。
1.資料を保存し、契約内容と請求明細を照合する
請求書だけで判断せず、契約書・発注書・納品書・作業記録を突き合わせます。 関連するメールや承認履歴も、適法にアクセスできる範囲で保存しましょう。
そのうえで、「発注数量と請求数量の差について、計算根拠をご提示ください」など、確認事項を明示して問い合わせます。支払期日が迫っている場合は、争いのない代金と疑義のある金額を分け、保留できる範囲を契約に照らして判断します。正当な代金まで一律に支払停止しないよう注意しましょう。
2. 請求書の訂正・返金と会計処理の修正を進める
過大請求が確認できたら、正しい請求書と、支払済みの超過額の返金を求めます。 自社が過大に請求していた場合も、相手への連絡と訂正・返金を進めます。
インボイスの記載に誤りがある場合は、原則として発行者に修正版を交付してもらいます。必要事項を満たした仕入明細書を買手が作成し、売手の確認を受ける方法もあります。受領者が無断で金額を書き換えて済ませるのは避けましょう。
帳簿や申告済みの税額への影響も確認します。申告期限後に税額不足が判明した場合は、税理士と修正申告の対応を進めましょう。
3. 悪質な不正は弁護士・警察などに相談する
故意の不正が疑われる場合や返金に応じてもらえない場合は、資料をそろえて弁護士に相談しましょう。 被害額や交渉経緯を整理すると、返還請求や刑事手続の検討を進めやすくなります。
警察への緊急でない相談には、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」を利用できます。社内の上司が関与している場合は、その上司だけに報告せず、独立した内部通報窓口などにつなげましょう。
水増し請求を防ぐには、どのような仕組みを整える?
水増し請求の予防には、請求の確認を一人に任せず、取引の実態と承認過程を記録する仕組みが役立ちます。 請求書の受領から支払まで同じ担当者だけで完結すると、不正や誤りを見つける機会が減ります。小規模な会社でも、支払前に別の人が確認する方法から始められます。書類の照合、権限の分担、相談経路の三つを整えましょう。
発注・納品確認・支払承認を別の担当者に分ける
発注した人とは別の人が、納品や作業完了、支払内容を確認する体制にします。 複数の担当者が関わることで、一人の判断だけで不正な支払が完結するリスクを抑えられます。
たとえば発注は現場担当者、納品確認は現場責任者、支払承認は経理責任者に分けます。人数が少ない会社では、経営者が契約書と支払明細を確認するなど、自社の規模に合わせた方法を定めましょう。
請求書を根拠資料と紐づけ、変更履歴を残す
請求書・発注書・納品記録を一緒に確認できる状態にすると、数量や単価の不一致を発見しやすくなります。 工事や業務委託では、成果物や作業完了の記録も紐づけましょう。請求管理システムなどを利用する場合は、入力・承認の権限を分け、修正者と修正日時を追えるようにします。ただし、書類同士が一致していても実際の納品がない場合はあり得るため、電子化だけで確認を省略しない運用にします。
内部通報窓口を整え、不正な依頼を断れるようにする
水増しへの協力を求められた人が、上司を経由せずに相談できる窓口を設けましょう。 通報者の情報を限定して扱い、報復的な取扱いを防ぐ運用も整えます。
常時使用する労働者が300人を超える事業者に内部公益通報への対応体制の整備義務があり、300人以下では努力義務です。また、2026年12月1日には改正公益通報者保護法が施行され、保護対象へのフリーランスの追加や、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰の導入などが予定されています。 施行前から、受付対象や社内規程を見直しましょう。
水増し請求の返金請求に時効はある?いつまで請求できる?
水増し請求の返金請求には消滅時効があり、請求の根拠によって期間と起算点が異なります。 不当利得の返還を求める場合と、不法行為による損害賠償を求める場合を区別し、支払日や不正が判明した日を確認しましょう。
不当利得返還請求は原則5年または10年
不当利得返還請求は、返還請求できると知った時から5年、または請求できる時から10年の、いずれか早い時点で原則として時効が完成します。ただし、2020年4月1日より前に生じた請求権などには旧法が適用されるため、古い過払いは別途確認します。
不法行為による損害賠償請求は原則3年または20年
不法行為による損害賠償請求は、損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年の、いずれか早い時点で原則として時効が完成します。 不正が発覚してから20年間請求できるわけではありません。
時効が迫る場合は催告だけで終わらせない
内容証明郵便などによる催告だけでは、時効期間はリセットされません。 催告が相手に届いてから6か月間は時効の完成が猶予されますが、その間に再度催告しても延長できません。弁護士に相談し、期限内の訴訟提起などを検討しましょう。
水増し請求を防ぐために、請求の根拠と実態を確認しよう
水増し請求は、本来の金額を不正に上乗せする行為で、詐欺罪や返還請求、税務上の問題につながり得ます。ただし、請求額が高いだけでは不正と断定できません。契約内容と実際の取引を照合し、請求ミスや合意済みの追加料金とは区別しましょう。
不正請求が疑われるときは、資料の保存と事実確認を進め、訂正・返金や専門家への相談につなげます。日常業務では、担当者の分担と記録の管理、内部通報の体制づくりを進めましょう。
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