- 作成日 : 2025年3月19日
取得原価とは?概要や計算方法、活用ポイントを簡単に・わかりやすく解説
会計や経理、簿記などで出てくる「取得原価」とは、新しく資産を取得する際に、かかった費用の総額を指します。取得原価には、資産そのものだけの金額ではなく、その他にも含まれるもの、含まれないものがあります。また、取得原価の計算方法もあるのです。
今回は、取得原価とは何か、また取得原価の計算方法や実務での活用ポイントを詳しく、わかりやすく解説します。
似た用語も紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
取得原価とは、資産の取得にかかった費用の総額のこと
取得原価とは、企業がある資産を取得した際にかかった費用の総額を指します。
資産を取得した際にかかった費用とは、資産そのものの価格に付随費用を足し、割引などがある場合はその金額を引いた費用で、その総額が「取得原価」です。
取得原価は、取得原価主義(取得原価基準)において、資産の価格に付随費用を加算した上で算出することになっています。
また、資産の取得方法は購入・建築・交換などさまざまですが、資産の取得方法によって取得原価の内訳は変わるのです。
取得原価主義や資産の取得方法別の原価取得については後ほど詳しく解説します。
取得原価に含めるものと含めないもの
取得原価には「付随費用」というものが含まれます。
付随費用とは、資産の取得など取引をする際に関連して発生する諸経費のことです。
企業会計審議会によって昭和35年から37年に公表された、企業会計原則と関係諸法令との調整を目的とした「連続意見書」において、購入によって固定資産を取得した場合、付随費用を加えて取得原価とするとされています。
正当な理由がある場合には、付随費用の一部またはすべてを加算しない額を取得原価とするとされています。
取得原価に含めるものと含めないものを以下にまとめています。
取得原価に含めるもの | 取得原価に含まれないもの |
---|---|
|
|
取得原価の計算式と計算例
資産を購入した場合の取得原価の計算式は、「購入代金+付随費用-値引き・割戻」です。
資産を購入した場合の取得原価の計算例を以下にまとめました。
購入代金 | 付随費用 | 値引き・割戻 | 取得原価 | |
---|---|---|---|---|
商品を購入 | 100万円 | 10万円 | 3万円 | 107万円 |
土地を購入 | 1,000万円 | 55万円 | 10万円 | 1,045万円 |
機械設備を購入 | 200万円 | 25万円 | 10万円 | 215万円 |
まず、商品を購入した場合の取得原価を解説します。商品の購入代金は100万円、運送費や関税を含めた付随費用が10万円、仕入れ割引が3万円であった場合、購入代金と付随費用を足して110万円、そこから仕入れ割引の3万円を引き、取得原価は107万円となります。
次に、土地を購入した際の取得原価です。土地の購入代金は1,000万円、仲介手数料や土地の整地費用を含めた付随費用が55万円、割引が10万円であった場合、購入代金1,000万円と付随費用55万円を足し、10万円を割引し、取得原価は1,045万円です。
機械設備を購入した場合、購入代金の200万円と運送費や据え付け費を含めた付随費用25万円を足し、10万円を値引きして、取得原価は215万円となります。
【固定資産の取得方法別】取得原価の算出方法
固定資産を購入する際の取得原価の計算方法を解説しました。
ここでは、購入以外の方法で固定資産を取得した際の計算方法について解説します。
購入以外の固定資産の取得方法である、建設・製造、株の対価としての取得、交換、贈与を受けるという4種類について、それぞれの取得原価の算出方法について詳しく解説します。
建設・製造した場合
固定資産を自家建設、製造した場合は適正な原価計算基準によって製造原価を計算する必要があります。
原価計算基準とは、1962年に公表された会計基準であり、標準原価計算・実際原価計算・直接原価計算(変動原価計算)という3種類の原価計算方法があります。
標準原価計算は、製造に必要な労働力や材料の消費量を統計的に調査して製造時の目標値として算出する方法で、計算式は「標準消費量×予定価格または正常価格」です。
実際原価計算とは、経営の正常な状態を前提として、資産の実際消費量をもって計算する方法で、計算方法は「実際消費量×実際価格または予定価格など」となっています。
直接原価計算(変動原価計算)は、原価を固定費と変動費に分けて計算する方法です。計算方法は、変動費である直接原価を売上から控除して利益を算出し、利益から固定費である期間原価を控除して営業利益を導き出すものとなっています。
原価計算基準により、「算出した製造原価+付随費用=取得原価」が資産を建設・製造した場合の取得原価の計算方法です。
株の対価として取得した場合
企業が株式を発行し、その対価として固定資産を取得した場合、取得原価の計算方法は、「企業が出資者に対して発行した株式の価額+発行手数料など=取得原価」です。
企業が株の対価として資産を取得する方法は、「現物出資」とも呼ばれます。
また、企業が有価証券を資産として取得する場合もあります。
有価証券とは、株式や社債・国債などの価値がある証券で、それ自体を現金に換えられるのです。
企業が株式を取得した場合、「株式の価額(購入代価)+手数料など(付随費用)=取得原価」となり、この取得原価が有価証券の金額となります。
交換した場合
企業がもともと所有していた固定資産と交換し、新しく固定資産を取得した場合、持っていた固定資産の適正な簿価が取得原価となります。
簿価とは、会計書類に記載されている資産などの価格のことで、帳簿価額の略称です。
持っていた有価証券と固定資産を交換する場合、有価証券の時価(実際の価格)または適正な簿価が取得原価となります。
連続意見書では、有価証券のように時価が容易に判定できる場合は、交換する時点で評価替え(価格の見直し)が行われ、適正な価格が取得原価となるとされています。
