• 更新日 : 2025年8月5日

熱中症の治療費は保険適用?勤務中に熱中症になった場合も解説

夏の厳しい暑さは、屋外だけでなく屋内作業においても熱中症のリスクを高めます。特に、建設現場や工場、厨房など高温多湿な環境で働く方々、そしてそこで働く従業員の健康と安全を管理する会社役員の皆様にとって、熱中症対策と万が一の際の治療費の問題は喫緊の課題です。

この記事では、熱中症の治療費にどのような保険が適用されるのか、勤務中に熱中症になった場合の具体的な対応、そして近年注目される民間の熱中症保険について、最新の法改正情報も交えながら詳しく解説します。

熱中症の治療費に保険は適用される?

熱中症は、軽度なものから命に関わる重篤な状態まで様々です。まずは、熱中症の症状、治療法、そして治療費にどのような保険が適用されるのか、基本的な知識を整理しましょう。

熱中症の症状レベルと一般的な治療法・費用

熱中症の症状は、重症度によって大きく3段階に分けられます。

  • Ⅰ度(軽症)
    めまい、立ちくらみ、筋肉痛(こむら返り)、大量の発汗など。現場での応急処置で対応可能な場合が多いです。
  • Ⅱ度(中等症)
    頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感など。医療機関への搬送が必要です。
  • Ⅲ度(重症)
    意識障害、けいれん、手足の運動障害、高体温(熱射病)。入院して集中治療が必要となります。

治療法は、症状のレベルに応じて、涼しい場所での安静、水分・塩分補給、体の冷却から、医療機関での点滴治療、入院管理まで多岐にわたります。

治療費は、軽症での通院は数千円~1万円程度、重症入院時は健康保険適用でも数万円(例:2日入院で2~4万円)の自己負担が生じる場合があります。ただし、年齢・所得・病院の差額ベッド代等により異なります。

健康保険の適用:業務外の熱中症の場合

日常生活やレジャーなど、業務外で熱中症になった場合は、通常の病気やケガと同様に健康保険が適用されます。医療機関の窓口での自己負担は、年齢や所得に応じて原則1割から3割となります。ただし、差額ベッド代や食事代の一部などは健康保険の適用外となり、自己負担となる場合があります。

労災保険の適用:業務上の熱中症の場合

一方、勤務中に熱中症になった場合、それは「業務災害」として労災保険の対象となる可能性があります。労災保険が適用されれば、治療費は原則として全額補償され、自己負担はありません。この場合、健康保険は使用できません。

勤務中に熱中症になった場合は?

職場で熱中症が発生した場合、労働者と会社役員では対応が異なります。ここでは、それぞれのケースにおける労災保険の適用と、企業が負うべき責任について解説します。

労働者の場合:労災保険の適用と補償内容

労働者が勤務中に熱中症を発症し、それが業務に起因するものと認められれば、労災保険から手厚い補償が受けられます。

  • 労災認定の基準
    熱中症が労災として認定されるためには、「業務遂行性」(会社の指揮命令下で業務を遂行中に発生)と「業務起因性」(業務に内在する危険な要因によって発症)の2つの要件を満たす必要があります。高温多湿な作業環境、適切な休憩や水分補給が困難な状況などが考慮されます。
  • 主な補償内容
    • 療養(補償)給付
      治療費、入院費、薬剤費などが原則全額支給されます。
    • 休業(補償)給付
      療養のために4日以上仕事を休んだ場合、休業4日目から給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+特別支給金20%)が支給されます。
    • 障害(補償)給付
      後遺障害が残った場合、障害等級に応じて年金または一時金が支給されます。
    • 遺族(補償)給付・葬祭料
      死亡した場合、遺族に年金または一時金、葬祭費用が支給されます。

会社役員の場合:労災保険の特別加入制度

会社役員は、原則として労働者ではないため、通常の労災保険の対象外です。しかし、「労災保険の特別加入制度」を利用することで、業務実態に応じて労災保険の補償を受けることが可能です。

  • 特別加入の対象となる役員
    中小事業主(業種ごとに定められた労働者数以下)の事業主やその家族従事者、一人親方などが対象となります。
  • 手続きと費用
    加入は労働保険事務組合や特別加入団体を通じて行い、保険料は選択する給付基礎日額と業種別料率で決まります。別途、組合費や入会金が必要です。
  • 補償範囲の注意点
    事業主としての立場で行われる業務(経営判断に関わる会議など)は補償対象外となる場合があります。

企業の安全配慮義務と2025年からの熱中症対策義務化

企業には、労働者が安全で健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」があります(労働契約法第5条)。熱中症予防対策を怠り、労働者が熱中症を発症した場合、企業が安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。

さらに、2025年6月1日から、改正労働安全衛生規則が施行され、事業者に対する熱中症対策が強化・義務化されます。

  • 対象作業
    WBGT値28℃以上または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業。
  • 義務化される主な措置
    • 暑さ指数(WBGT値)の把握と管理。
    • 熱中症の自覚症状やその疑いがある場合の報告体制の整備と周知。
    • 作業からの離脱、身体の冷却、水分・塩分補給といった措置の実施手順の策定と周知。
  • 罰則
    違反した場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

参考:厚生労働省

熱中症保険とは?

