- 作成日 : 2026年10月28日
106万円の壁は撤廃される?社会保険の加入要件や扶養への影響を解説
106万円の壁は2026年10月1日に賃金要件が撤廃され、週20時間以上などの残る条件で加入を判定します。
- 撤廃後も労働時間・企業規模で判定
- 企業規模要件は2035年まで段階的縮小
- 掛け持ちは勤務先ごとに加入を判断
Q. 106万円の壁が撤廃されると手取りはどうなる?
A. 加入対象者は増えますが、月給8.5万円→12万円に増やすと差引額は月約1.8万円増える試算です。
106万円の壁は、パート・アルバイトなどが勤務先の社会保険に加入する際の賃金基準です。2026年10月1日に月額8.8万円以上の要件が撤廃され、加入判定の確認方法が変わります。
本記事では、社会保険の適用拡大による加入対象、手取りと会社負担、仕訳などを解説します。
106万円の壁とは?撤廃で何が変わる?
106万円の壁の撤廃とは、短時間労働者の社会保険加入条件から賃金要件を外す改正です。 年収を106万円未満に抑えても、ほかの条件を満たせば加入対象になります。経理担当者は年収だけでなく、勤務先の適用状況と労働契約を確認します。
106万円は目安で、実際は月額8.8万円で判定する
従来の賃金要件は、所定内賃金が月額8.8万円以上であることです。 8.8万円を12倍すると105.6万円になるため、「106万円の壁」と呼ばれています。
1月から12月までの累計給与が106万円に達した日から加入する制度ではありません。また、所定内賃金の判定では、残業代や賞与、通勤手当などを算入しません。税金を計算する年収や、保険料算定に使う報酬とは区別します。
2026年10月1日に賃金要件が撤廃される
2026年10月1日からは、月額8.8万円未満という理由だけで加入対象外にはなりません。 週の労働時間など、残る要件に従って判断します。背景には、最低賃金の上昇により、週20時間以上働く人が従来の賃金要件を満たすようになったことがあります。
この改正によって保険料率が一律に上がるわけではありません。すでに加入している人は、賃金要件の撤廃だけを理由に控除額を変更しません。新たな加入対象者の有無を確認し、該当者の保険料を設定することが実務の中心です。
撤廃後は誰が社会保険に加入する?
2026年10月以降も、労働時間、雇用見込み、学生区分、企業規模による判定は残ります。 「週20時間以上なら会社の規模を問わず加入する」という段階に、一斉に移行するわけではありません。従業員側と会社側の条件を分けて確認すると、対象者を絞り込めます。なお、通常の労働者に近い時間・日数で働く人には別の加入基準があります。
原則として週20時間以上・2か月超の雇用見込みなどで判定する
短時間労働者は、原則として週の所定労働時間が20時間以上、2か月を超える雇用見込みがあり、学生でないことが加入条件です。 2か月以内の契約でも更新が見込まれる場合は、当初から加入対象になり得ます。学生でも休学中や夜間・通信制などは対象となる場合があります
契約上は週20時間未満でも、実際の労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その状態が続く見込みなら、原則として3か月目から対象になります。
通常の労働者と比べて週の所定労働時間と月の所定労働日数がともに4分の3以上なら、上記とは別の基準で加入を判定します。最低賃金の減額特例を受ける一定の人には、適用除外・任意加入の特例もあります。
参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構
企業規模要件は2027年以降に段階的に縮小される
2026年10月時点の企業規模要件は、原則として厚生年金の被保険者数51人以上です。 法人では同一法人の全事業所を合算し、適用拡大で加入する短時間労働者は人数に含めません。1年のうち6か月以上、51人以上となる見込みで判断します。
| 適用時期 | 企業規模要件 |
|---|---|
| 2026年10月 | 51人以上 |
| 2027年10月 | 36人以上 |
| 2029年10月 | 21人以上 |
| 2032年10月 | 11人以上 |
| 2035年10月 | 企業規模要件を撤廃 |
企業規模要件は上記のとおり段階的に縮小されます。50人以下でも、労使合意に基づいて「任意特定適用事業所」となっている場合は対象です。店舗単位の従業員数だけで判断しないようにしましょう。
106万円の壁撤廃を機に働き控えをやめると、負担はどう変わる?
