- 更新日 : 2025年8月5日
足場の積算とは?計算方法や種類、費用相場を解説
建築現場において、作業員の安全を確保し、効率的な工事を遂行するために不可欠な足場。その設置には決して無視できない費用が発生し、工事全体のコストに大きな影響を与えます。しかし、「足場積算」と一言でいっても、その方法は多岐にわたり、使用する足場の種類や工法、現場の状況によって大きく変動するため、正確な見積もりを算出することは容易ではありません。
この記事では、建築業に携わる皆様が足場積算の全体像を正確に把握できるよう、足場の積算方法の基礎から、主要な足場の種類ごとの費用相場、そして積算を成功させるための重要なポイントまでを解説します。
目次
足場積算の基礎と計算方法
足場積算は、工事の安全と効率を左右する重要なプロセスです。ここでは、足場積算の基本的な考え方と、一般的に用いられる計算方法について解説します。
足場積算の目的は、単に足場設置にかかる費用を算出するだけではありません。現場の安全性、作業効率、そして工事全体のスケジュールを考慮し、最も適した足場計画を立て、その上で適切なコストを見積もることが重要です。
足場積算の流れ
足場積算は、一般的に以下の流れで進行します。
- 現場調査と情報収集
敷地の形状、建物の高さ、周辺環境、搬入経路、作業スペースなどを詳細に調査します。 - 足場計画の立案
現場の状況と工事内容に合わせて、最適な足場の種類や設置方法を検討します。 - 数量の算出
計画に基づき、足場の部材、設置面積、延長などを算出します。 - 単価の適用
算出した数量に、各部材や作業ごとの単価を適用します。 - 諸経費の計上
運搬費、組み立て・解体費、安全対策費、管理費などの諸経費を計上します。 - 見積書作成
上記を総合し、見積書を作成します。
足場積算の計算方法
足場積算の計算方法は、大きく分けて「坪数計算(面積計算)」と「建物の外周計算(m計算)」の2つが主流です。
- 坪数計算(面積計算)
建物の建築面積(または延床面積)に、足場設置の目安となる係数を乗じて算出する方法です。主に木造住宅などの比較的小規模な建物で用いられます。- 計算式:建築面積(坪)×足場単価(円/坪)
- 係数は建物の形状や作業内容によって変動しますが、一般的には建築面積の1.1∼1.3倍程度が足場設置面積の目安とされることが多いです。
- 例:30坪の建物で足場単価が5,000円/坪の場合、30坪×5,000円/坪=150,000円(あくまで足場部分の目安であり、別途諸経費がかかります)
- 建物の外周計算(m計算)
建物の外周(または足場を設置する箇所の総延長)に、足場の高さと単価を乗じて算出する方法です。より大規模な建物や複雑な形状の建物、部分的な足場設置などで用いられます。- 計算式:(建物の外周長×高さ)×足場単価(円/㎡)
- この計算では、足場の設置面積を正確に算出し、それに単価を適用します。
- 例:外周40m、高さ10mの建物で足場単価が1,500円/㎡の場合、(40m ×10m) × 1,500円/㎡ = 600,000円(これも足場部分の目安であり、別途諸経費がかかります)
これらの計算方法はあくまで基本的なものであり、実際には現場の状況に応じた加算要素(例えば、狭小地での作業、特殊な設置方法、高所作業など)が考慮されます。
積算に必要な情報
正確な足場積算には、以下の情報が不可欠です。
- 建物の設計図書
平面図、立面図、断面図など。建物の形状、高さ、開口部の位置などを把握します。 - 敷地情報
敷地の広さ、高低差、隣地との境界、道路からの搬入経路などを確認します。 - 工事内容
どのような作業を行うのかによって、足場の強度や必要な広さが変わります。 - 工期
足場の使用期間が長くなればなるほど、レンタル費用や管理費が増加します。 - 作業員の動線
作業員の安全確保と効率的な作業のために、足場の配置や通路の確保を検討します。
