- 更新日 : 2025年2月3日
仕入税額控除とは?意味やインボイス制度での変更点をわかりやすく解説
仕入税額控除とは、消費税の計算において課税売上に対する消費税額から課税仕入にかかる消費税額を差し引く仕組みであり、納税額を適切に調整するための制度です。
インボイス制度が導入されてから、仕入税額控除を受けるための要件や手続きが厳格化されています。取引における適格請求書の管理が不可欠であり、事業者は税務処理において慎重さが求められるでしょう。
この記事では、仕入税額控除とは何かをはじめ、仕入税額控除の対象となる項目や、その計算方法、インボイス制度で仕入税額控除がどう変わるかなどを解説します。
目次
消費税の仕入税額控除とは
消費税における「仕入税額控除」は、他の税で行われる“税額控除”とは性格が異なり、生産や流通の段階で支払いが行われるたびに発生する消費税の累積(二重課税)を解消するための制度です。
消費税を納付する際には、売上に係る消費税額から仕入れなどに係る消費税額(仕入税額)を控除して計算します。
消費税の仕入税額控除の仕組み
仕入税額控除の仕組みについて以下のケースで具体的に確認します。

ある商品が、Aという工場で原料から生産が行われ、Bという加工工場を経て、Cという販売店によって売られていた場合(A・B・Cは課税事業者とする)
Aから1,000円でBに売られ、Bからは1,200円でCに売られ、最終的には1,500円で消費者に販売していたとする。
なお消費税率は一律10%とし、軽減税率、Aで消費した原料費については考慮しない。
Aは1,000円でBに対して商品を販売するので、販売価格は1,100円となり、Bから100円の消費税を受け取ります。Aは受け取った100円の消費税を納付する義務があります。
Bは1,200円でCに対して商品を販売するので、販売価格は1,320円となり、Cから120円の消費税を受け取ります。Bはすでに100円の消費税をAに支払っているので、Bが納付しなければならない消費税は20円となります。
Cは1,500円で消費者に対して商品を販売するので、販売価格は1,650円となり、消費者から150円の消費税を受け取ります。Cはすでに120円の消費税を支払っているので、Cが納付しなければならない消費税は30円となります。
このように、最終的には消費者が支払うことになる150円の消費税をAが100円、Bが20円、Cが30円をそれぞれ負担することにより、仕入れに対して自社商品に対する付加価値に相当する消費税を納付する責務を負うというような仕組みになっているのです。
消費税の仕入税額控除の適用を受ける要件
仕入税額控除を適用するためには、「帳簿」と「適格請求書」の保存が必要です。それぞれの保存要件を確認しておきましょう。また、「帳簿」と「適格請求書」は、その事業年度終了の2か月後(消費税の申告期限)から7年間は保存しなければなりません。
帳簿の保存に必要な記載事項
仕入税額控除の対象取引を帳簿に記録する際、以下の項目への記載が必要です。
- 課税仕入の相手方の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合は、その旨)
- 対価の額
帳簿の形式に決まりはありませんが、手書きや会計ソフトを用いて作成する場合にも正しい記録が求められます。取引の詳細については、摘要欄を活用することで後の確認が容易になります。
適格請求書の保存に必要な記載事項
適格請求書(インボイス)は、控除対象取引であることを証明する書類です。以下の情報の記載が必要です。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合は、その旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
適格請求書は請求書だけでなく、領収書なども含まれる場合があります。登録番号の有無を確認することが重要です。
消費税の仕入税額控除の対象となる取引
消費税の納付税額は、売上に係る消費税額から仕入れなどに係る消費税額(仕入税額)を控除して計算するというのは先述したとおりです。
課税仕入れとは、事業のためにモノを購入したり、サービスの提供を受けたりすること(消費税の対象外や非課税のものは除く)です。課税仕入れの対象とならない取引は仕入税額控除ができません。仕入税額控除の対象となる取引理解しておく必要があります。
課税仕入の対象となる取引には以下のようなものがあります。
なお、事業者が行う労働やサービスの提供の対価(加工賃や人材派遣料など)には消費税が課税されるので、課税仕入れの対象となります。非課税となる取引や給与等の支払いは含まれません。
消費税の仕入税額控除の計算方法
仕入税額控除の計算方法は原則、課税期間中の課税売上高と課税期間中の課税売上割合によって異なります。
課税売上割合は、下記の計算式により求めます。
仮に、不動産販売業者が、
- 建物の売上高1,500万円(課税)
- 土地の売上高1,000万円(非課税)
を販売したとすると、課税売上割合は以下の式から求められます。
仕入税額控除には、次の4つの計算方法があります。
全額控除方式
課税売上高が5億円以下で、課税売上の割合が95%以上の場合に使われるのが、全額控除方式です。
課税期間中の課税売上に係る消費税額から、その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額の「全額を控除」します。
課税仕入れに係る消費税を全額控除できるため、税額控除のなかで最も有効で計算が簡易に行えることが特徴です。
個別対応方式
課税売上高が5億円を超えている場合、あるいは課税売上の割合が95%未満である場合は、「個別対応方式」と「一括比例分配方式」のうちどちらかを選択して計算を行うことになります。
個別対応方式では、課税仕入れを以下の3つに区分し、それぞれで仕入税額控除の金額を計算する方法です。
- 課税売上にのみ対応する課税仕入れの消費税額
- 非課税売上にのみ対応する課税仕入れの消費税額
