• 作成日 : 2025年9月3日

バックオフィス自動化はどこまで可能?経理・人事・総務の方法や進め方を解説

バックオフィスを自動化すると、人手不足や業務の属人化といった課題の解決にも役立つでしょう。これまで手作業に頼っていた業務をITツールに任せることで、ヒューマンエラーを減らし、生産性の向上が期待できます。とはいえ、どこから手をつければ良いか、わからない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、企業活動を後方から支援するバックオフィスで自動化できる業務を部門別に紹介し、ツールの選び方から導入の進め方、注意点までをわかりやすく解説します。

バックオフィス自動化で解決できる経営課題

バックオフィスを自動化すると、経理や人事、総務といった管理部門が抱える課題を解決し、企業全体の成長を後押しすることにつながります。手作業が多い定型業務をシステムに任せることで、人手不足の解消や業務品質の安定化など、さまざまな効果が期待できるでしょう。

人手不足と業務負担の軽減

バックオフィスを自動化すると、従業員の業務負担を軽くできます。

日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少しており、多くの中小企業が人手不足という課題に直面しています。とくにバックオフィス部門では、日々のデータ入力や書類作成といった定型業務に多くの時間がとられがちではないでしょうか。

参考:  本格化する少子高齢化・人口減少における課題|国土交通省

自動化ツールを導入すれば、こうした繰り返し作業をシステムに任せられるようになります。その結果、従業員は空いた時間を使って、より専門性が求められる仕事や、お客様への対応といった創造的な業務に集中できる環境が整います。

業務の属人化の解消

システムによる自動化は、業務の属人化を防ぎ、安定した運用体制を整えることにもつながります。

特定の担当者しか業務の進め方を知らない「属人化」の状態は、その担当者が不在の際に業務が滞るリスクを抱えています。急な退職や異動があった場合、引き継ぎがうまくいかず、業務が停止してしまうかもしれません。

自動化は、こうした個人の能力や特性に頼る業務プロセスを見直す良いきっかけになります。業務の手順をシステム上のルールとして設定することで、誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できるようになり、組織全体の業務継続性を保ちやすくなるでしょう。

ヒューマンエラーの防止と品質向上

自動化は、手作業によるミスを減らし、業務の正確性を高められます。

人間が作業する以上、入力ミスや確認漏れといったヒューマンエラーを完全になくすことは難しいものです。とくに、請求書の金額や給与計算など、間違いが企業の信用問題に発展しかねない業務では、細心の注意が求められます。

RPA(Robotic Process Automation)のようなツールは、あらかじめ設定されたルールどおりに正確な作業を繰り返すのが得意です。手作業をなくすことで、うっかりミスを防ぎ、業務品質全体の安定と向上につながるのではないでしょうか。

コスト削減の実現

長期的には、自動化は人件費や採用・教育にかかるコストの削減も期待できます。

バックオフィス業務のために新たな人材を採用するとなると、採用コストだけでなく、社会保険料や教育コストも発生します。自動化によって既存の従業員で業務をまかなえるようになれば、こうした費用を抑えることが可能です。

また、ペーパーレス化を同時に進めることで、紙代や印刷代、書類の保管スペースといった物理的なコストも削減できます。もちろんツールの導入には初期費用や月額利用料がかかりますが、人件費やその他経費の削減効果をふまえると、費用対効果は高いといえるでしょう。

部門別に見るバックオフィス自動化の対象業務

「自動化」と聞いても、具体的にどの業務を任せられるのかイメージが湧きにくいかもしれません。ここでは、バックオフィスの主要な部門である「経理」「人事・労務」「総務・法務」で自動化できる業務の詳しい例を見ていきましょう。

経理部門で自動化できる業務

経理部門は、請求・支払い・経費精算など、数字を扱う定型業務が多いため、自動化の効果を実感しやすい部門の一つです。

  • 請求書や領収書のデータ化と自動仕訳
    AI-OCR(AIを活用した光学的文字認識)を使えば、紙の請求書や領収書をスキャンするだけで、取引先名・日付・金額などを自動でデータ化できます。さらに、そのデータを会計ソフトに連携させ、勘定科目を推測して仕訳までを自動で行うツールもあります。
  • 経費精算の電子化
    従業員がスマートフォンのアプリで領収書を撮影し、そのまま経費精算を申請できるシステムが普及しています。交通費も、ICカードの利用履歴を専用ソフトで読み取り、経費精算システムに取り込むことで、手入力の手間や入力ミスを軽減できます。上長や経理担当者の承認作業もシステム上で行えるため、書類が回ってくるのを待つ時間もありません。
  • 売掛金の消込作業
    銀行の入金データと請求データを自動で照合し、消込作業を行うことができます。これまで一件ずつ目視で確認していた作業を自動化することで、担当者の負担を大幅に減らせるでしょう。
  • 支払い業務の効率化
    請求書データをもとに、振込データ(FBデータ:ファームバンキングデータ)を自動で作成するシステムもあります。これにより、支払い業務にかかる時間と手間を削減し、振込ミスを防ぎます。