これらの情報を総合的に分析し、最適な足場計画と積算を進めることが、費用対効果の高い工事を実現する第一歩となります。
足場の種類と費用相場
足場には様々な種類があり、それぞれに特徴と費用相場が異なります。ここでは主要な足場の種類を挙げ、その特徴とコストの関連性について解説します。適切な足場を選ぶことは、安全性の確保だけでなく、コスト削減にも直結します。
1. 枠組足場
最も一般的に使用される足場の一つです。鋼製の枠(建枠)を基本として、これにブレースや筋交いを組み合わせて組み立てます。
- 強度が高く、安定性に優れているため、中高層建築物の建設現場で広く用いられます。
- 組み立て・解体が比較的容易で、作業効率が良いとされます。
- 部材が規格化されており、統一された作業が可能です。
費用相場
800円/㎡~1,500円/㎡程度
高層建物では材料や人件費の条件により単価が上がるケースがあるため、見積時には現場環境や高さ要素を考慮してください。
適用する工事
マンション、オフィスビル、商業施設などのRC造、S造の中高層建築工事
2. 単管足場
単管パイプとクランプを組み合わせて構築する足場です。自由度が高く、狭い場所や複雑な形状の建物にも対応しやすいのが特徴です。
- 部材が細いため、狭い場所や変形した敷地での設置に適しています。
- 足場の形状を比較的自由に調整できるため、リフォームや改修工事など、既存の建物に合わせた柔軟な対応が可能です。
- 組み立てには専門的な知識と経験が必要です。
- 枠組足場に比べて、強度や安定性は劣る場合があります。
費用相場
700円/㎡~1,300円/㎡程度
組み立てに時間がかかる場合、レンタル期間や人件費が増加し、総コストも上がる可能性があります。
適用する工事
木造住宅の改修工事、部分的な補修工事、狭小地での工事、仮設通路など
3. くさび緊結式足場
「ビケ足場」や「セブン足場」などの名称でも知られ、緊結部にくさびを使用し、ハンマーで打ち込むことで強固に固定する足場です。
- 組み立て、解体が非常にスピーディーで、工期の短縮に貢献します。
- 緊結強度が高く、単管足場よりも安定性に優れます。
- 部材の管理が比較的容易です。
- 近年、住宅や低層建築の現場で急速に普及しています。
費用相場
単価: 900円/㎡~1,800円/㎡程度
部材費はやや高めですが、組み立て・解体費の効率が良いことでトータルコストが抑えられる場合があります。
適用する工事
木造住宅の新築・改修工事、低層集合住宅、店舗などの建築工事
4. その他(移動式足場、吊り足場など)
- 車輪が付いており、簡単に移動できる足場です。短期間の作業や部分的な高所作業に適しています。
- 費用相場: レンタル費用は1日あたり数千円~1万円程度。
- 橋梁工事やプラント工事など、下部に支える場所がない高所作業で使用されます。上部から吊り下げる形で設置されます。
- 費用相場: 特殊な工法のため、他の足場に比べて高価になる傾向があります。数万円/㎡以上となることもあります。
- 建物の一部から張り出す形で設置される足場です。敷地の制約がある場合や、建物の一部にのみ足場が必要な場合に使用されます。
- 費用相場: 設置の難易度に応じて変動しますが、一般的な足場より高価になる傾向があります。
これらの費用相場はあくまで目安であり、地域差、足場業者による違い、工事の規模、工期、現場の条件(狭小地、傾斜地、高所作業の有無など)によって大きく変動します。複数の業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。また、足場費用には、部材のレンタル費、運搬費、組み立て・解体費、養生シート費、管理費などが含まれることを理解しておく必要があります。
足場積算のポイント
正確な足場積算は、工事全体の利益を左右する重要な要素です。ここでは、足場積算を成功させ、コストを最適化するための具体的なポイントを解説します。
