- 作成日 : 2025年6月26日
経理業務にAIや生成AIを導入するとどう変わる?事例やアイデアを解説
経理業務の作業量が増える中、AIを活用して負担を軽減する企業が増えています。請求書処理、仕訳、帳票作成など繰り返しの作業に対して、AIは自動化や精度の向上を実現し、人手の時間を削減します。この記事では、経理業務にAIを導入する際の具体的な変化や成功事例、ツール選びのポイントを紹介します。
目次
経理業務におけるAIとは?
経理業務におけるAIとは、AI技術を応用してさまざまな会計プロセスを自動化し、高度化することを指します。経理のバックオフィス業務、データの分析、財務報告、事業運営や戦略に関する意思決定といった業務にAIが活用されます 。
経理業務では、日々多くの時間が仕訳の入力や請求書の処理に使われていますが、これらの作業はルールに沿った繰り返しが多く、ミスが起きやすい部分でもあります。AIは、こうした反復作業を正確かつ高速で処理できる点で注目されています。
実際には、AIは以下のような分野で活用されています。
たとえば、AIを活用した請求書処理ツールは、取引先名や金額を自動で読み取り、発注書と照合して仕訳を生成します。会計ソフトとの連携により、手入力の必要がなくなります。
また、ChatGPTなどの生成AIを使えば、複雑なExcel関数の作成支援や、仕訳の適用の自動作成も可能です。これにより、経理の初心者でも一定レベルのアウトプットを出せるようになります。
経理業務にAIを導入するとどう変わる?
経理業務にAIを導入すると、作業スピードが上がり、入力ミスや確認漏れが減ります。
繰り返し作業が多い経理部門では、AIの活用によって日常業務の多くが自動化されます。以下は、具体的な作業とAIの適用例です。
データ入力:紙・データのAIによる自動読み取り
手書きやPDFの領収書・請求書を人が入力する作業は、AIのOCR技術で自動化されます。読み取ったデータを基にAIが仕訳を作成し、会計ソフトにそのまま連携できます。入力ミスが減り、1件あたりの処理時間も短縮されます。
請求書処理:人の手作業からAIによる一括処理へ
従来は紙の請求書を受け取り、手動で発注書と照合し、承認を回す必要がありました。AIツールは請求書を読み取り、発注書と自動でマッチングし、不一致を自動で検出します。承認フローもルール設定で自動化され、確認作業の時間が削減されます。
財務レポート作成:AIによる即時生成
各種データを集計し、財務レポートを人が編集していた作業が、AIによって自動化されます。帳簿データや取引履歴をもとに、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフローを生成できます。リアルタイムでのレポート共有も可能になり、月次報告の作成時間が大幅に削減されます。
エラー検出:人のチェックからAIによる異常検知へ
手作業でのチェックでは見逃されがちな取引の重複や金額の誤入力も、AIがパターン認識で検知します。過去データを学習したAIが、通常と異なる仕訳や金額を自動でフラグ表示し、経理担当者に通知します。修正対応も簡単に行えます。
監査準備:資料集めからAIによる自動整理へ
従来の監査対応では、証憑や取引データの収集・整理に時間がかかっていました。AIを使うことで、対象期間の仕訳データや帳票類を自動で分類・抽出し、会計士が確認しやすい形に整えられます。監査資料の準備時間を不要にしたり短縮できます。
財務予測:過去データ分析からAIシミュレーションへ
AIは過去の売上やコストデータを分析し、将来の収支予測やキャッシュフローを算出します。月次・四半期単位でのシナリオ分析や、急な売上変動への備えも可能になります。これにより、経営判断のスピードが上がります。
経費処理:手書き申請からAIによる即時処理へ
従業員がアプリで領収書を撮影するだけで、AIが内容を読み取り、会社の規定に沿って自動分類します。経理担当は承認のみで済み、二重申請や規定違反もリアルタイムで検出されます。従業員と経理双方の手間が大幅に軽くなります。
経理業務に生成AI(ChatGPT)を利用した事例やアイデア
