• 更新日 : 2025年8月5日

総合工程表(全体工程表)とは?目的や作成方法を解説

建設プロジェクト成功には、多岐にわたる要素の的確な管理が不可欠です。中でもプロジェクト全体の道筋を示し、関係者の共通認識を形成する「総合工程表(全体工程表)」は極めて重要です。この記事では、建築業の皆様へ、総合工程表の基礎知識から作成方法、効果的な活用法と注意点まで、専門的かつ分かりやすく解説します。

総合工程表(全体工程表)とは?

まずは、総合工程表の基本的な定義、多岐にわたる目的、重要性について解説します。

総合工程表の定義と基本的な役割

総合工程表(全体工程表)は、工事着工から完成までの全期間を対象に、プロジェクト全体の流れを把握する基本計画書です。各工種の関係性を時系列で整理し、プロジェクトの骨格を形成します。設計図書や現場調査などに基づき作成され、プロジェクト運営の基盤となります。これはプロジェクト全体の見通しを示す基本計画書であり、着工前に作成され、他の工程表や業者手配の基礎となります。

総合工程表作成の目的と重要性

総合工程表は、プロジェクトの計画的・適切な運営の根幹です。主な目的は以下の通りです。

  • 工事全体の流れの把握
    プロジェクト全貌を視覚化し、関係者の共通認識を形成します。これにより作業段取りや調整が円滑になります。
  • タスク管理とリソース配分
    必要な作業、資材、人員を計画的に配置し、効率化やコスト削減が可能になります。
  • 安全管理への貢献
    危険作業や輻輳箇所を事前に特定し、事故防止のための調整を可能にします。作業者の安全意識向上も期待できます。
  • 納期遵守と工期短縮
    各工程の時期を明確にし、納期遵守に貢献します。同時施工可能な作業発見などで工期短縮も検討できます。

明確で現実的な総合工程表は、関係者間の共通言語となり、コミュニケーションを円滑にします。曖昧な工程表は誤解や遅延の原因となるため、その明確性と正確性は極めて重要です。

総合工程表(全体工程表)の主な種類と特徴

総合工程表には複数の形式があり、プロジェクト特性に応じた選択が重要です。

バーチャート工程表

バーチャートは、各作業の開始日、終了日、期間を棒グラフで表す工程表です。横軸に時間、縦軸に作業項目を並べることで、作業の進行状況や重なりを一目で把握できます。

その最大のメリットと言えるのが、誰でも作成しやすい点です。シンプルな工程表であるため、誰でも直感的に理解でき、変更も容易に行えます。一方で、バーチャートには、複雑な作業の依存関係がわかりにくい側面があるため、大規模プロジェクトでは情報が煩雑になり不向きです。

これらの特性から、バーチャートは小規模から中規模で、工程が比較的シンプルなプロジェクトに適しています。たとえば、短期間のイベント準備や、工程が明確な製品開発の一部などで有効活用できます。

ガントチャート工程表

ガントチャートはバーチャートに類似した工程表で、縦軸に作業項目、横軸に時間(日付や週)を配置し、作業期間を横棒で示すシンプルなプロジェクト管理ツールです。バーチャートと同様、比較的作成が容易であるため、初心者にも扱いやすいことが特徴です。

ガントチャートの主なメリットは、視覚的に把握しやすい点に加えて、依存関係や前後関係も明確になることです。遅延や変更が生じた際は、即座に全体への影響を把握できます。一方で、ガントチャートは、誰がどのタスクを担当しているかが把握しづらいため、別途リソース管理をする必要があります。

これらの特性から、ガントチャートは中規模から大規模の、複数の工程が並列するプロジェクトに適しています。たとえば、長期間に及ぶ建物の新築工事や修繕、耐震工事などで有効活用できます。

バーンダウンチャート工程表

バーンダウンチャートは、横軸に進捗率や期間を配置することで、プロジェクトの進行状況を視覚的に示すツールです。

このチャートの主なメリットは、各作業の進捗状況が一目で把握できる点です。これにより、プロジェクト全体の進捗を効果的に追跡することが可能になります。

一方で、バーンダウンチャートにも課題があります。大規模なプロジェクトでは、チャート自体が複雑になりやすく、多数の作業が同時に進行する場合には、かえって情報が錯綜し、混乱を招く可能性があります。そのため、作成に手間がかかる場合もあります。

