• 更新日 : 2025年8月5日

図面管理の方法は?種類や選び方を解説

建築プロジェクトにおいて、図面は設計者、施工管理者、職人など、すべての関係者をつなぐ共通言語であり、業務の根幹をなす最も重要な情報です。しかし、その管理が適切に行われていないと、「最新の図面がどれか分からない」「必要な図面を探すのに時間がかかる」といった問題が発生し、手戻りや工期の遅延、さらには重大な施工ミスに繋がるリスクさえあります。

この記事では、建築業に携わる皆様が抱える図面管理の課題を解決するため、具体的な管理方法とそのメリット・デメリット、そして自社に最適な方法を選ぶためのポイントをわかりやすく解説します。

図面管理で最も重要なこととは?

効果的な図面管理方法を検討する前に、まず「良い図面管理」とは何か、その本質を理解することが重要です。

図面管理の目的は、単に図面を保管することではありません。「必要な人が、必要な時に、正しい最新の図面を、迅速かつ確実に入手できる状態」を維持することにあります。この目的を達成するために、特に以下の3つの要素が不可欠です。

最新版の確実な共有

設計変更が頻繁に発生する建築プロジェクトでは、常に最新版の図面が正となります。古い図面を参照して作業を進めてしまう「先祖返り」は、大規模な手戻りや資材の無駄を発生させる大きな要因です。誰が見ても一目で最新版がわかる仕組みが求められます。

迅速な情報アクセス性

現場の職長から急な確認依頼があった際、事務所のキャビネットやサーバーの奥深くから図面を探し出すのに数十分もかかっていては、現場の作業は止まってしまいます。PCやタブレットから、キーワードや関連情報で素早く目的の図面を検索できる環境は、生産性を大きく左右します。

高度なセキュリティと版管理

図面は企業の機密情報であり、資産です。外部への情報漏洩を防ぐことはもちろん、誰が・いつ・どの図面を更新したのかという変更履歴(版管理)が正確に記録されていることは、トレーサビリティを確保し、万が一のトラブル発生時に原因を究明する上で極めて重要になります。

図面管理の3つの方法

それでは、具体的な図面管理の方法を3つのカテゴリーに分けて、それぞれの長所と短所、そしてどのような企業に向いているのかを見ていきましょう。

1. 紙の図面をファイリングして管理する

青焼きやコピーした紙の図面を、プロジェクトごとや部位ごとにファイリングし、キャビネットなどで物理的に保管する、最も伝統的な方法です。

メリット
  • 特別な機材やシステムが不要で、ファイルや棚があればすぐに始められます。
  • パソコンが苦手なベテラン社員でも、抵抗なく利用できます。
  • 大きな図面を広げて全体を俯瞰しやすく、複数人での打ち合わせ時に便利です。
デメリット
  • プロジェクトが増えるほど、大量の図面を保管する物理的なスペースが必要になります。
  • 目的の図面を探すのに時間がかかり、担当者不在時には見つけられないこともあります。
  • 紙の経年劣化や、現場への持ち出しによる破損・紛失のリスクが常に伴います。
  • 事務所に戻らなければ最新の図面を確認できず、遠隔地の関係者への共有に時間と手間(郵送やFAXなど)がかかります。
向いている企業
  • ごく小規模な工務店
  • 同時に動くプロジェクト数が少ない企業
  • IT化に抵抗がある従業員が多い企業
  • 特定の地域に密着し、現場と事務所が非常に近い企業

2. データで管理する

CADデータをはじめとする図面ファイルを、社内のファイルサーバーやNAS(ナス)、またはGoogle Drive™やDropbox™といったクラウドストレージサービスを利用して管理する方法です。多くの企業が紙管理からこの段階へ移行しています。

メリット
  • オフィスの省スペース化に繋がります。
  • ファイル名やフォルダ構成を工夫すれば、紙よりも格段に探しやすくなります。
  • 災害などによる原本消失のリスクを低減できます。
デメリット
  • 「A邸図面_FIX_最新_20250611.pdf」のようなファイル名が乱立し、どれが本当に最新版なのか分からなくなりがちです(先祖返りの温床)。
  • フォルダの作成ルールやファイル名の付け方が担当者によって異なり、管理がカオス化するケースが多く見られます。
  • アクセス権限の設定が甘いと、誰でも重要データにアクセスできたり、誤って削除してしまったりする危険性があります。
  • BIMデータなど大容量のファイルは、開くのに時間がかかったり、ストレージ容量を圧迫したりします。
向いている企業
  • 紙管理からのステップアップを目指す中小企業
  • ある程度のITリテラシーを持つ社員がおり、社内でルールを徹底できる企業
  • コストを抑えつつ、データ管理のメリットを享受したい企業