贈与された場合
固定資産が贈与された場合は、時価として公正に評価された額をもって取得原価とされます。
鑑定士による鑑定までは求められていませんが、固定資産を評価する場合は、時価などを基準として適正な額が判定されるのです。
取得原価主義(取得原価記事準)とは
取得原価主義とは、企業が取得した資産の取得原価をもとに、その資産の評価をする会計制度です。取得原価基準とも呼ばれます。
取得原価主義会計をもとに算出されるのが取得原価です。
取得原価主義によって、企業が作成する財務諸表の透明性や正確性が高まったり、企業の財務状況を正確に把握できたりするため、適切な経営の判断ができます。
取得原価主義は、工場での機械設備の購入時や企業での新製品開発時、商品の仕入れ時などさまざまな業務で活用されます。
取得原価主義の重要性
取得原価主義の重要性について解説します。
取得原価主義では、企業の資産状況が正確に反映されているため、企業の財務状況を正確に把握できます。
また、取得原価主義は会計基準によって評価が一貫しています。そのため、株主や投資家などは企業の比較がしやすくなるのです。
さらに、客観的な証拠による検証が可能であり正確であるため、取得原価主義は企業の財務の健全性を保つためにも重要で、必要不可欠です。
取得原価主義のメリット・デメリット
取得原価主義のメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
それぞれ詳しく解説します。
取得原価主義のメリット
取得原価主義では、過去の取引で実際に支払われた金額が用いられるため、信頼性の高い数字を導けます。
取得原価主義は、客観的な証拠による検証が可能で、企業に投下された資金の使用用途も明確に示せるため、貨幣的資産の裏付けのない計上を防止できたり、企業の財務状況を明確に把握できたりします。
また、取得原価主義では会計の一貫性を保つことができるため、投資家や取引先が企業を比較しやすくなったり、経営者も業界の競争状況を把握しやすくなるのです。
また、減価償却の計上によって企業は利益の見積もりを正確に行うこともできます。
取得原価主義のデメリット
取得原価主義には、資産の取得原価が市場価値と乖離してしまう可能性があるというデメリットがあります。
例えば、土地や建物などの取得原価が市場価格と比べて大幅に乖離してしまうことがあるのです。それによって、企業の財務状況が実態と異なって見える可能性があり、投資家や取引先などが誤解を招く恐れがあるのです。
有価証券など価値の変化が大きい資産は、価格の変化をリアルタイムで反映できないというデメリットもあります。
市場環境の変化に対して敏感に反映できないため、企業の戦略的な意思決定に影響を与えることがあり注意が必要です。
取得原価と似た用語
取得原価と間違いやすい用語があります。
取得原価と似た、製造原価と売上原価について解説します。
製造原価
資産を建設・製造する際の取得原価の算出方法にも登場した「製造原価」ですが、取得原価は資産を取得する際にかかった費用であるのに対して、製造原価とは製品を製造する過程でかかった費用をすべて合算したもののことを指します。
製造原価は、製品を製造するための原材料や部品の費用などを含めた材料費と、製品を製造するために働く従業員の人件費、材料費と人件費以外の、光熱費や家賃などを含めた経費が内訳となっており、「材料費+人件費+経費=製造原価」が製造原価の計算式です。
製造原価を計算する目的として、利益の計算、原価管理、適正価格の設定が挙げられます。
製品を製造し、販売する際に利益を計算するには製造原価が必要です。
また、製造原価を計算することで、製品ごとの原価を把握でき、利益率の向上や無駄なコスト削減など、業務改善が可能になります。
そして、販売価格を適正価格に設定するためにも、製造原価の計算が必要なのです。
売上原価
売上原価とは、仕入れたり製造したりした商品のうち、売れた商品のみにかかった原価のことです。
製造原価は、製造したすべての製品にかかった費用であるのに対して、売上原価は売れた商品のみであるため、売れていない製品の仕入れや製造にかかった費用は含まれません。
また、売上原価の計算式は、仕入れた場合と製造した場合の2種類に分けられます。
仕入れた商品の売上原価は、「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価」で計算でき、製造した商品の売上原価は、「期首製品棚卸高+当期製造原価-期末製品棚卸高」で計算できます。
期首商品棚卸高とは、期首(会計期間のはじめ)の時点で在庫として残っている商品の総額です。
当期商品仕入高とは、当期(会計期間中)に仕入れた商品の合計額を指し、期末商品棚卸高とは、期末(会計期間の終わり)の時点で在庫として残っている商品の総額を指します。
売上原価を計算することで、商品がどれくらい儲かっているか利益率の把握ができたり、在庫の管理ができたりします。
取得原価をマスターしよう
今回は、取得原価について解説しました。
取得原価とは、資産を取得する際にかかった費用のことで、「商品の購入代金+付随費用-値引き・割戻」で求められます。
取得原価に含まれる付随費用には、購入手数料や運送費、関税などが含まれ、不動産取得税や違約金などは含まれません。
取得原価の計算方法は、資産の取得方法によって変わり、資産を建設・製造する場合、株の対価として取得した場合、交換した場合、贈与された場合の4パターンを紹介しました。
また、企業が取得した資産の取得原価をもとにその資産の評価をする会計制度である「取得原価主義」についても解説しました。
取得原価主義によって、企業の財務状況を明確に把握できますが、資産の取得原価が市場価格と乖離する場合もあり、誤解を招く可能性があるため注意しましょう。
取得原価をマスターし、ぜひ業務で活用してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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