人事・労務部門で自動化できる業務

人事・労務部門も、入退社手続きや勤怠管理、給与計算といった毎月・毎年発生する定型業務が多く、自動化と相性の良い分野です。

  • 勤怠データの自動集計と給与計算
    従業員が打刻した勤怠データを自動で集計し、残業時間や深夜労働時間などを計算して給与計算ソフトに連携させます。手作業での転記や計算が不要になるため、ミスなくスピーディーに給与計算を終えられます。
  • 入退社手続きの効率化
    新入社員が必要な情報をフォームに入力するだけで、雇用契約書や社会保険関連の書類が自動で作成されるサービスがあります。役所への電子申請に対応しているツールなら、書類を提出しに行く手間も省けるでしょう。
  • 年末調整のペーパーレス化
    従業員がスマートフォンやパソコンから控除申告書に必要な情報を入力し、保険料控除証明書などの書類もデータで提出できるようにします。人事担当者は、そのデータを給与システムに取り込むだけで良いため、大量の紙の書類を確認・計算する手間から解放されます。

総務・法務部門で自動化できる業務

総務・法務部門の業務は多岐にわたりますが、定型的な事務作業は自動化が可能です。

  • 契約書の作成・管理
    契約書のひな形をシステムに登録しておき、取引先名や契約金額などを入力するだけで、契約書が自動作成されるツールがあります。また、契約期間の満了日が近づくとアラートで通知してくれる機能もあり、更新漏れを防ぐのに役立ちます。
  • 備品の発注・在庫管理
    チャットツールから「ボールペンを発注して」と依頼するだけで一部のチャットツールと業務システムを連携させることで、発注依頼を簡略化できる例もあります。在庫が一定数を下回った際にアラートを出す仕組みも構築可能です。
  • 問い合わせ対応の一次受付
    社内からの「〇〇の申請方法は?」「〇〇の届出の方法は?」といった定型的な質問に対して、自動で回答するチャットボットを導入する方法があります。これにより、総務担当者が本来の業務に集中できる時間を確保できます。

バックオフィス自動化を実現する主なツール

バックオフィスの自動化は、いくつかのツールを目的別に使い分けたり、組み合わせたりして進めていきます。ここでは、自動化を支える代表的な3つのツールを紹介し、それぞれの特徴や得意なことを見ていきましょう。

RPA(Robotic Process Automation)

RPAは、パソコン上で行う定型的な事務作業を代行してくれる「ソフトウェアロボット」のことです。

人が行っているマウス操作やキーボード入力をそのまま記憶させ、再現させることができます。たとえば、「特定のシステムからデータをダウンロードし、Excelに転記して、関係者にメールで送る」といった一連の作業を、人の代わりに実行してくれます。

プログラミングの専門知識がなくても、比較的かんたんに導入できるツールが多いのも特徴です。ただし、ルール化できない複雑な判断や、画面デザインが頻繁に変わるシステム上の作業は苦手な場合もあります。

SaaS(Software as a Service)

SaaSは、インターネット経由で利用できるソフトウェアやサービスを指します。

身近な例では、クラウド型の会計ソフトや勤怠管理システム、経費精算システムなどがこれにあたります。自社でサーバーを構築する必要がなく、アカウントを登録すればすぐに利用を開始できる手軽さが魅力です。

多くは特定の業務に特化して作られており、その分野の専門的なノウハウが反映されています。月額料金制が一般的で、導入コストを抑えながら必要な機能を使えるため、とくに中小企業にとって利用しやすい選択肢といえるでしょう。

AI-OCR(AIを活用した光学的文字認識)

AI-OCRは、スキャナやカメラで読み取った画像から文字情報を識別し、データに変換する技術のことです。

従来のOCRと違うのは、AI(人工知能)を搭載している点にあります。これにより、手書きの文字や、請求書のように会社ごとに書式が異なる非定型の書類でも、高い精度で文字を読み取れるようになりました。

