- 更新日 : 2025年2月20日
パーシャルスピンオフ税制とは?対象になるスピンオフや認定に必要な手続きを解説
パーシャルスピンオフ税制とは、2023年度に創設された特例措置のことです。一定の条件下でパーシャルスピンオフを実施した会社の譲渡損益課税が繰り延べられ、株主に対する配当課税が非課税となります。
ただし、適用には事業再編計画認定要件などを満たさなければなりません。本記事で、パーシャルスピンオフ税制を適用するためのポイントを解説します。
目次
パーシャルスピンオフ税制とは
パーシャルスピンオフ税制とは、一定の要件を満たすパーシャルスピンオフについて親会社の譲渡損益や株主の配当が課税の対象外となる制度(特例措置)のことです。
パーシャルスピンオフの概要と、特例措置の内容について、それぞれ見ていきましょう。
パーシャルスピンオフとは
パーシャルスピンオフとは、スピンオフを実施した元親会社に対象会社(元子会社)の株式を一部残すことです。そもそもスピンオフは、社内の一部門を切り離して独立させることを指します。
スピンオフの主な目的は、経営や資本を独立させて新規事業立ち上げに伴うリスクを分散することです。大企業だけでなく、中小企業でも事業承継などにスピンオフを活用することがあります。
特例措置の内容
パーシャルスピンオフ税制は、スピンオフ税制に関する特例措置です。
2017年度の税制改正によりスピンオフ税制が創設されました。スピンオフ税制は、企業の機動的な事業再編をうながすため、要件を満たせばスピンオフによる配当課税や譲渡損益課税を繰り延べられるようにする制度です。
スピンオフ税制は基本的に100%の分離を前提としているため、パーシャルスピンオフは依然として課税対象でした。しかし、2023年度にパーシャルスピンオフ税制が創設されたことにより、2024年8月30日現在ではパーシャルスピンオフでも要件を満たせば課税の対象外となります。
なお、パーシャルスピンオフ税制は元々2023年に1年の期限付きで設けられた制度ですが、2024年度の税制改正で適用期間を4年間延長することが決まりました。
パーシャルスピンオフ税制の適用を受けられる要件
パーシャルスピンオフ税制の適用を受けるための要件は、以下のとおりです。
- 非支配要件
- 株式のみ按分交付要件
- 従業者継続要件
- 事業継続要件
- 役員継続要件
- 事業再編計画認定要件
株式のみ按分交付要件や従業者継続要件は、スピンオフ税制の要件と異なる部分があります。
パーシャルスピンオフ税制における株式のみ按分交付要件は、「産業競争力強化法による認定を受けた事業再編計画に従う」ことと「産業競争力強化法による特定剰余金の配当で、完全子法人株式の80%超が移転し、現物分配法人の株主の持株数に応じて完全子法人の株式のみが交付される」ことです。
従業者継続要件としては、「おおむね90%以上の従業者が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれる」ことが設けられています。
また、事業再編計画認定要件はそもそもパーシャルスピンオフ税制にのみ設けられている要件です。具体的には、以下の項目が事業再編計画認定要件として定められています。
- スピンオフされる会社が主要な事業として新たな事業活動を行っている
- 3つのうちいずれかの要件を満たす
それぞれ確認していきましょう。
スピンオフされる会社が主要な事業として新たな事業活動を行っている
スピンオフ対象の会社が「主要事業」として「新たな事業活動」を実施していることが、事業再編計画要件のひとつです。
本来は、主要事業かどうかは収入金額で判定すべきものとされています。ただし、収入が少なくても多大な損益が生じることや、大規模な設備を有する事業が主要に該当する場合があることを踏まえ、総合的に勘案することが一般的です。
また、新たな事業活動の具体例としては、新商品の開発・生産、新たな役務の開発・提供、商品の新たな生産や販売方式の導入、役務の新たな提供方式の導入などが挙げられます。
3つのうちいずれかの要件を満たす
パーシャルスピンオフ税制を適用するには、以下3つのうちいずれかの要件も満たさなければなりません。
- インセンティブ構造
- 新規事業性
- 事業の成長可能性
インセンティブ構造とは、対象会社の特定役員にストックオプション(新株予約権)が付与されていること、もしくは付与される見込みがあることです。また、新規事業性とは、スピンオフされる会社の主要事業が、事業を開始してからまだ10年を超えていないことを指します。
さらに、事業の成長可能性とは、対象会社の主要事業が成長・発展することを証券会社が確認していることです。
参考:経済産業省 パーシャルスピンオフに関する税制措置 Q&A
パーシャルスピンオフ税制の認定を受ける手順
パーシャルスピンオフ税制を適用するにあたって、まず要件を満たすのかを確認しなければなりません。自社やスピンオフ対象会社の事業を所管する省庁に、要件について問い合わせておきましょう。
次に、産業競争力強化法に基づく事業再編計画を作成します。書式や記載例は、経済産業省のサイトからダウンロード可能です。
