- 作成日 : 2025年11月12日
会計基準とは?種類一覧や調べ方、選ぶポイント、近年の改正内容をわかりやすく解説
企業が財務諸表(決算書)を作成するには、会計基準という統一されたルールが不可欠です。この記事では、会計基準の必要性や種類の一覧、そして自社がどの基準を選ぶべきかまでわかりやすく解説します。
会計基準とは?
会計基準とは、企業が財務諸表を作成する際に守らなければならない、法律や慣習に基づいたルールの総称です。会計基準があることで、投資家や金融機関などの利害関係者は、企業の財務状況を正しく比較・分析し、適切な投資や融資の判断を下すことができます。
企業の経済活動は複雑であり、その結果を決算書という形で報告するには、一定のルールが必要です。例えば、「売上はどのタイミングで計上するのか」「資産はいくらで評価するのか」といった具体的な処理方法を定めているのが会計基準(Accounting Standards)です。もし企業が独自のルールで決算書を作成してしまうと、他社との比較ができなくなり、経済社会が混乱してしまいます。
日本の法律(金融商品取引法や会社法)では、上場企業や大会社に対して「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うことを求めています。この「公正妥当な会計慣行」の主な構成要素となるのが、企業会計基準委員会(ASBJ)などが設定する会計基準なのです。
会計基準が必要な理由
会計基準は、利害関係者の保護、企業間の比較可能性の確保、そして資本市場の健全な発展という3つの目的を達成するために重要です。これらの目的を達成することで、企業は円滑に資金調達を行い、投資家は安心して投資ができるようになり、結果として経済全体の効率的な資源配分が実現します。
利害関係者の保護
会計基準は、企業による恣意的な利益操作を防ぎ、客観的で信頼性の高い財務情報を提供するために必要です。
企業の利害関係者(ステークホルダー)には、株主や投資家、取引先、金融機関、従業員など様々な立場の人々がいます。彼らは、その企業と取引を行うか、投資を続けるかといった意思決定のために、信頼できる財務情報を必要とします。会計基準は、客観的な情報提供の土台となることで、これらの利害関係者を保護する役割を担っています。
企業間の比較可能性の確保
会計基準は、異なる企業同士の経営成績や財政状態を、共通のものさしで客観的に比較できるようにするために存在します。
投資家がある企業の株を買うか検討する際、同業他社の業績と比較するのは自然なことです。会計基準という共通のルールがあるからこそ、「A社はB社より収益性が高い」といった客観的な比較が可能になります。これにより、市場における健全な競争が促進されるのです。
資本市場の健全な発展
会計基準は、投資家が安心して資金を投じられる環境を整え、経済全体の効率的な資源配分を実現するために不可欠です。
信頼できる会計情報が提供されることで、企業の価値が適正に評価され、投資家は安心して資金を投じることができます。これにより、有望な企業に必要な資金が流れ込み、新しい技術やサービスが生まれる土壌が育ちます。会計基準は、いわば資本市場という社会インフラを支える重要な柱なのです。
会計基準の主な種類一覧
会計基準には複数の種類があり、主に日本の「日本会計基準(J-GAAP)」、国際的な「IFRS」、米国の「US-GAAP」、そして非上場企業向けの「中小企業の会計に関する指針」の4つに大別されます。グローバル化の進展や、企業の規模・実態の違いから、それぞれの状況に適した会計ルールが必要とされるため、複数の基準が存在しているのです。
| 基準名 | 主な適用対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 日本会計基準 (J-GAAP) | 日本国内の多くの企業 (上場・非上場) | 詳細なルールを規定 利益計算を重視 |
| 国際財務報告基準 (IFRS) | 世界140カ国超の上場企業など | 基本原則を示し、解釈は企業に委ねる 貸借対照表を重視 |
| 米国会計基準 (US-GAAP) | 米国企業、米国市場の上場企業 | IFRSより詳細なルールが多い |
| 中小企業の会計に関する指針 | 日本の非上場の中小企業 | 大企業向けの複雑な処理を簡略化 |
日本会計基準(J-GAAP)
