- 作成日 : 2025年9月3日
本社費の配賦基準とは?目安や会計処理をわかりやすく解説
多角化経営を行う企業にとって、本社費の配賦は、事業部ごとの正確な損益を把握するうえで欠かせない管理会計の手法です。しかし、どのような配賦基準を用いれば公平なのか、その目安や会計処理に悩む経理担当者も多いでしょう。この記事では、本社費配賦の基本的な考え方から、代表的な配賦基準、具体的な計算手順、仕訳例までをわかりやすく解説します。
目次
本社費の配賦とは?
本社費の配賦とは、特定の事業部門に直接帰属しない、本社全体で発生した経費(本社費)を、各事業部門に合理的な基準で割り振る手続きのことです。まずは、本社費の定義と、なぜ配賦が必要とされるのかについて見ていきましょう。
本社費に該当する費用(一般管理費)
本社費とは、一般管理費のうち、特定の事業部門の活動に直接結びつけられない全社共通の経費を指します。具体的には、本社で働く役員や経理・総務・人事・経営企画といった管理部門の人件費、本社オフィスの賃料、水道光熱費、通信費などが該当します。これらの費用は、全事業部門の活動を支えるために発生しますが、どの部門がどれだけその恩恵を受けたかを直接測定することは困難です。
なぜ本社費の配賦が必要なのか
本社費の配賦は、各事業部の本当の収益性を測定するために行われます。もし本社費を配賦しなければ、各事業部の利益は、本社というインフラを無料で利用して得られた見かけ上の数字になってしまいます。
本社費を各事業に負担させることで、本社コストを含めてもなお利益を生み出せているのか、事業の実態に近い収益性を評価する材料になります。とくに複数の事業を手がける多角化経営において、事業ごとの採算性を正しく比較検討するために、この手続きはとても有効です。
本社費を配賦するメリット・デメリット
本社費の配賦は、企業の経営管理において有効な手段ですが、メリットとデメリットの両方を理解したうえで慎重に導入を検討することが大切です。
本社費配賦のメリット
最大のメリットは、事業部ごとの正確な採算性が明らかになり、事業継続や投資の判断精度が高まる点です。そのほか、以下のようなメリットが挙げられます。
- コスト意識の向上:
事業部門が本社コストを「自分ごと」として捉えるようになり、全社的なコスト削減意識が高まります。 - 公平な業績評価:
本社機能を維持するためのコストを全部門で負担するため、より公平な業績評価の土台ができます。 - 外部への説明責任:
金融機関などに対し、事業の構造を整理して説明しやすくなる場合があります。
本社費配賦のデメリット
デメリットは、配賦基準の選定が難しく、基準によっては事業部門から納得を得にくいケースも見られます。たとえば、業績好調な事業部ほど多くの本社費を負担するような基準を設けると、事業部門のモチベーション低下につながりかねません。
また、配賦計算や部門間の調整に手間がかかり、管理部門の業務負荷が増大する恐れもあります。
本社費の配賦基準の考え方
本社費の配賦基準は、企業の考え方や事業の特性に合わせて、全部門が納得できる合理的な基準を選ぶことが求められます。ここでは、代表的な配賦基準とその考え方を個別に解説します。
売上高基準
各事業部の売上高の比率に応じて、本社費を配賦する方法です。計算がシンプルでわかりやすく、多くの企業で採用されています。しかし、売上が大きい部門ほど負担が重くなるため、「頑張って売上を伸ばすほど本社費の負担が増える」という不満につながる可能性があります。また、本社サービスの恩恵と売上高の間に、必ずしも強い因果関係があるとは限らない点も考慮が必要です。
人員数基準
各事業部に在籍する従業員数や役員数の比率で本社費を配賦する方法です。人事・総務といった「人」に関連する本社サービスのコストを配賦する際に、因果関係が明確で納得感を得やすいのが特徴です。ただし、コンサルティング事業のように少人数で高収益を上げる部門と、製造業のように多くの人員を要する部門とでは、人員あたりの収益性が大きく異なるため、不公平感を生むことがあります。
利益額基準
営業利益など、各事業部が生み出した利益の額に応じて負担額を決める方法です。「儲かっている事業部が多く負担する」という負担能力の観点からは合理的と言えます。一方で、黒字の事業部から不満が出たり、赤字の事業部ではコスト意識が希薄になったりするリスクもはらんでいます。
複合基準
これまで紹介した複数の基準を組み合わせて、より精緻に配賦する方法です。たとえば、「売上高基準50%、人員数基準50%」のように、複数の要素を考慮することで、単一基準の欠点を補い、実態に近い配賦が期待される一方、複雑さに注意が必要です。
ただし、計算やルールの設定が複雑になり、管理コストが増大する可能性があるため、導入には慎重な検討が求められます。
本社費を配賦する具体的な手順と計算例
本社費の配賦は、決まった手順に沿って進めることで、論理的に計算できます。ここでは、配賦を行うための4つのステップと、具体的な計算例を解説します。
