- 作成日 : 2025年11月12日
リース資産の償却資産税は誰が払う?納税義務者や申告手続き・流れをわかりやすく解説
リース資産の償却資産税について、「納税義務者は貸手と借手のどちらなのか」「契約形態によってどう変わるのか」といった点でお悩みではありませんか。特に、所有権移転外ファイナンス・リースやオペレーティング・リースにおける税務上の扱いは複雑で、経理担当者を混乱させがちです。
この記事では、リース資産に課される償却資産税の基本的な考え方から、契約種類ごとの納税義務者の判定、具体的な申告手続き、評価額の計算方法までを網羅的に解説します。この記事を読めば、リース物件の固定資産税(償却資産税)に関する疑問を解消し、適切な税務処理を行うことができます。
目次
リース資産は償却資産税の課税対象
事業のために使用されるリース資産は、原則として償却資産税の課税対象となります。なぜなら、償却資産税は土地や家屋以外の「事業用資産」に対して課される地方税(固定資産税の一種)であり、リース資産も事業に使われる機械や備品であれば、この事業用資産に該当するためです。
償却資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点で所有している事業用の償却資産に対して課税されます。ここでいう「償却資産」とは、法人税法または所得税法上で減価償却の対象となる資産を指します。
具体的には、以下のような資産が「償却資産」に該当します。
- 構築物(看板、ネオンサイン、舗装路面など)
- 機械及び装置(製造設備、工作機械、クレーンなど)
- 船舶、航空機
- 車両及び運搬具(フォークリフトなど ※自動車税や軽自動車税の対象となるものを除く)
- 工具、器具、備品(パソコン、コピー機、サーバー、応接セットなど)
企業が事業を行うために導入する設備の多くは、この償却資産に該当します。これらの資産をリース契約で導入した場合でも、資産が事業に使われている事実に変わりはないため、償却資産税の課税対象となるのです。
リース資産の償却資産税は誰が払う?
地方税法第343条第1項では、固定資産税(償却資産税を含む)の納税義務者は、原則として固定資産の所有者であると定められています。一般的なリース資産の所有権はリース会社にあるため、原則としてリース会社が納税義務を負います。しかし、税法上、実質的に借手が所有していると認められる場合は、その実質的な所有者である借手が納税義務者とされます。
| リース取引の種類 | 納税義務者 | 判定のポイント |
|---|---|---|
| 所有権移転ファイナンス・リース | 借手 | リース期間終了後、資産の所有権が借手に移転する契約。実質的な売買とみなされる。 |
| 所有権移転外ファイナンス・リース | 貸手(リース会社) | 所有権は移転しないが、中途解約不能でフルペイアウトの要件を満たす契約。原則は貸手申告。 |
| オペレーティング・リース | 貸手(リース会社) | ファイナンス・リース以外の契約。一般的な賃貸借取引と同様の扱い。 |
※所有権移転外ファイナンス・リースであっても、契約内容によっては借手が申告を行うよう取り決められている場合があります。必ずリース契約書の内容を確認することが重要です。
リース資産の償却資産税の納税義務者は?
リース契約は大きく「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類され、それぞれ償却資産税の取り扱いが異なります。
ファイナンス・リースの場合
ファイナンス・リース契約では、「所有権移転」か「所有権移転外」かによって納税義務者が異なります。所有権が借手に移転する契約では借手が、所有権が移転しない契約では原則として貸手が申告・納税を行います。
税法および会計基準において、ファイナンス・リースは「リース期間の中途解約が不能」かつ「フルペイアウト(借手がリース物件から得られる経済的利益を実質的に享受し、コストも実質的に負担する)」の要件を満たす取引と定義されています。この定義に基づき、所有権が最終的にどうなるかで税務上の扱いが大きく変わります。
所有権移転ファイナンス・リース取引の場合
所有権移転ファイナンス・リース取引は、リース期間満了後に資産の所有権が無償譲渡されたり、名目的な価格で借手に移転したりする契約です。実質的には分割払いで資産を購入する「割賦購入」と変わらないため、税法上も売買があったものとして扱われます。したがって、資産の法的な所有者はリース会社であっても、税務上の納税義務者は借手となり、自社の他の固定資産と同様に償却資産として申告・納税する必要があります。
所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合
所有権移転外ファイナンス・リース取引は、リース期間満了後も所有権が借手に移転せず、資産をリース会社に返還する契約です。中途解約不能・フルペイアウトの要件は満たしますが、資産の所有者はあくまでリース会社です。そのため、償却資産税の納税義務者は原則として貸手(リース会社)となります。
オペレーティング・リースの場合
オペレーティング・リース契約で導入した資産にかかる償却資産税の納税義務者は、原則として貸手(リース会社)です。
