- 更新日 : 2025年2月20日
与信限度額とは?基準の決め方や計算方法、オーバーした場合の対応
与信限度額を決めると、企業間の取引を安心して進めることができます。そこで知っておきたいのが、どうやって与信限度額を決めるのか、また与信審査や管理をどうやって行うのかです。
今回は、新たな取引先を広げたい法人のために、与信限度額の設定が必要な理由や設定する際のポイントを詳しくご紹介しますので、ぜひご覧ください。
目次
与信限度額とは
始めに、与信限度額とは何かを押さえておきましょう。
そもそも与信とは
与信とは、企業が取引先に与える信用のことです。さらに詳しく解説すると、「取引先の情報を調査し、その上で信用すること」になります。
与信限度額とは、取引先ごとに設定された売掛債権などの上限額のことです。信用度が高い取引先の与信限度額は高くなり、そうでない取引先の与信限度額は低く設定されるのが一般的です。
与信限度額の設定を行うケース
企業間取引の場合、商品やサービスを提供した後、その都度代金が支払われることはあまりありません。ほとんどの場合、「請求書払い」で取引が行われます。請求書払いとは「後払い」「掛け払い」とも呼ばれるもので、1カ月分などの代金をまとめ、後日発行された請求書にもとづいて期日までに代金が支払われるというものです。例えば、「6月末日締め、7月末日払い」のような取引が請求書払いにあたります。
請求書払いで取引する際に、どの程度の金額まで掛け売りを認めてよいのかを明確にするため、与信限度額が設定されるのです。
与信限度額の設定はなぜ必要か
請求書払いで取引する際は、確実に代金を支払ってもらうために、取引先ごとに与信限度額を設定します。
「経営状態が良い」「他の取引先からも評判が高い」「将来性が高い」など、信用度が高いとみなされた企業は、与信限度額が高めに設定されるのが一般的です。
与信限度額の設定は義務ではありませんが、設定しない場合は代金未回収や計画倒産のリスクが生じます。自社の経営を守るためにも、与信限度額の設定を行いましょう。
与信管理と与信限度額の設定の流れ
与信管理とは、取引先からの代金未回収を回避するために行う活動のことです。与信管理および与信限度額設定の流れを確認しましょう。
取引先の情報を収集する
まず、取引先の経営状態や評判を知るため、情報収集を行います。財務諸表を確認することはもちろん、数値に表れない情報の調査も必要です。
上場企業の場合は企業情報が詳細に公開されていますが、非上場企業は限られた情報しか公開されていないことが多いです。そのため、インターネットからの情報収集や、業界での優位性、経営者の影響力やビジネス能力、性格・資質、同業者からの評判など、信用力を判断する目安となる情報を細かく集めましょう。
取引先へ訪問した際の雰囲気なども、判断材料になります。社内の様子は、以前と比較して変化があるかといった点も重要なポイントです。
ただし、これらの数値化できない定性的な情報には、不確実な情報や主観による判断も含まれることがあります。そのため、定性情報のみで判断せず、数値による定量情報と合わせて分析することが大切です。
情報の審査と評価
集めた情報は定量面や定性面、商流から分析し、結果を踏まえて取引先の信用力を評価します。定量面では、財務諸表などに記載されている数値を点数化して分析します。
定性面は、数値化できない定性情報についての分析です。商流とは商売全体の状況のことで、取引全体の流れについての分析を行います。仕入先や納品場所・納品方法など、商流を確認することで取引先の信用度を分析します。
審査は評価する担当者によって結果が変わらないよう、一定の基準を設定しておくとよいでしょう。
与信限度額の設定
評価に応じて、適切な与信限度額を設定します。あらかじめ整備した信用度による格付けに基づき、格付けの高い取引先は与信限度額を高く、格付けが低い取引先は低くするという方法で設定します。
与信限度額の設定基準はいくつかあるため、自社に合う方法を選びましょう。設定基準については、このあとの項目で紹介します。
契約条件の交渉
与信限度額を設定したら、取引先に伝えて契約条件の交渉を行います。
与信限度額の設定基準と計算方法
与信限度額の設定基準と計算方法について考えてみましょう。
自社の純資産を基準にする
売掛債権が回収できなくなる可能性を想定して、自社の純資産を基準に与信限度額を決めるという方法があります。
一般的には純資産の10%程度であれば、債権回収が不能になっても耐えられるといわれています。
自社の純資産を基準にする場合は、以下の計算式で与信限度額を算出してください。
自社の売掛債権を基準にする
万が一売掛債権が回収不能になっても経営を維持するために、自社の売掛債権を基準に与信限度額を決めるという方法があります。
なお、売掛債権を順調に回収できる場合でも、入金までには1~2カ月ほどかかります。その間、経営が持ちこたえられるかも併せて検討しましょう。
自社の売掛債権を基準にする場合は、以下の計算式で与信限度額を算出してください。
取引先の純資産を基準にする
取引先の純資産が十分にあれば倒産リスクは低く、未回収も防止できます。また、倒産した場合でも、売掛債権分は回収できる可能性が高いといえます。
取引先の純資産を基準にする場合は、以下の計算式で与信限度額を算出してください。
取引先の仕入債務を基準にする
取引先の仕入債務(買掛金)を基準に与信限度額を決めるという方法です。仕入債務を見ることで、取引先の支払能力がわかります。
取引先の仕入債務を基準にする場合は、以下の計算式で与信限度額を算出してください。
取引先の月間売上高の1割を基準にする
取引先の月間売上高の1割を基準にする方法です。売掛債権が支払能力を上回ることを防ぐためには有効な方法ですが、売上高は業種によって大きく異なるため、注意が必要です。
