- 更新日 : 2025年1月31日
圧縮記帳の仕組みとは?要件や仕訳、限度額を学ぶ
圧縮記帳とは、一定の要件のもとで固定資産を取得した場合の「課税の繰り延べ」です。圧縮記帳について、適用要件、限度額、直接減額方式や積立金方式といった処理方法から具体的な仕訳までを簡潔に解説します。
目次
圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、本来は課税所得となる利益を将来に繰り延べる制度で、法人税法と租税特別措置法に規定されています。
例えば、特定の機械を購入するにあたり、国から補助金が給付されたとします。そして、その補助金を予定どおり機械購入に充当したとします。機械は耐用年数で減価償却します。
すると、機械を取得した初年度の課税所得はどうなるでしょうか?
補助金収入は法人税上益金となりますから、課税所得はグンと増えます。そして、損金としては減価償却費となると、初年度における課税所得は高くなります。せっかく補助金はもらえたのに、初年度の税金が大きいと補助金の効果は減ります。
そこで考えられたのが圧縮記帳です。
圧縮記帳は、受け取った補助金にも課税しますが、「補助金を受取った事業年度の」課税を避ける方法です。したがって、トータルで考えれば支払うべき税金は同じですが、ある程度の補助金の効果が認められます。
圧縮記帳という手法により、固定資産の取得価額を減額すると、減価償却費も少なくなります。
上の図で1年目は圧縮損の計上で補助金への課税が相殺されますが、2年目以降は減価償却費が少ない分、課税所得は大きくなります。
圧縮記帳のメリット
・圧縮記帳のメリットは、補助金や保険金など圧縮記帳の対象となる給付があった年度において、課税所得が減額されるということです。一時的な節税効果はあります。
圧縮記帳のデメリット
・多くの圧縮記帳資産をもつと、資産管理面で他と区別する等の作業が増えます。
例えば、償却資産税について圧縮記帳は認められませんので、本来の取得価額での管理も必要となります。
・圧縮記帳の対象となる固定資産を利用途中で売却すると、取得価額を減額(圧縮)されているため、売却益が多くなり、課税所得が多くなることがあります。
圧縮記帳の適用要件
圧縮記帳はある限られた要件のものでのみ適用されるものです。圧縮記帳が適用できるケースについては後述しますが、適用にあたっての要件は概ね次のとおりです。
1.圧縮限度額の範囲内で次のどれかの経理方法によること
- 帳簿価額を損金経理により減額する方法
- 確定した決算において積立金として積み立てる方法
- 決算確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法
2.確定申告書に圧縮記帳経理額の損金算入についての明細を添付すること
3.清算中の法人でないこと
なお、圧縮限度額とは圧縮記帳の種類によってそれぞれ設定されている固定資産の減額の上限値です。
圧縮記帳の方式
圧縮記帳の方法として、直接減額方式と積立金方式などがあります。
ここでは直接減額方式と積立金方式について具体的例を挙げてみましょう。
例として、次の取引において圧縮記帳を適用するケースとします。
直接減額方式
直接減額方式は、受給した補助金分を損金経理(会計上費用に計上)することで、補助金の対象となる固定資産の取得価額を直接減額する方法です。以後の事業年度では、減額した取得価額をもとに減価償却すれば良いため、積立金方式と比べて簡便な方法といえます。
【国庫補助金の交付】
【機械装置の取得】
【圧縮損の計上】
※国庫補助金の圧縮記帳ですので、圧縮限度額まで損金経理したものとします。
【減価償却計算】
※機械装置(1,600万円-600万円)÷ 5年 = 200万円
翌期以降も圧縮後の帳簿価額1,000万円を元に同様の減価償却を続けます。
積立金方式
積立金方式は、受給した補助金分を剰余金の処分に代えて圧縮積立金として純資産の部に計上し、以後、減価償却の期間にわたって少しずつ圧縮積立金を取り崩して益金(税法上の収益のこと)に計上していく方法です。直接減額方式と異なり、固定資産は本来の取得価額をもって減価償却します。結果として、益金の額と減価償却による損金の額の相殺で、直接減額方式と同額の損金が毎期計上される仕組みです。