これらの特性から、バーンダウンチャートは大規模かつ複雑なプロジェクトや、進捗管理が特に重要視される現場での活用が推奨されます。

ネットワーク式工程表

ネットワーク式工程表は、プロジェクトにおける各作業の順序や関連性を矢印と結合点(ノード)で図示する管理手法です。この手法を用いることで、タスク間の依存関係を明確に把握でき、特にプロジェクトの完了に最も時間がかかる経路であるクリティカルパスの特定が可能になります。

ネットワーク式工程表の大きな利点は、プロジェクトの全体像と各タスクの依存関係を詳細に把握できることです。これにより、プロジェクトを進める上で特に重要な管理ポイントが明確になり、プロジェクトに必要な工期をより正確に計算しやすくなります。

しかし、この工程表は作成が比較的難しく、専門的な知識が求められる場合があります。また、個々のタスクの細かい進捗状況を把握するのにはあまり適していません。そのため、シンプルな小規模プロジェクトには、かえって手間がかかり不向きな場合もあります。

以上の特徴から、ネットワーク式工程表は大規模で複雑なプロジェクトや、工期厳守が強く求められる現場で特に有効なツールと言えます。

その他の工程表形式(グラフ式、曲線式等)

  • グラフ式工程表
    グラフ式工程表は、進捗状況を曲線グラフで表現するものです。これにより、プロジェクトの全体的な進捗と、各要素間の関連性を視覚的に捉えやすくなります。また、時間軸に沿った変化や、作業間の空間的な移動を把握しやすいというメリットもあります。しかし、作業項目が増えるにつれてグラフが複雑化しやすく、その読解にはある程度の慣れが必要となります。
  • 曲線式工程表(出来高累計曲線、Sカーブ)
    曲線式工程表の中でも、特に出来高累計曲線やSカーブと呼ばれるものは、プロジェクト全体の出来高(達成量)に基づいた進捗管理に優れています。このタイプの工程表は、計画と実績を比較するのに非常に便利で、プロジェクト全体の進捗状況を大局的に把握するのに役立ちます。しかし、全体の進捗は分かっても、個々の作業の詳細な進捗状況までは把握しにくいという側面もあります。

プロジェクト特性や管理目的により最適な形式は異なります。

主な工程表の種類と特徴比較

種類特徴メリットデメリット適した現場
バーチャート工程表縦軸に作業項目、横軸に日時を配置し、作業期間を横棒で示す作成が容易、全体のスケジュールを直感的に把握可能作業間の依存関係が不明確、進捗管理に不向き小~中規模、工程がシンプルな現場
ガントチャート工程表バーチャートに類似し、作業の進捗率も合わせて表示可能進捗状況の把握が容易、依存関係もある程度表現可能大規模になると複雑化しやすい、詳細な依存関係の表現に限界進捗管理を重視するプロジェクト、中~大規模プロジェクト
ネットワーク式工程表作業間の関連性や順序を矢印と結合点でネットワーク状に示すクリティカルパスの特定が可能、作業間の依存関係が明確作成・修正の難易度が高い、進捗の視覚的把握には不向き大規模・複雑なプロジェクト、工期遵守が厳格な現場
グラフ式工程表作業の進捗を曲線グラフで表現進捗と作業関連性を把握可能、時間と空間の移動が明確作業増で複雑化、読み取りに慣れが必要進捗の定量管理、特定の分析が必要な現場
曲線式工程表出来高の累積を曲線で示し、計画と実績を比較全体の進捗状況を把握しやすい、計画と実績の差異が明確各作業の詳細な進捗把握は困難、データ更新が必要長期・大規模工事、定期的な進捗報告が必要なプロジェクト

