• 更新日 : 2025年10月22日

安全衛生管理計画書の書き方とは?建設業の記入例や全建統一様式、作成義務まで解説

建設現場の安全性を確保し、労働災害を未然に防ぐためには、実効性のある安全衛生管理計画書の作成が不可欠です。しかし、具体的に何をどのように書けばよいのか、とくに全建統一様式などの書式を前に戸惑う方もいるかもしれません。

この記事では、安全衛生管理計画書の基本的な考え方から、建設業で用いられる具体的な記入例、作成義務の有無、さらには形骸化させないための運用ポイントまで、専門家の視点からわかりやすく解説します。

そもそも安全衛生管理計画書とは何か?

安全衛生管理計画書は、工事現場や事業所における労働災害を防止するために、具体的な目標や活動計画を定めた重要な書類です。この計画書を作成し、関係者全員で共有・実践することで、組織的かつ計画的な安全衛生活動を推進できます。

安全衛生管理計画書の目的と重要性

安全衛生管理計画書の最大の目的は、現場に潜む危険性や有害性(リスク)を事前に洗い出し、それらに対する具体的な対策を計画することで、労働災害を未然に防ぐことにあります。

また、元請負人から協力会社まで、工事に関わるすべての作業員が安全衛生に関する方針やルールを共有し、安全意識を統一するためのコミュニケーションツールとしての役割も担っています。明確な計画があることで、安全パトロールや教育訓練も効果的に実施できるようになるでしょう。

作成と提出は義務か?

労働安全衛生法において、すべての事業者に安全衛生管理計画書の作成が直接義務付けられているわけではありません。しかし、同法では事業者が労働者の安全と健康を確保するための措置を講じることを義務付けており、その具体的な手段として安全衛生管理計画書の作成が極めて有効です。とくに建設業では、元請負人が労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)の指針に基づき、下請負人(協力会社)に対して計画書の提出を求めることが一般的です。実質的に、建設現場を運営するうえで作成は必須といえるでしょう。

参照:令和6年度コスモス説明会|検察庁

安全衛生管理計画書の基本的な書き方は?

安全衛生管理計画書は、まず工事の基本情報や組織体制を明確にし、次にリスクアセスメント(危険性の特定と評価)の結果をふまえて、具体的な安全衛生目標と実施事項を定める手順で作成します。

作成前の準備

計画書を作成する前に、以下の情報を整理・準備しておくとスムーズに進みます。

  • 工事情報: 工事名称、場所、工期、発注者、工事概要など
  • 組織体制: 統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者、職長など、現場の安全衛生管理体制図
  • 作業内容の把握: 施工手順書や作業標準を確認し、どのような作業が行われるかを把握する
  • リスクの洗い出し: 過去の災害事例やヒヤリハット報告を参考に、今回の工事に潜む危険性や有害性をリストアップする

基本的な構成要素

様式によって項目は異なりますが、一般的に以下の要素が含まれます。これらの項目を網羅することで、計画書としての実効性が高まります。

構成要素主な内容
基本情報工事名称、工期、場所、事業所名など
安全衛生方針・目標「墜落・転落災害ゼロ」など、当該工事における具体的なスローガンや数値目標
安全衛生管理体制責任者や指揮命令系統を示した組織図
重点実施事項目標達成のためにとくに力を入れる具体的な安全衛生活動(例:足場からの墜落防止措置の徹底)
安全衛生活動計画安全協議会、安全パトロール、健康診断、安全衛生教育などの年間または月間スケジュール
リスクアセスメント特定された危険性・有害性とそのリスクレベル、具体的な低減措置
緊急時の措置事故や災害発生時の連絡体制、応急処置、避難経路など
使用機械・設備クレーンや車両系建設機械など、現場で使用する主要な機械とその安全対策

わかりやすく書くためのポイント

計画書は、現場で働くすべての人に理解されなければ意味がありません。専門用語の多用は避け、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」行うのかが明確にわかるように、具体的かつ簡潔な表現を心がけましょう。図やイラスト、写真などを活用して視覚的に伝える工夫も効果的です。

【建設業向け】工事安全衛生計画書の具体的な記入例は?

建設業では、全国建設業協会(全建)が定める「全建統一様式」を用いて工事安全衛生計画書を作成することが一般的です。ここでは、とくに使用される機会の多い「全建統一様式第6号」を例に、具体的な記入方法とポイントを解説します。

全建統一様式第6号の概要

全建統一様式第6号(工事安全衛生計画書)は、建設現場における安全衛生活動の基本情報を網羅した書式です。主に協力会社(下請負人)が作成し、元請負人に提出するために使用されます。この様式に沿って記入することで、元請負人が求める情報を漏れなく伝えることができます。様式は全国建設業協会のウェブサイトからダウンロードできますが、エクセル形式のテンプレートも広く利用されています。

