• 作成日 : 2025年6月24日

振動工具とは?具体例や振動障害の予防法、安全衛生教育を解説

建設現場や製造業で活躍するさく岩機、グラインダーなどの「振動工具」。これらは作業効率を高める一方、使い方によっては「振動障害」(手指のしびれや「白ろう病」など)のリスクがあります。この記事では、振動工具の基本、リスク、安全対策(予防策や教育)を、わかりやすく解説します。

振動工具とは?

振動工具とは、モーターやエンジン、圧縮空気などで駆動し、作業中に手や腕、場合によっては全身へ“ガタガタ”と連続的な振動を伝える機械工具の総称です。チェーンソー・さく岩機・インパクトドリル・ディスクグラインダー・コンクリートブレーカー・ランマー(転圧機)などがこれにあたります。

振動工具は使い方を誤ると「白ろう病(レイノー現象)」など深刻な健康障害(振動障害)につながるリスクがあります。作業者の健康を守るための対策が求められています。

厚生労働省が対象と定める主な工具は以下の通りです。これらの工具を使う際は、振動障害のリスクの理解と適切な対策が必要です。

  • ピストンによる打撃機構を有する工具
  • エンジンカッター等の内燃機関を内蔵する工具(チェーンソーを除く)
  • 携帯用の皮はぎ機等の回転工具
  • 携帯用のタイタンパー等の振動体内蔵工具
  • 携帯用・卓上用・床上用研削盤(使用するといしの直径が150mmを超えるもの)
  • 締付工具
  • 往復動工具

主な振動工具と用途

ここでは、振動工具の代表的な種類と用途について解説します。

カテゴリ名主な工具例主な用途
ピストン打撃式さく岩機,コンクリートブレーカー,チッピングハンマー穿孔,破砕,はつり
内燃機関内蔵エンジンカッター,刈払機(ブッシュクリーナー)切断,刈払い
回転工具グラインダー(150mm超),サンダー,振動ドリル研削,研磨,穿孔
振動体内蔵タンピングランマー,コンクリートバイブレーター締固め,コンクリート打設補助
締付工具インパクトレンチ,エアドライバーボルト・ナット締付/緩め
往復動工具ジグソー,バイブレーションシャー切断(曲線・薄板)

ピストンによる打撃機構を有する工具

さく岩機やコンクリートブレーカーは内部ピストンの高速往復で強打撃を発生させ、岩盤穿孔や構造物の破砕・はつりを短時間でこなします。ただし衝撃振動と反力が突出して大きく、上肢だけでなく肩腰にも負荷がかかりやすい点が難点です。作業時間を細かく区切り、防振手袋やエアダンパー付きグリップを併用しつつ、粉じん・飛石対策として集じん機や防護メガネを必ず装備しましょう。

内燃機関を内蔵する工具(可搬式のもの)

エンジンカッターや刈払機はガソリンエンジンによる高出力が武器で、コンクリート切断や雑草刈りを効率化します。一方で排気ガス、100dB級の騒音、全身へ伝わる振動が重なり疲労が早く進行するのが特徴です。屋外での使用を徹底し、耳栓・防振グローブ・防じんマスクを併用したうえで、燃料比率やプラグ清掃を怠らず機械振動を低減してください。

回転工具

150mm超グラインダーや振動ドリルはモーターで砥石やビットを高速回転させ、研削・研磨・穴あけを高効率で行います。しかし高周波振動と大量の微細粉じんが発生しやすく、といし破損のリスクも付きまといます。低振動ハウジング採用機や集じんカバーを選定し、RL3クラスの防じんマスクとフェイスシールドで呼吸器と眼を守り、安全角度を守ってスパーク跳ね返りを防ぎましょう。

振動体内蔵工具

タンピングランマーやコンクリートバイブレーターは偏心ウェイトやシャフト振動で地盤締固め・コンクリート気泡抜きを行います。毎分数千回の細振動が連続して前腕に蓄積し、思った以上に疲労が大きいのが特徴です。防振ハンドル仕様機を選び、2〜3分ごとに作業者を交代して血流を確保するとともに、エンジン式より低振動な電動式を屋内で活用すると排ガスも抑えられます。

締付工具

インパクトレンチやエアドライバーは衝撃トルクでボルト・ナットを瞬時に締付け・緩めますが、その衝撃が手首と前腕に集中し腱鞘炎を招きやすいです。過トルク防止クラッチや反力バー付きモデルを選び、手首サポーターと防振グローブを併用するとともに、エア圧・バッテリー電圧を適正に保ち振動の増幅を防ぎましょう。