ChatGPTは、OpenAIが開発した生成AIで、文章の理解と生成を得意としています。質問に対して自然な言葉で答えられます。経理業務にChatGPTを利用した例やアイデアをいくつかご紹介します。
1. 勘定科目の説明や注記事項のドラフト
経理規程の勘定科目の説明や決算書の「注記事項」は、ChatGPTを使えば、ドラフトを一瞬で生成できます。
「『未払費用』という勘定科目の説明を200字程度で書いてください。会計初心者にもわかりやすく。」
ChatGPTが提示する文をベースに、社内ルールや会計基準等に合わせて修正すれば、時間を大幅に短縮できます。ただし、表現の正確性や適合性には注意が必要で、必ず人による最終チェックが欠かせません。
2. 英文決算書・資料の翻訳
海外の親会社や取引先とのやり取りでは、英語での決算資料が必要になるケースも多々あります。ChatGPTは、ビジネス英語にも対応しているため、財務書類の翻訳にも活用できます。
「以下の日本語の決算書要約を、会計英語に翻訳してください:『2025年度第1四半期は、売上高が前年同期比12%増加しました』」
一文ずつ確認しながら翻訳を行うことで、人的コストを抑えつつ品質の高い英文資料を作成できます。もちろん、専門用語の扱いや微妙なニュアンスには注意が必要なため、翻訳後は必ず英語に堪能な担当者によるチェックが前提です。
3. 財務データの分析と改善提案
ChatGPTは、財務データの傾向を読み取り、改善の糸口を探る「壁打ち」としても優秀です。
「以下の売上と利益率の推移を分析し、改善点を3つ提案してください:2024年Q1〜Q4の売上・利益データ。」
「この改善点は50点くらいに感じます。100点になるように提案をブラッシュアップしてください。」
ChatGPTの提案をきっかけに、担当者自身が新たな視点でデータを読み解けるようになります。
4. 請求書作成と調整の自動化
請求書のテンプレート文書の自動生成から、支払い条件の微調整まで幅広く対応できます。
「以下の取引内容をもとに、請求書の文章テンプレートを作成してください。支払先は○○株式会社、金額は10万円、支払期限は2025年6月30日です。」
「この請求書文面の支払条件を30日から45日に変更してください。」
細かい表現修正や条件変更も素早く対応できるので、繰り返し業務の手間が大幅に削減されます。担当者は内容確認と送信のみに集中できるようになります。
5. 会計用語や処理に関する自動応答・FAQ対応
社内・社外から寄せられる「よくある質問」に、ChatGPTを使った自動応答で対応することで、経理部門の問い合わせ負荷を軽減できます。特に、会計ソフトの使い方や経費処理のフローといった質問への対応に効果的です。
これらをChatGPTに登録してチャットボット化すれば、24時間いつでも自動応答が可能になります。
これらの例からもわかるように、ChatGPTは経理業務の様々な側面で活用できる可能性を秘めていますが、生成される情報の正確性には常に注意し、人間の目で確認することが重要です 。
また、ChatGPTは外部サービスであるため、社外秘の取引情報や契約内容、未公開データなどの入力は避けるよう徹底しましょう。
経理業務におけるAIツール導入の企業事例
実際にAI会計ツールを経理業務に取り入れている企業の成功事例をいくつか見てみましょう。
OCRで月5,000枚の領収書処理を効率化、ほぼ自動入力
全国に約200店舗を展開する株式会社B&Vは、マネーフォワード クラウド経費のOCR機能を導入し、紙ベースで運用していた経費精算業務の効率化に成功しました。従来は月5,000枚におよぶ領収書を本部スタッフが手作業で確認・入力していましたが、OCRによる自動読取により入力作業を大幅に削減。
不備の差し戻し件数も激減し、精算業務の担当人数が8名から3名にまで圧縮されました。電子帳簿保存法への対応とともに、業務負担の軽減と精度の向上を同時に実現しています。
仕訳の自動化で経費精算業務を大幅削減
消費税対応と経営方針によるクラウド化をきっかけに、マネーフォワード クラウド会計・経費を導入した企業では、仕訳の自動化によって経理業務が劇的に効率化しました。
