- 更新日 : 2025年2月19日
契約負債とは?ポイントはどう処理する?仕訳方法や管理をわかりやすく解説
契約負債とは、企業が顧客から受け取った着手金や付与したポイントについて、商品やサービスが未提供である場合の負債を指します。
ここでは、契約負債の定義や契約資産・前受金との違い、収益認識会計基準の導入背景、契約負債が計上される具体的なケースについてわかりやすく解説します。
目次
契約負債とは?
契約負債とは、企業が顧客から受け取った対価や受取期日が到来したもののうち、商品やサービスが未提供である場合の履行義務(負債)を表します。
着手金や手付金などの名目で受け取った代金に対して、これから提供する商品やサービスがある場合、その受領した代金については「契約負債」として負債に計上します。
これは、新たに導入された収益認識会計基準に基づき、商品やサービスを提供するなど、顧客に対する履行義務を充足した時点で収益として認識するためです。
契約負債の典型例は前受金であり、それ以外にもポイントの付与や商品券発行、サブスクリプション型のサービス提供などで計上されるケースが一般的です。
契約資産との違い
契約資産と契約負債は対照的な概念です。
契約資産は、企業が商品やサービスを提供したものの、まだ対価を請求する段階には達していない状況を指します。たとえば、ソフトウェアの開発を受注する場合において、開発の進捗に応じて収益計上を行っているものの、完成するまでは請求できない場合に「契約資産」として資産計上します。
一方、契約負債は、サービスや商品をまだ提供していない状態で、すでに代金を受け取っている場合に発生する負債です。
つまり、契約資産は「提供済み・未請求」であるのに対し、契約負債は「未提供・受領済み」となり、一連の取引における「権利」と「義務」を認識するための勘定科目です。
前受金との違い
契約負債と似たような勘定科目として「前受金」が挙げられます。前受金は、商品やサービスを提供する前に顧客から受け取った対価を指します。
前受金は契約負債の一部として扱われており、貸借対照表上の表示科目についても、契約負債ではなく前受金を使用する企業も少なくありません。
ただし、一般的に前受金は商品やサービスの着手金などを受領した際に用いられるのに対し、契約負債については、ポイントの付与や商品券の発行を行った場合にも使用される科目であるため、前受金よりも広い概念といえるでしょう。
契約負債が勘定科目に追加された背景
契約負債が勘定科目として追加された背景には、新たに導入された「収益認識に関する会計基準(以下、収益認識会計基準)」の影響が挙げられます。
収益認識会計基準の導入に伴い、企業会計における収益認識の考え方が大きく変わったことで、新たに契約資産や契約負債勘定が用いられることになりました。
新収益認識基準が2021年から適用
収益認識会計基準は、国際的な会計基準であるIFRSに準拠したもので、2021年4月からは上場企業などを中心に本格的な適用が始まりました。
収益認識会計基準では、収益として認識するタイミングについて、国際的な会計基準との整合性を図ることによって、財務諸表の透明性や比較可能性を向上させることを主な目的としています。
具体的には、顧客に対して商品やサービスを提供するなど、「履行義務が充足された段階で収益計上を行う」という考えに基づいており、従来の実現主義とは異なる基準が設けられています。
企業の履行義務の進捗を財務諸表に反映する
自社の商品を提供する前に代金を受け取ることで、顧客に対して「商品を提供する義務」を負うこととなります。このような「履行義務」を契約負債として計上することで、企業が負担している義務を財務諸表に表示させることが可能です。
具体的には、企業は顧客から受け取った手付金などを契約負債として計上し、履行義務が果たされたときに売上高へ振り替えます。
このように収益認識会計基準の導入によって、履行義務の進捗が正確に財務諸表へ反映されやすくなります。
契約負債が計上されるケース
契約負債が計上されるケースとしては、顧客から事前に代金を受け取る「前受金」が代表的です。ただし、以下のように、前受金の受け取り以外にも契約負債が計上されるケースはあります。
ポイント制度
小売業などを営む企業が顧客に対して商品やサービスを販売する際には、販売促進のためにポイントを付与する場合も多いです。
付与されたポイントは、将来的に顧客が商品やサービスを購入する際に使用できるため、企業にとっては「ポイントと引き換えに商品を提供する義務」を負うことになります。この義務が果たされるまで、ポイント相当額を契約負債として計上しなければなりません。
たとえば、1万円の売上に対して1,000円分のポイントを付与する場合、ポイントに対応する金額については契約負債として計上し、実際にポイントが使用されたタイミングか、あるいはポイントが失効した時点で売上高に振り替えます。
商品券の販売
企業が商品券やギフトカードなどを販売する際には、それらと引き換えに商品を引き渡すまでは「履行義務」となるため、受領した代金は契約負債として計上します。その後において、商品券が使用された際に、契約負債として計上した金額を収益へ振り替えましょう。
たとえば、1,000円の商品券を販売した場合、販売時点では1,000円を契約負債として計上し、顧客がその商品券を使用して商品を購入した際に、契約負債から売上高へ振り替えます。
サービス料の年払い