1. 図面と現場の徹底的な確認
最も基本的でありながら、最も重要なポイントです。設計図書(平面図、立面図、断面図)を細部まで確認し、建物の正確な寸法、形状、高さ、開口部の位置などを把握します。また、必ず現場に足を運び、以下の点を詳細に確認します。
- 敷地の状況
高低差、傾斜の有無、隣地との境界、周辺の建物や構造物との距離。 - 搬入経路
足場部材や重機を搬入するためのスペース、道路の状況、交通規制の有無。 - 作業スペース
足場を組み立て・解体する際の十分なスペースの確保。 - 地盤の状況
足場の基礎となる地盤の強度、排水状況。 - 障害物の有無
電線、看板、樹木、既存構造物などの障害物とその処理方法。 - 隣家への影響
騒音、振動、プライバシーへの配慮。
これらの情報を漏れなく収集し、積算に反映させることで、後々のトラブルや追加費用の発生を防ぐことができます。
2. 足場計画の最適化
現場の状況と工事内容に合わせて、最適な足場計画を立案することが重要です。
- 足場の種類選定
前述の足場の種類ごとの特徴と費用相場を理解し、工事内容、工期、予算に最も適した足場を選定します。例えば、短期間の小規模な作業であれば単管足場、中規模の住宅工事であればくさび緊結式足場、高層ビルであれば枠組足場など、適材適所を見極めます。 - 必要最小限の足場設置
無駄な足場を設置しないよう、本当に必要な範囲と高さを見極めます。例えば、一部のみの改修工事であれば、部分的な足場や移動式足場で済む場合もあります。 - 効率的なレイアウト
作業員の動線、資材の搬入経路、安全通路などを考慮し、最も効率的かつ安全な足場レイアウトを検討します。これにより、作業効率が向上し、結果的に工期短縮や人件費削減につながります。
3. 見積もり項目の詳細な確認
足場業者からの見積もりは、単価だけでなく、内訳を詳細に確認することが不可欠です。以下の項目が明確に記載されているかを確認しましょう。
- 足場本体費用
足場の種類、設置面積、単価、数量。 - 運搬費
足場部材の運搬にかかる費用。現場までの距離や搬入の難易度によって変動します。 - 組み立て・解体費
足場の設置と撤去にかかる費用。作業員の人数や作業時間によって変動します。 - 養生シート費
足場に設置するメッシュシートや飛散防止ネットの費用。 - 安全設備費
手すり先行工法費用、防音シート、朝顔(落下防止設備)、落下防止ネットなどの安全対策費用。 - 諸経費
現場管理費、廃材処理費、保険料など。 - 仮設通路・階段費
作業員の安全な昇降に必要な仮設通路や階段の費用。 - 期間延長に伴う費用
工期延長が発生した場合の追加費用についても、事前に確認しておきましょう。
不明な点があれば、必ず業者に質問し、納得できるまで説明を求めましょう。項目を細分化して提示してもらうことで、どこにコストがかかっているのかが明確になります。
4. 複数の業者からの相見積もり
足場業者によって、費用や提供サービス、得意とする足場の種類が異なります。複数の業者から相見積もりを取ることで、費用の適正価格を把握し、比較検討することができます。その際、単に価格の安さだけで判断するのではなく、以下の点も考慮に入れましょう。
- 過去の施工実績や評判、安全管理体制がしっかりしているか。
- 見積もり依頼へのレスポンス、質問への対応の速さ、丁寧さ。
- 現場状況に応じた最適な足場計画の提案があるか。
- 万が一の事故に備えて、適切な保険に加入しているか。
信頼できる業者を選定することは、工事全体の安全性と品質を確保する上で非常に重要です。
5. 交渉と契約条件の明確化
見積もり内容に納得したら、具体的な交渉に入ります。予算の範囲内でコストを抑えるための交渉は有効ですが、無理な値引きを要求しすぎると、品質低下や安全管理の不徹底につながるリスクもあるため注意が必要です。
最終的に契約を締結する際は、以下の点を明確に文書化しておくことが重要です。
