- 更新日 : 2024年8月8日
連結決算の対象となる条件は?義務付けられている親会社の定義も解説
連結決算業務をスムーズに行うには、どのような会社が対象になるかを理解しておくことが重要です。一部の会社においては連結決算が義務付けられており、適切な会計処理が求められます。
連結決算の対象になるのは原則として子・関連会社です。とはいえ、必ずしもすべての子・関連会社を含めなければならないわけではありません。
本記事では、連結決算の対象となる条件と義務が課される親会社の定義を解説します。煩わしい連結決算業務の負担を最小限に抑えたい企業の方はぜひ最後までご覧ください。
目次
連結決算の対象となる条件
連結決算とは、親・子会社および関連会社の全体で統一した決算処理を指します。対象となる条件は以下のとおりです。
- 過半数の議決権を所有している
- 40〜50%の議決権を所有しており、さらに一定の条件を満たしている
- 0〜40%の議決権を所有しており、さらに一定の条件を満たしている
連結決算の対象になるのは、原則として親会社から意思決定を支配されているすべての子・関連会社です。上記のうち、1つでも条件を満たす企業は子・関連会社とみなされます。連結決算を行う際、対象となる会社は親会社に決算報告を提出しなければなりません。それぞれの条件を詳しく見ていきましょう。
過半数の議決権を所有している
過半数の議決権を所有している会社は、通常は子会社となります。
ただし、親会社による株式保有率が100%でない場合は、残りの割合を子会社の当期純利益に振り替えなければなりません。子会社の当期純利益まで親会社の決算に計上してしまうと、すべてが親会社の利益剰余金となり実態とは異なってしまうからです。
つまり、子会社が所有する自社株式の割合を控除した額が親会社の当期純利益となります。
非支配株主に帰属する当期純利益について、詳しくはこちらの記事で説明していますのでぜひ仕訳の参考にしてください。
40〜50%の議決権を所有しており、さらに一定の条件を満たしている
全体の40%以上50%以下の議決権を所有したうえ、一定の条件を得ている場合には親会社の関連会社になります。一定の条件とは、以下5つのいずれかです。
- 資金調達や取引などにおいて、親会社と同一の意思を持つ者が議決権の過半数を所有する
- 役員や取締役など会社の方針決定に関与する者のうち、過半数が親会社から構成されている
- 財務・営業など事業の方針決定を親会社が支配する契約を締結している
- 資金調達額の総額の過半について融資を行っている
- 子会社の意思決定を親会社が支配すると推測される事実が存在する
つまり、過半数の株式を保有していなくとも、事実上は特定の他会社から意思決定の支配を受けている実態がある場合は関連があると見なされます。
0〜40%の議決権を所有しており、さらに一定の条件を満たしている
全体の0%〜40%未満の議決権を所有し、かつ親会社と同一の意思を持つ者が議決権の過半数を所有することに加え、下記の条件のいずれかを満たす場合においても連結決算の対象となります。
- 役員や取締役など会社の方針決定に関与する者のうち、過半数が親会社から構成されている
- 財務・営業など事業の方針決定を親会社が支配する契約を締結している
- 資金調達額の過半数に相当する融資を行っている
- 子会社の意思決定を親会社が支配すると推測される事実が存在する
つまり、株式の保有率にかかわらず会社の方針・意思決定に大きく関与している場合は子・関連会社となるということです。
ただし、資産の流動化に関する法律で規定される特別目的会社であり、収益が証券保有者へ適切に分配されているケースにおいては子会社ではないと見なされます。
連結決算の対象とならない条件
以下の条件のいずれかに該当する会社は、連結決算の対象となりません。
- 子会社の支配が一時的である
- 連結によって利害関係者の意思決定を誤らせるリスクが高い
- 小規模経営で重要性が乏しい
上記の条件を満たす場合は、実態として子会社であっても連結に含めるデメリットのほうが大きいため、対象から除外します。それぞれ確認していきましょう。
子会社の支配が一時的である
一時的に支配しているだけの子会社は、連結決算の対象に含めません。支配が一時的な子会社まで連結決算の対象にしてしまうと、手続きが煩雑になってしまうからです。
具体例としては、決算時には企業間の親子関係があってもいずれ売却を予定している場合などが連結会社の対象外に該当します。
連結によって利害関係者の意思決定を誤らせるリスクが高い
連結によって利害関係者の意思決定を誤らせるリスクが高い場合においても、対象から除外して構いません。決算は、利害関係者のスムーズな意思決定を促す側面を持つためです。原則全ての子会社が連結対象になるとはいえ、利害関係者の意思決定の阻害要因となるのであれば本来の目的に反します。