総合工程表以外の主要な工程表

総合工程表に加え、日々の作業管理には詳細な工程表が必要で、これらは総合工程表と階層的に連携します。

月間工程表・週間工程表

プロジェクトを円滑に進めるためには、大まかな計画だけでなく、より詳細な実行計画が不可欠です。そこで役立つのが、月間工程表と週間工程表です。これらは、プロジェクト全体の指針となる総合工程表の計画を、具体的な月単位・週単位の実行計画へと落とし込む役割を担います。

総合工程表との連携

月間工程表や週間工程表は、総合工程表から独立して存在するわけではありません。むしろ、総合工程表に基づいて、さらに詳細な作業内容や必要な人員配置などを具体化していくものです。そのため、これらの各工程表は常に整合性が保たれている必要があります。もし総合工程表に変更が生じた場合は、その内容を迅速に月間・週間工程表へ反映させることが、計画の遅延や混乱を防ぐ上で極めて重要です。

月間工程表のポイント

月間工程表を作成する際には、その月に予定されている主要な行事や、大型機材の搬入日などを明確に記載します。また、「5W1H」(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識して、各作業の具体的な内容や担当を明確にすることも大切です。さらに、進捗を管理するためのコントロールポイント(重要な節目)を設定することで、計画の進捗を定期的に確認できます。

週間工程表のポイント

一方、週間工程表は、さらに細かく日ごとの作業箇所、必要な人員、重機の稼働状況などを詳細に記述します。日々の作業を具体的に計画することで、予期せぬトラブルや遅延のリスクを早期に発見し、回避するためのツールとして活用できます。

細部工程表

プロジェクト管理において、全体の工程表だけでは情報が不足してしまう場合があります。そんな時に作成するのが、詳細工程表です。これは、特定の工種や特に複雑な作業など、より綿密な計画が必要な部分に特化して作成されます。その最大の目的は、「誰が・どこで・何をするか」を明確にすることにあります。

詳細工程表は、通常の工程表では十分にカバーできない情報がある場合や、関係者間でより詳細な打ち合わせが必要な際に非常に役立ちます。例えば、リスクの高い作業手順の確認や、複数の専門業者間の連携調整など、精度の高い計画と認識合わせが求められる場面で活用されます。

各工程表の効果的な連携と使い分け

総合工程表を頂点とする階層構造を意識し、各工程表の整合性を保ちます。総合工程表の変更は下位へ速やかに反映させます。プロジェクトのフェーズや目的に応じ、適切な詳細度の工程表(全体会議では総合工程表、日々の朝礼では週間工程表など)を使い分けます。

総合工程表(全体工程表)を作成する流れ

精度の高い総合工程表作成には段階的な作業が必要です。

1. 情報収集と条件整理

まず、プロジェクトの根幹となる設計図書や仕様書を徹底的に確認しましょう。これらには、プロジェクト全体の概要はもちろん、求められる品質基準や採用される工法など、工程を組む上で不可欠な情報が詰まっています。これらの情報を正確に把握することが、無理のない計画を立てる第一歩です。

次に、実際に現場調査を行います。現場の現在の状況を詳細に確認し、施工する範囲を明確に確定させましょう。また、資材の搬入経路や作業車両の動線など、車両経路も含めて把握しておくことで、作業の効率性や安全性を高める計画を立てることができます。

2. 計画立案

まず、工事のボリュームを正確に把握することから始めます。これは、見積書などを確認し、各作業の総量を理解するということです。次に、職人の標準作業効率(「歩がかり」と呼ばれることもあります)を考慮に入れ、それぞれの作業にかかるおおよその日数を算出します。この「歩がかり」の正確な把握が、作成する工程表の信頼性を大きく左右するため、非常に重要です。

次に、プロジェクトの主要な工程をリストアップし、大まかな流れを作成します。その後、その主要工程をさらに細かい作業に分解し、それぞれの作業がどのような順序で進むのか、そしてどの作業が他の作業に依存しているのか(依存関係)を明確にしていきます。

そして、それぞれの作業の施工期間を設定します。この際、単に日数を見積もるだけでなく、作業の難易度、利用できる人員や資機材の状況、さらには天候などの外部要因も考慮に入れ、現実的で無理のない期間を設定することが肝心です。