日本会計基準(J-GAAP)とは、日本国内で作成され、最も多くの日本企業に適用されている会計基準です。日本の法律(会社法、金融商品取引法)や過去からの会計慣行を基礎としており、詳細なルールが定められている「細則主義」が特徴です。また、企業の利益を正しく計算し、債権者や株主へ適切に分配することを重視する「利益計算重視」の考え方が色濃く反映されています。
国際財務報告基準(IFRS)
国際財務報告基準(IFRS)とは、国際会計基準審議会(IASB)が設定する、世界で広く利用されている会計基準です。最大の特徴は、個別の細かなルールを定めるのではなく、会計処理の基本となる原則を示す「原則主義」を採用している点です。これにより、企業は経済的な実態に合わせて、より柔軟な会計処理を自らの判断で行うことが求められます。また、資産や負債を現在の価値で評価する「時価評価」を積極的に取り入れている点も大きな特徴です。
米国会計基準(US-GAAP)
米国会計基準(US-GAAP)とは、米国で採用されている会計基準であり、世界で影響力のある会計基準の一つです。特に米国証券取引委員会(SEC)に登録し、米国市場に上場している企業には適用が義務付けられます(IFRSも可)。IFRSと同様にグローバルな基準ですが、IFRSが原則主義であるのに対し、US-GAAPはより詳細なルールを定めた細則主義的な側面が強いとされています。
中小企業の会計に関する指針
中小企業の会計に関する指針とは、日本の非上場の中小企業の実態に合わせて作成された、法的拘束力のない会計ルールです。日本公認会計士協会や日本税理士会連合会などが共同で作成しており、大企業向けの複雑な会計処理を簡素化し、中小企業が取り組みやすい内容になっています。この指針に沿って決算書を作成することで、金融機関からの信頼性が向上し、融資を受けやすくなるなどのメリットが期待できます。
会計基準の調べ方
会計基準の具体的な内容は、基準を設定している公的機関のウェブサイトで確認するのが最も確実な方法です。企業会計や経理の実務で基準の全文や要約を確認したい場合、以下の方法で調べることができます。
ASBJ 企業会計基準委員会のウェブサイト
ASBJ 企業会計基準委員会は、日本の会計基準(J-GAAP)を開発している機関です。公式サイトでは、公表済みの「企業会計基準」や「適用指針」、「実務対応報告」などの全文をPDF形式で無料閲覧できます。
金融庁のウェブサイト
金融商品取引法など、法律に関わる会計のルールや開示制度について確認できます。
日本公認会計士協会のウェブサイト
「中小企業の会計に関する指針」など、中小企業や非営利法人向けの会計ルールに関する情報を入手できます。
これらの公式サイトに加え、市販されている会計基準の解説書や、専門家が運営する情報サイトなども、日々の実務における理解を深める上で有効です。
会計基準を選ぶポイント
どの会計基準を適用すべきかは、企業の置かれた状況(上場の有無など)や、海外展開といった経営戦略によって決まります。非上場の中小企業は日本会計基準、上場企業は複数の選択肢の中から自社に最適なものを選ぶのが一般的です。
上場企業の場合
日本の証券取引所に上場している企業は、金融商品取引法に基づき、以下の4つの会計基準からいずれかを選択して財務諸表を作成する必要があります。
- 日本会計基準(J-GAAP)
- 指定国際会計基準(IFRS)
- 米国会計基準(US-GAAP)
- 修正国際基準(JMIS)
多くの日本の上場企業は依然としてJ-GAAPを採用していますが、海外の投資家にアピールしたい企業や、グローバルに事業展開する企業を中心に、IFRSを任意適用する企業が年々増加しています。
非上場の中小企業の場合
非上場企業には、上場企業のような会計基準の選択義務はありません。多くの企業は、会社法が求める「一般に公正妥当と認められる会計慣行」に従っており、これは実質的に日本会計基準(J-GAAP)に基づいています。ただし、「中小企業の会計に関する指針」に準拠することで、経営状況の透明性が高まり、金融機関や取引先からの信用度が向上するという大きなメリットがあります。
特殊な業種(例:医療法人)の場合
医療法人やNPO法人など、特殊な業種には個別に会計基準が定められている場合があります。医療法人は、一般企業とは異なり、厚生労働省令で定められた「医療法人会計基準」に従う必要があります。