各項目の記入例と注意点

以下に、全建統一様式第6号の主要な項目の記入例と注意点を示します。

  • 事業所の名称・所在地: 実際に工事を担当する支店や営業所を記入します。
  • 工種・工期: 工事で行われる工種と、それぞれの工種別の工事期間を記載します。
  • 工事安全衛生目標: 「無事故無災害の達成」といった抽象的な目標だけでなく、「墜落・転落災害ゼロ」「飛来・落下災害ゼロ」のように、災害の種類を特定した具体的な目標を設定します。
  • 工事安全衛生方針:「安全を最優先とした施工に徹する」「すべての作業における労災ゼロ」など、 安全衛生に関する基本的な考え方や取り組み姿勢などを記入します。
  • 資機材・保護具・資格の区分/その種類: 資機材や保護具、資格について該当する欄に記入します。
  • 日常の安全衛生活動: 現場で毎日あるいは定期的に行う安全衛生活動の内容を記述します。
    記入例:

    • 新規入場者教育の徹底(毎月第1月曜日)
    • 職長による作業開始前KY(危険予知)活動の毎日実施
    • 安全帯(墜落制止用器具)の特別教育受講者の配置
  • 危険性又は有害性の特定: 高所作業や重機作業などの区分に応じ、工事で起こりうる危険について具体的に記入します。
  • リスクの見積もり: 「危険性又は有害性の特定」で示した項目に対し、危険性のレベルを数値で評価します。
  • リスク低減措置内容の検討:安全帯の使用や、立ち入り禁止区画の設定など、リスクに対して、具体的にどのような対処をするかを記入します。
  • 職名・氏名・再下請会社の関係者の職名・氏名・会社名等:それぞれについて、該当する項目に記入します。
  • 添付書類: 作業手順書、クレーン等の設置届、各種資格者証の写しなど、元請負人から指示された書類を添付します。提出前に必ず元請負人に必要書類を確認しましょう。

エクセルテンプレート活用のメリット

全建統一様式は、エクセル形式のテンプレートとして配布されていることが多くあります。エクセルを活用するメリットは、一度作成したデータを別の工事に流用でき、作成時間を短縮できる点です。また、計算機能を使えば人員集計などが容易になります。自社で使いやすいようにカスタマイズすることも可能ですが、元請負人から指定された様式がある場合は、その指示に従う必要があります。

年間安全衛生管理計画書の作成ポイントは?

工事ごとの計画書とは別に、事業所としての一年間の安全衛生活動を定めるのが「年間安全衛生管理計画書」です。これにより、場当たり的ではない、長期的かつ継続的な安全衛生水準の向上が期待できます。

年間計画と個別工事計画の違い

個別工事の計画書が特定の現場のリスクに対応するものであるのに対し、年間計画は会社全体の安全衛生に関する方針や教育、健康管理といった包括的な内容を定めます。

項目個別工事安全衛生計画書年間安全衛生管理計画書
対象特定の工事現場会社または事業所全体
期間工事期間中1年間(例:4月1日〜翌年3月31日)
主な内容当該工事のリスク対策、作業手順全社的な安全衛生方針、年間目標、教育計画、安全パトロール計画、健康診断の実施計画など

年間計画に盛り込むべき内容

年間計画には、以下のような項目を盛り込み、計画的にPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を回していくことが重要です。

  • トップの安全衛生方針表明
  • 年間の安全衛生目標(労働災害発生率の低減目標など)
  • 安全衛生委員会の開催スケジュール
  • 安全衛生教育の年間計画(職長教育、特別教育など)
  • 内部安全パトロールの実施計画
  • 健康診断、ストレスチェックの実施計画
  • 全国安全週間、労働衛生週間などの行事計画

安全衛生管理計画書を作成する際の注意点はあるか?

安全衛生管理計画書は、作成して提出することがゴールではありません。現場で実際に機能させ、安全性を高めるためには、形骸化を防ぎ、関係者全員に内容を浸透させる工夫が求められます。

形骸化させないための工夫

計画が形だけのものにならないようにするためには、現場の実態に即した、実現可能な目標と計画を立てることが重要です。リスクアセスメントを丁寧に行い、作業員からの意見も取り入れながら、現場の誰もが「自分たちのための計画だ」と感じられる内容にしましょう。また、計画の進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて見直す柔軟な姿勢も大切です。

関係者への周知と共有の重要性

作成した計画書は、安全協議会や朝礼、KY活動などの場を活用して、元請負人から協力会社の作業員一人ひとりにまで、その内容を確実に周知徹底する必要があります。とくに、どのような危険があり、そのためにどのようなルールが定められているのかを全員が正しく理解していなければ、計画は絵に描いた餅になってしまいます。現場の見える場所に計画書を掲示するなどの工夫も有効でしょう。

現場の安全は実効性のある安全衛生管理計画書の作成から始まる

安全衛生管理計画書の作成は、建設現場における災害防止活動の第一歩です。その書き方を正しく理解し、全建統一様式などの書式を適切に活用することで、現場に潜むリスクを明確にし、具体的な対策を講じることができます。

重要なのは、一度作成した計画を見直し、常に現場の状況に合わせて更新し、関係者全員で共有・実践していくことです。実効性のある計画書こそが、安全で健康的な職場環境を実現する礎となるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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