- 作成日 : 2026年10月28日
インボイス制度で免税事業者はどうなる?登録するメリット・デメリットや経過措置を解説
免税事業者のままでも事業継続は可能ですが、インボイスを発行できないため取引先の仕入税額控除に影響します。
- 課税売上高1,000万円以下なら原則免税
- 2026年10月から控除割合が80%→70%に
- BtoB中心の事業者は登録を検討すべき
Q. 免税事業者はインボイス登録をしないとどうなる?
A. 取引先は原則として仕入税額控除を全額受けられず、取引条件の見直しを求められる可能性があります。
インボイス制度において条件を満たす事業者が必ず課税事業者にならなければならないわけではなく、免税事業者のまま事業を続けることもできます。ただ、免税事業者は適格請求書(インボイス)を発行できないため、取引先の仕入税額控除に影響する可能性があります。
この記事では、「インボイス制度と免税事業者」の関係を中心に、免税事業者の条件、インボイス登録のメリット・デメリット、経過措置などを解説します。
インボイス制度における免税事業者とは?
インボイス制度の開始後も、要件を満たしていれば免税事業者のままでいることは可能です。
ただ免税事業者のままでは適格請求書発行事業者にはなれず、インボイスを発行できません。取引先が課税事業者の場合には、取引条件や価格について確認を求められるケースがあります。
免税事業者のまま事業を続けることはできる
インボイス制度が導入された後も、消費税の免税要件を満たしていれば、原則として免税事業者として事業を続けられます。一般に、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者は、一定の場合を除き消費税の納税義務が免除されます。個人事業者の場合、基準期間は原則として前々年です。事業年度が1年の法人であれば、前々事業年度が基準期間となります。
ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合などは課税事業者となることがあります。また、適格請求書発行事業者として登録している場合は、課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者にはなりません。
免税事業者はインボイスを発行できない
免税事業者は、適格請求書発行事業者として登録していないため、適格請求書を発行できません。適格請求書を発行できるのは、税務署長から登録を受けた適格請求書発行事業者です。インボイスには登録番号をはじめ、適用税率や税率ごとに区分した消費税額など所定の事項を記載します。
免税事業者でも通常の請求書や領収書を発行すること自体は可能ですが、それを適格請求書として発行することはできません。取引先が仕入税額控除を行う際には、この違いが影響します。
免税事業者になる条件は?
原則として、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の免税事業者となります。売上高だけで判断できるとは限らず、特定期間やインボイス登録の有無なども確認しなければなりません。
とくに事業規模が拡大している個人事業主や設立直後の法人では、前々年・前々事業年度の売上だけを確認して「免税事業者」と判断すると誤る可能性があります。
基準期間の課税売上高が原則1,000万円以下なら免税になる
免税事業者かどうかを判断する基本的な基準は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下かどうかです。個人事業者の場合、2026年分の判定では原則として2024年が基準期間です。法人の場合は原則として前々事業年度を基準に判定します。
ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下だからといって、必ず免税になるわけではありません。特定期間の判定や、新設法人・特定新規設立法人などの例外もあります。
特定期間の売上が1,000万円を超えると課税事業者になる場合がある
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者となる場合があります。個人事業者の特定期間は原則として前年の1月1日から6月30日までです。法人の場合は原則として前事業年度の開始日から6か月間となります。
なお、一定の場合には課税売上高に代えて給与等支払額の合計額を用いて1,000万円の判定をすることもできます。このため、売上が急増している事業者は基準期間だけでなく、特定期間についても確認しておく必要があります。
免税事業者のままだと取引先にどのような影響がある?
免税事業者から仕入れた取引先は、原則としてその仕入れについて消費税の仕入税額控除を全額行えません。取引相手が課税事業者の場合には、インボイス登録の有無が取引条件に影響する可能性があります。
取引先は原則として仕入税額控除を全額受けられない
免税事業者はインボイスを発行できないため、買手である課税事業者は原則として仕入税額控除を全額受けられません。仕入税額控除とは、売上時に受け取った消費税額から、仕入れや経費として支払った消費税額を差し引く仕組みです。
たとえば、同じ110万円の仕入れであっても、仕入先がインボイス発行事業者か免税事業者かによって、買手側が控除できる消費税額に違いが生じることがあります。このため、法人向け取引を中心としているフリーランスや個人事業主では、取引先の状況を確認したうえでインボイス登録の必要性を判断するのが適しています。
2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%を控除できる
免税事業者などインボイス発行事業者以外からの課税仕入れでも、2026年9月30日までは一定の要件のもとで仕入税額相当額の80%を控除できます。これはインボイス制度への移行による負担を緩和するための経過措置です。
2026年度税制改正によって、従来予定されていた控除割合と期間が見直されました。2026年9月時点における控除割合は次のようになります。
| 課税仕入れの期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日~2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日~2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日~2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日~2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以降 | 経過措置終了 |
2026年10月1日からは、経過措置による控除割合が80%から70%へ引き下げられます。
参考:インボイス制度に関する令和8年度税制改正について|国税庁
少額の取引ならインボイスがなくても仕入税額控除できる場合がある
一定規模以下の事業者には、税込1万円未満の課税仕入れについてインボイスの保存を不要とする「少額特例」があります。対象となるのは、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下である一定の事業者です。
対象となる事業者は、2023年10月1日から2029年9月30日までの税込1万円未満の課税仕入れについて、一定事項を記載した帳簿を保存すれば仕入税額控除を行えます。取引相手が免税事業者である場合にも適用できます。
免税事業者はインボイス登録をしたほうがよい?