往復動工具

ジグソーやバイブレーションシャーは刃が前後ストロークして曲線や薄板を滑らかに切断します。ストローク長は短いものの連続保持で指先がしびれやすいため、材料をしっかり固定し刃ピッチとストローク数を最適化することが重要です。30分ごとに握りを替えてストレッチを挟み、防振パッド付きグリップを使えば長時間作業の負担を軽減できます。

振動工具による健康障害「振動障害」とは

振動工具を長時間・長期間使い続けることで手や腕の血管・神経・筋骨格に慢性的なダメージが蓄積し、しびれや痛み、白ろう病(レイノー現象)などの「振動障害」現れます。いったん発症すると完治が難しく、生活の質まで低下させる恐れがありますので、早期対策が不可欠です。

振動障害の主な原因

振動障害は、振動工具を長いあいだ使い続けることで起こります。振動の強さや周波数が高く、作業時間が長くなるほど危険は大きくなります。振動値の大きい機種や手入れ不足の工具を使うと、さらにリスクが上がります。

寒い現場や騒音の大きい環境では血のめぐりが悪くなり、工具を強く握り続けたり無理な姿勢で作業したりすることも発症をうながします。加えて、たばこを吸う人や心臓・血管に持病がある人も悪化の要因となるため、工具の管理・作業姿勢・作業環境・生活習慣を総合的に見直すことが欠かせません。

振動障害の主な症状(しびれ、痛み)

振動工具を長く握り続けた後、指先がじんとしびれたり、冷気に触れた瞬間に真っ白へ変色したりすることがあります。こうした異変は、末梢循環障害・末梢神経障害・運動器障害が重なって進行する「振動障害」の警告サインです。

  • 末梢神経障害:手指がジンジンとしびれ、触れた感覚が鈍くなります。握力が低下し、ネジ締めやキーボード操作など細かな作業が難しくなるのが典型的なサインです。
  • 末梢循環障害(白ろう病):寒さに触れた瞬間、指先が白→紫→赤と変色し、強い痛みやしびれを伴います。これは毛細血管が痙攣して血流が途絶える「レイノー現象」が原因で、放置すると発作の頻度と持続時間が延び、日常生活にも支障を来します。
  • 運動器障害:手首・肘・肩の関節が痛み、動かしにくくなるほか、進行すると骨や関節が変形して可動域が狭まります。工具を握るだけで痛む、腕が上がらないといった症状が出たら要注意です。

振動障害は治りにくい?

振動障害は一度発症すると完全な回復が難しい場合が多いです。進行すると治療は症状緩和が中心となります。仕事だけでなく日常生活にも影響し、生活の質(QOL)を低下させる可能性があります。完全な治療は不可能になってしまうことがあるため、予防することが最も重要です。

振動工具による振動障害を防ぐために

振動障害を防ぐには、厚生労働省の指針を土台にして、会社と作業者が一体となった対策が欠かせません。まず大切なのは工具選びです。

低振動・軽量・防振機能のある工具を選ぶ

工具を選ぶときは、まず振動がなるべく小さい機種かどうかを確認します。カタログに示される「周波数補正振動加速度実効値(3軸合成値)」が低いほど手や腕への負担は少なくなるため、できるだけ数値の小さいモデルを優先してください。

工具本体が軽いことも大切です。長時間持ち上げる作業では、わずかな重量差が疲労や振動障害のリスクになります。握りやすい太さと角度のハンドル、さらにグリップ一面を覆う防振ゴムやスプリングダンパーが入ったタイプを選べば、伝わる揺れを一段と抑えられます。

あわせて、排気が手元や顔に当たらない構造か、消音マフラーなどで騒音を軽減できるかもチェックすると良いでしょう。

楽な姿勢で正しく操作する

工具は指定ハンドルを握り、腕や体で過度に強く握ったり押しつけずに操作しましょう。たがねなど先端部品を支えるときは、手で直接押さえず治具やクランプを使います。

作業中に肩や肘が突っ張る姿勢は血行を妨げるので避け、背筋を伸ばし肘が自然に曲がる「楽な姿勢」を保つことが大切です。重量のある機械はバランサーや吊り具で荷重を分散し、腕だけに負担をかけないようにしてください。