たとえば、取引先から受け取った紙の請求書をAI-OCRで読み取り、会計ソフトに自動入力するといった活用ができます。紙媒体の書類を多く扱う業務の効率化に、大きな力を発揮するでしょう。

バックオフィス自動化の進め方と注意点

バックオフィス自動化を成功させるには、計画的に進めることが大切です。やみくもにツールを導入するのではなく、ここで紹介する5つのステップで着実に進めていくことをおすすめします。そうすることで、導入後の失敗を防ぎやすくなるでしょう。

1. 業務の可視化と課題の洗い出し

まず、現在の業務内容を「見える化」することから始めましょう。

「どの部署の、誰が、どのような業務を、どれくらいの時間をかけて行っているのか」を具体的に書き出していきます。実際に作業している担当者にヒアリングすると、マニュアルにはない細かな手順や、非効率だと感じている点など、現場ならではの課題が見えてくるはずです。

2. 自動化する業務の優先順位付け

洗い出した業務の中から、どれを自動化するか優先順位をつけます。

すべての業務を一度に自動化するのは現実的ではありません。一般的には、「時間がかかっている単純作業」や「ミスが発生しやすい手作業」など、作業が簡単で効果の大きい業務から手をつけるのが成功のポイントです。費用対効果を考えながら、どこから始めるのが最も良いか検討しましょう。

3. ツールの選定と導入

自動化したい業務の課題に合ったツールを選びます。

たとえば、複数のシステムをまたぐデータ転記作業ならRPA、経費精算のフロー全体を改善したいなら経費精算SaaS、といったように目的から考えるのがわかりやすいです。多くのツールには無料トライアル期間が設けられているため、実際に操作感を試してから本格導入を決めると、ミスマッチを防げるでしょう。

4. 小さな範囲からのテスト導入(スモールスタート)

いきなり全部門で導入するのではなく、特定の部署や一部の業務から小さく始める「スモールスタート」が安全です。

まずはテスト導入で効果を試し、操作に慣れてもらいます。その過程で見つかった課題を改善し、運用ルールを固めてから、徐々に対象範囲を広げていくほうが、現場の混乱も少なくスムーズに進められるでしょう。

5. 効果測定と改善

ツールを導入して終わりではありません。定期的に効果を測定し、改善を続けることが大切です。

「自動化によって、月あたり何時間の作業時間が削減できたか」「ミスの件数はどれくらい減ったか」などを具体的に評価します。その結果をふまえて、さらに効率化できる部分はないか、他の業務にも応用できないかなどを検討し、自動化の取り組みを育てていきましょう。

バックオフィス自動化の先にある「業務プロセスの再設計」

バックオフィスのツールを導入するだけでなく、これを機に業務のやり方そのものを見直すことで、自動化の効果は何倍にもなります。ここでは、自動化を成功させている企業に共通する、一歩進んだ考え方を紹介します。

自動化を検討する際、「今のやり方を、そのままツールに置き換える」ことだけを考えてしまいがちです。しかし、それでは効果が限定的になってしまうかもしれません。

大切なのは、「そもそも、この業務は必要なのか?」「なぜ、この手順でなくてはならないのか?」と、業務の根本から問い直す視点です。

たとえば、紙の請求書をAI-OCRでデータ化するのも一つの自動化です。しかし、一歩進んで、取引先にも協力してもらい、請求書のやり取り自体を電子データに切り替えることができれば、スキャンして読み取るという手間そのものをなくせます。

このように、バックオフィス自動化は、長年の慣習で行われてきた非効率な業務プロセスを根本から改善する絶好の機会です。ツール導入をきっかけに業務全体を見直し、よりシンプルで合理的な流れに「再設計」することで、期待以上の成果を得られるのではないでしょうか。

バックオフィス自動化で企業の成長を加速させる

バックオフィスの自動化は、単に業務を効率化するだけの取り組みではありません。繰り返し行われる定型業務から従業員を解放し、分析や企画といった、より付加価値の高い仕事へシフトさせることで、企業全体の生産性を向上させます。これは、従業員のやりがいや満足度にもつながるでしょう。

業務プロセスが標準化されれば、ヒューマンエラーが減り、内部統制の強化にもなります。人手不足が避けられないこれからの時代において、バックオフィス自動化への投資は、変化に強いしなやかな組織を作り、企業の持続的な成長を支える土台となるはずです。本記事を参考に、自社のバックオフィスのどこに課題があり、何から始められるのか、ぜひ考えてみてください。


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