配賦の手順4ステップ
ステップ1:配賦対象の本社費総額を確定する
一般管理費の中から、各事業部に直接賦課できない本社費の総額を集計します。
ステップ2:配賦基準を決定する
前章で解説した考え方にもとづき、自社に最も適した配賦基準(例:人員数基準)を選びます。
ステップ3:配賦率を算定する
配賦基準1単位あたりの本社費がいくらになるかを計算します。
ステップ4:各事業部に本社費を配賦する
算定した配賦率を使い、各事業部に本社費を割り振ります。
- 配賦対象の本社費総額:1,000万円
- 配賦基準:人員数(A事業部:50人、B事業部:30人、C事業部:20人、合計:100人)
- 配賦率の算定:1,000万円 ÷ 100人 = 10万円/人
- 各事業部への配賦額:
- A事業部:10万円/人 × 50人 = 500万円
- B事業部:10万円/人 × 30人 = 300万円
- C事業部:10万円/人 × 20人 = 200万円
本社費配賦の会計処理と仕訳例
本社費を配賦した際は、その内容を会計帳簿に記録するための仕訳処理が必要です。使用する勘定科目と具体的な仕訳例を見ていきましょう。
使用する勘定科目
本社費の配賦に用いる勘定科目に、管理会計としては決まったルールがありません。実務上は、配賦された費用であることがわかるように、部門別損益計算書などで「本社費配賦」や「共通費配賦」といった科目を用いるのが一般的です。あるいは、配賦された側の部門で「支払手数料」や「業務委託料」として処理することもあります。どの勘定科目を使う場合でも、社内でルールを統一しておくことが大切です。
本社費配賦の具体的な仕訳
上記の計算例(本社費1,000万円を配賦)を仕訳で記録する場合、以下のようになります。本社で発生した経費(元勘定)を、各事業部の費用(本社費配賦勘定)に振り替えます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
本社費配賦(A事業部) | 5,000,000 | 役員報酬 | (例)4,000,000 |
本社費配賦(B事業部) | 3,000,000 | 地代家賃 | (例)3,000,000 |
本社費配賦(C事業部) | 2,000,000 | 人件費(本社) | (例)3,000,000 |
この仕訳により、貸方で本社部門の費用が減額(あるいは消去)され、借方で各事業部に費用が付け替えられた形になります。
本社費の配賦基準を選ぶ際の注意点
本社費の配賦基準を選ぶ際には、計算の正しさだけでなく、社内の納得感を得ることが何よりも大切です。 ここでは、基準選定における3つの注意点を解説します。
配賦目的を明確にする
何のために本社費を配賦するのか、目的をはっきりさせましょう。「事業ごとの正確な採算性を測るため」「コスト意識を向上させるため」など、目的が明確であれば、それに合った基準を選びやすくなります。
全部門への丁寧な説明
なぜその配賦基準を選んだのか、その理由と計算方法を、配賦される事業部に対して丁寧に説明し、理解を得る努力が欠かせません。一方的な押し付けは、部門間の対立を生む原因になります。
定期的な見直し
一度決めた基準が、最適なわけではありません。事業構造や外部環境の変化に合わせて、配賦基準が今も実態に合っているかを定期的に見直す姿勢が求められます。
本社費をあえて配賦しない管理会計の手法
これまで配賦を前提に解説してきましたが、管理会計の世界では、本社費を「あえて配賦しない」という考え方もあります。これは、配賦計算の複雑さや、基準の恣意性といった問題を回避するためのアプローチです。
この手法では、各事業部の業績を「貢献利益(売上高 - 変動費 - 各事業部の個別固定費)」で評価します。貢献利益は、その事業部が会社全体の利益創出にどれだけ貢献しているかを示す指標です。
各事業部がコントロールできない本社費を業績評価の対象から外すことで、事業部本来の収益力を純粋に測ることができ、各部門の納得感も得やすくなります。ただし、この方法を採用する場合は、会社全体で本社費をどう管理・削減していくか、その責任体制を別途構築することが不可欠です。
自社に合った本社費の配賦基準で経営判断の精度を高める
本社費の配賦は、数値の割り振り作業ではなく、各事業の本当の価値を測り、会社の資源をどこに投下すべきかを見極めるための、重要な経営判断の材料となります。配賦基準は、自社の経営戦略や事業内容、組織風土に合った基準を、社内で十分に議論して選ぶことが大切です。
配賦する目的を常に念頭に置き、時には配賦しないという選択肢も視野に入れながら、自社にとって最適な業績管理の方法を追求していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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