たとえば、親会社の本業とはかけ離れたジャンルの業種の子会社の場合、連結対象に含めると会社の状況を正確に判断しにくくなるため対象になりません。
小規模経営で重要性が乏しい
小規模経営で親会社の決算における重要性が乏しい子会社については、連結の対象外にできます。
原則全ての子会社が対象であるものの、巨大なグループ経営を行う大企業などにおいては、ある程度数を絞らなければ決算業務が煩雑になりかねないためです。また重要性が乏しい子会社は、利害関係者の意思決定に与える影響も大きくありません。このように、重要性によって会計処理方法の判断を行うことを「重要性の原則」といいます。
重要性の原則の適用は、質的および量的な観点を基準に判断されるのが一般的です。具体的な判断基準は、以下の表を参照ください。
質的な重要性の判断基準 | 量的な重要性の判断基準 |
・中・長期的な経営戦略における重要度 ・会社の事業において重要な業務を担っている ・セグメント情報の開示に大きく影響する ・含み損失が多額もしくは重要な偶発事象の発生確率が高い | ・資産 ・売上高 ・利益 ・利益剰余金 |
子会社の重要性は、資産や売上などだけで単純に決めるのではなく、上記2つの基準から総合的に判断するべきだと言えます。
連結決算が義務付けられている親会社
連結決算が義務付けられている親会社とは、上場している大会社です。根拠としては、会社法第444条3項の規定をご参照ください。
引用:会社法
基本的に、社会への影響力が大きい大会社には連結決算報告の義務が課せられます。連結決算の義務は、ディスクロージャー制度の見直しにより2000年3月期以降から厳格化されました。
なお、大会社の要件は、資本金が5億円以上または負債の合計額が200億円以上であることです。
ただし、非上場であれば連結決算報告の義務がないとは限りません。株主数が多い場合など有価証券報告書を提出している場合は報告の義務が課せられるケースがあります。
連結決算のメリット・デメリット
連結決算は非常に煩雑な作業のうえ一定の知識や経験を要することから、担当者の負担が大きい業務だといえます。
しかし、グループ全体の状況を視覚化することで得られるメリットは決して小さくありません。
連結決算を行うメリット
連結決算を行うメリットは以下のとおりです。
- グループ全体の動向が一目でわかる
- 財務の透明性が増し、投資を促進する効果が期待できる
親会社だけではなく子・グループも含め重要性の高いセグメントの経営状況が視覚的にわかりやすく示されるため、全体的な動向の把握が容易です。また経営状況を対外的に公表することで信頼感が生まれ、投資を促せる可能性があります。
連結決算を行うデメリット
一方、連結決算には以下のようなデメリットが存在します。
- 決算業務が煩雑
- 任意で作成した場合でも監査を受けなければならないことがある
連結決算を行う際は、対象となるすべての子・関連会社の個別の財務諸表を集計して内部取引の相殺をはじめとする修正作業を行う必要があります。担当者に知識や経験が乏しい場合、決算業務にかかる負担が大きいでしょう。特に、子会社・関連会社が親会社とは異なる勘定科目や会計システムを採用しているケースでは、連結業務は非常に困難です。
また、連結決算書を作成した場合、任意であっても会計監査を受ける必要が出てくるケースもあります。
まとめ
連結決算では、原則として親会社から支配を受けるすべての子・関連会社が対象になります。ただし基本的に利害関係者の利益を妨げないことが前提であり、一時的な支配または重要性が低い子会社においては連結決算に含めなくても構いません。
連結決算は非常に煩雑ですが、経営判断や企業の信頼性の向上に大きく貢献するため、義務の有無にかかわらず実施することが推奨されます。中小企業における連結決算は任意ですが、自社にとって上記メリットの効果が大きい場合は作成を検討してみてはいかがでしょうか。
スムーズな決算業務を実現するには、親・子会社間で統一した使いやすい連結会計システムを導入がおすすめです。「マネーフォワード クラウド連結会計」では、各子・関連会社の経営状況がクラウド上にリアルタイムで可視化されるため、複数の拠点や担当者間でもスムーズに利用が可能です。
よくある質問
連結決算が義務付けられる要件は?
連結決算の義務が課せられるのは、有価証券報告書を提出している大会社です。上場していなくても連結決算が義務付けられる可能性があります。
連結決算の対象となるか判断する基準は?
次の3つの基準のうち、いずれかを満たす場合は連結決算の対象です。
- 過半数の議決権を所有している
- 40〜50%の議決権を所有しており、さらに一定の条件を満たしている
- 0〜40%の議決権を所有しており、さらに一定の条件を満たしている
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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