- 課税売上と非課税売上に共通して対応する課税仕入れの消費税額
計算を行う際には下記の計算式を用います。
3つの計算方式のなかで最も計算が複雑ですが、課税売上への貢献度が高い課税仕入ほど控除額も大きくなる仕組みなので、控除が多くなる傾向にあります。
一括比例配分方式
一括比例配分方式では、課税仕入れの内容にかかわらず、課税仕入の全額に課税売上割合を乗じて控除額を計算します。個別対応方式のように、3つに区分されていない場合は一括比例配分方式を選択することになるでしょう。もし区分をしていた場合でも、個別対応方式と比較して有利なほうを選択できます。
計算式は以下のとおりです。
なお一括比例配分方式を選択した場合、少なくとも2年間は個別対応方式を選択できないので、注意が必要です。
簡易課税制度
課税期間の前々年もしくは前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下で、なおかつ「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している場合は、簡易課税方式で仕入税額控除額を計算することができます。計算方法は以下のとおりです。
みなし仕入率は、事業内容によって決まっています。例えば卸売業者で、課税期間中の売上にかかっていた消費税額が300万円であれば、仕入税額控除額は300万円×90%=270万円です。
| 事業内容 | みなし仕入れ率 |
|---|---|
| 第一種事業(卸売業) | 90% |
| 第二種事業(小売業など) | 80% |
| 第三種事業(製造業など) | 70% |
| 第四種事業(他の事業に該当しない事業) | 60% |
| 第五種事業(運輸通信、金融などのサービス業など) | 50% |
| 第六種事業(不動産業) | 40% |
簡易課税方式を利用するメリット
簡易課税方式を選択すると、仕入れにかかった消費税額を計算する必要がありません。計算が簡単になり、消費税の申告・納付の手間も削減できます。
簡易課税方式を利用するデメリット
課税対象とならない取引が多い場合は、みなし仕入れ率で計算すると仕入税額控除額が少なくなる可能性があります。また、届出を提出していないときには利用できない点も注意が必要です。
簡易課税制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
適格請求書と他の請求書が併存する場合の管理方法
インボイス制度により、適格請求書のない取引では、支払った消費税相当額を控除できない、もしくは一部しか控除できない問題が発生するため、注意が必要です。
ここでは、一般課税方式における「適格請求書と他の請求書が併存する場合」の管理方法と、「適格請求書」ではない請求書を受け取った際の会計処理について解説します。
適格請求書とその他の請求書の管理方法を決定する
インボイス制度施行後、経過措置はあるものの適格請求書発行事業者との取引のみが仕入税額控除の対象となるため、適格請求書とその他の請求書の管理方針を明確に定める必要があります。
適格請求書とそれ以外の請求書では、仕入税額控除の計算方法が異なるため、両者を正確に区別して管理しなければなりません。これを怠ると、計算ミスや経理業務の混乱を引き起こす可能性があります。
まず、取引先が適格請求書発行事業者かどうかを事前に確認し、その情報を適切に記録・更新する仕組みを整えることが重要です。また、適格請求書とその他の請求書を分けて保管し、それぞれに対応した仕入税額控除の計算を確実に実行できる体制を構築する必要があります。
消費税額控除を受けられない場合の会計処理
適格請求書を受け取れない取引においては、消費税の仕入税額控除が経過措置期間中に限り、一定の割合で認められます。(経過措置の詳細については後述します)
2023年10月1日から2026年9月30日までは、仕入税額相当額の80%が控除可能です。さらに2026年10月1日から2029年9月30日までは、その控除率が50%に変更されます。
それらの会計処理については、次の2つの方法があります。
- 控除対象外の金額を費用に加算する方法
- 雑損失として処理する方法
ここでは、仕入税額相当額の80%を控除するケースにおける、これらの仕訳方法について解説します。
費用に上乗せするケース
消費税の仕入税額控除が適用できない場合、該当費用に消費税額を上乗せして仕訳を完結させる方法があります。この処理方法は、取引時点で仕訳を確定させる必要がある場合に用います。
例えば、4万円の課税仕入に対する消費税額が4,000円の場合、経過措置により消費税額の80%である3,200円が控除可能です。一方で、控除できない800円については事業者負担として費用に上乗せして計上します。
【取引時】
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 仕入 | 40,800円 | 現金預金 | 44,000円 |
| 仮払消費税等 | 3,200円 | ||
雑損失などで処理するケース
もう一つの方法として、決算時の「雑損失」処理があります。取引時点では通常通り仕訳を行い、仕入税額控除の適用ができなかった分を決算時に雑損失で処理する方法です。
課税事業者との取引と同じく税抜方式で仕訳を処理しますが、決算時に「免税事業者」の仕訳を抜き出す必要があります。そのうえで、支払い総額に控除対象外となる税額(20%)を掛け合わせ、決算時の仕訳を行います。
【取引時】
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 仕入 | 40,000円 | 現金預金 | 44,000円 |
| 仮払消費税等 | 4,000円 | ||
【決算時】
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 雑損失 | 800円 | 仮払消費税等 | 800円 |
インボイス制度で仕入税額控除はどう変わるのか?
