- 更新日 : 2026年1月15日
【テンプレ付】与信管理とは?リスクを防ぐ調査手順や限度額の決め方を解説
企業間取引において、「売上が上がったのに現金が入ってこない」といった未回収リスクを防ぎ、会社を連鎖倒産から守るための防衛策が「与信管理」です。
売掛金などによる掛取引は、一般企業の与信取引として代表的ですが、どうやって限度額を決めるのか、どのように管理すればよいのか、悩む方もいるでしょう。
今回は、与信管理の重要性やプロセス、押さえておきたいポイント、与信調査の方法などを解説していきます。
目次
与信(与信取引)とは?
与信(よしん)とは、取引先に対して信用を与えることです。一般的な商取引(BtoB)では、商品やサービスを納品したその場で現金を受け取るのではなく、月末などに締めて翌月以降に代金を支払う「掛取引(請求書払い)」が行われます。
しかし請求書払いでは、納品と代金支払のタイミングが異なるため、請求金額を回収できないリスクが生じます。そのため、請求書払いは信頼関係のある企業同士でしか実施できません。このように、取引先に信用供与することを与信(よしん)といいます。
与信管理とは「信用を管理すること」
与信管理は、取引先からの代金回収リスクを最小限に抑えるためのものです。与信枠や限度額を設け、取引枠の可否を与信調査や審査を通じて判断します。
取引先の経営状況が悪化し、倒産してしまえば、売掛金は回収不能(貸倒れ)となるため、こうしたリスクを最小限に抑えるために、「いくらまでなら取引しても安全か(与信枠)」を見極め、定期的にチェックする必要があります。
与信取引が継続的に行われ特段の債務不履行がない場合には、与信枠や限度額を徐々に増やします。
会社の利益を確保し、存続させるためにも、与信管理には重要な判断が求められます。
与信管理はなぜ重要か?
適切な与信管理は、企業の健全な経営と従業員のモチベーション維持に欠かせません。与信管理を行う目的や重要性は主に以下の4つに集約されます。
- 資金繰りを安定させるため
- 自社の信頼性を保つため
- 連鎖倒産を防止するため
- 従業員に負担を与えないため
資金繰りの悪化と黒字倒産を防ぐ
与信管理の目的は、キャッシュ・フロー(資金の流れ)の安定化です。帳簿上は大きな売上があっても、その代金が入金されなければ、手元の現金は増えません。
売掛金の回収が遅れたり、貸倒れが発生したりすると、自社の仕入代金や家賃、従業員の給与支払いに充てる現金が不足します。
結果として、自社の業績は黒字であるにもかかわらず、資金ショートにより倒産してしまう「黒字倒産」に陥る危険性があります。
与信管理により回収確実な取引のみを選別することで、こうした事態を未然に防ぎます。
自社の信頼性を保つため
与信管理が甘く、頻繁に焦げ付きを出している企業は、金融機関や株主からの評価を下げてしまいます。「管理体制がずさんな会社」とみなされれば、銀行からの融資が受けにくくなったり、新たな取引先から取引を断られたりする可能性があります。
逆に、堅実な与信管理を行っている企業は財務体質が健全に保たれるため、対外的な信用力(自社の与信)が高まり、有利な条件での取引や資金調達が可能になります。
連鎖倒産を防止するため
与信管理は、取引先の倒産による「貸倒れ」や「連鎖倒産」に対するリスク対策になります。取引先が破綻した場合、未回収の売掛金による損失や、それが引き金となる自社の倒産の可能性も否定できません。
とくに、特定の取引先に売上の多くを依存している場合、その1社が倒産して未回収が発生すると、中小企業の体力では耐えきれないケースが多々あります。
与信管理により、これらのリスクを適切に評価し、特定の企業への依存をできるだけ避けることが重要です。
従業員に負担を与えないため
回収トラブルは、現場の従業員に多大なストレスを与えます。
入金が遅れている取引先に対し、営業担当者が本来の業務時間を割いて督促の電話をかけたり、経理担当者が資金繰りの調整に追われたりするのは、組織として健全ではありません。
「危ない会社とは最初から取引しない」、あるいは「前金取引にする」といったルールを事前に決めておくことで、従業員は安心して前向きな業務に集中できるようになります。
リスクを防ぐ与信管理の仕方とは?
