• 更新日 : 2024年4月11日

工事進行基準の会計処理方法について

工事進行基準の会計処理方法について

工事進行基準は、請け負った仕事の進み具合に合わせて段階的に収益を会計処理していく方法です。

商品・サービスと対価の提供がほぼ同時に行われる小売業やサービス業などでは、売上の計上時期に迷うことはありません。買い掛けや売り掛けが生じた場合、複式簿記発生主義では、商品・サービスに対する契約や提供があった時点で売掛金買掛金を計上します。

ところが、仕事によっては完了までの期間が長期で対価も大きいため、1期1年間の会計では処理が難しいケースも出てしまいます。これに対処しようとした会計の考え方のひとつが、工事進行基準です。

「工事契約に関する会計基準」と工事進行基準

2009年4月1日より前の事業年度では、工事契約を会計処理する際には工事完成基準と工事進行基準のどちらで処理をするか選ぶことができました。しかし、2009年4月1日以降に開始する事業年度では、「工事契約に関する会計基準」の適用により、原則として工事進行基準で会計処理をしなければなりません。

「工事契約に関する会計基準」では、仕様や作業内容に関して取引相手の指示に基づいた建築、土木、造船、機械装置などの製造を請け負うものを「工事契約」と定義しています。また、受注によって制作されるソフトウエアについても、この会計基準が適用されるとしています。

「工事契約に関する会計基準」では、工事の原価や収益の総額、進捗度などの見積りについて信頼できるとされた場合には工事進行基準を採用するとしています。これらの見積りに信頼性がないとされる工事では工事完成基準を選ぶことになります。

工事進行基準と工事完成基準について

工事進行基準を採用した会計では、工事の進捗度に応じて総受領額(見積額)を分割した金額を計上します。

未収入金については、分割した金額と前金や中間金などを総受領額から差し引いた額を計上します。工事完成基準を採用した会計では、竣工によって引き渡しを完了した期日で総受領額を(未収入金の処理とともに)計上します。期中の未収入金の処理は総受領額から前金や中間金を差し引いた額になります。

法人税法における工事進行基準の適用について

法人税法では、2008年度の税制改革により、長期大規模工事の対象が2年以上から1年以上へ、請負の対価額が50億円以上から10億円以上へ改定されました。また、それまでは適用不可だった損失の見込まれる工事に対しても、工事進行基準が適用できるようになりました。

本来は、契約の発生と対価の受領という実現によってのみ認められるのが、処理の厳格化を求める制度会計においては一般的です。そのなかで、見積もり段階での計上を許可する工事進行基準は異例とも言えます。

これは、建築、土木、造船、機械装置などの製造においては、請負契約における収益の受領時期や金額があらかじめ保証されているという業界の慣例によります。

つまり、ほぼ見積もりどおりに対価が引き渡される可能性が高い業界・業態では、工事の完成(引き渡し)まで対価の受領時期を待たなくてもいいという考え方です。よって、受注製作であるIT業界におけるシステム構築に関する契約にも適用されたわけです。

工事進行基準の適用要件について

工事進行基準では、適用に成果の確実性が求められます。成果とは請け負った仕事の結果と対価を指します。内容については次のとおりです。

・工事収益総額
・工事原価総額
・決算日の工事進捗度

この3つの要素について客観的に見積もることができることが、工事進行基準適用の要件となります。なお工事完成基準では、契約のすべてが完成し、引き渡す時点で損益計上するため、内容が確実で処理も簡便です。

これに対して工事進行基準では、次のようなメリットをあげることができます。

・業績の管理を正確に行うことができる。
・原価管理の厳格化が期待できる。
・コスト意識が高まる。
・見積能力を向上させ競争力を高める。

工事進行基準では進捗やコストの見積もりへの信憑性が問われるので、どんぶり勘定が許されません。これによって管理の能力と意識が高まり、会社財務の健全化にも貢献します。

まとめ

工事進行基準は経理作業を煩雑にし、見積もりの信頼性を維持するために数字を調整するなどのデメリットを指摘する意見もあります。しかし、経営の透明性を高め、予算と進捗をしっかり行うことによって得られる競争力は、今後のグローバル化していくマーケットに欠かせない要件となるはずです。

参考:
収益及び費用の帰属時期の特例|国税庁

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