インボイス登録をするかどうかは、売上先が誰なのか、取引先がインボイスを必要としているか、消費税負担がどの程度になるかを踏まえて判断します。登録すれば取引先に適格請求書を交付できますが、同時に課税事業者となり、原則として消費税の申告・納付が発生します。
法人や課税事業者との取引が多い場合は登録を検討する余地がある
取引先に課税事業者が多く、インボイスの発行を求められている場合には、適格請求書発行事業者への登録を検討する余地があります。インボイスを発行できれば、取引先は原則として適格請求書に基づいて仕入税額控除を行えます。
消費者を相手にする小売業やサービス業など、顧客が仕入税額控除を必要としない事業では、登録による取引上のメリットが小さいこともあります。
登録の要否は売上高だけではなく、BtoB・BtoCの比率、取引先からの要望、価格設定、消費税の納税額の見込みなどを踏まえて総合的に判断する必要があります。
インボイス登録をすると消費税の申告と納付が発生する
免税事業者がインボイス発行事業者として登録すると、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税義務が生じます。登録後は、売上に係る消費税や仕入税額控除を計算し、原則として消費税の確定申告を行います。
免税事業者であれば消費税の申告・納税が不要だったケースでも、インボイス登録後は税負担だけでなく、帳簿管理や申告などの事務負担も増えます。登録前には税額を試算しておくとよいでしょう。
2割特例終了後に免税事業者から登録した個人事業主はどうなる?
2026年度税制改正により、一定の個人事業者について、2027年・2028年の納付税額を売上税額の3割とする「3割特例」が設けられました。2割特例がそのまま延長されたわけではありません。また、3割特例は個人事業者を対象とする措置であり、法人について同じ仕組みが適用されるわけではない点にも注意が必要です。
一定の個人事業者は2027年・2028年に3割特例を利用できる
インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった一定の個人事業者は、2027年分と2028年分について、納付税額を売上税額の3割とできる場合があります。
3割特例では、課税標準額に対する消費税額からその70%相当額を控除することで、納付税額を売上税額の30%相当とします。
これまで2割特例を利用していた個人事業者も、要件を満たせば対象となります。2割特例終了後に直ちに通常の本則課税のみになるわけではありません。
法人は3割特例の対象ではない
2027年・2028年を対象とする3割特例は、小規模な個人事業者を対象とした措置であり、法人には同じ特例は設けられていません。
2割特例を利用している法人は、適用終了後の消費税計算について、本則課税や簡易課税制度などを検討することになります。
簡易課税制度では、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であるなどの要件を満たし、所定の届出を行った場合、実際の仕入税額ではなく事業区分ごとの「みなし仕入率」を使って納付税額を計算できます。
免税事業者がインボイス登録するメリット・デメリットは?
インボイス登録の主なメリットは取引先が仕入税額控除を行いやすくなることで、主なデメリットは消費税の納税と申告事務が発生することです。どちらの影響が大きいかは取引形態によって異なります。免税事業者は「周囲が登録しているから」という理由だけで決めるのではなく、自社・自身の取引構造を基準に判断するのが合理的です。
【メリット】適格請求書を発行できる
適格請求書発行事業者として登録すれば、取引先にインボイスを交付できます。課税事業者である取引先は、適格請求書など所定の書類と帳簿を保存することで、原則として仕入税額控除を行えます。
法人向けの仕事が中心で、取引先からインボイスの発行を求められている事業者にとっては、取引を円滑に継続しやすくなる点が登録を検討する理由の一つになります。
【デメリット】消費税負担と経理事務が増える
免税事業者が登録すると、消費税の申告・納税に伴う金銭的負担と事務負担が発生します。インボイス発行事業者は基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者にはなれません。売上・仕入れの税率区分を管理したうえで、消費税額を計算し、期限までに申告・納付する必要があります。
課税事業者になることで必ず税負担だけが増えるとは限りません。設備投資などによって仕入れに係る消費税額が売上に係る消費税額を上回る場合、本則課税では還付につながるケースもあります。免税事業者のままでは仕入税額の還付を受けられません。
免税事業者が発行する請求書には消費税を書いてもよい?書き方と注意点は?
