- 更新日 : 2025年2月19日
売上原価対立法とは?三分法や分記法との違いから仕訳例までわかりやすく解説!
商品売買時に仕訳する際の記帳処理方法には、「売上原価対立法」「三分法」「分記法」などがあります。売上原価対立法は、商品売買を「商品」「売上」「売上原価」の3つの勘定科目で仕訳する点が特徴です。
どの処理方法を用いるかによって、記帳のスピードや決算整理の手間が異なります。本記事で売上原価対立法の特徴や仕訳例を確認していきましょう。
目次
売上原価対立法とは?
売上原価対立法は商品売買の記帳処理方法のひとつです。「商品勘定」「売上勘定」「売上原価勘定」の3つを使用します。
おおまかな流れを4つのステップで確認しておきましょう。
- 商品仕入時に、原価を「商品勘定」の借方に記帳
- 商品販売時に、売価を「売上勘定」の貸方に記帳
- 2と同じタイミングで、商品の原価を「商品勘定」の貸方から「売上原価勘定」の借方へ振替
- (決算整理仕訳は不要)
売上原価対立法の仕訳例
「仕入」「売上」「決算」「返品」の4つのケースで、具体的な数字を用いて売上原価対立法の仕訳例を確認していきましょう。
仕入時の仕訳
まず、1万円の商品を現金で仕入れました(1)。売上原価対立法による仕訳は以下の通りです。
商品勘定の借方に、仕入原価である1万円を記入します。また、支払いが現金ではなく、掛けの場合、以下のような仕訳です。
売上時の仕訳
続いて1万円で仕入れた(1)商品のうち、5,000円分を8,000円の売値で販売することができました(2)。仕訳は以下の通りです。
まず売価8,000円を「売上勘定」の貸方に記帳します。販売した分の商品原価5,000円を「商品勘定」の貸方から「売上原価勘定」の借方へ振り替えます。
決算時の仕訳
決算時に、期末商品が1,500円のケースで仕訳を考えます。しかし、売上原価対立法では、決算整理仕訳は必要ありません。商品勘定と売上原価勘定は、それぞれ期末商品と売上原価の金額になることが、決算整理仕訳が不要である理由です。
ただし、棚卸減耗損や商品評価損を売上原価に含めるケースのように、決算整理仕訳が必要になることもあります。
返品時の仕訳
(2)の後に、1,000円分の商品(売価1,600円)が返品されたため、現金で返金しました(3)。この場合の仕訳は以下の通りです。
返品時には、販売した際との逆仕訳で対応します。掛けで販売しており、掛け代金から相殺する場合は、「現金」の部分が「売掛金」です。
分記法・三分法との違い
商品売買では、売上原価対立法以外にも分記法や三分法といった記帳処理方法が存在します。各処理方法によって、メリットデメリットが異なるため、それぞれの違いを理解しておくことが大切です。
まず下表で「仕入」「売上」「決算」「返品」における仕訳例を比較しましょう。
売上原価対立法 | 分記法 | 三分法 | |
---|---|---|---|
仕入 | (商品)100 (現金)100 | (商品)100 (現金)100 | (仕入)100 (現金)100 |
売上 | (現金)150 (売上)150 (売上原価)100(商品)100 | (現金)150 (商品)100 (商品販売益)50 | (現金)150 (売上)150 |
決算 | 無し | 無し | 前期からの繰越 (仕入)15 (繰越商品)15 翌期への繰越 (繰越商品)20 (仕入)20 |
返品 | (売上)75 (現金)75 (商品)50 (売上原価)50 | (商品)50 (現金)75 (商品販売益)25 | (売上)75 (現金)75 |
分記法との違い
売上原価対立法では、商品売買の仕訳を「商品」「売上」「売上原価」という3つの勘定科目で対応するのに対し、分記法は「商品」「商品売買益」の2つで仕訳をおこないます。決算整理が不要な点は売上原価対立法と同じです。
販売時の仕訳は売上原価対立法の方がやや手間がかかります。分記法を発展させた形が売上原価対立法と考えることもできるでしょう。
三分法との違い
三分法は、「仕入」「売上」「繰越商品」という3つの勘定科目で仕訳をおこないます。仕入時、販売時に「仕入」「売上」の金額をそのまま計上することができるため、多くの企業で用いられる方法です。
三分法を用いることで、スムーズに記帳処理することができます。一方で、売上原価対立法や分記法と異なり、決算処理を要する点がデメリットです。
売上原価対立法のメリットは?
