- 更新日 : 2025年7月22日
新リース会計基準は日本でいつから適用?実務対応のポイント
2024年9月に「リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)」が適用指針とともに公表されました。適用対象となる企業は、2027年4月1日以降に開始する事業年度からは、新たなリース会計基準により運用されることになります。
この記事では、新リース会計基準の概要とともに適用時期等にフォーカスして解説します。
目次
新リース会計基準は日本でいつから適用?
新リース会計基準では、国際的な会計基準と同様に、借り手のすべてのリースについてオンバランスで処理することになりました。また、「リース」とする契約についても新たな判断基準が設けられています。まずは、新たなリース会計基準の概要について見ていきましょう。
新リース会計基準までの経緯
リース取引は、日本企業において広く利用されており、現行の「リース取引に関する会計基準」は、2007年に改正されたものです。
現行の会計基準では、リース取引であっても、オペレーティングリース契約の場合は、リース資産の所有権移転がないため、借り手は会計上資産や負債を計上せずにリース料を費用計上してきました。一方、ファイナンスリース契約については、基本的にそのリース資産と負債(リース債務)を計上しており、契約の形態が異なることにより会計方法が別々になっています。
経済的効果に大きな違いがなくても、契約の形態が異なるために処理が異なり、財務諸表上は違って見えるという状況にあります。(詳細については後述します。)
リース取引に関する会計基準改正のきっかけは、2016年の国際会計基準(IFRS)及び米国会計基準(US-GAAP)における新たなリース会計基準の公表です。国際会計基準、米国会計基準の双方とも「借り手のすべてのリースについて、資産及び負債を計上する」という基準が公表されました。
この公表を受けて、日本でも国際的な会計基準と整合する観点からリース会計基準の見直しが進められました。2019年3月から開発が始まり2023年5月に草案が公表されて、2024年9月に新たな基準として公表されたのです。
なお正式名称は、従来基準が「リース取引に関する会計基準」であるのに対し、新基準は「リースに関する会計基準」となります。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表|企業会計基準委員会
日本における適用時期
新リース会計基準の適用時期については、2024年9月の公表から適用時期までを2年半程度とし、さらに早期適用を認めることとなりました。
下図のとおり、2025年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度から新基準を早期適用することを認め、強制適用は2027年4月1日以後に開始する連結会計年度・事業年度の期首からとなりました。
新リース会計基準を適用予定となる多くの企業は、2025年度と2026年度は新基準適用のための準備期間となります。
参考:企業会計基準第34号リースに関する会計基準(第58項参照)|企業会計基準委員会
強制適用までの会計基準の参照について
早期適用により2027年4月以降強制適用までは、従来基準と新基準の両方が適用されますが、それぞれの基準の名称については次のとおりです。
現行リース基準 | 新リース基準 | |
---|---|---|
会計基準 | 企業会計基準第13号 「リース取引に関する会計基準」 | 企業会計基準第34号 「リースに関する会計基準」 |
適用指針 | 企業会計基準適用指針第16号 「リース取引に関する会計基準の適用指針」 | 企業会計基準適用指針第33号 「リースに関する会計基準の適用指針」 |
以下のサイトでは現行基準及び新基準の両方を参照できます。
そもそも新リース会計基準とは?
新リース会計基準とはどのようなものでしょうか?ここでは新リース会計基準の主な変更点として3点を紹介しましょう。
リース取引には貸し手と借り手があります。新基準では貸し手の処理にも一部変更があるものの、借り手において大きく考え方が変わったため、借り手の処理を中心に解説します。
現行リース会計基準との比較
新リース会計基準と現行基準の大きく異なる点は、現行基準にある「ファイナンスリース」「オペレーティングリース」という分類がなくなったことです。リースについては単一の会計処理が求められ、原則としてすべてのリース取引についてオンバランス処理します。
なお、オンバランスとは、財務状況を正しく反映するため、バランスシート(貸借対照表)に資産や負債を計上することを言います。
現行リース基準 | 新リース基準 | |
---|---|---|
売買取引に準じた会計処理 (オンバランス) | ➡ | すべてのリースについて資産と負債を計上する会計処理 (すべてオンバランス) |
賃貸借取引に準じた会計処理 (オフバランス) |
* ファイナンスリースとは、リース契約期間中に解約できず、契約中における資産価格やコストのほぼ全額を借り手が負担するリース取引を言います。
**オペレーティングリースとは、原則としてファイナンスリース以外のリース取引を言います。
新リース会計基準において借り手は、リース取引について「使用権資産」と「リース債務」を貸借対照表に計上することになります。
なお、新リース会計基準におけるオンバランスの例外として、次の規定等があります。
- 短期リース:リース期間が12カ月以内のものはオフバランスが認められる。
- 少額リース:300万円以下の少額なリースはオフバランスが認められる。
財務報告における表示と開示
新リース会計基準では、現オペレーティングリースの取り扱いが変更されることに伴い、営業損益への影響が生じます。同じリース物件を使い続けているにもかかわらず、貸借対照表だけでなく損益計算書にも影響があるわけです。
新たにリースに係る資産や負債が計上されると貸借対照表全体が大きくなり、財務指標(例えば自己資本比率や総資産利益率など)への大きな影響も考えられます。企業のステークホルダーには、これらの影響について、会計方針の開示だけでなく、数字を示して説明することが必要です。