従来はExcel申請書をもとに、経理担当が一件ずつ勘定科目を検討していましたが、現在は申請者が経費項目を選ぶだけで、自動的に適切な勘定科目が紐付けされ、会計側へ仕訳データがそのまま連携される仕組みです。
結果として、仕訳作業や検算の負担が大幅に軽減され、経理部門の業務量は約3分の1にまで削減されました。
自動仕訳で1社分の作業時間で4社対応
エネルギー分野で複数のグループ会社を抱えるelDesign株式会社では、事業拡大に伴い複雑化した経理業務を見直すため、マネーフォワード クラウドを導入。
銀行口座やカード明細と連携した「自動仕訳機能」により、これまで1社に月10日かかっていた経理処理が、同じ時間で4社分完了するように。従来の手入力・ダブルチェック作業は不要となり、ミスの削減と生産性向上を同時に実現しました。
複数の拠点間のデータ共有もクラウドで一元管理され、働く場所に関係なくスムーズな経理業務が可能になっています。
経理業務にAIツール・生成AIを導入する際の注意点
AIツールや生成AI(ChatGPTなど)は経理業務の効率化・省力化に大きな可能性をもたらしますが、導入には慎重な配慮が必要です。以下の注意点を押さえておくことで、安全かつ有効に活用できます。
1. 機密情報・個人情報を入力しない
生成AI(ChatGPTなど)は外部サービスで動作するケースが多く、社外秘情報や個人情報の直接入力はリスクを伴います。以下のような情報は入力しないよう、社内でルールを設けておくことが大切です。
2. 最新の法令・会計基準に対応しているかを確認する
AIは過去の学習データに基づいて回答するため、最新の税制改正や会計基準を反映していない可能性があります。導入時には、法改正対応のアップデート状況を確認するか、AIの出力内容を最新情報と照らし合わせるチェック体制を社内に設けておきましょう。
3. 導入目的と対象業務を明確にする
AIツール・生成AIの導入は、何を解決したいのか、どこに使うのかを明確にしましょう。
① どの業務を効率化したいのか(対象業務の特定)
以下のような具体的な業務単位で「AI導入の対象」をリストアップします。
- 領収書の読取 → OCR機能による自動入力(紙からデジタル化)
- 交通費精算 → ICカード連携による定期区間自動控除
- 仕訳業務 → 銀行明細・カード明細の自動仕訳・連携
- 請求書作成 → テンプレ自動生成やフォーマット統一
- 会計用語の説明 → ChatGPTによる経理規程の勘定科目の説明や決算書の注記事項のドラフト作成
- 社内問い合わせ対応 → 経理に関するFAQ自動応答の整備
② 成果をどう評価するのか(導入効果の見える化)
評価指標(KPIなど)もあらかじめ設定しておきましょう。
- 経費精算書の作成:1件あたりの処理時間を30分→10分へ短縮
- 仕訳登録:手入力件数を月200件→50件に削減
- 社内問い合わせ対応:回答時間を平均1日→即時化
- 決算注記のドラフト作成:作成時間を4時間→1時間に短縮
4. 現場への教育・トレーニングをセットで実施する
AIツールの導入はシステム変更を伴うため、現場スタッフの戸惑いを最小限に抑えるサポート体制が不可欠です。たとえば、
- 操作マニュアルの整備
- 導入初期の説明会・ハンズオン
- よくあるミスやトラブル時の対処フロー
などを準備することで、導入後の定着率が向上します。
経理にAIを導入すると時間やミスが大幅に削減される
経理業務にAIや生成AIを導入すると、仕訳・請求書処理・レポート作成などの反復作業が自動化され、作業時間やミスが大幅に削減されます。実際に導入した企業では、業務量が3分の1になった例や、1社分の作業時間で4社を対応できるようになった事例もあります。目的や活用範囲を明確にし、適切に導入すれば、経理部門全体の生産性を大きく高めることが可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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