• 更新日 : 2025年8月5日

クレーン玉掛けの一人作業は原則禁止!その理由や必要な資格を解説

建設現場におけるクレーン作業は、資材の運搬に不可欠な工程です。作業の効率化を求めるあまり、「クレーンの運転と玉掛けを一人で兼任できないか」と考えたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、その判断には重大なリスクが伴います。この記事では、クレーンと玉掛けの一人作業に関する法的なルールから、具体的な危険性、そして現場で遵守すべき安全対策までを詳しく解説します。

クレーン玉掛けの一人作業は原則禁止

結論から言うと、クレーンの運転と玉掛け作業を一人で行うことは、労働安全衛生法(および関連規則)によって原則として禁止されています。ここでは、その根拠となる法律と、違反した場合の罰則について解説します。

クレーン等安全規則で定められた「二人一組」の原則

クレーン作業における安全の根幹をなすのが「クレーン等安全規則」です。この規則の第25条および第71条の3では、クレーンの運転者と玉掛け作業者が共同で作業を行う際の合図について定められています。

クレーン等安全規則 第二十五条
事業者は、クレーンを用いて作業を行うときは、クレーンの運転者と玉掛けをする者との間の連絡を確実にするため、合図を統一的に定め、これを関係労働者に周知させなければならない。

参考:クレーン等安全規則

この条文は、運転者と玉掛け者が「別人」であることを前提としています。つまり、一方がクレーンを操作し、もう一方が荷の近くで玉掛けと合図を行う「二人一組」での作業が基本原則です。運転者が玉掛けを兼任すると、荷の状態を間近で確認しながら同時にクレーンを操作することができず、的確な合図も行えないため、非常に危険な状態に陥ります。

一人作業が認められる限定的なケースとは?

原則禁止の一方で、例外的に一人作業が認められるケースも存在します。クレーン等安全規則第25条には、以下のようなただし書きがあります。

クレーン等安全規則 第二十五条第1項ただし書き
事業者は、クレーンの運転者に単独で作業を行わせるときは、この限りでない。

参考:クレーン等安全規則

これは、例えば運転者が荷のすぐそばで玉掛けを行い、その場でクレーンのペンダントスイッチや無線(ラジコン)を使って操作する場合などが想定されます。この場合、運転者自身が荷の状態を直接視認し、安全を確保しながら操作できるため、例外的に認められています。

しかし、これはあくまで「運転者が安全を完全に確保できる」という厳格な条件下でのみ許される例外です。運転席から死角があったり、荷が不安定だったりする状況では、決して一人で作業を行ってはいけません。

違反した場合の罰則

労働安全衛生法および関連規則に違反した場合、事業者に対して罰則が科される可能性があります。労働安全衛生法第119条では、「六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」が定められています。

単に罰則があるから守るのではなく、作業員の命を守るための最も重要なルールであると認識し、必ず遵守するようにしてください。

なぜ一人作業は危険なのか?

法律で禁止されている背景には、一人作業に潜む具体的な危険性があります。ここでは、クレーンと玉掛けの一人作業が引き起こす重大な事故のリスクを4つのポイントで解説します。

① 死角による見落としと接触リスク

クレーンの運転席からは、必ず死角が生まれます。特に、吊り荷の真下や構造物の陰は完全に見えません。一人で運転と玉掛けを兼任すると、荷を吊り上げる際に周囲の状況を確認する「もう一つの目」がなくなります。これにより、吊り荷が他の作業員や障害物に接触したり、挟まれたりするリスクが飛躍的に高まります。

② 合図の不徹底による操作ミス

玉掛け作業者からの合図は、クレーン操作の精度と安全性を保つ生命線です。ミリ単位の繊細な操作が求められる場面で、運転者が自身の感覚だけで操作するのは非常に危険です。荷の傾きや揺れ、障害物との距離感など、玉掛け者だからこそ把握できる情報を基にした合図がなければ、吊り荷の落下や激突といった重大事故につながりかねません。

③ 荷の揺れや荷崩れへの即時対応の遅れ

吊り荷が予期せず揺れ始めたり、荷崩れの兆候が見られたりした場合、地上にいる玉掛け作業者はいち早くその危険を察知し、運転者に緊急停止の合図を送ることができます。しかし、一人作業ではこの初動が遅れます。運転者が異変に気づいた時には、すでに手遅れになっている可能性も否定できません。

④ 緊急事態発生時の救助・連絡の遅延

万が一、作業中に吊り荷の下敷きになるなどの事故が発生した場合、二人一組であればもう一方がすぐに救助要請や応急処置を行えます。しかし、一人作業の場合は発見が遅れ、救助活動の開始が大幅に遅延する恐れがあります。この時間のロスが、被災者の命運を分けることになりかねません。

