- 作成日 : 2025年3月28日
IFRSにおける損益計算書とは?日本基準との違いや改正内容を解説
IFRSの損益計算書は、日本基準と異なり包括利益を重視することから、包括利益計算書ともいわれます。IFRSの損益計算書を作成するには、日本基準との違いを理解しておくことが重要です。IFRSと日本基準の損益計算書の主な相違点や作成方法などについて解説します。
目次
IFRSにおける損益計算書(包括利益計算書)とは
IFRSの損益計算書(包括利益計算書)とは、日本基準の損益計算書に類似する財務諸表のことです。IFRSの損益計算書では、当期純利益とその他の包括利益の合計が示されています。そのため、包括利益計算書ともいわれます。包括利益とは、純資産の変動額のうち、持分所有者との直接取引で生じた変動額を除いた金額をいいます。当期純利益に、非支配株主に帰属する当期純利益とその他の包括利益を加算した金額が包括利益です。
IFRSと日本基準の損益計算書の違い
IFRSと日本基準の損益計算書にはさまざまな違いがあります。代表的な相違点をいくつか紹介します。
収益認識の違い
日本基準では、企業会計原則に基づく実現主義が収益認識の基準として長らく採用されてきたこともあり、日本基準とIFRSの収益認識の基準については相違点が多く存在していました。
しかし、平成30年度の税制改正にともない「収益認識に関する会計基準」が設けられたことで状況が変わります。日本基準がIFRSの収益認識基準に近づいたことで、収益認識については基本的に同じ要領で行うことになりました。収益認識に関する会計基準は令和3年4月1日以降に開始の事業年度から適用されていますが、中小企業などでは従来の実現主義による収益認識も認められます。
収益認識については、日本基準においてもIFRSにおいても、以下のステップを踏まえて行うことになっています。
- 顧客との契約を識別する
- 履行義務(収益認識の単位)を識別する
- 取引価格を算定する
- 履行義務に対して取引価格を配分する
- 履行義務の充足により収益を認識する
営業利益・経常利益の違い
日本基準の損益計算書では、段階損益の表示が必要です。売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益を表示して損益計算書を作成します。
一方、IFRSの損益計算書では、段階損益の表示が要件とはなっていません。営業利益や経常利益は任意で表示することもできますが、表示がなくても損益計算書として扱われます。
なお、IFRSで営業利益や経常利益を表示する場合、日本基準のものとは異なる点に注意が必要です。日本基準において、営業利益とは売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額を表します。経常利益は、営業利益から営業外収益を加算し、営業外費用を差し引いた金額です。
詳細については後述しますが、IFRSの損益計算書に特別損益(特別利益及び特別損失)の項目はありません。日本基準の損益計算書と区分が異なることから、IFRSで営業利益や経常利益を表示しても、日本基準の金額と一致しない可能性があります。
特別損益の違い
日本基準の損益計算書には、特別損益の項目があります。特別利益と特別損失から構成される項目で、営業以外で発生した臨時的な損益を表す項目です。特別利益には、有価証券の売却益や固定資産の売却益、特別損失には、有価証券の売却損や火災による損失などが含まれます。
一方、臨時的な項目である特別損益の表示は、IFRSの損益計算書では禁止されています。臨時的に発生したものを、特別利益や特別損失のように区分して損益計算書に表示することは認められません。日本基準で特別損益に区分される項目は、IFRSでは営業の区分に含まれることになります。
減損損失の戻し入れの違い
減損は、企業が有する固定資産の価値が著しく低下している場合において、対象となる固定資産の帳簿価額を回収可能額まで切り下げる会計処理のことをいいます。減損損失とは、減損による損失に計上される金額のことです。
固定資産の減損は、日本基準でもIFRSでも認められています。ただし、日本基準とIFRSでは減損の測定や算定などさまざまな違いがあります。減損損失の戻し入れの有無も日本基準とIFRSの大きな違いのひとつです。
減損の戻し入れとは、減損を行った固定資産について、収益力の回復が認められたときに、減損損失として計上した金額を帳簿価額に戻し入れることです。日本基準では、減損損失の戻入れは認められていません。一方、IFRSでは、のれんを除き、新たに算定した回収可能額の範囲で減損損失を戻し入れることができます。IFRSでは、固定資産の現時点の評価額を重視していることが理由です。
IFRSの損益計算書に特別損益がない理由
IFRSで特別損益を表示しないのは、経営をするうえで臨時的な事象が発生するのは自然だからです。IFRSでは、日本基準の特別損益に該当する事象を特別なものと捉えず、臨時的な事象も含めて収益を測定する考えがあるため、特別損益は表示しないことになっています。
IFRS第18号による損益計算書の改正ポイント
2024年4月にIFRS第18号が公表されたことで、IFRSの損益計算書の作成に変更が生じることになりました。IFRS第18号による、損益計算書の主な変更点を紹介します。
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」とは
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」とは、IAS第1号「財務諸表の表示」に代わり新たに公表された国際会計基準です。2024年4月に、国際会計基準審議会により公表されました。2027年1月以降に開始する事業年度より適用される内容となっています。