免税事業者でも、請求書に消費税相当額を区分して記載することは可能です。ただし、免税事業者は適格請求書発行事業者ではないため、発行する請求書をインボイスとして扱うことはできません。
免税事業者でも消費税相当額を記載できる
免税事業者が、請求書に消費税相当額を記載すること自体は禁止されていません。
「税抜価格10万円、消費税相当額1万円、合計11万円」といった形で表示できます。免税事業者だからといって、税込価格で請求したり、消費税相当額を区分表示したりできないわけではありません。ただし、免税事業者は消費税の納税義務が免除されているため、請求書に記載した消費税相当額も含めて、取引の対価として扱われます。
インボイスと誤認される書き方は避ける
免税事業者は、適格請求書発行事業者の登録番号を記載したり、「適格請求書」と表示したりすることはできません。
インボイスには、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価額、消費税額などの記載事項があります。免税事業者は登録番号を取得していないため、実在しない番号を記載するなど、インボイスと誤認される表示は避けます。
通常の請求書として、発行者名、取引日、取引内容、金額などを明確に記載するとよいでしょう。
取引先は原則として仕入税額控除を全額受けられない
免税事業者の請求書に消費税相当額が記載されていても、それだけでインボイスになるわけではありません。
適格請求書を発行できるのは、登録を受けた適格請求書発行事業者に限られます。取引先が課税事業者の場合、免税事業者から受け取った通常の請求書では、原則として仕入税額控除を全額受けられません。(免税事業者などからの仕入れには経過措置があり、一定期間は仕入税額相当額の一部を控除できる場合があります。)
免税事業者との取引で値下げ交渉をしても問題ない?独占禁止法との関係は?
免税事業者との取引価格について値下げ交渉をすること自体は、直ちに独占禁止法上の問題になるわけではありません。ただし、買手が優越的な立場を利用し、一方的に著しく低い価格を押し付ける場合などは「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあります。
双方が十分に協議して価格を決めれば問題にならない
仕入税額控除の制限を踏まえて値下げを申し入れ、免税事業者と十分に協議したうえで双方が納得して価格を決めるのであれば、原則として問題ありません。
インボイス制度では、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除に制限があります。その影響を踏まえて取引価格を見直すこと自体は禁止されていません。ただし、免税事業者側も仕入れや経費の支払い時には消費税相当額を負担しているため、その負担も考慮しながら価格交渉を行うことが適切です。
一方的に著しく低い価格を設定すると独占禁止法上問題になることがある
買手が取引上の優越的な地位を利用して、一方的に著しく低い価格を設定すると、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。
価格交渉の機会を形式的に設けるだけで、実際には買手側の都合のみで値下げ額を決めるケースが該当し得ます。免税事業者が仕入れ時に負担している消費税相当額も賄えないほど低い価格を押し付ける場合には、独占禁止法上の問題となる可能性があります。
インボイス登録を条件に値下げや取引停止を一方的に通告すると法に触れる恐れがある
「インボイス登録をしなければ値下げする」「応じなければ取引を打ち切る」と一方的に通告する行為も、状況によっては独占禁止法などに抵触するおそれがあります。
課税事業者になるよう取引先へ要請すること自体は禁止されていません。しかし、その要請と値下げや取引停止を組み合わせ、免税事業者に不当な不利益を与える場合は問題となる可能性があります。取引内容によって独占禁止法のほか、取適法や建設業法が適用される場合もあるため、取引条件の変更は十分な協議を経て決定することが望まれます。
免税事業者は2026年10月以降の変更も踏まえて対応しよう
インボイス制度が始まった後も、消費税の免税要件を満たしていれば免税事業者のまま事業を続けられます。ただし、免税事業者は適格請求書を発行できず、取引先の仕入税額控除に影響します。
2026年10月1日からは免税事業者などからの仕入れについて仕入税額相当額の70%を控除できます。また、2割特例は終了局面を迎えますが、一定の個人事業者には2027年・2028年分の3割特例があります。
「インボイス制度だから課税事業者になる」と単純に考えるのではなく、免税事業者としての要件、取引先の属性、納税額、利用できる経過措置を整理したうえで登録の要否を判断しましょう。
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