提出手続きは、オンラインでもできます。ただし、オンライン手続きにあたっては、GビズIDが必要です。
事業再編計画を申請してから1ヶ月以内に審査が完了し、認定を受けられた場合に証明書が発行されます。認定から証明書発行までにかかる期間の目安として1週間を見込んでおきましょう。
なお、過去の認定案件についても経済産業省のサイトで確認できます。事業再編計画を作成する際の参考にしてください。
参考:経済産業省 事業再編の促進(産業競争力強化法)、経済産業省 事業再編計画(産業競争力強化法)のオンライン手続
パーシャルスピンオフ税制の認定を受けるメリット
パーシャルスピンオフ税制の認定を受ければ、元親会社やその株主の節税につながる点がメリットです。A社が子会社であるB社の株式の2割未満を保有したまま、残りの株式を自社(A社)株主に現物配当として渡す、パーシャルスピンオフのケースについて考えてみましょう。
パーシャルスピンオフ税制の認定を受けた場合、A社はB社株式に対する譲渡損益の課税を繰延べられます。また、A社株主もA社株式の部分譲渡損益を繰り延べることができ、通常であればみなし配当として課税される部分を非課税にできる点がメリットです。
なお、パーシャルスピンオフを実施すること自体にも、親会社と一定の関係を残すことで子会社がノウハウやブランドを活用できるなどのメリットがあります。
パーシャルスピンオフ税制の申請を行う際の注意点
パーシャルスピンオフ税制を適用するには、さまざまな要件を満たさなければならないことを理解しておきましょう。とくにスピンオフ税制と異なる部分や、2024年に新たに事業再編計画のひとつとして加えられた「完全子法人が主要な事業として新たな事業を行っている」などに注意が必要です。
また、手続きには時間がかかるうえに、期限が設けられていることも意識しておきましょう。事業再編計画の認定は、2028年3月31日までに受けなければなりません。
さらに、スピンオフの種類によって、対象外になる可能性がある点にも注意が必要です。スピンオフには、特定の事業に対して実施する「分割型分割」と、完全子会社に対して実施する「株式分配」があります。分割型分割は、パーシャルスピンオフ税制の対象外です。
パーシャルスピンオフ税制で非課税になることがある
パーシャルスピンオフ税制とは、一定の要件を満たすパーシャルスピンオフを実施する際に、元親会社の譲渡損益に対する課税を繰延べられたり、株主の配当が課税の対象外となったりする制度です。適用にあたっては、「非支配要件」「従業者継続要件」「事業再編計画認定要件」などの要件を満たすことが求められます。
また、申請には期限が定められている点に注意が必要です。パーシャルスピンオフを予定している場合は、手続きにかかる時間を考慮して早めに準備を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労務外注費とは?労務費・人件費・外注人との違いや仕訳、消費税などを解説
企業や個人事業主が外部の専門家や作業者に業務を委託する際、その対価として支払う「労務外注費」。とくに建設業やIT業界、サービス業など、さまざまな分野でこの費用が日常的に発生しています。しかし、労務費や外注費との違い、勘定科目の使い分け、さら…
詳しくみる中小企業の人数とは?法律上の定義と助成金の利用要件
「中小企業」という言葉は普段何気なく使っていますが、法律的な定義があるため勝手に判断することはできません。 また、中小企業が対象の各種助成金にも人数要件が定められていることが多いため注意が必要です。ここでは、中小企業の法律上の定義や助成金の…
詳しくみる複式簿記とは?メリットデメリットや単式簿記との違いを解説
複式簿記とは、すべての取引を仕訳して記録・集計する記帳方法です。単式簿記は収入と支出のみを記録しますが、複式簿記は資産および負債の増減も含めて二重に記帳します。 本記事では、複式簿記の概要や必要になる場面、青色申告との関連性、書き方を解説し…
詳しくみる持ち帰りとイートインスペース利用、軽減税率の適用基準や罰則は?
2019年10月、消費税が10%に上がるにともない、生活に密接にかかわる飲食物については、そのほとんどが現行の消費税のまま8%に据え置かれる、軽減税率の措置が取られることが決まっています。 しかし、同じ飲食物でもすべてが対象になる訳ではあり…
詳しくみる使途不明金とは?発生時の注意点や使途秘匿金との違いを解説
日々適切に会計処理を行っているつもりでも、法人税法上の使途不明金が発生することがあります。税務調査で使途不明金が発覚して指摘を受けた場合は損金算入ができず、納めるべき法人税額が増えるかもしれません。この記事では、使途不明金の意味や使途秘匿金…
詳しくみる任意監査とは?メリット・デメリットや法定監査との違い
会社で行う監査とは、経営や財務状況について検証し、結果を報告することです。 監査の一つである「任意監査」とは、会社が自主的に行う監査のことです。法定監査とは異なり、行う会社の規模などの定めはありません。 この記事では、任意監査の種類やそれぞ…
詳しくみる