- 作成日 : 2025年5月7日
車を下取りして買い替えた場合の仕訳は?個人と法人を解説
社用車や業務用の車両を買い替えるとき、よく利用されるのが「下取り」です。ディーラーなどに古い車を引き取ってもらい、その分の金額を新しい車の購入代金から差し引く形です。しかし経理の処理では、「車両の売却」と「新しい車両の取得」が同時に起きることになり、仕訳に悩むケースも少なくありません。
この記事では、法人・個人事業主それぞれの下取りに関する会計処理や仕訳の流れをわかりやすく解説していきます。
目次
車を下取りに出して買い替えた際の仕訳とは?
下取りとは、保有していた車を業者に引き取ってもらい、その評価額を差し引いたうえで、新車や中古車を購入する取引です。
一見シンプルですが、仕訳のうえでは2つの動きが同時に起こっていることになります。
1つは「古い車両の売却処理」
もう1つは「新しい車両の取得処理」
実務では、次のような会計処理が求められます。
- 古い車両の取得原価と減価償却累計額を帳簿から消す
- 下取り価格と帳簿価額の差を、売却益または売却損として処理する
- 新しい車両を総額で計上し、下取り分は代金の一部として控除する
つまり、仕訳では「売却(処分)+購入(取得)」の2つをセットで記録する必要があります。
【法人】車の下取りの仕訳
法人が車両を下取りに出して新たに購入する場合、「古い車の売却処理」と「新しい車の取得処理」を同時に行います。
新車両取得価額:5,000,000円+消費税500,000円=5,500,000円
旧車両>取得価額:3,000,000円、減価償却累計額:1,500,000円、下取価格:2,000,000円+消費税200,000円
支払額:1,900,000円(税抜処理)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
車両運搬具 | 5,000,000円 | 普通預金 | 5,500,000円 |
仮払消費税 | 500,000円 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 1,500,000円 | 車両運搬具 | 3,000,000円 |
普通預金 | 2,200,000 | 車両売却益 | 500,000円 |
仮受消費税 | 200,000円 |
このように、新車両の取得と旧車両の除却を分けて記帳するとわかりやすくなります。旧車両の売却は、下取価格と帳簿価額の差が売却益または売却損になります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
車両運搬具(新) | 5,000,000円 | 普通預金 | 3,300,000円 |
仮払消費税 | 500,000円 | 車両運搬具(旧) | 3,000,000円 |
減価償却累計額 | 1,500,000円 | 車両売却益 | 500,000円 |
仮受消費税 | 200,000円 |
また、このように取得と売却を一本の仕訳にまとめることもできます。旧車両を下取りすることで、税込5,500,000円の新車両を3,300,000円の支払いで購入したことがわかります。
【個人事業主】車の下取りの仕訳
個人事業主が車を下取りして買い替える場合も、基本的な会計処理は「旧車両の売却+新車両の取得」と考えます。ただし、下取りで発生した損益については事業所得ではなく譲渡所得になるため、事業所得の帳簿上は固定資産売却損益を計上せずに事業主貸や事業主借を用います。
仕訳
新車両:200万円+消費税20万円=220万円
旧車両:下取り価格:30万円(税抜)、旧車両帳簿価額:25万円(減価償却済)
1.新車取得と支払
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
車両運搬具 | 2,000,000円 | 普通預金 | 2,200,000円 |
仮払消費税 | 200,000円 |
2.旧車両の売却処理
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 300,000円 | 車両運搬具 | 250,000円 |
事業主借 | 50,000円 |
旧車の売却益や損失は、「事業主貸」「事業主借」として処理をします。なお、確定申告の際に譲渡所得として申告する必要があり、譲渡所得の内訳書を作成する必要があります。
また、個人事業主でも、税抜処理を選択していれば法人と同様に「仮払消費税」を分けて処理します。
税込処理を選択している場合は、「仮払消費税」の計上は不要です。
このように、個人事業主は法人と異なる処理をします。
車の下取りで売却益が出た場合の仕訳(法人)
車両を下取りに出した際、帳簿上の価値(取得価額-減価償却累計額)よりも下取り額が高く評価されることがあります。
この差額は、会計上「売却益」として記帳し、収益に含めます。売却益は営業外収益または特別利益の項目として表示され、「固定資産売却益」の勘定科目で計上されるのが一般的です。
売却益が出る仕組みとは?
