- 更新日 : 2025年2月20日
費用収益対応の原則とは?具体例や発生主義との関係をわかりやすく解説
一般に、費用と収益は同時に発生するものではなく、それぞれの発生に時間差があります。費用や収益、それぞれの発生時においては利益を算出できず、算出できるのは「期間」における利益です。費用収益対応の原則とは、「期間」における利益を求める原則を言います。この記事では、企業会計原則の中でも重要な「費用収益対応の原則」について解説します。
目次
費用収益対応の原則とは
会計では人為的に期間を区切って、その区切られた期間の損益計算を行って利益を求めます。発生タイミングの異なる費用と収益を、その区切った「期間」において対応させるという会計の基本的な考え方に基づくものが「費用収益対応の原則」です。
企業会計原則の損益計算書原則の一つ
もともと企業会計原則は、日本の企業における一般的な会計基準を示すものとして先導的な役割を果たしてきました。現在では、個別テーマごとに会計基準が別に設定されており、企業会計原則の修正もないため、実質的には利用されない定めもあります。
しかし、根底から企業会計を考える上での一つの指針として大いに参考になるものです。この記事では企業会計原則の考え方に基づいて解説します。
企業会計原則は、次の3つから構成されています。
さらに、このうちの損益計算書原則には次の3つの原則があります。
- 発生主義の原則
- 総額主義の原則
- 費用収益対応の原則
費用収益対応の原則の目的は、「適正な期間損益計算のため」です。冒頭でも述べましたが、一般に「収益」と「その収益に対応する費用」の間には時間のズレがあります。利益を求めるためには一定の期間が必要で、その期間において対応関係にある費用と収益を選択し、利益を認識します。
費用と収益の対応については、「個別対応」と「期間対応」があります。まずは、それらから見ていきましょう。
個別対応
個別対応とは、商品販売における「商品の売上」と「その商品の仕入」などのように、収益と費用との間に明らかな対応関係があるものを言います。
例えば、ある期間において、1,000個の商品を仕入れて、そのうち800個販売した場合、その期間における収益に対応する費用は、仕入れのうち800個分ということになります。
期間対応
期間対応は、販売費や一般管理費など、個別対応のように明らかな対応関係が見えないものについて、期間を区切って対応関係があると考えるものです。
例えば、売上高に対して従業員の給与を明らかに対応させることは困難です。しかし、一定期間に発生した給与とその期間に発生した売上高が対応していると考えます。
費用収益対応と発生主義
費用収益対応の原則は、企業会計原則における損益計算書原則の一つですが、その中に「発生主義の原則」があります。
企業会計原則においては、発生主義の原則(損益計算書原則一のA)として次のように述べています。
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。 前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。
引用:企業会計原則
発生主義では、費用や収益については支出や収入に基づくものの、それぞれを「発生期間に割り当てる」処理が必要としています。つまり、金銭の動きを基盤に持ちつつも、取引の発生時点で費用と収益を認識するというルールを設けていますが、これは費用収益対応の原則の目的である「適正な期間損益計算」に通じます。
企業の経済活動を正確に反映した財務諸表を作成するには、「期間」を区切り、その期間に「発生」した費用と収益を認識することによって可能となるということです。
なお、収益については国際的な会計基準に合わせて個別に「収益認識基準」が設けられています。
費用収益対応の事例
実際の会計で行われている費用収益対応の事例を見ていきましょう。それぞれの収益と費用は対応関係にあることが見て取れます。
減価償却費とその建物の賃貸収入
「賃貸収入」は建物の賃貸により得られる収益で、これに対応する費用はその建物の価値が時間とともに減少する「減価償却費」です。収益費用対応の中でも費用の計算方法が確立している事例の一つです。
収益が計上される各期間において、その収益を生み出すための費用として減価償却費が対応されます。これにより、賃貸による利益が正しく計算されます。
販売費と対応する売上高
特定の商品やサービスなどの「広告宣伝費や販売促進費等」は、将来の売上を見越して支出されるものです。
