- 更新日 : 2025年9月4日
IFRSにおける営業利益とは?2027年に定義が統一される理由や影響も解説
IFRS第18号の公表によって、IFRSでは新たに営業利益の表示が求められるようになりました。ただし、IFRSの営業利益は、同一の企業の会計情報であっても、日本基準の営業利益とは金額が異なる可能性があります。IFRSの営業利益の取り扱いや計算、日本基準との相違点などを解説します。
目次
IFRSにおける営業利益とは
IFRSにおいて、営業利益については明確な定義がありませんでした。しかし、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が公表されたことで、IFRSにおける営業利益の扱いに変化が生じることになりました。
営業利益の定義が統一されていない理由
IFRSでは、営業利益の定義が企業によって異なる問題がありました。日本基準と違い、IFRSでは営業利益の開示が義務付けられていないからです。
そのため、営業利益の記載がない損益計算書(包括利益計算書)もIFRSに沿ったものとして認められていました。IFRSで営業利益が定義されてこなかったのは、業界などによって営業利益の扱いが異なっていたためです。
2027年に営業利益の定義が統一される背景
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の公表により、IFRSの損益計算書(包括利益計算書)でも、営業利益の定義が統一されて、開示が要求されるようになります。IFRS第18号が適用されるのは、2027年1月1日以降に開始する事業年度からです。
これまで任意の表示となっていた営業利益の開示が求められるようになった背景として、企業独自の指標が拡大し過ぎたために、企業間比較などがやりにくくなったことなどがあります。
IFRSと日本基準の営業利益の違い
日本基準の営業利益と、IFRS第18号によって表示が義務化されることになった営業利益には違いがあります。
日本基準では、利益を売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益の5段階に分けて表示することが求められています。営業利益とは、売上総利益から販売費一般管理費を差し引いた利益額のことです。つまり、本業の稼ぎを表します。
一方、IFRS第18号において要求される営業利益は、以下の表のように表示することになります。
| 区分 | 損益計算書の表示項目 |
|---|---|
| 営業 | 収益 |
| 費用 | |
| 営業損益 | |
| 投資 | 投資からの収益など |
| 財務及び法人所得税前純損益 | |
| 財務 | 利息費用など |
| 税引前当期純利益 | |
| 法人所得税 | 法人所得税費用 |
| 継続事業の当期純利益 | |
| 非継続事業 | 非継続事業の純損益 |
| 当期純利益 | |
IFRSの営業損益とは、営業区分による利益を表します。注意しなければならないのは、IFRSで営業区分には、他に分類できない収益や費用が加わることです。IFRSの損益計算書には特別損益の項目がないため、日本基準では特別損益に区分される収益や費用も営業の区分に含まれることがあります。結果として、日本基準とIFRSの営業損益は一致しない可能性があります。
IFRSにおける営業利益の計算方法
以下の表は、IFRS第18号に従って作成される損益計算書(包括利益計算書)のうち、営業区分のみを抜き出したものです。
| 営業 | 売上収益 |
| 売上原価 | |
| 売上総利益 | |
| その他の営業利益 | |
| 販売費 | |
| 一般管理費 | |
| のれんの減損損失 | |
| その他の営業費用 | |
| 営業損益(営業利益) | |
上記の表から、以下の計算式により営業損益を求められることがわかります。
IFRSにおける営業利益と金融収益の関係
金融収益とは、金融商品などから生じる収益のことです。金融商品などから生じる費用のことを金融費用といいます。IFRSでは、営業に関わる収益や費用、営業利益とは別に、金融収益や金融費用を表示して作成することが認められています。金融収益は日本基準の営業外収益の一部、金融費用は日本基準の営業外費用の一部を表す項目です。
しかし、IFRS第18号の適用により、金融収益や金融費用は、さらに投資区分と財務区分に分ける必要があります。投資区分とは、企業が保有する資産から生じる収益や費用に関する項目です。金融収益や金融費用のうち、受取配当金や受取利息などが分類されます。財務区分とは、財務活動で生じる収益や費用のことです。金融収益や金融費用のうち、支払利息などが分類されます。
IFRSの変更で日本基準の経常利益はどうなる?
IFRSでは、日本基準で求められる「経常利益」の開示要求はありません。IFRS第18号により新たな区分が設けられた後も、日本基準の経常利益に該当する指標の表示は規定されませんでした。そもそも、IFRSでは特別損益を禁止しているため、特別損益を含めない経常利益を算出する意味がありません。IFRS第18号において営業利益の表示が義務付けられるようになったことで、日本基準の「経常利益」という独自の指標がグローバル視点ではさらに意味をなさなくなることが予想されます。
IFRSの営業利益と日本基準の営業利益は異なる
IFRS第18号が公表されたことによって、IFRSの損益計算書(包括利益計算書)でも、営業利益の表示が要求されるようになりました。ただし、IFRSと日本基準の損益計算書の構造には違いがあることから、同じ営業利益でも、異なる会計基準で処理すると金額が異なる可能性があります。企業間比較を行う際は、IFRSと日本基準の営業利益の差異に注意する必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
荒川区で経理代行サービスを依頼するには?依頼先や対応範囲、費用などを解説
荒川区(東京都)で事業を営む方々、日々の経理業務に追われ、本業に集中できないと感じることはないでしょうか。人材の確保や、インボイス制度・電子帳簿保存法といった度重なる法改正への対応は、特に中小企業や個人事業主にとって大きな負担となりがちです…
詳しくみる月間100万PVの人気ブロガー「ヒトデ」が税理士から法人化を学ぶ!
今年も年末調整の季節がやってきました。 個人事業主の方なら、誰もが「税金ってこんなに高いのか!」と驚いた経験があるのではないでしょうか。 今回のスペシャルゲスト、月間100万PVを超える人気ブログ「今日はヒトデ祭りだぞ!」を運営するヒトデさ…
詳しくみる課税売上高とは?課税仕入れとの違いや消費税の仕入税額控除もわかりやすく解説
消費税の申告書の作成においては、課税売上げや課税仕入れの仕組みを正しく理解することが重要です。この記事では、課税売上高や仕入税額控除などの消費税額の計算において重要なポイント、インボイス制度における注意点などをわかりやすく解説します。 課税…
詳しくみる経理の資格・検定はコレ!担当者がスキルアップのために知っておくべき4つ
経理担当者としてスキルアップを望むのであれば、実務の積み重ねはもちろんですが、資格や検定を目指して勉強をしてみてはどうでしょうか。 ここでは「資格」として公認会計士資格と税理士資格を、「検定」として簿記検定及び経理・税務スキル検定を、それぞ…
詳しくみる二重責任の原則はなぜ必要か?
監査に関わる仕事を担当している人であれば、「二重責任の原則」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。二重責任の原則は、日本の監査制度を信頼できるものにするために欠かせないルールです。本記事では、二重責任の原則の概要や、なぜ二重責任の原則…
詳しくみるM&Aのメリット・デメリットは?失敗原因や成功事例もわかりやすく解説
M&Aを検討する場合、メリット・デメリットを事前に把握しておきたいと考える人も多いでしょう。M&Aには新規事業の開拓や事業承継問題の解消ができるといった利点がある一方で、多額の資金が必要になることや従業員離職のリスクといった…
詳しくみる