雑誌の定期購読料やサブスクリプション型のサービスなど、年払いなどで対価を受け取る場合も契約負債が発生します。
顧客が料金の前払いを行う場合、企業はその全額を契約負債として計上し、サービスを提供するたびに、契約負債から収益へ振り替えなければなりません。
たとえば、1年分の雑誌購読料12,000円を受け取った場合、代金の全額を契約負債とし、毎月雑誌を発行するごとに1,000円ずつ売上高に振り替えます。
契約負債の仕訳方法
商品やサービスの提供にあたって、事前に着手金や手付金を受け取る場合、以下のように仕訳処理を行います。
- 具体例
・商品代金100万円のうち、着手金として30万円を受領した。
・その後、商品を納品し、残金70万円が普通預金口座に入金された。
★着手金受領時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 300,000円 | 契約負債 | 300,000円 |
着手金の受領時には、商品は未納品の状態であるため、着手金の30万円は顧客に対する履行義務として契約負債で計上します。
★商品納品・残金受領時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 契約負債 | 700,000円 300,000円 | 売上高 | 1,000,000円 |
履行義務を充足した段階で収益として認識するため、着手金の対象となった商品を納品した時点で、契約負債を売上高に振り替えましょう。
ポイントの会計処理はどうすればいいのか?
企業が顧客にポイントを付与する場合、実際に顧客がポイントを使用するまでは将来の履行義務となり、契約負債として計上します。
具体的には、以下の仕訳例のように、ポイント制度に対応した収益認識を行いましょう。
- 具体例
・A商品1万円を販売し、次回来店時に使用可能な1,000円分のポイントを付与した。(付与したポイントはすべて使用される見込みであると仮定します。)
・5,000円のB商品販売時にポイントをすべて使用し、差額の4,000円を受領した。
★ポイント付与時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 10,000円 | 売上高 契約負債 | 9,091円 909円 |
この場合、顧客から受け取った1万円については、「A商品の販売」と「ポイント使用による(将来の)商品の引渡し」という2つの履行義務が含まれた対価となります。
ポイントとして付与した1,000円については、この時点では未使用であることから、将来の履行義務とみなされるため、付与時には収益として認識せず、契約負債として計上しなければなりません。
また、受領した1万円については、A商品1万円とポイント付与分1,000円の合計額に対する対価となるため、以下のように按分計算を行います。
・A商品の売上高:1万円×1万円/(1万円+1,000円)≒9,091円
・ポイント付与分:1万円×1,000円/(1万円+1,000円)≒909円
★ポイント使用時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 契約負債 | 4,000円 909円 | 売上高 | 4,909円 |
付与したポイントが使用されたことで履行義務が果たされるため、契約負債を売上高に振り替えます。その結果、全体の売上高は9,091円+4,909円=14,000円となり、実際の現金受領額の合計と一致します。
契約負債は財務状況の把握や予測で活用できる
契約負債を正しく管理することで、自社の財務状況をより正確に把握し、将来の財務戦略に役立てることができます。契約負債の活用例は以下の通りです。
将来の収益予測に活用する
契約負債は、将来の履行義務を表し、商品やサービスを提供するなど、義務が果たされたときに収益に振り替えられます。
したがって、契約負債の残高は、今後売上高として計上される金額を表しているため、将来の収益予測に活用することが可能です。
また、履行義務の進捗管理を通じて、経営陣はどのプロジェクトや契約が順調に進んでいるか、または遅延しているかを迅速に把握でき、適切な対策を講じることができます。
履行義務に付随する原価の発生を予測する
着手金や手付金などによって契約負債が計上された場合、商品やサービスを提供するためには原価の発生が見込まれます。
一般的に契約負債が増加するほど原価も増えるため、予算管理や原価管理の重要度も高まります。原価予測が不十分な場合、利益が下振れするリスクも高まり、企業の財務状況に悪影響を及ぼしかねません。
したがって、契約負債を管理する際には、将来の履行義務の充足に必要な原価を正確に予測し、進捗状況を慎重にモニタリングすることが重要です。
収益認識の変更点を理解し、契約負債をマスターしよう
契約負債は、企業が顧客から受け取った対価に対して、まだ履行していない義務を表します。収益認識会計基準の導入により、収益認識の考え方が変わったことで、契約負債に関する正確な会計処理が求められます。
また、契約負債を通じて将来発生する収益や原価を予測し、健全な財務戦略に役立てることも可能です。契約負債の考え方や仕訳処理をきちんと理解したうえで、適切な管理を心掛けましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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