与信管理の基本は、取引先の実態を正しく知ることです。以下の4つの手法をコストや重要度に応じて使い分け、「情報を集めて判断する」アクションをとります。
訪問やヒアリングで「直接調査」する
営業担当者が直接相手先と接し、数値には表れない現場の空気を確認します。
経営者との面談で経営方針を聞き出すだけでなく、事務所や工場の様子(在庫が山積みになっていないか、電話対応は荒くないか、整理整頓されているか)を観察します。現場の活気や従業員の態度は、決算書よりも早く企業の変調を映し出すことがあります。
社内の実績や評判を集める「内部調査」する
内部調査とは、すでに取引実績のある既存の取引先について、社内の関係部門から情報を収集する調査方法です。客観的な事実と担当者の実感を組み合わせることで、内部調査の質を高めます。
経理部門からは、過去の入金状況や支払期日の遵守状況などのデータを入手します。また、取引先と直接対話してきた営業担当者や現場スタッフへのヒアリングも有効な手段です。
内部調査は、外部調査と比較すると費用をかけずに調査できるメリットがある一方、取引開始後でなければ情報を得られず、担当者の主観的な見解に左右されやすいといったデメリットもあります。
公的情報やWeb検索で「外部調査」する
登記簿謄本やインターネット情報を活用し、客観的な事実を確認します。法務局で「商業登記簿謄本」を取得すれば、資本金、役員構成、過去の商号変更履歴、担保設定の状況(不動産登記)などが分かります。また、企業のWebサイトだけでなく、SNSや口コミサイトでネガティブな噂がないかを検索することも、初期スクリーニングとして有効です。
専門機関のデータを利用して「依頼調査」する
依頼調査は、専門の信用調査会社に調査を依頼し、取引先に関する情報を入手する方法です。信用調査会社であれば、財務データや信用情報、企業の沿革など、自社での直接調査では把握しづらい詳細な情報の入手が可能です。
調査に一定のコストがかかるものの、調査会社の専門性の高いノウハウを活用できるメリットがあります。代表的な信用調査会社には、帝国データバンクや東京商工リサーチなどがあり、企業の信用力を多角的に評価できる情報を提供しています。
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与信枠(与信限度額)の適切な決め方
与信限度額を決める方法にはいくつかありますが、代表的な方法として純資産を基準にする方法、売上債権を基準にする方法、仕入債務を基準にする方法などがあります。
- 基準となる数値:自社純資産、相手先純資産、月間取引額など
- 一定割合:資本の何%までをリスクに晒せるかという許容率
- 格付けウェイト:相手の信用ランクに応じた調整係数
自社の純資産(自己資本)を基準に決める
自社の純資産(自己資本)に対し、1社あたりの損失許容割合を設定して算出します。 自社の体力(純資産など)以上の損失が出れば債務超過に陥るため、1社への貸付(売掛金)が自社全体のリスク許容度を超えないように分散させます。
自社の純資産が1億円、1社あたりのリスク許容度(安全係数)を10%、相手が優良企業(ウェイト1.2)の場合、「1億円×10%×1.2=1,200万円」となります。この金額を超える取引は、自社の屋台骨を揺るがすリスクがあるため、原則として抑制するか、担保等の保全措置を講じます。
取引先の純資産(自己資本)を基準にする
取引先の純資産(自己資本)を返済能力の限界値とみなして枠を決めます。
純資産は、会社が解散したときに株主や債権者に分配される原資です。相手企業の純資産がマイナス(債務超過)であれば、万が一の際に回収できる見込みはほぼありません。最も保守的で安全な指標といえます。
取引先の純資産が5,000万円、上限設定を10%、標準的な格付け(ウェイト1.0)の場合、「5,000万円×10%×1.0=500万円」が限度額のベースとなります。相手の借入金が多い場合は回収率が下がるため、ここからさらに掛目を低く調整します。