働き控えをやめて社会保険に加入すると、保険料は発生しますが、給与増により差引額が増える場合があります。 以下は月給8.5万円から12万円に増やす試算です。改正だけでなく、勤務時間の変更を伴う比較です。
勤務時間を抑えている間は本人の健康保険・年金保険料は0円
配偶者の健康保険の扶養に入り、国民年金第3号に該当する場合、本人の健康保険・年金保険料は0円です。 厚生年金の被保険者数51人以上の会社で、週20時間未満・月給8.5万円に抑えて働く、学生ではない30歳の無期契約のパートを想定します。
勤務時間を増やすと本人負担が発生するが、差引額も増える
週20時間以上・月給12万円へ変更して加入すると、本人負担は月16,744円となる試算です。 協会けんぽ東京支部の2026年度料率、標準報酬月額11.8万円、軽減なしで、健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金を合計しています。
税金・雇用保険料を除く差引額は85,000円から103,256円へ、月18,256円増えます。 ただし、変更後の勤務条件なら改正前でも加入対象です。
会社は給与の増額に加えて月約1.72万円を負担する
会社には、子ども・子育て拠出金を含め月約1.72万円の保険料負担が新たに発生します。 給与の増額3.5万円と合わせると、月約5.22万円の負担増です。労働保険料などは別途計算します。
給与計算と社会保険料の仕訳はどう進める?
経理実務では、加入手続き、給与からの控除、会社負担の計上、納付を連動させます。 人事担当者から対象者の情報を受け取り、資格取得日と保険料の対象月を給与システムに登録します。10月に制度が変わるからといって、一律に10月支給給与から差し引くとは限りません。自社の控除方式を確認し、従業員別の明細と納付額を照合できる状態にします。
対象者を抽出し、資格取得届と給与マスタを更新する
新たに加入する人の被保険者資格取得届は、原則として事実発生から5日以内に提出します。 事前に雇用契約書、労働時間、学生区分、報酬の見込額を確認し、加入漏れを防ぎます。
給与マスタ(給与計算に使う従業員情報)には、資格取得日、標準報酬月額、健康保険の加入先、介護保険の対象区分などを登録します。子ども・子育て支援金の控除設定も確認し、給与確定前に試算結果を点検しましょう。扶養から外れる従業員には、配偶者の勤務先での手続きも案内します。
翌月控除なら10月分保険料は11月支給給与から差し引く
翌月控除方式では、10月分の社会保険料を11月支給給与から控除します。 10月1日に資格を取得し、その後も加入を継続する人は、10月分から保険料が発生します。
会社は本人負担分と会社負担分を合わせ、原則として対象月の翌月末までに納付します。したがって、この例では10月分を11月末までに納めます。自社が当月控除方式なら給与への反映時期は異なるため、「資格取得月」「保険料の対象月」「給与支給月」を別々に管理しましょう。
本人負担分は預り金、会社負担分は法定福利費で処理する
社会保険料は、従業員から預かった金額と会社の費用を分けて記帳します。 会社は両者を合わせて納付しますが、納付額全体を会社の経費にすると、本人負担分まで費用として計上してしまいます。
以下は、会社負担分を発生月に未払計上する仕訳例です。所得税などの控除は省略しています。
| 処理の場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 給与支給 | 給与〔総支給額〕 | 預り金〔本人負担分〕・普通預金〔差引支給額〕 |
| 会社負担分の計上 | 法定福利費 | 未払費用 |
| 保険料の納付 | 預り金・未払費用 | 普通預金 |
給与明細の控除額、預り金の残高、保険料納入告知額を照合すると、控除漏れや二重計上を発見しやすくなります。
130万円の扶養や年末調整はどう扱う?