3. 工程表への落とし込みと可視化

計画立案が終わったら、いよいよそれを実際の工程表に落とし込みます。

まずは、プロジェクトの特性に最も合った適切な工程表の形式を選定します。ガントチャートやネットワーク式工程表など、様々な形式の中から最適なものを選びましょう。

最後に、選定した形式に従って、洗い出した作業項目、作業の順序、そして設定した期間などを工程表に具体的に記載し、視覚化していきます。これにより、誰もがプロジェクトの進捗状況や流れを理解できるようになります。

4. 関係者との協議・調整と合意形成

作成原案を基に関係者全員と協議し、意見を反映させ修正・調整します。このプロセスは計画の共同所有意識を醸成し、協調性を高めます。最終的な合意形成と承認で信頼性と実効性を高めます。

総合工程表(全体工程表)を活用する上での注意点

総合工程表は作成後も適切な運用が重要です。

正確性と実現可能性の担保

工程表の情報は最新かつ正確で、計画は現実的であるべきです。ただし、「全体工程表は掴み」と捉え、進行や協議を通じて徐々に精度を高めます。

予期せぬ遅延への対策

天候不順等に備え、計画段階でバッファを設けることが重要です。これはリスク許容度を反映した戦略的投資であり、個別作業やプロジェクト終盤に設定します。バッファがないと遅延時に大きなコストが発生する可能性があります。スケジュールに余裕を持たせ、納期遵守の確度を高めます。

定期的な進捗確認と計画の見直し・更新

定期的に進捗を確認し、計画との乖離があれば速やかに見直し・更新します。進捗の「見える化」で遅延の早期発見や柔軟な計画修正が可能です。

公共工事における特有の留意事項

公共工事ではより厳格な規定や様式があり、作業区分、工期表示等が細かく定められ、発注者によりフォーマットが異なることもあります。これらは透明性や説明責任確保のためです。契約後、期日までに工程表を提出し承認を得る必要があり、先行・後続工事との関連等も考慮します。仕様書等の事前確認が不可欠です。

工程表作成に活用できるツール

効率的で高精度な工程表作成には様々なツールや技術が活用されます。

工程表作成ソフトウェアの活用

専用のソフトウェアを使う主なメリットは、作成効率の向上、進捗管理の容易化、そして関係者間の情報共有の円滑化です。多くのソフトウェアは多機能で、他の業務も一元的に管理できるものもあります。

ソフトウェアを選ぶ際のポイントは、プロジェクトの規模、必要な機能、予算、操作性、そして既存のシステムとの連携が可能かなどを考慮することです。

Excelテンプレートの利便性と限界

広く使われているExcelテンプレートは、低コストでカスタマイズ性が高いという利便性があります。

しかし、その限界も理解しておく必要があります。複雑な管理や大規模プロジェクトには機能が不足しがちで、リアルタイムでの共有や複数人での同時編集が難しい場合があります。また、高度な機能がないため管理が属人化するリスクがあり、バージョン管理も煩雑になりやすい傾向にあります。

代表的な建築業向け工程表作成ツール

建築業向けには、以下のような代表的な工程表作成ソフトやアプリがあります。

有料ソフトの例としては、施工管理システムアイピア、ANDPAD、Smartsheet、ProjectCanvas、ダンドリワークなどが挙げられます。

フリーソフトや無料プランがあるものでは、KANNAやこうてい主任などがあります。

また、Excelテンプレートは、アイピア、bizroute、bizocean、Vector、Hotateの苦悩といった提供元から入手できます。

ニーズや特性に合わせ最適なツールを選択することが重要です。

総合工程表の目的を理解し、活用しよう

総合工程表は建設プロジェクトの計画・実行・管理に不可欠なツールです。この記事では定義、目的、種類、作成手順、注意点を解説しました。

総合工程表は全体の流れを可視化するとともに共通認識を形成し、タスク管理、リソース配分、安全管理、納期遵守、工期短縮に貢献します。プロジェクト特性に応じた種類選択が重要です。

効果的な作成には、情報収集、作業洗い出し、期間設定、関係者協議といったステップが必要です。「歩がかり」把握、バッファ設定、定期的な進捗確認と計画見直しが特に重要です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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