取引予定額・売上債権を基準にする
取引に必要な「月商(売上高)」と「回収サイト」から算出した所要額を基準にします。
営業現場で最も頻繁に使われる手法です。「いくら売りたいか」という商売の必要性から算出します。ただし、これは「必要な枠」であって「安全な枠」ではないため、前述の純資産基準と照らし合わせて調整します。
月商100万円の取引で、入金が2ヶ月後(末締め翌月末払い)の場合、「100万円×2ヶ月=200万円」の債権が常に滞留します。最低でもこの200万円の枠がないと、入金前に次の注文が受けられなくなります。この金額が安全基準を超える場合は、入金サイトの短縮交渉が必要です。
取引先の仕入債務を基準にする
取引先の「買掛金(仕入債務)」総額のうち、自社が占めるシェア率から算出します。
取引先が抱えている全仕入債務の中で、自社がどれくらいの割合(シェア)を持つべきかという視点で決めます。
取引先の仕入債務総額が1億円で、自社がメイン仕入先として20%のシェアを目指す場合、「1億円×20%=2,000万円」が目安です。
ただし、シェアが極端に高い(50%超など)と、相手が倒れた際の共倒れリスクが高まるため、通常は10〜20%程度を安全圏とします。
与信枠の「格付けウェイト」を決めるには?
与信枠の計算式にある「格付けウェイト」を決定するためには、取引先をランク付け(格付け)する作業が必要です。以下の3ステップで評価を行います。
STEP1:定量分析(決算書の数値)
決算書の数値を元に、安全性・収益性・成長性を客観的に点数化します。
特に以下の項目を確認します。
入手できない場合は、調査会社(帝国データバンクや東京商工リサーチなど)の評点を代用することも一般的です。
STEP2:定性分析(業歴・評判)
数値に表れない企業の背景、経営者の資質、風評などを評価します。
決算書が良い数値でも、実態が伴っていない場合があります。以下のような非財務情報を加味します。
- 業歴:長く続いている企業は、それだけで一定の信用がある。
- 経営者:経営方針や過去の経歴に問題はないか。
- 相性:自社との過去のトラブル有無や、担当者の対応誠実度。
STEP3:商流分析(回収条件)
代金の回収条件や商流における自社の立場を評価します。
- 回収サイト:現金集金か、手形か。サイトが長いほどリスクは高い。
- 商品特性:転売しやすい商品か、専用品か(専用品は他へ売れないためリスク増)。
これら3つの要素を総合し、Aランク(優良・ウェイト1.2)、Bランク(標準・ウェイト1.0)、Cランク(注意・ウェイト0.8)のように区分けします。
与信枠オーバーや見直しが必要なタイミング
与信枠は、少なくとも年に1回、取引先の決算発表後または信用調査書の更新時に見直します。
企業の財務状況は常に変化します。
特に、以下のタイミングで再評価を行います。
- 取引先の決算期終了後(新しい決算書の入手時)
- 信用調査会社の評点更新時
- 自社の決算期(自社の純資産変動による枠の再計算)
もし、支払が遅延したり、信用不安情報が入ったりした際は即座に枠を縮小、または停止します。
定期見直しを待たず、以下の手順を踏みます。
- 事実確認:営業担当者が訪問し状況を確認。
- 保全措置:出荷停止、現金取引への切り替え、商品の引き上げ。
- 枠の抹消:与信枠をゼロにし、回収フェーズへ移行。
リスクに備えるには与信管理は重要
商習慣として掛け売りなどの与信取引が行われることも多いですが、与信取引は、取引先の経営破綻などで回収が遅れたり、回収ができなくなったりするリスクも抱えています。
企業間取引でリスクに備えるためには、与信管理により取引先のリスクを適切に把握し、取引額などをコントロールできるようにしておくことが重要です。
与信管理を適切に実施することで、リスクを抑えて取引ができるようになります。
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