106万円の壁の撤廃と、健康保険の扶養基準や所得税の非課税ラインは別の制度です。 社会保険料の控除が始まっても、税金の扶養区分を一律に変更するわけではありません。
130万円未満でも勤務先の加入要件を満たせば扶養から外れる
130万円の壁は、原則として健康保険の被扶養者でいられるかを判断する収入基準です。 年収130万円未満でも勤務先の社会保険の加入要件を満たせば、自分で加入します。
2026年4月からは、労働契約上の賃金から見込まれる年収が130万円未満で、他の収入がなく、生計維持などの条件を満たす場合、原則として被扶養者として扱う仕組みになっています。ただし、この取扱いによって勤務先での加入義務が免除されるわけではありません。なお、60歳以上や一定の障害者は180万円未満、配偶者を除く19歳以上23歳未満は150万円未満など、年齢・続柄による違いもあります。
所得税の178万円と社会保険の加入は分けて処理する
給与収入だけで他の所得がない人は、2026年分の所得税について178万円以下が非課税となりますが、社会保険の加入判定は別です。
税制改正は原則として2026年12月1日施行で、12月の年末調整などに反映されます。11月までの源泉徴収事務に、この税制改正による変更はありません。給与ソフトでは社会保険料の控除額を更新し、年末調整では実際に控除した本人負担額を社会保険料控除に反映します。
会社と従業員の負担を抑えるには?
負担への対応では、対象に応じた支援制度と、働き方を変えた場合の手取り試算を組み合わせます。 支援は自動適用ではなく、事業所の加入経緯や賃金、労働時間などに条件があります。会社側の通常負担がすべて補填されるわけでもありません。利用可能な制度を見極めたうえで、納付までの資金繰りと従業員への説明に反映しましょう。
保険料調整制度は対象事業所と従業員の条件を確認する
保険料調整制度は、対象事業所の一定の短時間労働者について、本人負担を3年間軽減する制度です。 標準報酬月額12.6万円以下などの条件があり、3年目は軽減割合が縮小します。会社が一時的に追加負担した分は、後に還付されます。
2026年10月以降に新たに任意特定適用事業所となる企業などが対象で、すでに適用対象だった51人以上の企業に一律に適用されるものではありません。利用には申出が必要なため、対象資格と期限を先に確認します。
労働時間延長の助成金と加入後の保障を案内する
社会保険への加入と労働時間・賃金の増加を組み合わせる場合、キャリアアップ助成金の活用を検討できます。 「短時間労働者労働時間延長支援コース」は加入だけで支給される制度ではないため、計画や支給要件を確認してから実施します。
従業員には、加入後の手取りとともに、将来の厚生年金の増加や、要件を満たす場合の傷病手当金・出産手当金も説明しましょう。税金、社会保険、会社独自の配偶者手当まで含めて試算すると、働き方を比較しやすくなります。
106万円の壁撤廃後、掛け持ち・ダブルワークの社会保険はどう判定する?
106万円の壁撤廃後も、健康保険・厚生年金の加入条件は勤務先ごとに判定します。 掛け持ち先の労働時間を合算する仕組みではありません。一方だけが対象か、両方で対象になるかによって、保険料の計算と手続きが異なります。
勤務先ごとに週20時間などの加入条件を確認する
労働時間は合算せず、各社の所定労働時間や企業規模などで判断します。 たとえばA社で週15時間、B社で週10時間働いても、合計25時間を理由に加入対象にはなりません。賃金要件の撤廃後も、雇用見込みや学生区分などの条件は残ります。
参考:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構
一方だけで加入条件を満たす場合は、その勤務先で加入する
A社だけで加入条件を満たす場合は、A社で加入します。 保険料はA社の報酬を基に計算し、加入対象ではないB社の給与は合算しません。掛け持ち先すべての給与が、自動的に保険料の計算対象になるわけではありません。
両方で加入条件を満たす場合は、報酬を合算して保険料を按分する
両社の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、保険料を報酬割合に応じて各社に配分します。
各社の資格取得手続きに加え、本人は事実発生から10日以内に「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。経理担当者は、各社に通知された保険料額に従って給与控除を設定します。
106万円の壁撤廃にあたり、加入判定や給与計算を見直そう
106万円の壁が撤廃されても、社会保険への加入は労働時間や企業規模などの条件で判定します。 年収だけで判断せず、従業員ごとの契約内容と勤務実態を確認しましょう。
新たに加入する人がいる場合は、資格取得の手続き、標準報酬月額の設定、給与からの控除開始月、会社負担分の仕訳を整理します。掛け持ち勤務では、加入条件は勤務先ごとに確認し、両方で対象となる場合は報酬を合算して保険料を計算します。
社会保険の適用拡大に備え、本人の手取りと会社の人件費を試算することも欠かせません。扶養や税金の扱いとの違いを従業員に説明し、人事・経理で情報を共有して、加入漏れや給与計算のミスを防ぎましょう。
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