IFRS第18号では、財務諸表について新たな要求事項が追加されました。ここでは、損益計算書の主な変更点について取り上げます。
損益計算書の小計及び区分表示の変更
IFRSの損益計算書には、もともと「法人所得税」と「非継続事業」の区分がありました。IFRS第18号によって、「営業」「投資」「財務」の区分が加わり、損益計算書は5つの区分をもって作成することが求められるようになります。
「営業」に区分されるのは、他のどの区分にも該当しない収益や費用です。主要な営業活動で生じた収益や費用のほか、日本基準では特別損益に分類されるような収益や費用も営業の区分に含まれます。「投資」に区分されるのは、資産が生み出した収益や、資産の取得や処分に直接要した取引コストなどです。「財務」には資産調達で生じる収益や費用が含まれます。
また、IFRS第18号により、新たに「営業利益」と「財務及び法人所得税前利益」の小計の表示が要求されるようになりました。IFRSの営業利益は、営業区分の小計であって、日本基準の営業利益とは構造が異なることに注意しましょう。
経営者業績指標(MPM)の開示
IFRS第18号では、新たにMPM(経営者業績指標)の開示が追加されました。MPMとは、企業の経営者が定義した業績指標のことで、プレスリリースや決算説明書類などの投資家とのコミュニケーションで使われます。MPMには、損益計算書の小計に表示されるような指標や単に費用のみを集計したような指標、非財務指標は含まれません。
IFRS第18号では、新たにMPMについて財務諸表で開示することが要求されるようになりました。具体的には、下記の事項を注記で開示する必要があります。
- MPMを経営者が有用な情報と考える理由
- MPMの計算方法
- MPMと損益計算書の類似する小計との調整表
- MPMの変更・追加・中止の理由
- MPMが一側面の経営者の見方で、類似する指標と比較できない可能性があることの旨 など
情報のグルーピング(集約及び分解)の明確化
IFRS第18号は、重要性に関する規定を従来の基準から引き継いだ内容です。しかし、これまでの基準では、情報が細かすぎて重要な情報がわかりにくい、あるいは詳細な情報が財務諸表から十分に読み取れないなどの問題がありました。IFRS第18号は、これらの財務諸表の重要な情報に関わる事項の表示を改善した内容になっています。
IFRS第18号で新たに規定されたのが、情報のグルーピングと情報のラベリングです。規定により、類似する情報を集約し、類似しない情報は分解してその根拠を示すことが求められます。情報の重要性にも注目し、これまで「その他」としていたラベリングは、重要性を加味してその他に有用なラベルがある場合、適切なラベリングにより情報を開示することが求められるようになりました。
IFRSによる損益計算書の作成方法
IFRSを適用した損益計算書は、日本基準の損益計算書と区分や構造が異なります。IFRS対応のシステムを利用するなど、適切な区分で作成できるようにしましょう。
IFRSによる損益計算書のひな形
IFRSの損益計算書については、特定のひな形は存在しません。ただし、ルールに則って、開示が要求されている表示を適切に作成する必要があります。金融庁では「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」が公表されています。他にも、大手会計監査法人などでIFRSによる連結財務諸表の記事例が公開されていることがあります。これらの開示例は、IFRSに基づく損益計算書を作成する際の参考になります。
IFRSによる損益計算書の記載例
IFRSによる損益計算書の構造は、簡単に示すと以下のようになります。太字が小計、青く塗りつぶされている部分がIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」で変化する部分です。改正以前は塗りつぶしの部分について区分や小計の表示は求められませんが、2027年1月1日以降に開始する事業年度以降、営業・投資・財務による表示と小計を加えて損益計算書を作成する必要があります。
区分 | 損益計算書の表示項目 |
---|---|
営業 | 収益 |
費用 | |
営業損益 | |
投資 | 投資からの収益など |
財務及び法人所得税前純損益 | |
財務 | 利息費用など |
税引前当期純利益 | |
法人所得税 | 法人所得税費用 |
継続事業の当期純利益 | |
非継続事業 | 非継続事業の純損益 |
当期純利益 |
IFRSによる損益計算書を作成するときの注意点
日本でIFRSによる開示が認められているのは、連結財務諸表です。財務報告や税務申告で使用する個別財務諸表については、日本基準で作成する必要があります。IFRSによる損益計算書を作成したい場合は、日本基準とIFRSの両方に対応できるようなシステムの導入が求められます。また、IFRSの損益計算書は、日本基準のものと開示項目などが異なるため、IFRSに関する知識やスキルを有した人材の獲得も必要です。
自社でIFRSに対応した損益計算書の作成をしたい場合は、まずIFRSを導入することによる影響を考慮することが重要になるでしょう。担当部署や経営層などへの影響を踏まえ、どのようなシステムの導入や社員に対する研修が必要か検討します。
IFRSの損益計算書は日本基準と異なる
IFRSの損益計算書(包括利益計算書)は、日本基準の損益計算書と構造や表示する項目などに違いがあります。IFRSの損益計算書を作成したい場合は、IFRSに対応するシステムの導入が必要です。導入する際は、業務プロセスが変化することの影響なども踏まえて、人材の確保や適切なシステムの選択を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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