2023年10月1月より開始するインボイス制度では、以下の事項が記載された「適格請求書」または「適格簡易請求書」のみ、仕入税額控除を受けられるようになります(後述の経過措置があります)。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率
※不特定多数に販売などを行う飲食店や小売店、タクシー業などは、適格請求書の代わりに適格簡易請求書を発行できます。
参考:
インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問25)
インボイス制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
インボイス制度導入における経過措置と特例など
インボイス制度の導入により、免税事業者からの課税仕入についても6年間の経過措置が設けられ、事業者の負担軽減が図られています。以下では、この経過措置の詳細や計算方法について解説します。
適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れに係る経過措置
インボイス制度開始後の6年間は、適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者)からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合のみを消費税額とみなす経過措置が以下のとおり設けられます。
- 2023年10月1日~2026年9月30日:
免税事業者からの課税仕入れについて「80%」控除可能 - 2026年10月1日~2029年9月30日:
免税事業者からの課税仕入れについて「50%」控除可能
具体的には、以下の計算式で算出される金額が、仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税額となります。
【2023年10月1日~2026年9月30日までのあいだに行われた課税仕入れ】
=仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税額
【2026年10月1日~2029年9月30日までのあいだに行われた課税仕入れ】
=仕入税額控除の適用を受ける課税仕入れに係る消費税額
※軽減税率が適用される場合には(8/108)
以上の経過措置を受けるためには、免税事業者から受け取る請求書などに加え、経過措置を利用すること(80%控除・50%控除の特例を受ける仕入れなどである旨)を記載した帳簿を保存する必要があります。
少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)
少額特例は、税込1万円未満の課税仕入について、インボイスの保存がない場合でも必要事項が書かれている帳簿を保存することで仕入税額控除を受けられる制度です。少額特例適用の条件は、以下の通りです。
- 対象事業者:基準期間の課税売上高が1億円以下 または 特定期間の課税売上高が5,000万円以下
- 適用条件:支払対価が税込1万円未満の課税仕入
- 特例内容:インボイスの保存不要(必要事項が記載された帳簿のみの保存で可)
※基準期間:個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度
※特定期間:個人事業者については前年1月から6月までの期間。法人については前事業年度の開始日以後6月の期間
具体的には、一回の取引で課税仕入にかかる金額(税込)が1万円未満かどうかで判定します。つまり、5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入して合計12,000円となるような場合は、少額特例の対象にはなりません。
2割特例
一定の要件を満たす免税事業者がインボイス発行事業者となり、消費税の課税事業者になった場合は、納税額を売上に係る消費税額の2割に軽減する特例も設けられました(2023年10月1日〜2026年9月30日までの各課税期間)。
帳簿保存のみで仕入税額控除が認められる取引
請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由がある場合、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。以下にいくつか例を示します。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
- 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(1に該当するものを除きます。)
- 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の取得
- 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
参考:帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合|国税庁
仕入税額控除とインボイス制度を正しく理解しましょう
仕入税額控除は、売上に伴う消費税から仕入にかかる消費税を差し引く仕組みにより二重課税を防ぎ、事業者が実際に負担する消費税額を軽減することができます。
仕入税額控除を受けるためには、帳簿と適格請求書の保存が必要であり、インボイス制度によって適格請求書発行事業者との取引が求められるようになりました。
控除の計算方法には、全額控除方式や個別対応方式などがあり、事業の規模や内容に応じて選択できます。簡易課税方式を利用すれば計算が簡便になりますが、適用には事前の届出が必要です。
インボイス制度では、適格請求書と他の請求書を正確に区別し、適切な管理体制を整えることが、税務上のトラブルを防ぐために不可欠です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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