オペレーティング・リースとは、ファイナンス・リースの要件を満たさないすべてのリース取引を指し、法的には一般的な「賃貸借契約」と同様に扱われます。資産の所有権は完全に貸手にあるため、地方税法の原則通り、所有者である貸手が納税義務を負います。
リース資産の償却資産税の申告手続きと流れ
借手が納税義務者となるリース資産(所有権移転ファイナンス・リースなど)がある場合、申告対象資産の把握、評価額の計算、申告書の作成・提出という手順で進めます。申告は、資産が所在する市区町村(自治体)に対し、毎年1月31日までに行う必要があります。
1. 申告対象資産の把握
まずは、自社が申告すべきリース資産を正確に把握します。
- リース契約書の確認:契約書を精査し、「所有権移転ファイナンス・リース取引」に該当するものや、特約で借手に申告義務があるとされる資産をリストアップします。
- 資産情報の収集:資産の取得価額、取得年月、耐用年数といった申告に必要な情報を確認します。
- 固定資産台帳との照合:会計上の固定資産台帳と照合し、申告漏れや二重計上がないかを確認します。
2. 評価額の計算方法(電算処理方式の場合)
次に、電算処理方式で申告する場合は申告対象となる各資産の評価額を計算します。評価額は、前年中の資産の増減に基づいて毎年計算し直します。
- 前年中に取得した資産
評価額 = 取得価額 × {1 − (減価率 ÷ 2)} - 前年より前に取得した資産
評価額 = 前年度の評価額 × (1 − 減価率)
減価率は資産の耐用年数に応じて定められており、評価額は取得価額の5%を下限として毎年計算を繰り返します。
なお、一般方式で申告する場合は、前年中に増加又は減少した資産を申告すれば、評価額等の計算は都道府県税事務所が行いますので、事業者側で評価額を算出する必要はありません。
3. 申告書の作成と提出
計算した評価額を基に、償却資産申告書を作成します。
- 種類別明細書
資産一つひとつの詳細(取得価額、耐用年数、評価額など)を記入します。 - 償却資産申告書(総括表)
種類別明細書の内容を集計し、課税標準額などを記入します。
作成した申告書は、資産が所在する市町村の税務担当部署(固定資産税課など)に提出します。近年は、eLTAX(エルタックス)を利用した電子申告も普及しています。
- 提出先:資産が所在する各市町村
- 申告期限:毎年1月31日
期限を過ぎると延滞金などが発生する可能性があるため、早めに準備を進めることが重要です。
注意すべき少額資産の特例と免税点
リース資産であっても、通常の償却資産と同様の特例が適用されますが、法人税法上の特例と混同しないよう注意が必要です。
免税点(課税標準額150万円未満)の考え方
償却資産税には、同一市区町村内にある資産の課税標準額の合計が150万円未満の場合、課税されないという「免税点」の制度があります。これはリース資産と自己所有資産を合算して判断されます。
例えば、A市にリース資産(課税標準額50万円)と自己所有の機械(課税標準額80万円)がある場合、合計は130万円となり150万円未満なので、A市からは償却資産税が課税されません。
ただし、課税されない場合でも、申告は必要です。
少額の減価償却資産の特例との関係
法人税法上、取得価額が10万円未満の資産は購入した年度に全額を損金(経費)計上でき、また、10万円以上20万円未満の資産については一括償却資産に該当し、3年間で均等に費用化することができます。さらに、中小企業者等については30万円未満の資産も特例により同様の処理が認められています。
しかし、償却資産税の申告においては次の点に注意が必要です。
- 取得価額10万円未満の資産
法人税の計算で即時費用処理しても、償却資産税では申告対象外となります。 - 取得価額10万円以上20万円未満の資産
法人税の計算で3年間で均等に費用処理しても、償却資産税では申告対象外となります。 - 中小企業者等の30万円未満の資産の特例
法人税法上は全額損金算入可能ですが、償却資産税では原則として課税対象となります。
つまり、法人税法上で損金処理したからといって、必ずしも償却資産税の申告対象から除外されるわけではありません。特に30万円未満特例を適用した資産は申告漏れが多いので、経理担当者は十分注意する必要があります。
リース資産の償却資産税の取り扱いを正しく理解しよう
リース資産にかかる償却資産税の取り扱いを正しく理解するためには、まずリース契約書を確認し、その契約形態を把握することが最も重要です。
原則として納税義務者は資産の所有者であるリース会社(貸手)ですが、「所有権移転ファイナンス・リース」のように実質的な売買とみなされる契約では、使用者(借手)が申告・納税の義務を負います。
借手申告となった場合は、資産内容を正確に把握し、評価額を算出した上で、毎年1月31日までに資産が所在する市区町村へ申告する必要があります。申告漏れがあると、延滞金(地自法368条)、過料(同386条)、虚偽申告の罰則(同385条)といった法定ペナルティの対象となる可能性があるため、リース物件の固定資産税に関するルールを正しく理解し、適切な税務処理を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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