3. 図面管理システムを利用して管理する

建築・建設業に特化した「図面管理システム」や「プロジェクト管理ツール」を導入する方法です。図面の保管だけでなく、バージョン管理、情報共有、承認フローなどを一元的に管理するために設計されています。

メリット
  • 新しい図面をアップロードすると自動で版が更新され、常に最新版が表示されるため、「先祖返り」を根本から防ぎます。
  • 図面番号や工事種別、作成者など、図面に付随する様々な情報(属性情報)で検索できるため、目的の図面を瞬時に見つけ出せます。
  • 協力会社の担当者ごとに、閲覧・編集できる図面の範囲を細かく設定でき、安全な情報共有が可能です。
  • クラウドベースのシステムなら、現場のタブレットや遠隔地のPCから、いつでもどこでも最新情報にアクセスし、関係者間でスムーズなやり取りができます。
デメリット
  • 初期費用や月額利用料が発生します。
  • 新しいシステムのため、全社員が使い方を覚えるための時間や教育が必要です。
  • 自社の業務フローに合わないシステムを選んでしまうと、宝の持ち腐れになる可能性があります。
向いている企業
  • 複数のプロジェクトを同時に進める中堅〜大手企業
  • 設計変更が多く、バージョン管理に課題を抱えている企業
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、全社的な生産性向上を目指す企業
  • 協力会社との情報共有を効率化・円滑化したい企業

自社に最適な図面管理方法の選び方

「結局、自社にはどれが合っているのか?」と悩む方も多いでしょう。最適な管理方法を選ぶためには、以下の3つのステップで自社の状況を客観的に分析することが重要です。

1: 現状の課題を洗い出す

まずは、現在の図面管理で「困っていること」「時間のかかっていること」を具体的にリストアップしてみましょう。

  • 最新の図面を探すのに時間がかかることがある
  • 現場で確認したい時に、事務所に電話して確認してもらっている
  • 協力会社に送った図面が古かった、という指摘を受けたことがある
  • 過去の類似プロジェクトの図面を参考にしたいが、見つけ出せない

これらの課題が多く、深刻であるほど、より高度な管理方法(データ管理やシステム導入)を検討する必要性が高いと言えます。

2: 企業規模とプロジェクトの特性を考慮する

次に、自社の規模や事業の特性を考えます。

  • 従業員数・拠点数
    従業員が多く、支店や営業所が複数ある場合、情報共有の難易度が上がるため、システム化のメリットが大きくなります。
  • 同時進行するプロジェクト数
    年間に数棟の小規模な住宅を手がける工務店と、常時数十件の現場が動いているゼネコンとでは、管理すべき情報量が全く異なります。
  • プロジェクトの複雑さ
    設計変更の頻度や、関わる協力会社の数はどれくらいでしょうか。関係者が多く、変更が頻繁なほど、確実な情報伝達の仕組みが重要になります。

3: ITリテラシーと予算を確認する

最後に、現実的な視点で社内のITスキルレベルと投資可能な予算を確認します。

  • ITリテラシー
    社員全体のPCやスマートフォンの利用スキルはどの程度でしょうか。新しいツールの導入に前向きな社風か、それとも抵抗感が強いかによって、導入の進め方や選ぶべきシステムの難易度が変わります。
  • 予算
    図面管理の効率化に、どれくらいのコストをかけられるでしょうか。月額数万円から始められるクラウドサービスもあれば、数百万円規模の導入費用がかかるシステムもあります。課題解決によって得られる時間的コストの削減効果(費用対効果)も算出し、経営層に提案することが重要です。

これらの3つのステップを踏まえることで、「コストはかけたくないがバージョン管理は徹底したいから、まずはクラウドストレージで厳格なルール運用を試みよう」あるいは「現場の手間を削減することが最優先だから、操作が簡単な図面管理システムの導入を検討しよう」といった、自社に合った具体的な方針が見えてくるはずです。

自社にあった方法で図面管理を行おう

図面管理は、単なる事務作業ではなく、建築プロジェクトの品質、コスト、納期を左右する極めて重要な業務です。アナログな紙管理から、ファイルサーバーでのデータ管理、そして最新の図面管理システムまで、その方法は多様化しています。

それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、「現状の課題」「企業規模」「ITリテラシーと予算」という3つの視点から自社を分析することで、最適な管理方法が見つかります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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