企業会計基準の取得原価主義を原則と考えた場合、積立金方式が適した方法となりますが、交換差益の圧縮記帳のように、税法上は積立金方式が適用できないものもあります。
国庫補助金の交付と機械装置の取得については、直接減額方式と同様です。
【圧縮積立金の積立】
※ここで補助金の収入を相殺すべく、利益を減らして積立金を積み立てておきます。
圧縮積立金は貸借対照表の純資産の部、任意積立金に表示されます。
【減価償却計算】
※機械装置は取得価額を元に減価償却します。1,600万円 ÷ 5年 = 320万円
【積立金取り崩し】
※この場合の圧縮限度額は200万円です。減価償却費として、120万円(=320万円-200万円)は損金として認められません。そこで、圧縮積立金からこの差額分120万円を取り崩します。
結局、損金(減価償却費)320万円に対し、益金(圧縮記帳積立金取崩益)120万円を計上することとなりますので、直接減額方式での損金(減価償却費)200万円計上と同じ効果となります。
圧縮記帳を適用できるケースとその限度額
圧縮記帳は法人税の制度ですが、取り扱う内容によって適用する法律が異なります。
租税特別措置法に規定されているものについては、適用期限を事前に確かめるようにしましょう。
個々のケースについての詳細説明は省略しますが、国庫補助金の給付だけでなく、なんらかの要因で固定資産を取得せざるを得なくなった場合には、いくつかの圧縮記帳制度があることを確認してください。
国庫補助金
圧縮限度額は、固定資産の取得等に充てた国庫補助金の額となります。(法人税法第42条)
工事負担金
電気やガス、鉄道等の事業をする者が金銭を受けた場合などに適用があります。
圧縮限度額は、固定資産の取得価額から提供を受けた金銭の価額を控除した金額となります。(法人税法第45条)
保険差益
災害などによる保険金収入があり、滅失資産に変わり代替資産を取得した場合などに適用します。圧縮限度額は、次の算式で計算した金額となります。
※保険差益金の額=(保険金 - 滅失経費)- 被害部分の固定資産帳簿価額
(法人税法第47条、法人税法施行令第85、87条)
交換差益
固定資産を一定の交換によって、取得した場合、それぞれの交換により差額の発生状況により圧縮限度額の計算方式が変わります。
例えば、交換による差額交付がなかった場合の圧縮限度額は次の算式で計算した金額です。
(法人税法第50条、法人税法施行令第50、92条)
非出資組合の賦課金
非出資組合の賦課金については、工事負担金の圧縮限度額に準じます。
(法人税法第46条)
特定資産の買換
一定の譲渡資産を譲渡し、その年度に一定の買換資産を取得した場合などに適用します。
圧縮限度額は、次の算式で計算した金額となります。
※圧縮基礎取得価額とは、次のいずれか少ない金額
ア.買換資産の取得価額
イ.譲渡資産の譲渡対価の額
※差益割合 = {譲渡資産の譲渡対価-(譲渡資産の譲渡直前の簿価+譲渡経費)} / 譲渡資産の譲渡対価
(租税特別措置法第65条の7)
まとめ
国から見て助成目的で支給した補助金が、1年も経たないうちに税金となって国庫に返ってくることは、本来の目的と矛盾します。圧縮記帳は、この矛盾の緩和策としては有効ですが、適用できるケースを見るように、特別のケースでなければ適用できません。
しかしながら、課税の繰り延べのしくみを理解するにはとてもよい制度です。
国税庁|法人税法上の圧縮記帳
よくある質問
圧縮記帳とは?
本来は課税所得となる利益を将来に繰り延べる制度で、法人税法と租税特別措置法に規定されています。詳しくはこちらをご覧ください。
圧縮記帳の適用要件は?
一定の経理方法であることや、確定申告書に明細を添付すること、清算中の法人でないことなどの要件があります。詳しくはこちらをご覧ください。
圧縮記帳の限度額は?
国庫補助金、工事負担金、保険差益、交換差益、非出資組合の賦課金、特定資産の買換のそれぞれで異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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