- 更新日 : 2025年2月19日
数理計算上の差異とは?発生要因から仕訳まで解説
企業が退職一時金の支給や企業年金制度の利用を行うには、退職給付会計の会計基準に則った会計処理が必要です。退職給付会計では昇給率や退職率、年金資産の運用益などを見積もりますが、必ずしも見積もりと現実の推移が合致するとは限りません。こうした予測と実績の間に生まれた差異を「数理計算上の差異」といいます。
この記事では数理計算上の差異の定義、発生要因、数理計算上の差異発生時の仕訳処理について解説していきます。
数理計算上の差異とは
退職給付会計において、退職金は労働の対価としての賃金の後払いと考えられています。すなわち退職金の支払時に全額を費用として計上するのは適切ではないと考え、将来支給する退職金を現在から将来にわたって費用を配分し、積み立てる処理が行われます。
しかし、退職金は支給までの間にさまざまな要因で変動するため、確定した額を前提に積み立てが行われるわけではありません。あくまで現時点の見積もりにより積立額が算出されるため、将来にわたって実際との差額が生じることがあります。こうした退職給付会計における見積もりと実際との差額を数理計算上の差異といいます。
とりわけ、数理計算上の差異は、次のような要因で生じた差異を指しています。
- 退職給付債務の見積数値の変更により生じた差異
- 退職給付債務の見積数値と実績との差異
- 年金資産における期待運用収益と運用成果との差異
なお、退職給付債務の計算方法には原則法と簡便法の2つの方法があります。原則法はこれまで説明したとおり、数理計算による詳細な退職給付費用が計算されます。一方の簡便法は従業員300人未満などの小規模事業者が選択できる退職給付の計算方法です。複雑な見積もりは行わず、数理計算を用いない単純な方法により計算を行うため、数理計算上の差異という概念は存在しません。
数理計算上の差異の発生要因
数理計算上の差異には次の3つの差異があると説明しました。なぜこのような差異が生じるのか、それぞれの発生要因を詳しく見ていきましょう。
- 退職給付債務の見積数値の変更により生じた差異
- 退職給付債務の見積数値と実績との差異
- 年金資産における期待運用収益と運用成果との差異
まず、退職給付債務の見積数値の変更により生じた差異です。退職給付会計ではさまざまな計算基礎率が使われています。代表的なのが、将来の退職給付金の額を現在価値に置き換えるために使われる割引率です。ほかにも、予定退職率や予定昇給率など、予測値を計算するためにさまざまな基礎率が使用されます。計算基礎率は常に一定ではなく、一定期間ごとに見直しが行われます。そのため、見積数値そのものが変更されることによる差異が生まれます。
次に、退職給付債務の見積数値と実績との差異です。見積数値と実績との差異はさまざまな要因によって発生します。代表的なのは、新規の在籍者による対象従業員の変動や退職者数の変動などによって生じる差異です。
次に、年金資産における期待運用収益と運用成果との差異です。年金制度を利用する場合の差異で、年金資産の運用で期待される収益と実際の収益との間に生まれた差額が数理計算上の差異として扱われます。
数理計算上の仕訳
退職給付債務において発生した数理計算上の差異は実績値に修正する必要があります。しかし、適切に設定された計算基礎率により生まれた数理計算上の差異は、長期的に見れば損失方向と利益方向の差異で相殺されると考えられているため、即座に全額を処理する必要はありません。この発生時期と処理時期に生まれる期間のズレを容認する概念を「遅延認識」といい、一定の償却年数を設けることが認められています。数理計算上の差異は、退職給付引当金を増減させる仕訳処理で償却が行われます。償却方法は、固定資産の減価償却で用いられる定額法と定率法の2種類の計算方法が認められています。
仕訳例より、数理計算上の償却のやり方を見ていきましょう。
【定額法の場合】
(仕訳例)数理計算上の差異が貸方に50,000円生じたため発生年度から償却を行うこととした。償却期間は、継続的に平均残存勤務期間以内の10年を使用している。
(計算)50,000÷10年=5,000円
【定率法の場合】
(仕訳例)数理計算上の差異が貸方に50,000円生じたため発生年度から償却を行うこととした。償却期間は、継続的に平均残存勤務期間以内の10年を使用している。
(計算)50,000×0.200(200%定率法償却率)=10,000円
上記の仕訳は、いずれも貸方に数理計算上の差異が生じた場合、つまり退職給付引当金として計上すべき額が実際よりも不足していた場合のものです。定額法、定率法、いずれの場合であっても、償却分を退職給付費用として費用に計上し、引当金を増やす処理を行います。
借方に数理計算上の差異が生じた場合については、上で説明した仕訳とは借方貸方を逆にした仕訳を行って、当期の退職給付費用と退職給付引当金に計上されている額を減額する仕訳を行います。
なお、上記の仕訳例のように償却期間を設けず、原則的な方法により数理計算上の差異を認識するときは、認識した差異を一時の費用として処理します。
(仕訳例)数理計算上の差異が貸方に50,000円生じたため発生年度に償却した。
数理計算上の差異は退職給付会計の予実の差で発生するもの
数理計算上の差異は退職給付会計の原則的な方法で生じるもので、見積もりによる予測値と実際との差異により生まれます。数理計算上の差異が発生した場合は、実際の値に修正する仕訳が必要です。
実際の値に修正する場合は、一時的に数理計算上の差異を計上することもできますが、遅延認識により償却期間を設けて償却することもできます。数理計算上の差異は、原則法を採用した退職給付会計では理解しておきたい概念ですので、ポイントをよく押さえておきましょう。
よくある質問
数理計算上の差異とは?
退職給付会計において発生する見積もりと実際との差異のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
数理計算上の差異の要因は?
退職給付債務の見積数値変更による差異と見積数値と実際との差異、年金資産の期待運用収益と運用成果との差異があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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