例)
取得価額:2,000,000円
減価償却累計額:1,600,000円
帳簿価額(残存簿価):400,000円
下取り額:500,000円
※設例の簡便化のため、消費税は無視します
→ 500,000円 - 400,000円 = 100,000円の売却益
この100,000円を「車両売却益」として記帳します。
法人の仕訳例
- 旧車両の売却(売却に関する仕訳)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 1,600,000円 | 車両運搬具 | 2,000,000円 |
普通預金(下取り分) | 500,000円 | 車両売却益 | 100,000円 |
帳簿価額400,000円に対し、下取り額500,000円のため、差額100,000円が売却益として処理されます。実際の現金が動かなくても、下取り額は資産の処分対価として受け取ったと考えます。
個人事業主の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 1,600,000円 | 車両運搬具 | 2,000,000円 |
未収入金または事業主貸 | 500,000円 | 事業主借 | 100,000円 |
会計上の表示についての注意点
- 売却益の金額が小さい場合:営業外収益として「雑収入」に含めることもあります
- 売却益の金額が大きい場合:別途「固定資産売却益」として表示することで、取引の内容を明確にできます
消費税の取り扱い
下取り額には消費税が含まれるため、課税事業者で税抜経理方式を採用している場合、仕訳上では仮受消費税の計上を併せて行う必要があります。
税務申告では、この下取り代金に含まれる消費税も課税対象となりますので、申告漏れにならないよう注意しましょう。
車の下取り時の会計処理や仕訳のポイント
車両の下取りは、資産の売却と取得が同時に起こるため、会計処理ではいくつかの注意点があります。
処理を間違えると、新しい車の減価償却費に影響したり、売却益や損失の計上が漏れたりすることがあるため、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
下取りは「売却」として処理するのが基本
よくある間違いが、「新しい車の取得額から下取り額を引いた差額だけを記帳する」という処理です。
これは会計上は正確な方法とは言えません。
下取り額は旧車両の売却代金とみなし、新車両は総額で計上するのが正しい仕訳の考え方です。
帳簿価額と下取り額の差額で売却益または損失を記帳する
帳簿価額(取得価額-減価償却累計額)と下取り額に差がある場合は、その差額を売却益または売却損として仕訳します(個人事業主の場合は事業主貸または事業主借で計上し、別途、譲渡所得の申告が必要です)。
損益計算書に影響を与えるため、毎回きちんと記帳することが求められます。
新しい車の取得金額は「総額」で記録する
たとえ下取り額がある場合でも、新しく購入した車は販売価格の総額(消費税含む)で車両運搬具に記帳します。
この記録が正確でないと、将来の減価償却費の計算等を誤ります。
消費税の処理を忘れずに行う
車両の購入は課税仕入れであり、売却や下取りは課税売上げとなります。
税抜経理をしている場合は、「仮払消費税」や「仮受消費税」も併せて記帳し、消費税の申告書にも正しく反映させる必要があります。
法人・個人事業主ともに、下取りがある場合は消費税の取り扱いに注意しましょう。
減価償却の見直しも同時に行う
旧車を除却するタイミングで、最終月までの減価償却費が記帳されているかを必ず確認します。法人の場合は減価償却費で計上するか固定資産売却損益で計上するかの違いで、所得に影響はありませんが、個人事業主の場合は事業所得か譲渡所得のどちらの計算に含まれるのかが変わりますので正確な処理が必要です。
売却年度の減価償却費が未計上のまま売却処理をすると、帳簿価額が本来より高くなり、事業所得が課題となり、譲渡所得が過少となってしまいます。
下取りがあっても請求書をよく確認する
請求書の金額が「新車代-下取り額」で表示されていることが多いですが、経理ではそれを「取得」と「売却」に分解して処理します。
明細に消費税が明記されていない場合は、業者に確認しておくのも安心です。
法人と個人事業主の売却益や売却損の取り扱い
車両を下取りに出したときに、帳簿価額より下取り額が高ければ「売却益」、逆に低ければ「売却損」が発生します。
この損益の処理は、法人と個人事業主とで記帳のルールや税務処理に違いがあるため、それぞれのケースで考えていきましょう。
法人の場合の売却益・売却損の処理
法人では、固定資産の売却により発生した損益は損益計算書に記載する項目として必ず記帳が必要です。
- 売却益:営業外収益や特別利益として表示する場合もある
- 売却損:営業外費用や特別損失として処理することもある
いずれの場合も、税務上は課税所得に含まれるため、売却益が出れば法人税の課税所得が増え、売却損が出れば課税所得が減ります。
例:売却益が出た場合(法人)
帳簿価額400,000円、下取り額500,000円 → 売却益100,000円
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 1,600,000円 | 車両運搬具 | 2,000,000円 |
普通預金 | 500,000円 | 車両売却益 | 100,000円 |
個人事業主の場合の売却益・売却損の処理
個人事業主の場合、事業用資産の売却や下取りについては譲渡所得の対象となるため、売却損益は事業所得の帳簿には計上しません。
- 売却益が出た場合:事業主借で計上
- 売却損が出た場合:事業主貸で計上
例:売却損が出た場合(個人事業主)
帳簿価額350,000円、下取り額300,000円 → 売却損50,000円
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 1,650,000円 | 車両運搬具 | 2,000,000円 |
現金(または事業主貸) | 300,000円 | ||
事業主貸 | 50,000円 |
税務申告上の違いにも注意
- 法人はすべての売却益・売却損が税務上の損益に直結
- 個人事業主は譲渡所得として申告する必要があるため、譲渡所得の内訳書の作成が必要
このように、同じ車の売却でも、法人と個人では税務処理が異なります。
下取り処理を進める際は、自分の立場に応じて仕訳や税務処理を分けて考えることが大切です。
車の買い替えを帳簿上もきちんと整理しよう
車を下取りして買い替える取引は、帳簿上で「売却」と「取得」が同時に起きています。帳簿価額や減価償却の記録を確認し、売却益や損失を正しく処理することで、資産の状態がより明確になります。消費税や按分処理などにも気を配りながら、実際の支払いだけに目を向けず、帳簿でも整理された状態を保ちましょう。日々の記帳を丁寧に続けることが、決算時のスムーズな処理につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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