連続使用時間を守る

連続作業時間と1日の合計ばく露時間に上限を設け、休憩を取るようにします。

厚生労働省は、振動の強さと使用時間を合わせた日振動ばく露量A(8)という指標を定め、1日あたり5.0m/s²を超えないよう求めています。

現場では次の目安を必ず守ってください。タイマーや作業日報で使用時間を記録し、事業者が工具の振動値を把握しておくことも重要です。

工具の種類連続作業の上限休憩
チェーンソー、削岩機、はつりハンマーなどピストン打撃系約10分5分以上
上記以外の振動工具約30分5分以上

作業環境を整え保護具を着用する

振動障害を防ぐには、防振手袋や耳栓・イヤーマフを正しく着けることが基本です。冬場は血流が悪くなりやすいので、保温性の高い作業着を重ね、汗や雨でぬれた衣服は現場の乾燥設備で早めに乾かします。

休憩所には暖房を入れ、作業者がこまめに体を温められるようにしておくと、白ろう病をはじめとする循環障害のリスクを大きく下げられます。

あわせて、工具そのものの振動を抑える日常点検と、作業者の健康管理も欠かせません。振動工具管理責任者を置き、グリップや刃先の摩耗を定期的に確認して記録し、異常があればすぐ整備します。

作業者は雇入れ時と6カ月ごとに特殊健康診断を受け、作業前後にストレッチやマッサージで血流を促進しましょう。

こうした予防策は、事業者と作業者の双方の協力が不可欠です。

振動工具の取扱いには安全衛生教育が必要

事業者は対象の振動工具を取り扱う作業者に対し「安全衛生教育」を実施すること労働安全衛生法第60条の2と厚生労働省の通達により強く求められています。

安全衛生教育では振動が体に及ぼす影響、予防策、工具の点検・管理方法、関連法令を学び、現場で安全に扱える知識を身に付けます。

「特別教育」との違い

「安全衛生教育」と「特別教育」は異なります。建設現場で使う多くの振動工具(削岩機、グラインダー等)は「安全衛生教育」の対象です。労働安全衛生法で受講義務がある「特別教育」の対象は「チェーンソー」のみです。それ以外の指針対象振動工具については、「安全衛生教育」の実施が推奨されています。

安全衛生教育の対象となる工具

安全衛生教育の対象は、チェーンソーを除く、厚生労働省指針で定められた振動工具です。ピストン打撃式、内燃機関内蔵、回転工具、振動体内蔵、締付工具、往復動工具が該当します。

安全衛生教育の受講方法

安全衛生教育は学科講習で合計4時間程度、振動工具の基礎(1時間)、振動障害と予防策(2時間半)、関係法令(30分)を受講します。

受講資格に年齢や経験は問われません(業務は18歳以上)。

登録教習機関や建災防支部、安全衛生団体、民間スクールが集合研修やオンライン講座を実施し、多くの場合は修了証が発行されます。

受講後も事業者が作業手順や点検ルールを定期的に確認し、学んだ内容を現場で実行できるよう事業者のフォローアップが重要です。

振動工具により振動障害を発症した場合の労災保険

振動障害は予防が最優先ですが、万一発症した場合は労災保険で補償されることがあります。

業務上の振動障害として労災認定されるには、対象工具を使用する業務に相当期間(1年以上)従事し、振動障害特有の症状(手指等のしびれ・痛み)があり、医師の診察で認められ、業務との因果関係があると判断される必要があります。

労災保険の申請手続きの流れ

労災保険給付を受けるには、労働者本人等が管轄の労働基準監督署に請求手続きを行います。

医師の診断 → 労働基準監督署に相談 → 請求書入手・記入 → 診断書等と提出 → 労働基準監督署が調査・決定。

まず医療機関で診断書を受け取り、作業内容や使用した工具、勤務年数を整理したうえで、所在地を管轄する労働基準監督署へ相談します。所定の労災請求用紙に事実関係を記入し、診断書など必要書類を添えて提出すると、監督署が事業所調査や医師面談を行い、給付の可否を決定します。

作業日報や工具の使用時間記録、特殊健康診断の結果をあらかじめ揃えておくと、業務起因性を証明しやすくなります。不支給となった場合でも、再審査請求や労災専門家への相談で救済される例がありますので、あきらめずに情報を集めることが大切です。

振動工具を安全に使い続けるために

振動工具は現場作業に欠かせない一方、「振動障害」のリスクを伴います。

安全に使い続けるためには ①道具選び ②正しい扱い ③時間管理 ④保護具・環境 ⑤点検と健康管理を日常的に徹底しましょう。

振動障害予防は事業者と作業者が一体となり、安全対策を日々の業務に組み込むことが不可欠です。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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