そのために、財務報告における開示と注記の要件も変更され、具体的には次の項目を財務諸表で表示しなければなりません。
開示が必要となる項目
- (貸借対照表項目)使用権資産、リース負債
- (損益計算書項目)利息費用
貸借対照表への表示科目は、上記のとおり「リース資産」から「使用権資産」、「リース債務」から「リース負債」となります。なお、表示については「使用権資産」とせず、原資産の表示科目に含めて表示し、注記により「使用権資産」を明示する方法もあります。
リースの定義と識別方法の見直し
新リース会計基準において、リースの定義は次のように定義されます。
原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分
契約の一部分とは、その契約に「リース」となる要素が含まれていると、その部分については、新リース会計基準が適用されることを意味します。つまり、契約書に記載するような形式的なものではなく、実態から「リース」を判断することになります。
また、その取引がリースかどうかの識別の判断として、次のように定められています。
契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む
よって、その契約がリースであるかどうかの判断については、次の点についての検討が必要です。
- 契約締結時に資産が特定されているか
- 資産から生じる経済的利益のほとんどすべてを借り手が有しているか
- 借り手が資産の使用を指図する権利を有しているか
契約内容が上記に該当すれば、契約書に「リース」と明示がなくても「リースが含まれる」と判断されることとなります。すなわち、上記の判断基準に該当すれば、契約書に「リース」や「賃貸借」の記載がなくても、リースとしての会計処理が必要です。
店舗、事務所、駐車場をはじめ工場の工作機械や倉庫、トラックなど新たにリース取引に該当する物件は多くあると考えられます。
参考:企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針(第5項)|企業会計基準委員会
新リース会計基準が改正される背景
日本のリース会計基準の辿ってきた道を振り返りながら、今回リース会計基準が見直されることとなった背景を見ていきましょう。
参考:企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針 結論の背景|企業会計基準委員会
1993年:初めての制度化
日本のリース会計基準は1993年に初めて制度化され、1993年に「リース取引の会計処理及び開示に関する実務指針(日本公認会計士協会)」が公表されました。
この指針の特徴は、リース取引をファイナンスリースとオペレーティングリースに分類することです。ファイナンスリースについては売買取引としオンバランスに、そして、オペレーティングリースについては従来どおり賃貸借取引としオフバランスとすることとされました。
その後、国際的な基準と整合するため、2007年3月に企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」として公表されています。
2016年:IFRSや米会計基準の新基準公表
リースに関する会計基準が国際的にも見直され、2016年に国際会計基準において、リース会計基準が改正されて「IFRS16」として公表されました。ほぼ同様の内容で米国会計基準においても「Topic842」として公表されています。
これにより、特に「負債の認識」において日本基準と国際的な基準との違いが生じることになり、再度国際基準との整合性を鑑み、日本でも2019年3月から新たな基準の開発が開始されました。
2027年:新リース会計基準の強制適用へ
日本における基準見直しにおいては次の方針が定められました。
- 借り手の取り扱いについては、IFRS16と整合性を図る
- 国際的な比較可能性を損なわない範囲において、代替的な取扱いや経過措置を設ける
なお、実務上、新基準に従うことが著しく困難な状況が識別された場合等には、「別途の対応」を企業会計基準委員会にて判断することとなっています。
新リース会計基準に対応するためにやるべきこと
新リース会計基準の適用対象企業は、主として上場会社及び会社法上の大会社*です。これらの企業において、新基準の適用に向けて必要な準備を見てみましょう。
*資本金5億円以上または負債200億円以上
影響の大きいものから計画的に準備
新リース会計基準の適用は、財務諸表(特に貸借対照表)へのインパクトが大きいため、十分な準備期間を設けて対応を進めることが重要です。
オペレーティングリース取引として処理していたものが多いほど、また、新基準でリースの対象とされる不動産賃貸借契約等の契約が多いほど、貸借対照表への影響が大きいと言えます。(総資産や総負債の金額が増大します。)
そこで、2027年4月1日以降の強制適用までの期間において、企業が実施すべき作業として次のものが挙げられます。これらのうち、影響の大きなもの、作業に時間を要するものの重みづけを行い、優先度順に片づけていきましょう。
- 財務諸表への影響を調査・分析
基準が変わることによって、財務諸表へどのような影響があるのかを調査、分析する必要があります。 - 現状のリース契約の洗い出し
自社の現行リース契約を把握し、新基準の対象となる契約を特定します。現時点ではリースとしていない契約で、新基準ではリース契約に該当するものを抽出しましょう。 - 契約の見直し等
契約を見直すことによってリースに該当するものや、リースに該当しないものがあれば、いつのタイミングでどのように見直すのか契約相手との交渉が必要です。 - システム対応への準備
具体的な処理方法について、システムの導入等を検討する必要があります。 - 開示情報の準備
リース情報の開示としては、「会計方針に関する情報」「リース特有の取引に関する情報」「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」が必要です。どのような記載とするのかを検討します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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