したがって、それらの費用は実際に「売上高」が計上される時期に対応させるようにします。支出した費用がある特定の収益を生む場合には、収益発生時にその費用を計上して対応関係を持たせます。
費用収益対応の例外
費用収益対応の原則については、重要性の乏しいものは簡便な処理を認める「重要性の原則」との関係から、費用と収益の期間対応をしないものもあります。
重要性の乏しい費用化された貯蔵品や消耗品、備品等
切手や収入印紙などをそれぞれ「通信費」「租税公課」として費用化しても、期末に未使用のものがあると費用収益対応のため、「貯蔵品」として棚卸処理をすることがあります。しかしながら、重要性の低いものについては費用化しただけで、期末にも棚卸はしません。
これは費用収益対応の例外と言えます。
また、数年は使用可能な10万円以下の固定資産を取得しても減価償却などはせず、取得時に「消耗品費」「備品費」などとして費用化することも費用収益対応の例外と言えます。
重要性の乏しい前払費用・未払費用など経過勘定項目
発生主義の原則では発生したもののうち、「前払費用」「未払費用」などの経過勘定を使用して、収益に対応した費用を計上することとされています。しかしながら、重要性の低いものについては、経過勘定に振り替えないことがあります。
例えば、法人税には「短期前払費用の特例」があります。1年以内の前払費用については経過勘定とせず、支出した年度において費用化を認めるものであり、これも費用収益対応の例外と言えます。(法人税において「損金算入ができる」とは費用にできることです。)
参考:No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合|国税庁
費用収益対応のメリット
費用収益対応を取ることによって得られる影響について考えてみます。まずはメリットについて考えてみましょう。
適正な期間損益ができる
費用収益対応の原則の目的でもある「適正な期間損益」ができることが最大のメリットです。費用収益対応により、期間ごとの収益と費用の対応関係が明らかになり、経営成績の正確な実態把握が可能となります。
また、正しい期間損益計算は将来の計画のための重要な基盤となります。
株主からの信頼性、内部管理の精度向上
費用収益対応により適正な期間損益計算ができていると、株主からの信頼性が高まります。税務調査などでは期ズレ(その年度に計上すべき収益・費用が正しく計上されずに基幹的なズレが生じること)による修正は多く見られますが、そのリスクも回避できます。
また、部門別やプロジェクト別の収益性を把握しやすくなるため、部門別・業務別の内部評価の精度が向上し、結果としてリソースの配分がしやすくなります。
費用収益対応のデメリット
費用収益対応のデメリットとしては、複雑化、コスト増、柔軟性の制限などが挙げられます。しかしながら、これらのデメリット要因を管理し、対策を講じることで解決します。
むしろ、これら費用収益対応のデメリットに対して積極的に対応すると、より高度で計画的な計数把握につながります。
会計の複雑化、コスト増加
費用収益対応にかなった適正な期間損益計算を行うためには、収益、費用について発生タイミングや按分期間について正確に把握し、適切に認識しなければなりません。これには会計の深い知識やスキルが求められ、会計処理が複雑化することがあります。
また、会計処理にあたる要員についても、研修をしたり、スキルのある人を採用したりする必要があるため、人件費がかかることもあります。
会計の柔軟性の制限
費用収益対応に厳格に従う必要があるため、処理の速さを重視する報告やイレギュラー取引が起こったときの対応などには時間がかかる恐れがあります。
費用収益対応だけを守るということではなく、その他の会計基準にも従うことにもつながり、会計の柔軟性という点からは制限される部分があると言えます。
費用収益対応の原則を理解し、社内マニュアルを持とう!
今や企業会計原則だけで会計基準は成り立たず、各個別テーマを理解しなければなりません。中小企業においても、実務的なよりどころとして「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」などがあります。
費用収益対応の原則は、これらの実務的な指針や要領にもコンパクトにまとめられています。社内の会計マニュアル等を作成する際の参考にしてください。
参考:
改正「中小企業の会計に関する指針」の公表について|企業会計基準委員会
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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