- 工事範囲と足場の種類、規模
- 費用総額と内訳
- 工期(設置期間、解体期間)
- 支払い条件(前払い、中間払い、完了払いなど)
- 変更契約の条件(工期延長、仕様変更などが発生した場合の取り決め)
これらのポイントを押さえることで、足場積算の精度を高め、予期せぬトラブルや追加費用の発生を最小限に抑えることが可能になります。
足場積算における注意点
足場積算は多岐にわたる要素が絡み合い、予期せぬ事態が発生することもあります。ここでは、積算時に注意すべき点と、リスクを軽減するための対策について解説します。
1. 法規制・安全基準の遵守
足場の設置には、「労働安全衛生法」による厳格な法規制や安全基準が設けられています。これらを遵守しない足場は、重大な事故につながるだけでなく、法的責任を問われる可能性があります。
- 一定規模以上の足場を設置する際は、労働基準監督署への届出が必要です。
- 足場の組立て・解体作業には、足場組立て等作業主任者の資格を持つ者を配置しなければなりません。
- 足場の高さ、幅、手すりの設置、落下防止対策、墜落制止用器具の使用など、具体的な安全基準を常に最新の状態で把握し、遵守することが求められます。
積算時には、これらの安全対策にかかる費用も適切に計上することが重要です。
2. 想定外の追加費用とリスク
足場積算では、見積もり時には予測しにくい追加費用が発生するリスクも考慮する必要があります。
- 軟弱地盤や不整地の場合、地盤改良や特殊な基礎が必要となり、追加費用が発生します。
- 工事期間中に隣地で工事が始まるなど、周辺環境が変化し、足場の再配置や変更が必要になるケース。
- 強風や大雨など悪天候が続くと、作業が中断され、工期延長やレンタル費の増加につながります。
- 足場の設置や作業による騒音、振動、日照阻害などで近隣住民とのトラブルが発生し、対策費用や慰謝料が発生する可能性。
- 足場部材の破損や紛失が発生した場合、弁償費用が発生します。
これらのリスクを完全に排除することは困難ですが、事前にリスクを洗い出し、見積もり段階で予備費を計上したり、契約条件で明確化したりすることで、対応策を講じることが可能です。
3. 保険への加入
万が一の事故に備えて、足場業者や元請け業者が適切な保険に加入しているかを確認することも重要です。
- 請負業者賠償責任保険
足場工事中に第三者に損害を与えた場合の賠償をカバーする保険。 - 労災保険
作業員の負傷や死亡に対する補償。 - 建設工事保険
足場自体が損傷した場合の補償。
これらの保険が適切に適用されることで、予期せぬ高額な賠償責任や費用負担を軽減することができます。
4. 最新情報のキャッチアップ
建設業界の技術や法規制は常に変化しています。新しい足場工法の登場、安全基準の改定、資材価格の変動など、常に最新情報をキャッチアップすることで、より効率的で安全な足場積算が可能になります。業界団体や専門誌、セミナーなどを活用し、知識をアップデートしていくことが重要です。
これらの注意点とリスクヘッジ策を講じることで、足場積算における不確実性を減らし、より安定した工事運営へと繋げることができます。
足場積算で効率の良い作業を行いましょう
この記事では、足場積算の基本的な計算方法から、足場の種類ごとの費用相場、そして積算を成功させるための重要なポイント、さらには注意点とリスクヘッジまでを解説してきました。
足場積算は、単なる費用の算出に留まらず、工事の安全性、効率性、そして経済性を左右する戦略的なプロセスです。正確な積算は、無駄なコストを削減し、適切な見積もりを提示することで、顧客からの信頼を獲得し、競争力を高める上で不可欠な要素となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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