労災保険に加えて、民間の保険会社が提供する「熱中症保険」も選択肢の一つです。ここでは、その特徴と労災保険との違い、活用法について解説します。

民間の熱中症保険

民間の熱中症保険は、熱中症と診断された場合に一時金や入院給付金などが支払われる保険商品です。

  • 主な補償内容
    • 熱中症診断一時金
      熱中症と診断されると、入院の有無にかかわらず一時金が支払われます(例:15,000円)。
    • 入院一時金・入院日額
      熱中症で一定期間以上入院した場合に一時金や、入院日数に応じた日額が支払われます。
    • その他
      救急搬送見舞金や、商品によっては熱中症以外の病気やケガも保障範囲に含まれる場合があります。
  • 保険料
    保障内容や年齢によって異なりますが、月々数百円からと比較的安価なものが多いです。
  • 特徴
    労災保険とは異なり、業務上・業務外を問わず、熱中症と診断されれば給付対象となるのが一般的です。

労災保険と民間の熱中症保険の違い

労災保険は業務上の災害に対する公的補償であり、治療費全額補償や休業補償など生活保障の側面が強いのに対し、民間の熱中症保険は定額給付が中心で、より手軽な備えと言えます。

比較ポイント労災保険(特別加入含む)民間の熱中症保険
対象業務上の熱中症熱中症全般(業務上・業務外問わずが多い)
治療費補償原則全額給付一時金、入院日額など定額給付が中心
休業補償あり(給付基礎日額の80%)原則なし(商品による)
保険料給付基礎日額と業種別料率で決定、組合費等別途保証内容・年齢等で決定、比較的安価なものが多い
加入の必須性任意(ただし、会社役員や一人親方は特別加入が必要な場合あり)完全に任意

熱中症リスクの高い職場で働く人・会社役員が熱中症保険を検討するケース

労災保険を基本としつつ、以下のような場合に民間の熱中症保険の活用を検討できます。

  • 労災保険の休業補償の待期期間(3日間)の収入減をカバーしたい場合。
  • 労災保険の給付額に上乗せしたい場合。
  • 業務外の熱中症リスクにも備えたい場合。
  • 診断された時点で少額でも一時金を受け取りたい場合。

企業としては、従業員のために法定外補償保険(労災上乗せ保険)に加入し、熱中症を含む業務災害への補償を手厚くすることも可能です。

職場で実践すべき熱中症予防と発生時の対応

熱中症は予防が最も重要です。ここでは、職場で実践すべき具体的な予防策と、万が一発生した場合の応急処置について解説します。

職場の熱中症予防策

事業者は、労働者の安全と健康を確保するため、以下のような熱中症予防策を講じる必要があります。

  • WBGT値を測定し、作業環境を適切に管理する。
  • 作業時間の短縮、連続作業時間の上限設定、こまめな休憩時間の確保。
  • 通風や冷房設備の設置、日よけの設置、ミストシャワーの導入。
  • 労働者の健康状態の確認、体調不良時の申告体制の整備。
  • 経口補水液やスポーツドリンクなどを準備し、定期的な摂取を促す。
  • 熱中症の危険性、予防策、応急処置について教育する。
  • 通気性の良い服装、吸汗速乾性の素材の着用を推奨する。

熱中症発生時の応急処置

万が一、職場で熱中症が疑われる人が出た場合は、迅速な応急処置が命を救います。

  1. 涼しい場所への避難
    直ちに作業を中断させ、風通しの良い日陰や冷房の効いた室内へ移動させる。
  2. 衣服を緩め、体を冷やす
    衣服を緩め、露出した皮膚に水をかけたり、濡れタオルで体を拭いたりして体温を下げる。首の付け根、脇の下、足の付け根などを冷やすと効果的。
  3. 水分・塩分の補給
    意識がはっきりしていれば、経口補水液やスポーツドリンクなどを飲ませる。
  4. 医療機関への搬送
    呼びかけに反応がない、意識がおかしい、自力で水分補給ができない場合は、ためらわずに救急車を呼び、医療機関へ搬送する。

熱中症リスクに備え、安全な職場環境を

熱中症は、適切な予防と対策によって防ぐことができる災害です。働く方一人ひとりが熱中症の正しい知識を持ち、予防策を実践するとともに、万が一の事態に備えて保険制度を理解しておくことが重要です。

特に会社役員の皆様は、従業員の安全を守るための職場環境整備と、2025年6月から義務化される熱中症対策への対応が求められます。労災保険の特別加入制度の活用や、企業向けの法定外補償保険の導入も検討し、従業員が安心して働ける体制を構築しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

バックオフィス業務の知識をさらに深めるなら

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事