ここまでに説明してきた特徴からもわかるように、商品売買における決算整理仕訳が不要な点が売上原価対立法のメリットです。また、売上の度に売上勘定や売上原価勘定が積み上がっていくため、リアルタイムに売上や売上原価が把握できます。
売上高と売上原価がわかれば売上利益率なども算出できるため、自社の業績や経営状況がつかめる点もメリットです。
売上原価対立法のデメリットは?
都度、売上原価を把握しておかなければならない点が売上原価対立法のデメリットです。また、三分法と比べると日々の仕訳に時間がかかります。
実務面でみても、三分法や分記法を用いている企業の方が多いです。例えば、商品の種類が多い小売業などでは三分法、不動産業のように商品の種類が少ない業種では分記法を用いる傾向があります。
売上原価対立法について理解できましたか?
売上原価対立法は、リアルタイムでの業績管理で効果的な方法です。その一方で、都度売上原価を把握しておかなければならない点が手間となるでしょう。
依然として実務面で三分法や分記法を用いる企業は多いです。しかし、より迅速な経営判断が求められる近年では、売上原価対立法も注目を集めはじめています。
自社の経営方針を踏まえ、売上原価対立法も検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
売上原価対立法とは?
商品売買の記帳処理方法のひとつで、「商品勘定」「売上勘定」「売上原価勘定」という3つの勘定科目を使用します。 詳しくはこちらをご覧ください。
分記法との違いは?
3つの勘定科目を用いる売上原価対立法に対し、分記法は「商品」「商品売買益」の2つで仕訳をおこないます。 詳しくはこちらをご覧ください。
三分法との違いは?
三分法の方がスムーズに記帳処理できますが、売上原価対立法と異なり決算整理仕訳が必要となります。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
商標権の会計処理や仕訳方法まとめ
商標権とは商品やサービスに商標となる目印をつけて独占できる権利です。商標権を得ると、自社の商品に使われるデザインや文字などを保護できます。 商標登録をする際に支払った費用は、固定資産として会計処理をします。仕訳は商標権の出願前から更新時まで…
詳しくみる前受金の返金が発生した!仕訳方法をわかりやすく解説
商品の注文時などに「前受金」を受領することがありますが、注文や契約がキャンセルされると、前受金を返却しなければなりません。前受金の返金時には、どのような仕訳をすればよいのでしょうか。本記事では、前受金を返金したときの会計処理について、キャン…
詳しくみる受贈益とは?範囲と例外、仕訳の解説
受贈益とは特別損益の1つで、無償または低額で資産を譲り受けた際に使う収益勘定です。無償で資産を受け取った場合でも、法人税の対象となるため会計処理を実施する必要があります。 しかし、受贈益の範囲や例外になるケースを知らないでいると、処理を間違…
詳しくみる自転車購入時の勘定科目は?電動自転車の場合や修理費用などについても解説!
法人や個人事業主が、事業に必要な自転車を購入する場合は、経費として計上できます。通常の自転車であれば10万円もあれば購入できるでしょう。しかし、電動自転車などは10万円以上の商品も多く、税務上は若干複雑になります。そこで当記事では、自転車購…
詳しくみる吸収合併の会計処理・仕訳例を3つのケース別にわかりやすく解説
「吸収合併」とは、会社どうしが合併するとき、ある会社が別の会社を取り込む形で一つになることを意味します。合併には契約や登記の手続きが必要ですが、経理担当者にとって一番大切なのは、仕訳や会計処理です。 吸収合併にはいくつかのパターンがあり、の…
詳しくみる時価ヘッジとは?繰延ヘッジとの違いや仕訳方法、税効果会計についてわかりやすく解説
資金調達や投資方法が多様化するなか、様々な金融商品の取引を行う企業も多くなりました。金融商品にはリスクが付きものですが、このリスクを可能な限り回避させるために、先物取引やオプション取引、スワップ取引などのデリバティブ取引を利用するケースも増…
詳しくみる