これは、医療法人が非営利性や公共性といった特殊な性格を持つためです。一般の企業会計基準との主な違いには、純資産の部の表記方法や、国や地方公共団体からの補助金に関する会計処理などが挙げられます。営利を目的としないため、利害関係者へ報告する情報の内容も、一般企業とは異なる点が考慮されています。
会計基準の改正内容
近年、特に影響が大きかったのが「収益認識」と「リース」に関する会計基準の改正です。これらはIFRSとの整合性を図る目的で行われ、多くの企業で会計処理の見直しが必要となりました。
収益認識基準の導入
収益認識基準の改正は、「いつ、いくらで売上を計上するか」という収益認識の根本的なルールを、国際財務報告基準(IFRS第15号)と整合性を図る目的で行われました。
この基準では、「履行義務(顧客への商品・サービスの提供義務)が充足された時点」で収益を認識するという考え方を採用しており、以下の5つのステップで判断します。
- 契約の識別
- 履行義務の識別
- 取引価格の算定
- 履行義務への取引価格の配分
- 履行義務の充足による収益の認識
この変更により、例えばソフトウェアのライセンス販売と保守サービスを一体で提供している場合、これらを別々の「履行義務」として識別し、それぞれが完了したタイミングで収益を計上する必要が生じるなど、多くの業種で実務上の大きな影響がありました。
新リース会計基準の適用
新リース会計基準とは、これまで費用処理(オフバランス)が認められていたオペレーティング・リース取引について、原則としてすべて資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス)することを求めるものです。
これは、国際基準であるIFRS第16号の考え方を取り入れたもので、投資家が企業のリース利用の実態をより正確に把握できるようにすることが目的です。この新基準は、短期(リース開始日においてリース期間が12か月以内)や少額のリースを除き、借り手である企業に対して「使用権資産」と「リース負債」の計上を義務付けています。
日本では、2027年4月1日以後開始する事業年度から強制適用となります。早期適用は2025年4月1日以後開始の事業年度から可能です。
会計基準の今後の動向
近年の大きな流れとして、各国の会計基準をIFRSに近づける「コンバージェンス」と、環境問題などに対応する「サステナビリティ報告基準」の新設という2つの動きが注目されています。
グローバルな投資活動の活発化と、ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりが、会計ルールの国際的な統一と開示情報の拡充を後押ししているためです。
コンバージェンス(収斂)の動き
コンバージェンスとは、世界中の企業を同じものさしで比較できるようにするため、各国の会計基準とIFRSとの間の差異を解消しようという動きです。日本でも、企業会計基準委員会(ASBJ)がIFRSの考え方を取り入れた会計基準の開発・修正を継続的に行っており、J-GAAPとIFRSの差は少しずつ縮まっています。
サステナビリティ報告基準の新設
近年では、従来の財務情報に加え、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)に関する非財務情報の開示を国際的に統一する基準作りが進んでいます。IFRS財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、国際的に統一されたサステナビリティ情報の開示基準を開発しました。日本でもこの国際基準をベースとした国内基準の策定が進められており、今後は財務情報と非財務情報が一体となって開示される見込みです。
企業の信頼性を支える会計基準を理解しよう
本記事では、企業の財務報告の基盤となる会計基準について、その本質から具体的な種類、選び方、そして近年の重要な改正内容までを解説しました。
会計処理基準は、単なる経理部門のルールではなく、投資家や金融機関といった社会からの信頼を獲得し、企業の持続的な成長を支えるための重要な経営インフラです。特にグローバル化が進む現代においては、国際的な基準との調和や、収益認識・リースといった重要な改正への対応が不可欠です。自社に適した会計ルールを正しく理解し、運用していくことが、これからの企業経営においてますます重要になるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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