- 更新日 : 2024年8月8日
前受収益とは負債の勘定科目!仕訳方法や前受金との違いをわかりやすく解説
前受収益、前受金、仮受金など貸借対照表に似たような勘定科目名を見ることがありますが、これらの勘定科目はどれも負債に分類されます。
この記事では、前受収益の意義や仕訳方法、また前受金などとの違いについて解説します。
目次
前受収益とは?
前受収益とは、サービスなど継続的に役務を提供する契約において、まだ役務を提供していない未経過分の金額を計上するための勘定科目で、適正な損益計算を行うために使用する経過勘定です。継続的なサービスの提供について、費用や収益をそれぞれの帰属する期間に配分する場合に使われるのが経過勘定であり、前受収益もその一つなのです。英語では”Unearned revenue”などと表現します。
例えば、会計期間が4月から3月までの場合、12月1日に向こう1年分のサービス料金を受けたとします。

決算の3月末においては翌期の4月から11月の8ヶ月分のサービスは提供していないため、未経過分の受入額を前受収益として認識します。
前受収益は貸借対照表の負債の勘定科目
前受収益は期間損益を正しく計算するために決算時に計上される「収益の繰り延べ額」であり、貸借対照表の負債の部に計上します。
前受収益は、企業会計原則注解には次のように規定されています。
前受収益は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を行う場合、いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の収益となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない。また、前受収益は、かかる役務提供契約以外の契約等による前受金とは区別しなければならない。
引用:企業会計原則注解5(2)
前受収益となる具体的例としては、次のようなものが挙げられます。
- 未経過の役務(期間の認識のあるサービス等)提供
- 未経過の受取利息
- 未経過の受取家賃、地代
- 未経過の受取手数料
また、期間のある保険料、保証料などの前受額も前受収益に含まれます。
なお、前受収益は次期以降の収益となるため、翌期には振替仕訳によって収益に振り戻します。
ワン・イヤー・ルールの適用について
前受収益にワン・イヤー・ルールが適用されるかどうかは、まず、その収益が「それを主たる営業活動としているかどうか」によって判断されます。
ワン・イヤー・ルールは、流動資産と固定資産、または、流動負債と固定負債を仕切る基準ですが、前受収益が「営業活動に直接関係する」ものであれば正常営業循環基準が適用され、役務の提供が1年超となっていても流動資産として計上されます。
すなわち、まず、正常営業循環基準により区分し、次にワン・イヤー・ルールを適用します。
長期前受収益とは?
長期前受収益とは、前受収益のうち、決算日から1年超となる期間を経て収益となるものを区分した経過勘定です。長期前受収益となるものは、ワン・イヤー・ルールの適用を受け、固定負債に計上されます。毎年の決算において、長期前受収益を前受収益に振り替えを行います。
この振替によって
- 流動負債としての前受収益
- 固定負債としての長期前受収益
が貸借対照表上、適正に表示されます。
例えば、会社の資金繰りが潤沢である理由の一つに長期前受収益(固定負債)が多いことが原因だと分かれば、流動負債だけであるより安定性が大きいと言えます。
前受金・仮受金との違い
まだ提供していない役務に対して、当期に前もって支払を受けた対価を計上するための経過勘定を前受収益と説明してきましたが、前受金、仮受金もそれぞれ負債の部に表示される勘定科目です。これらは前受収益とはどのように違うのでしょうか?
前受金との違い
前受金は、まだ提供していない商品等に対する前受代金です。
前受収益との違いは、前受収益がサービスの提供など「期間」をもつ商品であるのに対し、前受金は「期間」の考え方はなく、時の経過とともに収益化されるものではありません。提供すべき商品等を引き渡した時点で前受金は現預金などに振替えられます。
前受金についての詳細は、以下の記事を参照下さい。
仮受金との違い
仮受金は、先に代金を受け取っているという点では前受金や前受収益と同じですが、仮受金はその受取ったお金の内容が未解決で、最終的な会計処理を確定できない場合に利用します。
例えば、売掛金が1,000円であるにもかかわらず、得意先から1,200円の振込があった場合、1,000円部分は売掛金の回収として消込をしますが、200円については内容が判明するまで「仮受金」として計上する等の使い方をします。
仮受金についての詳細は、以下の記事を参照下さい。
前受収益の仕訳方法
前受収益を認識するのは、決算時点が多いかと思います。上記で挙げた例に基づき前受収益の具体的な仕訳について、金額を付し、さらに消費税も含めて考えてみます。
会計期間が4月から3月までの場合に、12月1日に向こう1年分の事務機器の保守サービス料13,200円(税込)を受けたとします。(1ヶ月1,000円+消費税100円が明示されているものとします。)
決算の3月末においてはまだ4月から11月の8ヶ月分のサービス期間は経過していないため前受収益として計上することとなります。消費税は税抜き方式で起票することとします。
入金時
起票時においては、売掛金であっても同様の起票になります。
13,200円 | 12,000円 | ||
1,200円 |
決算時
前受収益として振替処理をする場合には、入金の状況を確かめておきます。前受収益は「すでにお金を受取っている」ことが前提となります。未経過分の保守サービスは12,000円×8/12=8,000円となります。
この場合の消費税の考え方として、現実にサービス(資産の譲渡等)を行った時に仮受消費税を認識するため、仮受消費税も未経過部分に含まれます。
8,000円 | 8,800円 | ||
800円 |
翌期
翌期には、再振替仕訳をします。決算時の逆仕訳となります。
8,000円 | 8,000円 | ||
800円 |
そもそも契約により入金時に期間按分が可能であるため、入金時と決算時の仕訳を1つにする方法もあります。さらに、会計システムに定期的な売上を管理して計上する機能がある場合は自動起票されるケースもありますが、以上はよくある振替例となります。
前受収益のポイントをおさえよう
前受収益は、業種や業態により発生しない会社も多いかと思います。
しかしながら、未収収益、前払費用、未払費用などとともに経過勘定の使い方をマスターすることによって、損益計算書と貸借対照表との関係がよりよく理解できるようになります。前受収益のポイントである「未提供の役務」、「当期中の入金」等のキーワードをこの機会に覚えておきましょう。
よくある質問
前受収益とは?
サービスなど継続的に役務を提供する契約において、まだ役務を提供していない未経過分の金額を計上するための勘定科目で、適正な損益計算を行うために使用する経過勘定です。詳しくはこちらをご覧ください。
前受金との違いは?
前受収益がサービスの提供など「期間」をもつ商品であるのに対し、前受金は「期間」の考え方はなく、時の経過とともに収益化されるものではありません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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