クレーン操作と玉掛けに必要な資格

安全なクレーン作業を行うためには、運転者も玉掛け作業者も、それぞれ法律で定められた資格が必要です。ここでは、クレーン操作と玉掛け作業に必要な資格について、吊り上げ荷重別に整理して解説します。

クレーン運転に必要な資格(免許・技能講習・特別教育)

クレーンの運転に必要な資格は、クレーンの種類と吊り上げ荷重によって3つに区分されます。

吊り上げ荷重必要な資格備考
5トン以上クレーン・デリック運転士免許国家試験。学科と実技の両方が必要。
1トン以上5トン未満クレーン運転技能講習各地の教習機関で実施。
1トン未満クレーンの運転に係る特別教育事業者が実施する教育。

500㎏未満でも労働安全法により必要

このほか、移動式クレーンの場合は「移動式クレーン運転士免許」「小型移動式クレーン運転技能講習」「移動式クレーンの運転に係る特別教育」が別途必要です。

玉掛け作業に必要な資格(技能講習・特別教育)

玉掛け作業も、クレーンの吊り上げ荷重によって必要な資格が異なります。

クレーンの吊り上げ荷重必要な資格備考
1トン以上玉掛け技能講習各地の教習機関で実施。
1トン未満玉掛けに係る特別教育事業者が実施する教育。

重要なのは、クレーンの運転資格を持っていても、玉掛け作業の資格がなければ玉掛けはできないという点です。逆も同様です。現場で作業を行う際は、必ず両方の有資格者が揃っていることを確認してください。

玉掛け作業における重要ポイント

二人一組の原則を守ることは大前提ですが、その上で、日々の玉掛け作業における安全ルールを徹底することが事故防止の鍵となります。ここでは、作業の段階ごとに遵守すべき重要なポイントを解説します。

作業開始前

  • ワイヤロープ等の点検
    使用するワイヤロープ、スリング、シャックルなどの玉掛け用具に、傷、摩耗、変形、腐食がないかを必ず目視で確認します。少しでも異常が見られた場合は、絶対に使用しないでください。
  • 吊り荷の確認
    吊り上げる荷の重量、形状、重心の位置を事前に把握します。重量が不明な場合は、設計図や仕様書で確認するか、計測器で実測します。
  • 作業範囲の安全確保
    吊り荷が通過する経路上に障害物がないか、また、関係者以外の作業員が立ち入らないようにカラーコーンやバーで区画整理を行います。

作業中

  • 重心の真上にフックをおく
    荷の重心を正確に見極め、その真上にクレーンのフックが来るように誘導します。重心がずれていると、吊り上げた瞬間に荷が傾いたり回転したりして非常に危険です。
  • 吊り角度の管理
    ワイヤロープを2本以上で「あだ巻き(目通し)」や「たすき掛け」で吊る場合、吊り角度(ワイヤロープ同士が開く角度)が大きくなりすぎないよう注意が必要です。角度が大きくなるほどワイヤロープに掛かる張力が増大し、破断のリスクが高まります。原則として吊り角度は60度以内を推奨します。
  • 統一された合図の実施
    「巻き上げ」「巻き下げ」「ジブ(ブーム)伸縮」「旋回」など、事前に取り決めた合図を、クレーン運転者にはっきりと見える位置から、明確に行います。

作業後

  • 定位置での保管
    使用した玉掛け用具は、汚れを落とし、雨風にさらされない所定の保管場所に片付けます。地面に放置すると、錆や損傷の原因となります。
  • 異常の報告
    作業中に用具の異常に気づいた場合や、ヒヤリハットがあった場合は、必ず作業責任者に報告し、情報を共有することが次回の安全につながります。

クレーン作業の鉄則を守って安全に作業しよう

この記事では、クレーンと玉掛けの一人作業が原則禁止であること、その背景にある法的な根拠と具体的な危険性、そして安全な作業遂行のための資格と遵守事項について解説しました。

現場では、工期や人手の問題から、つい効率を優先したくなる場面があるかもしれません。しかし、クレーン作業における「安全」は、他の何物にも代えがたい最優先事項です。「運転者と玉掛け者の二人一組」という原則は、多くの悲惨な事故の教訓から生まれた鉄則です。

この記事で解説した内容を再確認し、自社の安全管理体制を見直すきっかけとしていただければ幸いです。全ての作業員が「今日も一日安全に」作業を終えられるよう、基本に忠実な作業を徹底していきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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