取引先と同業企業と比較する
取引先と同業の企業と比較して与信限度額を決めるという方法です。同業他社と大きく異なる与信限度額に設定することを防止したい場合に有効です。
ただし、同業であっても企業規模や歴史が異なる場合、正しく判断できない可能性もある点には気をつけましょう。
与信限度額を設定する際のポイント
与信限度額を設定する際のポイントをご紹介します。
与信管理の専門部署を作る
与信管理は、専門部署を作ることが業務を円滑に運用するポイントのひとつです。
与信限度額の設定が終わったあとも、継続的に取引先の情報収集や格付けなどの与信管理が必要であり、地道な作業が求められます。判断には、公平な視点も必要になるでしょう。
与信管理は、取引先との距離が近い営業部門が兼務しているケースも少なくありません。しかし、営業では売上を重視して行動する場合もあり、設定されている与信限度額を超過して取引を行ってしまう可能性があります。そのため、独立した専門部署を作る方が与信管理を円滑に進めるためには良い場合があるでしょう。
徹底した情報収集を行う
取引先の情報収集は、多角的に行うことが大切です。入手先や手段を複数用意することで、偏りのない情報を収集できます。Webサイトの情報や商業登記簿、企業パンフレット・商品カタログなど、入手可能な情報を幅広く集めましょう。
外部の情報だけでなく、取引先を訪問して内部の状況を確認することも必要です。従業員の様子や職場の環境など、外部の情報だけではわからない情報を入手します。倉庫や工場など、見学できる場所はできるだけ多く確認しておきましょう。
与信限度額の統一基準を定める
与信限度額を設定する際の審査は、統一基準を定めて行ってください。「取引先と親しいから」「有名企業だから」などの理由で審査基準をまちまちにすると、思わぬリスクを負うことになりかねません。
社内格付け制度を整備する
与信限度額設定のために、社内格付け制度の整備が必要です。社内格付け制度があれば、一定の基準で取引先を評価でき、判断が容易になります。
信用力の高さに応じて評価項目とその内容、格付けの基準を設定した格付け表を作成し、格付けごとに取扱方針を明確にします。格付け表の作成では、担当者の主観に偏らないよう、複数人の意見をもとに整備することが大切です。
格付け表の一例を紹介します。
格付け | 支払能力 | 方針 |
---|---|---|
S | 非常に高い | 継続する |
A | 高い | 継続する |
B | 平均的 | 注意が必要 |
C | やや不安がある | 警戒が必要 |
D | 不安がある | リスクが高い |
社内格付け制度の整備で評価をルール化しておけば、与信管理の流れがスムーズになります。
与信限度額の有効期限を設定する
一度決定した与信限度額をそのまま継続することは避け、有効期限を設けて下さい。1年程度が一般的ですが、新規の取引先や新興企業の場合は、有効期限を半年に設定してもよいでしょう。
有効期限が到来したら再度審査を行い、与信限度額を改めて設定します。
与信限度額がオーバーした場合の対応
与信限度額を設定して取引を始めた後で、予想以上に取引金額が高くなる可能性もあります。取引金額が与信限度額を超過してしまった場合の対応を確認しましょう。
業績や社内の状況に問題がない場合
取引先の業績が好調に推移し、取引額が増えることで与信限度額を超過することがあります。その場合は再度与信審査を行い、問題がなければ与信限度額を増やしましょう。
業績や社内の状況に問題がある場合
取引先の業績や社内の状況に問題があるにも関わらず、与信限度額を超過した取引が行われることもあります。その際は、売掛債権を減らす方向で動きましょう。
ただし、売掛債権を減らすには取引先の協力も必要です。時期や方法を双方で検討し、計画的に行ってください。
与信管理の効率化!与信管理表のテンプレート
忙しい業務の中、取引先ごとに与信審査・管理を行うのが難しいというケースもあるかもしれません。与信管理を効率的に行うために、マネーフォワード クラウドが提供する「反社・与信チェック表」の活用をおすすめします。
取引先の基本情報だけでなく「業界内での評判」「具体的な事業実態」などをチェックし、記録として残しておくのに最適です。
テンプレートのダウンロードを希望される場合は、以下からお申し込みください。
与信管理は代行サービスの活用がおすすめ
与信限度額の設定をはじめ、与信管理に必要な業務は多く、スキルも必要になります。人材不足やコストの問題で、独立した部署を設置するのが難しいケースもあるでしょう。
効率的な与信管理におすすめなのが、請求代行サービスの「マネーフォワード 掛け払い」です。
与信審査・管理を含めた一連の請求業務を代行します。与信審査は機械学習を用いた独自の審査モデルにより、高精度な自動審査を行います。最短1秒での審査結果通知を実現するとともに、専門人材による審査を組み合わせ、平均1営業日以内に与信結果をお知らせします。
所定の条件を満たした場合に限り100%入金を保証するため、入金遅延や貸し倒れといったリスクを心配することなく掛け売りを導入できます。
与信限度額の設定後と定期的な見直しを忘れずに
売掛債権未回収や計画倒産などのリスクを避けるために、取引先ごとに与信限度額を設定することは非常に重要です。財務状況や企業情報を収集・分析し、適切な与信限度額を設定しましょう。
ただし、取引先の状況が変化することも考えられるため、設定した与信限度額は定期的に見直しましょう。1年に1回など期限を決め、期限が到来したら再度審査を行い、その時の取引先の状況に合った限度額を設定してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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